福岡高等裁判所 平成3年(行ケ)2号 判決 1991年12月25日
平成三年(行ケ)第一号事件原告
兼同年(行ケ)第二号事件被告補助参加人
森山喜三郎
右訴訟代理人弁護士
富川盛郎
同
松木武
平成三年(行ケ)第二号事件原告
安部伴夫
右訴訟代理人弁護士
河野善一郎
同
三井嘉雄
平成三年(行ケ)第一号事件被告
兼同年(行ケ)第二号事件被告
大分県選挙管理委員会
右代表者委員長
後藤博
右指定代理人
神田康
外一名
平成三年(行ケ)第一号事件被告補助参加人
佐藤三千生
右訴訟代理人弁護士
河野善一郎
同
三井嘉雄
主文
1 平成三年(行ケ)第一号事件原告の請求を棄却する。
2 平成三年二月一〇日執行の庄内町長選挙の当選の効力に関する審査の申立について、平成三年(行ケ)第二号事件被告が同年六月七日付でなした裁決を取消す。
3 訴訟費用中、平成三年(行ケ)第一号事件原告と同事件被告との間に生じたもの(補助参加費用を含む。)は同原告の負担とし、平成三年(行ケ)第二号事件原告と同事件被告との間に生じたもの(右同)は同被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 平成三年(行ケ)第一号事件(以下「第一号事件」という。)
(1) 平成三年二月一〇日執行の庄内町長選挙の当選の効力に関する審査の申立について、同事件被告が同年六月七日になした裁決はこれを取消す。
(2) 右選挙における当選人佐藤三千生の当選は無効とする。
(3) 第一号事件原告が右選挙の当選人であることを確認する。
(4) 訴訟費用は同事件被告(以下「被告」という。)の負担とする。
2 平成三年(行ケ)第二号事件(以下「第二号事件」という。)
(1) 平成三年二月一〇日執行の庄内町長選挙の当選の効力に関する審査の申立について、同事件被告が同年六月七日付でなした裁決のうち、同選挙における当選人佐藤三千生の当選は無効とする部分を取消す。
(2) 訴訟費用は同事件被告(以下「被告」という。)の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 第一号事件
(1) 第一号事件原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は第一号事件原告の負担とする。
2 第二号事件
(1) 第二号事件原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は第二号事件原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
(第一号事件)
1 第一号事件原告は、平成三年二月一〇日に執行された大分県大分郡庄内町長選挙(以下「本件選挙」という。)の候補者であるとともに、選挙人でもある。
2 本件選挙は、佐藤三千生(第二号事件被告補助参加人)と第一号事件原告の両名が立候補して行われたが、同選挙の選挙会は、開票の結果、佐藤三千生の得票数が三八三〇票、原告の得票数が三八二八票であるとして、佐藤三千生を当選人と決定した。
庄内町選挙管理委員会は、選挙会の右決定に基づき佐藤三千生を当選人と決定し、その旨告示した。
3 庄内町選挙管理委員会は、平成三年三月一二日右選挙の当選の効力に関する異義申出について、佐藤三千生の得票数が三八二四票、第一号事件原告の得票数が三八二九票であると認定し、「庄内町長選挙選挙会の決定はこれを取消す。佐藤三千生の当選を無効とする。」旨決定した。
4 被告は、平成三年六月七日右選挙の当選の効力に関する審査の申立について、佐藤三千生と第一号事件原告の得票数が三八二六票の同数であると認定し、「庄内町選挙管理委員会の異義についての決定はこれを取消す。当選人佐藤三千生の当選は無効とする。」旨裁決(以下「本件裁決」という。)した。
5 しかし、本件裁決は次の事由により無効である。
(1) 本件裁決が庄内町選挙管理委員会と逆の結論を出した分を含む五種類の投票について
ア 被告は、別紙当裁判所の検証調書別紙複写紙記号(以下「検記号」と略称する。)、無効投票決定票(以下「無効」と略称する。)1の6,2の12(裁決書別記五)、及び同無効1の7,2の13(裁決書別記六)の二票をどの候補者に投票したか確認し難いとして、無効票と判定しているが、これらは第一号事件原告に対する有効投票である。
右二票は、各候補者に「○の記号をつける欄」(以下「記号欄」という。)の間にある縦線の区分欄に、わずかに第一号事件原告の記号欄にかかって、「○の記号」(以下「○印」という。)がつけられているものであるが、右二票を含め投票用紙の縦線の区分欄に○印をつけている票は一〇票(右二票のほか、検記号無効2の5、同無効1の2,2の8、同無効1の8,2の14,同無効1の9,2の15,同無効1の10,2の16、同無効1の12,2の17、検記号2の78①〔裁決書別記四〕、同2の78②〔同三〕)あり、第一号事件原告の左側の縦線の区分欄に○印をつけているものが八票、佐藤三千生の左側の縦線の区分欄に○印をつけているものが二票であるところ、その前者の選挙人らは、第一号事件原告に投票する意思で、記号欄を誤解して第一事件原告の左側の縦線の区分欄に○印をつけ、後者の選挙人らは、佐藤三千生に投票する意思で、同様に佐藤三千生の左側の縦線の区分欄に○印をつけたものであって、それぞれの候補者に対する有効投票と認められるべきである。
仮に、右主張が理由がないとしても、これら縦線の区分欄に○印をつけている票は、その○印かいずれの候補者に傾斜しているかの客観的、外形的な判断によって第一事件原告と佐藤三千生のいずれに対する投票であるかを決すべきであり、その場合、検記号無効2の5、検記号2の78①、同2の78②の三票を除く、その余七票が、第一事件原告に対する有効投票とされるべきである。
イ 被告は、別紙検記号2の47①(裁決書別記一一)の票を佐藤三千生に対する有効投票と判定しているが、同表には、第一号事件原告の記号欄にも○の記号がつけられており、それを上から擦ったあとがあるとしても、訂正の意思で擦ったのか、或いは誤って擦ったのか明らかではないから、公選法第六八条第一項五号の他事記載、もしくは三号の重複記載があるものとして、無効票とすべきである。
ウ 被告は、裁決書別記一七、及び別紙検記号2の21(裁決書別記一八)の二票を佐藤三千生に対する有効投票と判定しているが、右二票の候補者の記号欄の右側、前書部分にある○印は、投票用紙を折り曲げた際に記号欄の○印のインクが転写したものではないから、公選法第六八条第一項五号の他事記載であり、右二票は無効とすべきである。
エ 被告は、別紙検記号1の79(裁決書別記一九)、及び同1の11(裁決書別記二〇)の二票を、記号欄外の○印が有意の他事記載に当たるとして、無効票と判定している。しかし、記号式投票においては、誤って欄外に○印を押した後、これを訂正するため記号欄に○印を押すことがあり得るから、右二票の欄外の○印は有意の他事記載ではなく、誤記の訂正とみるべきであり、右二票は第一号事件原告に対する有効投票とすべきである。
オ 被告は、検記号無効1の1(裁決書別記三一)の票を、候補者でない者の氏名を記載したものとして、無効と判定している。しかし、本件選挙の候補者は、佐藤三千生と第一号事件原告(森山喜三郎)のみであり、立候補制の選挙において、選挙人は候補者に投票する意思で票を記載したものと推認すべきであるから、候補者の氏名欄に「横山さん」と記載されている同票は、候補者佐藤三千生に対してではなく、より近似した候補者森山喜三郎(第一号事件原告)に投票する意思で誤記されたものとみるべきであり、第一号事件原告に対する有効投票とすべきである。
(2) 本件裁決が佐藤三千生に対する有効投票と判定しているなかのその余の無効票等について
ア 検記号2の20の票の佐藤三千生の記号欄の○印は、擦って抹消されており、同選挙人に佐藤三千生への投票意思はないと判断されるから、同票は無効票とすべきである。
イ 検記号2の15(裁決書別記一)、及び同2の31③(裁決書別記二)の二票は、佐藤三千生の記号欄にボールペンで○印をつけているものであって、成規の○印の記載方法によらず、且つ、投票者が何人であるかを推知させるものでもあり、被告主張のとおり無効票である。
ウ 検記号2の9の票は、「みちよ」と女性の名を記載しているものであって、佐藤三千生の「みちお」を誤記したとは考えられないから、候補者でない者の氏名を記載したものとして、無効票とすべきである。
エ 検記号2の16③、同2の18①、同2の27①、同2の33(裁決書別記一六)、同2の58③、同2の66、同2の67②の七票は、いずれも選挙人が佐藤三千生に投票する意思で記載したのかどうか不明であり、無効票とすべきものである。
オ 検記号2の44①の票は、佐藤三千生の記号欄に○印がつけられているかどうか不明であり、無効票である。
カ 検記号2の45の票の最初の二文字の記載は「佐藤」とは読めず、他の苗字を意味するかも知れないから、同票は、候補者でない者の氏名を記載したものとして、無効票とすべきである。
キ 検記号2の77②の票のはじめの部分の記載は「佐」とは読めず、苗字が一字の者を示しているから、同票は、候補者でない者の氏名を記載したものとして無効票とすべきである。
ク 検記号2の79の票の記載は「佐藤」とは読めず、名の記載もないことから、同票は、候補者でない者の氏名を記載したものであり、無効票である。
ケ 検記号2の34②、同2の42、同2の57②、同2の73①の四票は、佐藤三千生の記号欄に○印がつけられているほか、別の押印とその転写等があるものであり、有意の他事記載があるものとして、無効票とすべきである。
(3) さらに他事記載による無効票について
ア 別表4―2の番号4(検記号2の56)の票は、佐藤三千生の記号欄の○印のほか欄外にも○印が押されているものであり、別表4―1の1及び3(前記検記号1の11、同1の79)と類似の他事記号があるものであるから、後者を無効とするのであれば、前者の票も無効とすべきである。
イ 別表1の一五票(第一号事件原告有効票)、別表2の一六票(佐藤三千生有効票)、別表3の一〇票(第一号事件原告有効票四票、佐藤三千生有効票六票)は、いずれも記号欄及び候補者の氏名欄に二個以上の○印がおされていると認められるものであり、前記別表4―1の1、同3が無効とされる以上、これらも他事記載があるものとして無効とすべきである。
ウ 別表6―1ないし4の六九票(佐藤三千生有効票四七票、第一号事件原告有効票二二票)は、いずれも候補者の氏名欄に○印を押したものであり、そのうち別表6―1ないし3の六一票については特定の選挙人集団の談合による他事記載の蓋然性が高いので、慎重に判断する必要がある。
(4) 不明確、不完全な○印がある票について
別表5の一三票(第一号事件原告有効票四票、佐藤三千生有効票九票)は、○印の不明確、不完全なものであるところ、第二号事件原告は、そのうち第一号事件原告の有効票四票につき、投票意思が明確でない等として無効と主張しているが、そうであれば、その余の佐藤三千生の有効票を含め一三票全部を無効とすべきである。
(5) 候補者双方の記号欄に○印がある票について
別表7の九票は、両候補者の記号欄に○印があるものであるところ、被告はそのうち最後の検記号2の47①の票を有効とし、他を無効としているが、右九票はいずれの候補者に投票したか不明のものばかりであるから、九票全部を無効とすべきである。
(6) ○印が抹消されている旨主張されている票について
別表8の1ないし4の四票(第一号事件原告有効票)につき、第二号事件原告は○印を抹消したものとして、無効である旨主張するが、これらは押印の不手際であって○印を抹消したものではなく、仮にこれらを無効とするのであれば、類似の別表8の5、6の二票(佐藤三千生有効票)も無効である。
(7) ○印が不鮮明な票について
別表9の1の票(検記号1の80①)は、第一号事件原告の記号欄に○印の一部があると認められるから、第一号事件原告への有効投票であり、同2の票(検記号2の20)は、一旦押した記号欄の○印を消そうとして擦った跡があるから、その効力は慎重に判断すべきであり、同3の票(検記号2の44①)は、佐藤三千生候補の記号欄に微かに○印の跡がある如くであるが、判然とせず、結局何人に投票したか確認し難く、無効とすべきである。
6 以上の判定の違法は、選挙の結果に異動を及ぼすことが明らかであり、第一事件原告は、本件裁決の取消を求める。
7 本件裁決は、第一号事件原告の対立当事者である佐藤三千生の当選を無効とするものであるから、その限りで第一号事件原告に有利な裁決であるが、取消原因が得票数を同数とするものであるから、第一号事件原告にもその取消を求める訴えの利益がある。
第一号事件原告は、本訴において当選人であることの確認を求めている。当選人の決定は行政庁の所管事項であるから、右請求は所謂義務づけ訴訟に該当し、一般には許されないが、本件の場合のように裁量の余地が全くない場合には、例外として許されるものと解すべきである。
8 よって、請求の趣旨記載の判決を求める。
(第二号事件)
1 第二号事件原告は、本件選挙の選挙人である。
2 第一号事件の請求原告2と同じ
3 同3と同じ
4 同4と同じ
5 被告の裁決における投票の効力判定の誤りについて
(1) ○印の記載方法について
ア 本件裁決は、佐藤三千生に対する○印をボールペンで手記した検記号2の15(裁決書別記一)、同2の31③(同二)の二票を無効と判定しているが、これらはいずれも同人に対する有効投票である。
イ 本件裁決が右二票を無効としたのは、右二票が庄内町選挙管理委員会の「記号式投票に関する規程」(昭和四七年六月二七日付)に定める、○印(○の記号)の記載方法は○印(○の記号)をあらわす印をおす方法による、との成規の方法によっていないからというのである。
しかし、右規程は、選挙管理委員会の定める規則であって、法律や条例ではなく、このような下位規範に基づき憲法上の参政権が否定されることは許されない。
ウ しかも、右被告の判断は、庄内町選挙管理委員会が有権者に告示していた○の記号の記載方法に反し、国民の投票権という憲法上の権利を実質的に侵害するものである。
すなわち、庄内町選挙管理委員会が有権者に告示した○印の記載方法は、投票用紙に注意書として記載されていた「一、投票しようとする候補者一人についてその氏名のうえの○をつける欄に○をつけること、二、○のほかには何も書かないこと。」との記述以外にはないのであり、有権者は、○印を記載するについて、自書する方法では投票が無効となる趣旨を十分理解できない。
むしろ、右投票用紙の注意書によれば、庄内町選挙管理委員会は、○印の記載方法としては、手書や自書による○印の記載も成規のものとして認めていたというべきである。蓋し、同注意書の一項は、「○をつけること。」と記載されていて、「○を押すこと。」とはなってなく、「つける」は「書き入れる」「印す」の意味を含むから、手書や自書による○印の記載方法も定めていると解されるからである。また、同注意書の二項は、「○のほかは何も書かないこと。」と記載されているから、逆に、○印の記載方法も、書くことによって達成できるものと解される。
右のとおり、右投票用紙の注意書は、○印の記載方法として、ボールペン等で○印を自書してもよい趣旨に理解され、検記号2の15(裁決書別記一)、同2の31③(同二)の二票は、庄内町選挙管理委員会が右注意書によって告示した、○印の記載方法に従ったものといえるのである。
エ なお、庄内町でも、過去、有権者が投票所に備付けの印棒を持ち帰るという事態があったのであり、その直後、所携のボールペン等を利用して投票した有権者もあったといわれている。
オ また、前記庄内町選挙管理委員会の規程によれば、○印の記載方法は、○を印す器具であれば、備付けの印棒を用いる必要はなく、その印の大きさ等も問わないのであるから、有権者が持参した器具によって印された投票も有効であり、投票の秘密保持の観点について、手書の場合と比較して有効、無効を区別すべき理由はない。
カ さらに、庄内町において、過去、本件町長選挙以前に記号式投票が実施されたかどうかは問題とならない。少なくとも、前回、昭和六二年頃行われた記号式投票の選挙後、同町に約一〇〇人の有権者が新たに選挙人資格を取得しており、その者らに対しては過去の経験が問題となる余地はないからである。過去、庄内町の記号式投票による選挙で、手書の投票の効力が問題になっていないのは事実であるが、そのことは、必ずしも手書の投票がなかったことを意味するものではなく、かえって、本件選挙の開票の際と同様、手書の投票が存在し、かつそれが疑問なく有効投票とされていた可能性の方が大きいのである。
キ 前記のように、検記号2の15(裁決書別記一)、同2の31③(同二)の二票は、庄内町選挙管理委員会が投票用紙の注意書で具体的に指定した記載方法に従って、○印を記載しているといえるものであり、その投票の効力を否定すべき理由はない。
ク 以上のとおり、右二票を無効とする理由はなく、これを無効とすることは、憲法一五条違反であり、許されない。
(2) ○印の欄外記載について
ア 本件裁決は、検記号2の78①(裁決書別記四)、同2の78②(同三)の二票をどの候補者に投票されたか確認できないとして、無効と判定しているが、率直、自然な観察をすれば、佐藤三千生に投票しようとする選挙人の意思が認められるから、これらはいずれも同人に対する有効投票である。
イ 公職選挙法(以下「法」という。)第四六条の二第二項、第六八条第一項一号により無効とされる「成規の○の記号の記載方法によらないもの」の「○の記号の記載方法」には○印をどこにつけるか、記号欄の内か外かということは含まれてなく、庄内町選挙管理委員会の前記規程も、記号式投票の方法の採用を定めるに留まり、○印を記号欄内に記載すべきことまでは定めているわけではない。
そして、記号式投票においては、○印の位置により、それが特定候補者に対する投票の意思をもってしたものと認められれば、法第六七条後段の法意に基づき有効投票とされなければならず、○印の位置が記号欄の内か外かによって有効、無効が決まるのではない。
ウ ところが、本件投票用紙は、二名の候補者の氏名の左右が、数本の直線でできた幅広い外枠(縦線の区分欄)になっていて、一見すると、その区分欄が○の記号をつける欄である、とみることもできる。
エ しかるに、検記号2の78①(裁決書別記四)、同2の78②(同三)の二票は、いずれも第一号事件原告(森山喜三郎)が右側、佐藤三千生(第一号事件被告補助参加人)が左側に並記された投票用紙の佐藤三千生の氏名の左側縦線の区分欄に○印が位置し、佐藤三千生に投票する意思であることが明らかに読み取れるものであり、そうだからこそ、開票立会人の意見を聞いた開票管理者がこれらを佐藤三千生に対する有効投票と決定したのである。
オ 右のとおり、右二票を無効とした本件裁決は、法第六七条に反し違法であり、右二票は、佐藤三千生に対する有効投票である。
(3) 記号式投票の誤記訂正について
ア 本件裁決は、検記号無効1の4,2の10(裁決書別記七)、同無効1の5,2の11(同八)、同無効1の3,2の9(同九)、同無効2の7(同一〇)の四票を無効と判定している。
イ しかし、検記号無効1の4,2の10(裁決書別記七)、同無効1の5,2の11(同八)、同無効1の3、2の9(同九)の三票は、いずれも、佐藤三千生の記号欄に完全な○印が記載され、同時に森山喜三郎の記号欄に三日月状、半円等不完全な○印が記載されていて、佐藤三千生に対する投票意思の明らかなものであり、第一号事件原告の記号欄の記載は誤記の訂正と認められるものであって、佐藤三千生に対する有効投票とすべきである。
ウ また、検記号無効2の7(裁決書別記一〇)の票は、第一号事件原告の記号欄に不完全な半円の記号がつけられ、佐藤三千生の記号欄に完全な○印が複数つけられているものであるが、選挙人が、誤って第一号事件原告の記号欄に○印をつけかけたのち、誤りに気づいて佐藤三千生の方に○印をつけ、そのことを強調するため複数回○印をつけたものであって、有意の他事記載ではなく、佐藤三千生に対する有効投票とすべきものである。
エ 右のとおり、右四票は佐藤三千生に対する有効投票であり、これを看過した本件裁決は違法である。
(4) ○印の記載の判定について
ア 本件裁決は、検記号1の48②(裁決書別記一二)、同1の49③(同一三)、同1の80①(同一四)、同1の32①(同一五)、同2の33(同一六)を含む二三票を第一号事件原告に対する(但し、同2の33〔同一六〕は佐藤三千生に対する)有効投票とした。
しかし、これらは、記号欄に○印の不完全なもの、或いはいわゆるタドン票どころか、インクで故意に黒く塗り潰したもの等であって、いずれも単なる誤記ではなく、候補者に対する投票意思自体が表示されていないと解されるものである。
イ 特に、検記号1の80①(裁決書別記一四)の票は、第一号事件原告の記号欄にかすかに円弧の一部にみえる記載があるとしても、仔細に観察すると、故意に抹消した跡が歴然としているものであって、選挙人が一旦つけた記号を故意に抹消したか、又は○印を記載したとはいえないものと認定すべきである。
ウ また、検記号1の32①(裁決書別記一五)の票は、第一号事件原告の記号欄の左側に対称的なインク跡があり、選挙人が一旦第一号事件原告の記号欄に○印をつけたものの、それを取消すため所携のインク等で記号欄の記載を消し、且つ佐藤三千生にも投票せずに投票箱に入れたものと推認される。
エ 右のとおり、検記号1の48②(裁決書別記一二)、同1の49③(同一三)、同1の80①(同一四)、同1の32①(同一五)、同2の33(同一六)を含む二三票は、いずれも無効票である。
(5) 指印の記載について
ア 本件裁決は、検記号1の13⑥(裁決書別記二一)、同1の13④(同二二)、同1の13⑤(同二三)、同1の13③(同二四)、同1の13①(同二五)、同1の13②(同二六)、同1の13⑦(同二七)、裁決書別記二八、同二九、検記号1の25②(裁決書別記三〇)の一〇票を第一号事件原告に対する有効投票とした。しかし、とりわけ、検記号1の13⑥(裁決書別記二一)、同1の13④(同二二)、同1の13⑤(同二三)、同1の13③(同二四)、同1の13①(同二五)、同1の13②(同二六)、同1の13⑦(同二七)の七票は、朱肉による指紋がつけられており、その他も有意の他事記載があるものとして、いずれも無効票とすべきである。
イ すなわち、指紋が人を特定させる最も完全な方法であることは公知の事実であり、投票の秘密を守る趣旨からみると、指紋の記載は、選挙人の氏名の記載以上に投票の秘密を犯すものである。殊に、右検記号1の13⑥(裁決書別記二一)、同1の13④(同二二)、同1の13⑤(同二三)、同1の13③(同二四)、同1の一三①(同二五)、同1の13②(同二六)、同1の13⑦(同二七)の七票は、朱肉による指紋がつけられているものであって、その朱肉も選挙人らが故意に投票所に持込んだと考えられるから、選挙人らにおいて第一号事件原告への投票を他に知らしめるための記載と認められる。
ウ 本件裁決は、右朱肉による指紋が開票従事者らのうちの一人の親指に朱肉が付着し、それが投票用紙についたものである旨推測しているが、右推測は理由がない。
エ 右のとおり、検記号1の13⑥(裁決書別記二一)、同1の13④(同二二)、同1の13⑤(同二三)、同1の13③(同二四)、同1の13①(同二五)、同1の13②(同二六)、同1の13⑦(同二七)、裁決書別記二八、同二九、検記号1の25②(裁決書別記三〇)の一〇票はいずれも無効であり、特に、前の七票を第一号事件原告に対する有効投票とすることは、絶対に違法である。
(6) 他事記載等の認定について
ア 本件裁決は、検記号1の80②(裁決書別記三二)の「 森」と記載している票、同1の71(同三三)の「森山さんじ」と記載されている票を第一号事件原告に対する有効投票と判定した。
しかし、これらの票は、その記載が不正確又は不完全であり、何人に投票したか確認できないもの(法第六八条第一項七号)、公職の候補者でない者を記載したもの(同項二号)、又は他事記載のあるもの(同項五号)として、無効票とすべきである。
イ 検記号1の80②(裁決書別記三二)の「 森」の票は、何人を記載したのか確認できないものであり(法第六八条第一項七号)、また有意の他事記載があるもの(同項五号)に該当する。
ウ 検記号1の71(裁決書別記三三)の「森山さんじ」の票については、佐藤三千生の「三千」が「サンジ(チ)」、「三生」か「サンジ」と読み得ることからすれば、選挙人は、佐藤三千生の名を「さんじ」と表現したものと理解することができ、同票は、氏に第一号事件原告(森山喜三郎)を、名に佐藤三千生を表記したものである。本件裁決は、右「さんじ」の記載を、第一号事件原告がかつて庄内町役場に在職した頃の補職名である「参事」を表現するものと認定しているが、飛躍した無理な解釈である。
右のとおり、同票は、何人を記載したのか確認できないもの(同法第六八条第一項七号)、又は有意の他事記載があるもの(同項五号)、公職の候補者以外の氏名を自書したもの(同項六号)、一投票中に二人以上の公職の候補者の氏名を記載したもの(同項三号)として、無効票とすべきである。
(7) さらに、被告が第一号事件原告に対する有効投票と判定している次のアないしケの各票は、いずれも無効とすべきである。
ア 検記号1の7の票は、第一号事件原告の記号欄に○印、佐藤三千生の記号欄に半円状の○印が記載され、且つ双方ともインクの汚れがあるものであって、どの候補者に投票したか確認し難いもの、或いは他事記載があるものとして、無効票とすべきである。
イ 検記号1の11(裁決書別記二〇)の票は、被告主張のとおり有意の他事記載があるものであり、無効票である。
ウ 検記号1の12、同1の32②、同1の70①の三票は、○印に数回半円程度の不完全な○印が重ねてあるものであって、一旦第一号事件原告の記号欄につけた○印を抹消しようとしたことが窺え、結果的にどの候補者に投票したのか確認し難いものであり、無効票である。
エ 検記号1の31②の票は、第一号事件原告の記号欄以外に約三箇所、折り曲げによる転写とはいえない○印状の汚染があり、有意の他事記載というべきものであるから、無効である。
オ 検記号1の33、同1の41②、同1の72の各票は、いずれもどの候補者に投票したのか確認し難いものであり、無効票である。
検記号1の33の票も、どの候補者に投票したのか確認し難いものか、候補者でない者の氏名を記載したもの、同1の41②と同1の72の各票は、第一号事件原告への投票意思が明確であるとはいえず、且つ、双方の字体が同一であることからみて、選挙人が自署したものでない疑いがあり、また、どの候補者に投票したのか確認し難いもの、或いは候補者でない者の氏名を記載したもの、というべきである。
カ 検記号1の46の票は、第一号事件原告の記号欄の○印のほか、左側の縦線の区分欄等に三個の○或いは半円状の記載があり、全体として第一号事件原告への投票意思を打ち消しているものであり、第一号事件原告に対する有効投票とはいえない。
キ 検記号1の50①、同1の57①、同1の70②の各票は、第一号事件原告の記号欄の○印が単なる誤記、不完全な押印ではなく、○印を自ら記載しないものか、一旦押印したものを抹消したものとして、無効とすべきものである。
ク 検記号1の60、同1の79(裁決書別記一九、但し、無効と判定されている。)の二票は、いずれも記号欄の○印のほかに、折り曲げによる転写ではない、○印がつけられているものであって、有意の他事記載があるものであり、無効票である。
ケ 検記号1の78①、同1の78②の二票の佐藤三千生の記号欄の○印は、第一号事件原告の記号欄の○印が投票用紙の折り曲げによって転写したものではなく、選挙人が両方の候補者の記号欄に○印をつけたものと推認すべきものであるから、右二票は、結局、どの候補者に投票したか確認し難いものとして無効票である。
(8) なお、被告が無効票と判定している次のアないしエの各票は、いずれも佐藤三千生に対する有効投票である。
ア 検記号無効2の1の票は、佐藤三千生の名の読みと一致する記載のあるものであり、佐藤三千生に投票するつもりが氏の記載のみを誤ったものであって、同人に対する有効投票と認められるべきである。
イ 検記号無効2の2の票は、佐藤三千生の記号欄の○印以外に「厳著於本人」の記載があるものであるが、これに意味があるとすれば、佐藤三千生が自分に厳しい人である旨の賛辞と解され、そのような記載は投票の秘密の確保等と直接関わりがなく、公選法第六八条第一項五号の禁ずる他事記載には当たらず、また、意味がないとすれば有意の他事記載ではなく、いずれにせよ、佐藤三千生に対する有効投票とすべきである。
ウ 検記号2の3、同無効2の6の二票は、第一号事件原告の記号欄に不完全な半円状の記号がつけられ、佐藤三千生の記号欄に完全な○の記号がつけられているものであり、選挙人が誤って一号事件原告の記号欄に○印をつけようとして、誤りに気付き慌てそれを取り止め、佐藤三千生の記号欄に完全に○の記号をつけ、或いはそれを強調する趣旨で二度○印をつけているものであり、いずれも佐藤三千生に対する有効投票とすべきである。
エ 検記号無効2の4の票は、一号事件原告の記号欄に○印と半円状の記号がつけられ、佐藤三千生の記号欄に完全な○印が一個つけられているものであり、第一号事件原告の記号欄の記載は、誤ってつけた○印をその上に押印する方法で訂正したものであることがみてとれるものであるから、この票は、佐藤三千生に対する有効投票とすべきである。
6 結論
(1) 以上の各投票の判定結果によれば、佐藤三千生の得票数が第一号事件原告の得票数を上回ることは明白である。
(2) よって、前記異義申出に対する庄内町選挙管理委員会の決定は誤りであり、取消されるべきであったのは当然であるが、さらに、被告のなした本件裁決のうち、当選人佐藤三千生の当選を無効とする部分は取消されるべきである。
二 請求原因に対する認否、及び被告の主張
(第一号事件)
1 請求原因1ないし4は認める。
2 同5は否認する。
(1) 同5(1)ア主張の一〇票は、各候補者の記号欄の間にある縦線の区分欄上、僅かに第一号事件原告の記号欄にかかった状態(二票)、各候補者の記号欄と氏名欄の間の縦線の区分欄内(六票)、及び佐藤三千生の記号欄、候補者氏名欄の左側の縦線の区分にそれぞれ○印がつけられ、各候補者の記号欄や氏名欄のいずれにも○印がつけられていないものであって、選挙人がどの候補者に投票したかを確認できず、無効票である。
なお、○印は、本来記号欄につけるべきものであり、例外的に有効とされるのは、候補者の氏名欄に○印の記載がある場合のみである。
同5(1)イ主張の票は、佐藤三千生の記号欄に完全な○印がつけられているものであって、第一号事件原告の記号欄は、一旦つけられた○印を判別できないほど上から擦った跡があり、訂正の意思でしたものと認められるので、同票は、佐藤三千生に対する有効投票である。
同5(1)ウ主張の二票は、佐藤三千生の記号欄の○印のほかに、候補者の記号欄の右側、前書部分に○印の一部とみられる記載があるが、これらは、選挙人が投票用紙を二度折り曲げたため、インクが付着したものであり、記号欄の○印のインクが転写したものと認められるから、佐藤三千生に対する有効投票である。
同5(1)エ主張の二票は、第一号事件原告の記号欄に○の記号がつけられているほか、それぞれ欄外に○印または不完全な○印の記載があるものであって、投票用紙を折り曲げた際にインクが転写したものではなく、過失で○印を押し間違えたものや、誤記の訂正等とも認められず、有意の他事記載があるものとして無効票である。
同5(1)オ主張の票は、「森山」を「横山」と誤記或いは誤認して記載されたものとは認められず、候補者でない者の氏名を記載したものとして無効である。同票の記載と第一号事件原告(森山喜三郎)の氏名との間には、全体としての類似性がない。
(2) 同5(2)ア主張の票は、佐藤三千生の記号欄に複数の○印の記載が認められるが、記載状態からみて佐藤三千生に投票しようとする選挙人の意思は明らかであり、抹消の意思や特に他意があるものとも認められないので、同票は、佐藤三千生に対する有効投票である。
同5(2)イ主張の二票は、後記(第二号事件)2同5(1)アないしサ記載のとおり、いずれも無効票である。
同5(2)ウ主張の票は、佐藤三千生の名を「みちお」と書くべきところ、誤って「みちよ」と記載したものと推認され、名の三字目を誤記したものとして、佐藤三千生に対する有効投票とすべきものである。
同5(2)エ主張の七票は、いずれも佐藤三千生の記号欄、或いはその候補者氏名欄に○印の一部が記載されているものであるが、記載状態からみて、印棒を押捺したものの○印の一部しか顕出されなかったものと認められ、佐藤三千生への投票意思が認められるものであって、いずれも同人に対する有効投票である。
同5(2)オ主張の票は、佐藤三千生の記号欄に薄く○印の一部が顕出されているものであって、印棒で押捺したことが認められるので、佐藤三千生に対する有効投票である。
同5(2)カ主張の票は、佐藤三千生の氏名五字のうち「佐」の字を正確に書くことができず、誤記したものと認められ、名の「三千生」は正確に記載されていることからみても、佐藤三千生に対する有効投票である。
同5(2)キ主張の票は、佐藤三千生の「佐」の字を正確に記載できず、二度にんべんを書いたものの「左」の部分が書けなかったものと認められ、名も「三千夫」と誤記したもので、他意はないと認められるので、佐藤三千生に対する有効投票である。
同5(2)ク主張の票は、佐藤三千生の氏のみを記載したものであるが、「佐藤」の「藤」の字を誤記したものであり、佐藤三千生に対する有効投票である。
同5(2)ケ主張の五票の記号欄の欄外にある○印等の記載は、インクの状態、○印の位置関係等からみて、選挙人が投票用紙を折り曲げた際に記号欄の○印のインクが転写したものと認められるものであり、これらはいずれも佐藤三千生に対する有効投票である。
(3) 同5(3)ないし(7)のうち、被告の主張に反する部分はすべて否認する。
3 同6は否認する。
4 同7の前段は争わず、後段は否認する。
(第二号事件)
1 請求原因1ないし4は認める。
2 同5(1)アないしクについて
ア 被告が同5(1)主張の判定をしたことは認めるが、その余は否認する。
イ 被告が本件裁決で、同5(1)ア主張の二票につき、成規の○の記号の記載方法によらない投票であるから無効、と判定したことは認めるが、その余は否認する。
ウ 本件選挙の投票用紙に同5(1)ウ主張の文言が記載されていることは認めるが、その余は争う。
エ 否認する。なお、本件選挙では、投票所のすべての投票台に所定の印棒が備えられており、投票終了後、紛失した印棒はなかった。
オ 否認する。庄内町の「記号式投票に関する規程」には「投票所内の投票を記入する場所に○の記号をあらわす印等、投票に必要な器具を備えておかなければならない。」と定められているので、○印号を押す器具が備付けのものでなければならないことは明白である。
カ 争う。
キ 否認する。庄内町選挙管理委員会は、法第四六条の二第三項、同法施行令第四九条の三等の法令に基づき、昭和四七年六月二七日前記規程を定め、以後同規程により記号式投票による選挙を実施してきている。そして、これら関係法規からみれば、同選挙管理委員会が投票所に備付けた印棒を使用して、○印を記載するのが成規の方法であり、○印を自書するのが成規の記載方法によらないものであることは明らかである。
ク 否認する。成規の○印の記載方法によらない投票は無効である。
コ 第二号事件原告は、本件選挙の投票用紙の注意書の記載内容から、○印の記載を手書ですることができる旨主張するが、失当である。
記号式投票は、昭和三七年の法改正で法第四六条の二、同法施行令第四九条の二ないし六が新設されて、実施されたのであるが、実施に当たり、自治省から各都道府県選挙管理委員会委員長宛て同省選挙局長通達が発せられ、庄内町選挙管理委員会にも、県選挙管理委員会長を通じて右通達を示達されたところ、右通達では、記号式投票に関する条例及び規程の各準則が示されている。
庄内町では、昭和四七年に記号式投票に関する条例を制定して、記号式投票制度を採用し、庄内町選挙管理委員会も、同年六月二七日前記「庄内町の記号式投票に関する規程」を制定したものであり、同規程で、前記のように、投票所内の投票を記載する場所に○印をあらわす印等、投票に必要な器具を備えることや、本件選挙の投票用紙と同一の注意書を記載した投票用紙の様式等を定めているところ、この庄内町の条例、規程とも前記通達に準拠して作成されている。
サ 記号式投票については、全国の都道府県及び市町村選挙管理委員会において、前記通達に準拠して、ほぼ同一の選挙管理委員会規程(規則)を制定し、これまで実施してきたところであり、「投票所内の投票を記載する場所に○の記号をあらわす印等必要な器具」を備えている場合に、○印を記載するのに手書でもよい、等とする判断はどこからも出てこない。
この点に関する第二号事件原告の主張は独自の見解である。
同5(2)アないしオについて
ア 被告が本件裁決で、同5(2)ア主張の二票につき、いずれも候補者を記載したのか確認できず無効、と判定したことは認めるが、その余は争う。
イ 争う。○印を『○をつける欄』(記号欄)または「候補者氏名」の氏名が印刷されている欄内に記載しなければならないことは常識である。
ウ 否認する。
エ 否認する。右二票は、○印が前記『○をつける欄』または「候補者氏名」の氏名が印刷されている欄内のいずれにも記載されてなく、どの候補者を記載したのか確認できないので、無効票である。
オ 争う。
同5(3)アないしエについて
ア 認める。
イ 争う。同5(3)イ主張の三票は、いずれも佐藤三千生の候補者氏名上欄に○印がつけられているが、同時に第一号事件原告の候補者氏名上欄に複数の○の記号及びその一部の記載があり、選挙人が訂正の意思でしたものとは認められないので、有意の他事記載があるものとして、無効票である。
ウ 争う。同5(3)ウ主張の票は、第一号事件原告の候補者氏名上欄に半円の記号がつけられ、同時に佐藤三千生の候補者氏名上欄に複数の○の記号が記載されているので、有意の他事記載があるものか、どの候補者を記載したのか確認できないものとして、無効票である。
エ 否認する。
同5(4)アないしエについて
ア 被告が本件裁決で、同5(4)ア主張の二三票を第一号事件原告に対する有効投票(但し、検記号2の33〔裁決書別記一六〕は佐藤三千生に対する有効投票)としたことは認めるが、その余は否認する。
イ 否認する。同5(4)イ主張の票は、印棒で押捺したものが一部しか顕出されなかったものと認められ、インクの痕跡は誤って擦ってできたと考えられるので、第一号事件原告に対する有効投票である。
ウ 否認する。同5(4)ウ主張の票は、第一号事件原告の氏名上欄に印棒を押した跡があり、選挙人が印棒を押す時にインクが多過ぎたため、投票用紙を折り曲げた際、インクが浸潤してタドンのごとき外観を呈するに至ったものと認められる。
エ 否認する。
同5(5)アないしエについて
ア 被告が本件裁決で、同5(5)ア主張の一〇票を第一号事件原告に対する有効投票としたこと、及びうち七票に朱肉による指紋が付着していたことは認めるが、その余は否認する。
イ 否認する。
ウ 争う。
エ 否認する。
同5(6)アないしウについて
ア 被告が本件裁決で、同5(6)ア主張の二票を第一号事件原告に対する有効投票としたことは認めるが、その余は否認する。
イ 否認する。同5(6)イ主張の票は、選挙人が「森」の字を書こうとして果たせず、一旦抹消したうえ、改めて「森」と書き直したものと認められ、第一号事件原告(森山喜三郎)に投票する意思で右記載をしたと推定すべきであって、同人に対する有効投票である。
ウ 否認する。第一号事件原告は、もと庄内町役場に勤務し、参事兼総務課長等の職にあったものであり、同5(6)ウ主張の票は、第一号事件原告の職業の類を記載したものと解するのが相当であって、同人に対する有効投票である。
同5(7)アないしケについて
ア 同5(7)ア主張の票は、第一号事件原告の記号欄に明確な○印があり、佐藤三千生の記号欄に○印の一部とのとその上から擦った跡が認められるものであるが、佐藤三千生の記号欄の記載は、選挙人が○印をつけかけて誤りに気付き、途中で記載を中止し、誤記を抹消するため擦ったものと認められるものであって、記号欄の汚れも誤ってインクが付着したもので有意の他事記載ではないと認められないので、同票は、第一号事件原告に対する有効投票である。
イ 同5(7)イ主張の票は、第一号事件原告の記号欄の○印のほか、欄外にも○印があり、有意の他事記載があるものとして、無効票である。
ウ 同5(7)ウ主張の三票は、いずれも第一号事件原告の記号欄又は候補者氏名欄に複数の○印、もしくはその一部の記載があるものであり、これは選挙人が完全な○印をつけようとして数回印棒を押捺したものと認められ、第一号事件原告への投票意思が明確に認められるので、第一号事件原告に対する有効投票である。
エ 同5(7)エ主張の票は、第一号事件原告の記号欄の○印以外に何箇所か汚染があるが、○印の濃淡、形状からみて、投票用紙を二度にわたって折り曲げた際できたものと認められ、有意の他事記載ではない。同票は、第一号事件原告に対する有効投票である。
オ 同5(7)オ主張の三票は、いずれも第一号事件原告に対する有効投票である。右三票のうち、同1の33の票は、「モリ山つ」と記載されていて、第一号事件原告(森山喜三郎)への投票意思が認められるもの、同1の41②、同1の72の各票は、いずれも「森山」の「森」の字を誤記したものと認められる。
カ 同5(7)カ主張の票は、第一号事件原告の記号欄の○印のほかに、候補者氏名欄と左側縦線の区分欄にまたがり複数の○印がつけられているが、いずれも候補者の氏名欄に多くかかっていて、第一号事件原告への投票意思が認められるものであり、同票は、第一号事件原告に対する有効投票である。
キ 同5(7)キ主張の三票は、○印の一部が一個または複数記載されているものであるが、選挙人が完全な○印を記載しようとして、印棒を一回又は数回押捺したものの○印の一部しか顕出されなかったものと認められるものであり、第一号事件原告に対する有効投票である。
ク 同5(7)ク主張の二票のうち、検記号1の60の票にある欄外の○印様汚染は、投票用紙を二度にわたって折り曲げた際、記号欄の○印が転写したものであって、同票は第一号事件原告に対する有効投票であり、検記号1の79(裁決書別記一九)の票にある欄外の○印は、有意の他事記載に該当し、同票は無効票である。
ケ 同5(7)ケ主張の二票は、第一号事件原告の記号欄に○印がつけられ、佐藤三千生の記号欄にも○印とみられるものが存在するものであるが、インクの濃淡、位置、形状からみて、明らかに選挙人が投票用紙を折り曲げた際、第一号事件原告の記号欄の○印が佐藤三千生の記号欄に転写したものと認められるものであり、いずれも第一号事件原告に対する有効投票である。投票用紙の折れ目は写真上明確ではないが、折れ目は存在する。
同5(8)アないしエについて
ア 同5(8)ア主張の票は、「しょうのみちお」と記載されているもので、名は佐藤三千生の名と一致するが、氏の「しょうの」の記載は「佐藤」との類似性が全くなく、氏だけを誤って記載したものとも認め難いので、同票は、候補者でない者の氏名を記載したものとして、無効票とすべきものである。
イ 同5(8)イ主張の票は、佐藤三千生の記号欄に○印がつけられているほか、欄外に「厳著於本人」という記載がなされているものであり、○の記号以外の事項を記載したものを無効とする法第四六条の二第二項により、無効票である。
ウ 同5(8)ウ主張の二票は、いずれも第一号事件原告の記号欄に、○印が半円ではあるが明確につけられており、誤記を訂正する意思で佐藤三千生の記号欄に○印をつけたものとは認められず、結局、どの候補者に投票したか確認できないものとして、無効票である。
エ 同5(8)エ主張の票は、佐藤三千生の記号欄に明確な○印があり、第一号事件原告の記号欄に○印とその一部があるものであるが、第一号事件原告の記号欄の一部が訂正、抹消の意思でなされたものとは認められないので(判別できない程押印されているものではない。)、これもどの候補者に投票したか確認できず、無効票である。
なお、第二号事件原告の主張中、被告の主張に反する部分は否認する。
3 同6(1)は否認する。
同6(2)のうち、本件裁決が庄内町選挙管理委員会の決定を取消していることは認めるが、その余は争う。
第三 証拠<省略>
理由
一第一号事件の請求原因1ないし4の事実、及び第二号事件請求原因1ないし4の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
なお、原本の存在及び<書証番号略>によれば、本件選挙の投票総数は七七四二票であったことが認められる。
二そこで、まず、第一号事件の請求原因5(1)アないしオ、(2)アないしケ、(3)アないしウ、(4)ないし(7)の順に、第一号事件原告主張の各票の効力について判断するに、それらの票につき被告が第一号事件原告主張の判定をしていることは、当事者間に争いがない。
(1) 第一号事件請求原因5(1)アないしオの票について
ア <書証番号略>、検証の結果によると、検記号無効1の6、2の12(裁決書別記五)、同無効1の7、2の13(同六)、同無効2の5、同無効1の2、2の8、同無効1の8、2の14、同無効1の9、2の15、同無効1の10、2の16、同無効1の12、2の17、検記号2の78①(裁決書別記四)、同2の78②(同三)の一〇票は、投票用紙の第一号事件原告(森山喜三郎)の記号欄及び候補者氏名欄の左側で、佐藤三千生のそれの右側、すなわち双方の中間の縦線の区分欄(前の八票)、或いは佐藤三千生の欄の左側の縦線の区分欄(後の二票)にそれぞれ○印(○の記号)がつけられ、双方の記号欄(「○の記号をつける欄」)や候補者氏名欄に○印の記載がない、と認められるから、これらの票は、どの候補者に対する投票であるか確認し難いものといわなければならず、いずれも無効票というべきである。
第一号事件原告は、右第一号事件原告の左側の縦線の区分欄に○印のある八票が、第一号事件原告に投票する意思で記号欄を誤解したものであり、少なくとも、そのうち七票につき、○印の位置等から第一号事件原告に対する有効投票として認められるべきである旨主張するところ、これらの票の選挙人が○印をつける記号欄を誤解した可能性がないわけではないが、これらの票は、いずれも本来の記号欄や候補者の氏名欄に○印の記載がないものであって、選挙人の意思がどのようなものであったか断定はできない、といわざるを得ず、いずれにしても、右第一号事件原告の主張は採用することができない。
イ <書証番号略>検証の結果によると、検記号2の47①(裁決書別記一一)の票は、佐藤三千生の記号欄に完全な○印がつけられ、第一号事件原告の記号欄に、複数の○印或いはその一部を上から擦って判読できないようにしている記載があるものであり、その第一号事件原告の記号欄は一旦つけた○印を訂正する意思で抹消しているものと認められる。
したがって、同票は佐藤三千生に対する有効投票というべきであり、これを無効票という第一号事件原告の主張は採用することができない。
ウ <書証番号略>、検証の結果によると、裁決書別記一七及び検記号2の21(裁決書別記一八)の二票は、佐藤三千生の記号欄に○印がつけられているほか、右側の欄外に○印またはその一部とみられる記載、インクの汚染等があるものであるが、インクの濃淡やそれぞれの位置関係等からみて、選挙人が投票用紙を二度折り曲げたため、記号欄の○印が転写したものと認められるから、佐藤三千生に対する有効投票である。
エ <書証番号略>、検証の結果によると、検記号1の79(裁決書別記一九)、同1の11(同二〇)の二票は、第一号事件原告の記号欄に○印がつけられているほか、右側の欄外に一個または複数の○印ないしその一部の記載、インクの汚染等があるものであり、位置関係等からみて、投票用紙を折り曲げた際の転写ではなく、有意の他事記載であると認めざるを得ないものであり、法第四六条の二第二項、第六八条第一項五号により無効票と解すべきである。
第一号事件原告は、右二票の欄外の○印が誤ってつけられたものであって、記号欄の○印その他で訂正されたものである旨主張するが、右二票の欄外の○印等は、記号欄の右側の「○をつける欄」「候補者氏名」等の不動文字部分の上、その他に記載されているものであって、いずれも単なる誤記載とは認められず、且つそれらを訂正したものと認めるべき点もなく、右第一号事件原告の主張は採用することができない。
オ <書証番号略>、検証の結果によると、検記号無効1の1(裁決書別記三一)の票は、「横山さん」と記載されているものであるところ、「横山」は第一号事件原告の氏である「森山」と類似性に乏しく、本件選挙の立候補者が森山喜三郎(第一号事件原告)と佐藤三千生の両名だけであることを考慮にいれても、選挙人が第一号事件原告に投票する意思であり、或いは第一号事件原告の氏を誤記したものとは認め難い。
同票は、法第六八条第一項二号所定の公職の候補者でない者の氏名を記載したものとして、無効票と解すべきである。
(2) 第一号事件請求原因5(2)アないしケの票について
ア <書証番号略>、検証の結果によると、検記号2の20の票は、佐藤三千生の記号欄に複数の○印がつけられているものであるが、その複数の○印は完全な○印にするため一、二回なぞったものであって、記載状態から佐藤三千生に投票しようとする選挙人の意思は明らかというべきであり、第一号事件原告主張のように、○印を擦って抹消したものとは認められない。同票は、佐藤三千生に対する有効投票と認められる。
イ 検記号2の15(裁決書別記一)、同2の31③(同二)の二票は無効票と解するものであるが、その理由は、後記四(1)の第二号事件の請求原因5(1)の票について、の判断で述べるとおりである。
ウ 検証の結果によると、検記号2の9の票は、「みちよ」と記載されているものであるが、どちらかといえば稚拙な字体であり、佐藤三千生の名の「みちお」を誤って「みちよ」と記載したものと推認することができ、佐藤三千生に対する有効投票と解するのが相当である。これを、候補者でない女性の名を記載したものとして、無効とすべき旨の第一号事件原告の主張は採用することができない。
エ <書証番号略>、検証の結果によると、検記号2の16③、同2の18①、同2の27①、同2の33(裁決書別記一六)、同2の58③、同2の66、同2の67②の七票は、いずれも佐藤三千生の記号欄かその候補者氏名欄に○印の一部がつけられているものであるところ(但し、検記号2の33〔裁決書別記一六〕の票は、投票用紙の折り曲げによる転写で、さらにタドン票の状態にもなっている。)、その記載状態からみて、記号欄に印棒で押印したものの、○印の一部が顕出されたに留まったものであって、佐藤三千生への投票意思が認められるものであり、同人に対する有効投票と認められる。
オ <書証番号略>、検証の結果によると、検記号2の44①の票は、佐藤三千生の記号欄に○印が半分顕出されているものであることが認められ、同票は佐藤三千生に対する有効投票である。同票の佐藤三千生の記号欄に○印がつけられているかどうか不明である旨の第一号事件原告の主張は、失当である。
カ <書証番号略>、検証の結果によると、検記号2の45の票の記載は、稚拙な字体であって、佐藤三千生の「佐」の字を誤記し、「藤」の字もやや不正確な記載をしたものと認められ、「三千生」の名が正確に記載されている点からも、同票は、佐藤三千生に対する有効投票と認められる。
キ 検証の結果によると、検記号2の77②の票のはじめの記載部分は、「佐藤」の「佐」を記載しようとして果たさなかったものであり、「三千夫」は「三千生」を誤記したものと認められるので、同票は、佐藤三千生に対する有効投票である。
ク 検証の結果によると、検記号2の79の票は、「佐藤」の「藤」の字を誤記し、且つ氏のみを記載して、佐藤三千生に投票したものと認められるので、佐藤三千生に対する有効投票である。
ケ <書証番号略>、検証の結果によると、検記号2の34②、同2の42、同2の57②、同2の73①の四票は、それぞれ佐藤三千生の記号欄に○印がつけられているほか、右側の欄外に○印または○印様の汚染等があるものであるが、インクの状態や○印の位置関係等からみて、選挙人が投票用紙を折り曲げた際、記号欄の○印が欄外に転写したものと認められるから、いずれも佐藤三千生に対する有効投票である。
(3) 第一号事件請求原因5(3)アないしウの票について
ア 検証の結果によると、別表4―2の番号4(検記号2の56)の票は、佐藤三千生の記号欄に○印がつけられているほか、右側の欄外に○印または○印様の汚染等があるものであるが、インクの状態や○印の位置関係等からみて、選挙人が投票用紙を折り曲げた際、記号欄の○印が欄外に転写したものと認められ、佐藤三千生に対する有効投票と認められる。
イ <書証番号略>、検証の結果によると、別表1の一五票(検記号1の3、同1の15①、同1の15②、同1の25①、同1の29、同1の31①、同1の37、同1の42③、同1の46、同1の48②、同1の49①、同1の54①、同1の57②、同1の69①、同1の69③)は、第一号事件原告の記号欄或いは候補者氏名欄に複数の○印ないしその一部がつけられているもの、別表2の一六票(検記号2の8②、同2の16①、同2の16②、同2の32、同2の34①、同2の35、同2の36①、同2の38①、同2の54①、同2の54④、同2の57①、同2の57②、同2の57⑫、同2の67①、同2の72、同2の74①)は、佐藤三千生の記号欄或いは候補者氏名欄に複数の○印ないしその一部がつけられているものであるが、いずれも選挙人が完全な○印をつけようとして複数回印棒で押捺したか、記号欄と候補者氏名欄の両方に○印をつけたものであって、当該候補者に対する投票意思が明らかであり、且つ、訂正のためのものであることや、他の特別な意味があるものとは認められないから、それぞれ前者は第一号事件原告、後者は佐藤三千生に対する有効投票であり、同様に、別表3の番号森山票1ないし4(検記号1の16、同1の41①、同1の61、同1の69②)の四票は第一号事件原告に対する有効投票、同佐藤票番号1ないし6(検記号2の18②、同2の19①、同2の29①、同2の36②、同2の51②、同2の74②)の六票は佐藤三千生に対する有効投票である。
ウ <書証番号略>、検証の結果によると、別表6―1ないし6―4の六九票(その検記号は別表6―1の番号2の「2―8」を「2―8①」と訂正するほか各表に記載のとおりであり、そのうち佐藤三千生に対する投票とみられるもの四七票、第一号事件原告に対する投票とみられるもの二二票である。)は、いずれも本来の記号欄に○印の記載がなく、候補者の氏名欄に○印がつけられているものであるが、特定の候補者に対する投票意思が明確なものであるから、それぞれ当該候補者に対する有効投票と認めるのが相当である。
第一号事件原告は、別表6―1ないし6―3の六一票に特定の選挙人集団の談合による他事記載の蓋然性がある旨主張するところ、別表6―1の三三票は候補者氏名欄の上部、「佐藤三千生」の「佐」の字あたり、同6―2の一三票は同じく第一号事件原告の氏名「森山喜三郎」の「森」の字あたり、同6―3の一五票のうち八票は候補者氏名欄の下部、「佐藤三千生」の「生」の字あたり、うち七票は「森山喜三郎」の「郎」の字あたりに、それぞれ○印がつけられていることが認められるが、投票総数七七〇〇票余であること等も考慮にいれ、それだけで、直ちにこれらの票の記載が選挙人らの談合による他事記載であると認定することは困難であり、他にこの点に関する第一号事件原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
(4) 第一号事件請求原因5(4)の票について
<書証番号略>、検証の結果によると、別表5佐藤票の九票(検記号2の16③、同2の18①、同2の27①、同2の44②、同2の47②、同2の58③、同2の66、同2の67②、同2の77①)は、佐藤三千生の記号欄又は候補者氏名欄に○印の一部がつけられているもの、同表森山票の四票(検記号1の49③〔裁決書別記一三〕、同1の50①、同1の57①、同1の70②)は、第一号事件原告の記号欄に○印の一部がつけられているものであるが、これらの票は、いずれも、選挙人が投票しようとする候補者の記号欄又は氏名欄に印棒で押印したものの、○印の一部しか顕出できなかったものと認められ、選挙人の投票意思が明らかに認められるものであり、それぞれ当該候補者に対する有効投票と認めるのが相当である。これらが無効票である旨の第一号事件原告の主張は、採用することができない。
(5) 第一号事件請求原因5(5)の票について
別表7の九票のうち、番号9の票(検記号2の47①〔裁決書別記一一〕)が佐藤三千生に対する有効投票であることは、前記(1)イ記載のとおりである。なお、第一号事件原告は、その余の八票を無効票とする被告の判定を争っていないが、そのうち同表番号1ないし3、及び5ないし8の七票については、後記四(3)第二号事件請求原因5(3)の票について、及び同(8)第二号事件の請求原因5(8)の票について(ウないしエ)の判断で述べるとおりである。
(6) 第一号事件請求原因5(6)の票について
<書証番号略>、検証の結果によると、別表8の番号1ないし4の四票(検記号1の12、同1の32②、同1の54④、同1の70①)は、第一号事件原告の記号欄又は候補者氏名欄、同番号5、6の二票(検記号2の67②、同2の69①)は、佐藤三千生の記号欄に、複数の○印の一部、或いは不完全な○印がつけられていると認められるものであるが、いずれも選挙人が完全な○印をつけようとして複数回印棒で押印したものであって、訂正、抹消等の意思があったとは認められず、それぞれ各候補者に対する有効投票と認められる。右番号5、6の票が無効票である旨の第一号事件原告の主張は、採用することができない。
(7) 第一号事件請求原因5(7)の票について
<書証番号略>、検証の結果によると、別表9の番号2の票(検記号2の20)は、佐藤三千生の記号欄に薄い○印、或いは不完全な○印とそれをなぞって○印にしたような形跡があるものであって、抹消するために擦ったような跡は見当らず、同番号3の票(検記号2の44①)も、前記(2)オ記載のとおり、佐藤三千生の記号欄に○印が薄く半分顕出されているものであり、右二票はいずれも佐藤三千生に対する有効投票である。なお、別表9の番号1の票(検記号1の80①〔裁決書別記一四〕)は、本件裁決でも第一号事件原告に対する有効投票と判定されているところ、同票については、後記四(4)、第二号事件の請求原因5(4)の票についての判断で述べるとおりである。
三してみると、第一号事件原告主張の本件裁決の取消原因は理由がないから、同原告の本訴請求は、この点で失当として排斥を免れない。
四次に、第二号事件の請求原因5(1)ないし(6)、同(7)アないしケ、同(8)アないしエの順に、第二号事件原告主張の各票の効力について判断するに、それらの票につき、被告が第二号事件原告主張の判定をしていることは、当事者間に争いがない。
(1) 第二号事件請求原因5(1)の票について
第二号事件原告は、検記号2の15(裁決書別記一)、同2の31③(同二)の二票が佐藤三千生の記号欄にボールペンで○印を記載しており、備付けの印棒によって記載したものではないが、佐藤三千生に対する有効投票である旨主張するところ、<書証番号略>、検証の結果によれば、右二票は、佐藤三千生の記号欄にボールペンで○印を記載したものであることが認められる。
しかし、<書証番号略>によれば、庄内町では昭和四七年に条例で記号式投票制度を採用し、庄内町選挙管理委員会も同年六月二七日「庄内町の記号式投票に関する規程」を制定し、記号式投票における○の記号の記載方法を、○の記号をあらわす印をおす方法によること、投票所内の投票を記載する場所に○の記号をあらわす印等、投票に必要な器具を備えることや、投票用紙の形式等を定め、爾来それによって町長選挙を執行してきていること、本件選挙もこの記号式投票によって行われ、本件選挙の投票用紙にも「一 投票しようとする候補者一人についてその氏名の上の○をつける欄に○をつけること。二 ○のほかには何も書かないこと。」との不動文字による注意書が記載されていることが認められ、○の記号を備付けの印棒によらず、手書で記載した投票は、成規の○の記号の記載方法によらないものであり、法第四六条の二第二項、第六八条第一項一号により無効と解すべきである。
第二号事件原告は、右規程が法律や条例の下位にある選挙管理委員会の規則に過ぎない旨主張するが、右規程は、法第四六条の二、同法施行令第四九条の三に基づき、右法令の定める○の記号を自書する方法、○の記号をあらわす印をおす方法、これらの方法をあわせた方法のうち、○の記号をあらわす印をおす方法を採用し、規定しているものであり、また、第二号事件原告は、本件選挙の投票用紙の注意書が○印の記載方法として、ボールペン等で手書してもよい趣旨である旨主張するが、右注意書の一項の「○をつけること。」や二項の「書かないこと。」の記載の意味に、○の記号を手書で記載してよい趣旨が含まれているとは解し得ず、備付けの印棒のほか、選挙人の持参する何らかの器具によってよい等といえないことも当然であり、右第二号事件原告の主張はすべて理由がない。
(2) 第二号事件請求原因5(2)の票について
第二号事件原告は、検記号2の78①(裁決書別記四)、同2の78②(同三)の二票が佐藤三千生に投票しようとする選挙人の意思が認められるものであり、同人に対する有効投票である旨主張するところ、前記二(1)アで既述のとおり、右二票は、いずれも第一号事件原告(森山喜三郎)が右側、佐藤三千生が左側に並記された投票用紙の佐藤三千生の候補者氏名欄の左側外枠の縦線の区分欄に○印がつけられ、右両名の記号欄及びその候補者氏名欄内には○印の記載のないことが認められるから、どの候補者に対する投票であるか確認し難いものとして、無効票であるというべきである。
第二号事件原告は、本件投票用紙の候補者両名の左右の外枠(縦線)の幅広く、その部分が記号欄のようにもみえる旨主張するところ、左右の外枠の幅が広く、誤解を生むおそれがないといえないことは主張のとおりであるが、その部分が外枠に過ぎず、○印をつける記号欄でないことは争えないところといわなければならず、右二票の○印が佐藤三千生に近い方の外枠の上につけられているとしても、それがどのような意思でつけられたか疑問の余地があり、ひいて佐藤三千生に対する投票の意思でなされたとは断定できない、といわざるを得ない。第二号事件原告の右主張は採用することができない。
(3) 第二号事件請求原因5(3)の票について
第二号事件原告は、検記号無効1の4,2の10(裁決書別記七)、同無効1の5,2の11(同八)、同無効1の3,2の9(同九)、同無効2の7(同一〇)の四票がいずれも佐藤三千生の記号欄に○印が記載されているものであって、第一号事件原告の記号欄の記載は誤記の訂正等であり、佐藤三千生に対する有効投票である旨主張するところ、<書証番号略>、検証の結果によれば、右四票のうち前の三票は、佐藤三千生の記号欄に完全な○印が記載され、第一号事件原告の記号欄に複数の○印ないしその一部がつけられているものであり、後の一票は、佐藤三千生の記号欄に二、三個の○印ないしその一部、第一号事件原告の記号欄に○印の一部(不完全な半円)が記載されているものであると認められる。
しかるところ、右前者のうち検記号無効1の4,2の10(裁決書別記七)、同無効1の5,2の11(同八)の二票については、第一号事件原告の記号欄の複数の○印ないしその一部は、選挙人が一旦○印をつけたのち、その上から印棒を数回にわたって押捺し、先につけた○印を抹消しようとしたものであると認めることができ、そうすると、その第一号事件原告の記号欄の記載は誤記の訂正であって、有意の他事記載ではなく、右二票は、選挙人の佐藤三千生に対する投票意思が明らかなものであり、いずれも同人に対する有効投票と認めるべきである。
しかし、もう一票の検記号無効1の3,2の9(裁決書別記九)の票は、子細に検討しても、第一号事件原告の記号欄にある○印ないしその一部、合計三個の記号が誤記の訂正であるとは断定できず、投票用紙を折り曲げた際、佐藤三千生の記号欄の○印が転写したものを含む可能性もなくはないので、結局、佐藤三千生の記号欄の○印のほか、第一号事件原告の記号欄にも○印ないしその一部があるものとして、有意の他事記載があるか、どの候補者に対する投票であるか確認し難いものといわざるを得ず、無効票というべきである。
また、後者の検記号無効2の7(裁決書別記一〇)の票も、佐藤三千生の記号欄に二、三個の○印ないしその一部がつけられているが、第一号事件原告記号欄にも半円の不完全な○印が一個記載されているものであって、同様に有意の他事記載があるか、どの候補者に対する投票であるか確認し難いものとして、無効票と解すべきである。第二号事件原告は、右票(検記号無効2の7〔裁決書別記一〇〕)の第一号事件原告の記号欄の半円について、選挙人が○印をつけかけて、その誤りに気付き、途中で止めたものである旨主張するが、そのように推認するに足りる合理的な根拠があるとはいえず、右第二号事件原告の主張は採用することができない。
したがって、右四票についての第二号事件原告の主張は、右検記号無効の1の4,2の10(裁決書別記七)、同無効1の5,2の11(同八)の二票に関する限度で理由がある。
(4) 第二号事件請求原因5(4)の票について
第二号事件原告は、検記号1の48②(裁決書別記一二)、同1の49③(同一三)、同1の80①(同一四)、同1の32①(同一五)、同2の33(同一六)を含む二三票の記号欄の記載が不完全、或いは投票意思の認められないものであり、いずれも無効票とすべきである旨主張するところ、<書証番号略>、検証の結果によれば、検記号1の48②(裁決書別記一二)の票は、第一号事件原告の記号欄に三個、その候補者氏名欄に一、二個の三日月状の記号があり、検記号1の49③(裁決書別記一三四)の票は、第一号事件原告の記号欄に二個の三日月状の記号と一個の短い線状の記号があるものであるが、これらの記号は、いずれも、選挙人が完全な○印をつけようとして、印棒を複数回押捺したものと認めることができ、第一号事件原告に対する有効投票と認められる。
検記号1の80①(裁決書別記一四)の票は、第一号事件原告の記号欄に薄い三日月状の記号があって、それを後で擦ったように全体が薄くぼやけ、周辺にインクが広がっていることが認められるが、三日月状記号は印棒の押し方が不完全であったためと認められ、インクの痕跡も誤ってできたものと認定できるものであり、第一号事件原告に対する有効投票というべきである。
また、検記号1の32①(裁決書別記一五)の票は、第一号事件原告の記号欄、検記号2の33(裁決書別記一六)の票は、佐藤三千生の記号欄にそれぞれ○印をつけた跡があるものの、その上にインクの浸潤によるタドン状模様があり、かつ投票用紙の右側の不動文字部分に対称的なタドン状模様があるものであって、それぞれ、印棒のインクが多過ぎたため、投票用紙を折り曲げた際、インクが浸潤してそのような模様になったものと認められ、前者は第一号事件原告、後者は佐藤三千生に対する各有効投票と認めることができる。
第二号事件原告は、右五票が選挙人において、一旦記号欄につけた○印を訂正し、抹消しようとしたものであって、投票意思の認められないものである旨主張するが、いずれも採用することができず、また、その余については、具体的な票の指摘がないものであり、理由がない。
(5) 第二号事件請求原因5(5)の票について
第二号事件原告は、検記号1の13⑥(裁決書別記二一)、同1の13④(同二二)、同1の13⑤(同二三)、同1の13③(四二四)、同1の13①(同二五)、同1の13②(同二六)、同1の13⑦(同二七)、裁決書別記二八、同二九、検記号1の25②(裁決書別記三〇)の一〇票が朱肉による指紋、その他の他事記載があるので無効である旨主張するところ、<書証番号略>、検証の結果によれば、右一〇票は、いずれも第一号事件原告の記号欄に○印があるものであり、そのうち前の七票には、その佐藤三千生の記号欄、候補者氏名欄等に朱肉による指紋が付着し、後の三票も第一号事件原告の記号欄以外のところにインクによる指紋が付着していることが認められる。
しかし、前者の朱肉による指紋は、開票従事者、選挙立会人、選挙長のいずれかが票の点検中、投票用紙を右手に掴み、右親指で押さえて枚数を数えた際に付着させたもの、後者のインクによる指紋は、選挙人が投票を記入する場所のスタンプ台のインクを誤って手につけ、投票用紙に付着させたものと、それぞれ推認され、いずれも有意の他事記載とは認められないので、すべて第一号事件原告に対する有効投票と認めるのが相当である。
第二号事件原告は、これらの票の指紋について、それぞれの選挙人が、朱肉を投票所に持ち込む等したうえ、故意に記入したものである旨主張するが、合理的根拠があるとはいえず、採用することができない。
(6) 第二号事件請求原因5(6)の票について
第二号事件原告は、検記号1の80②(裁決書別記三二)、同1の71(同三三)の二票が誰に投票したか確認できないか、候補者でない者を記載したもの、或いは他事記載のあるもの等として無効票である旨主張するところ、<書証番号略>、検証の結果によると、検記号1の80②(裁決書別記三二)の票の記載は、「森」と書こうとして果たさず、一旦抹消したのち、改めて「森」と書き直したものと認めることができ、本件選挙の候補者が第一号事件原告(森山喜三郎)と佐藤三千生の二名であることを考慮すれば、右「森」の記載は第一号事件原告に投票する意思で「森山」の「山」の字を書き落としたものと認めるのが相当であって、同票は第一号事件原告に対する有効投票と認められる。
また、検記号1の71(裁決書別記三三)の票は、投票すべき候補者として「森さんじ」と記載されているものであることが認められるが、第一号事件原告(森山喜三郎)は、もと庄内町役場の職員をしていた者(<書証番号略>)で、参事、総務課長等の職名で呼ばれていたことが認められるから、同票は同人に対する有効投票であり、右「さんじ」の記載は法第六八状第一項五号の候補者の職業、身分の類として、同号の他事記載に当たらないというべきである。
第二号事件原告は、佐藤三千生の「三千」或いは「千生」が「サンジ(チ)」「サンジ」等と読み、右票の「さんじ」の記載が佐藤三千生の名の方を記載したものと解し得る旨主張するが、佐藤三千生の名をそのように読むべき客観的な合理性はなく、右主張は採用することができない。
(7) 第二号事件請求原因5(7)アないしケの票について
ア <書証番号略>、検証の結果によると、検記号1の7の票は、第一号事件原告の記号欄に明確な○印、佐藤三千生の記号欄に○印の一部とそれを上から擦った跡があり、双方の記号欄や欄外に僅かにインクの汚れが認められるものであるが、その佐藤三千生の記号欄は、選挙人が○印をつけかけて途中で中止し、誤記を訂正するため上から擦ったものと認めることができ、インクの汚れも誤って付着したもので、有意の他事記載ではないと認められるので、同票は第一号事件原告に対する有効投票というべきである。
イ 検記号1の11(裁決書別記二〇)の票は、本件裁決でも無効票と判定されている。
ウ <書証番号略>、検証の結果によると、検記号1の12、同1の32②、同1の70①の三票は、第一号事件原告の記号欄又はその候補者氏名欄に、複数の○印ないしその一部がつけられているものであるが、いずれも訂正や抹消のためのものではなく、それぞれ選挙人が完全な○印を記載しようと、複数回にわたって印棒を押捺したものと認められ、第一号事件原告に対する投票意思の明らかなものであり、第一号事件原告に対する有効投票と認められる。
エ 検証の結果によると、検記号1の31②の票は、第一号事件原告の記号欄に○印がつけられ、その○印自体にインクの浸潤があるほか、右側縦線の区分欄やさらに右側の前書部分にかけて何箇所か○印、インクの汚染等があるものであるが、○印の濃淡や形状、位置からみて、選挙人が投票用紙を二度折り曲げた際、第一号事件原告の記号欄の○印が右側に転写したものと認められ、有意の他事記載ではなく、同票は第一号事件原告に対する有効投票である。
オ <書証番号略>、検証の結果によると、検記号1の33の票の最後の「つ」の記載に何らかの意味があるとは認められず、同票は選挙人の第一号事件原告(森山喜三郎)に対する投票意思が認められるもの、検記号1の41②、1の72の二票「山」の上の字は、いずれも森山の「森」の字を誤記したものと認めることができ、右三票はすべて第一号事件原告に対する有効投票であると認められる。
第二号事件原告は、検記号1の41②、1の72の二票が同一人の筆跡である旨主張するが、右二票は同一の誤記をしているとはいえ、筆跡は異なると認められるところであって、右第二号事件原告の主張は理由がない。
カ <書証番号略>、検証の結果によると、検記号1の46の票は、第一号事件原告の記号欄に○印がつけられているほか、その候補者氏名欄と左側縦線の区分欄にまたがって二、三個の○印が記載されているものであるところ、その候補者氏名欄と区分欄にまたがってつけられている○印も、訂正、抹消等の意思が認められるものではなく、且つ候補者氏名欄にかなりかかっているものであって、第一号事件原告に対する投票意思が認められるものであり、同票は第一号事件原告に対する有効投票である。なお、同票は、第一号事件原告の記号欄の右側欄外にも薄い○印の一部がみえるけれども、選挙人が投票用紙を折り曲げた際の転写であると認められる。
キ <書証番号略>、検証の結果によると、検記号1の50①、同1の57①、同1の70②の三票は、第一号事件原告の記号欄に一、二個の○印の一部が記載されているものであるが、いずれも選挙人が完全な○印をつけようとして果たさなかったものであり、○印をつけなかったり、一旦つけたものを抹消しようとしたりするのではなく、投票意思の認められるものであって、第一号事件原告に対する有効投票である。
ク <書証番号略>、検証の結果によると、検記号1の60の票は、第一号事件原告の記号欄に○印が記載されているほか、右側の欄外に複数の○印様のインクの汚染があるものであるが、インクの濃淡、汚染の位置、形状等からみて、選挙人が投票用紙を二度折り曲げた際、記号欄の○印が転写したものと認められるから、第一号事件原告に対する有効投票であり、検記号1の79の票は、第一号事件原告の記号欄に○印がつけられているほか、右側の欄外の不動文字の部分にも○印が一個つけられていて、記号欄の○印の転写とは認められないものであり、これが有意の他事記載に該当とし、無効票というべきである。なお、右検記号1の79の票は、本件裁決もこれを無効票と判定している。
ケ <書証番号略>、検証の結果によると、検記号1の78①、同1の78②の二票は、いずれも第一号事件原告の記号欄に○印がつけられているとともに、佐藤三千生の記号欄にも○印とみられる記載があるものであるが、双方のインクの濃淡、位置、形状からみて、佐藤三千生の記号欄の○印は選挙人が投票用紙を折り曲げた際、第一号事件原告の記号欄の○印が転写したものと認められ、右二票は、第一号事件原告に対する有効投票と認められる。
(8) 第二号事件請求原因5(8)アないしエの票について
ア 検証の結果によると、検記号無効2の1の票は、「しょうのみちお」と記載され、名の記載が佐藤三千生と一致するものであるが、氏の「しょうの」は「佐藤」との類似性がなく、「佐藤」と記載すべきを誤ったとも認め難いので、結局、佐藤三千生とは別人を記載したものと解するほかはなく、同票は、候補者でない者の氏名を記載したものとして、無効票である。
イ 検証の結果によると、検記号無効2の2の票は、佐藤三千生の記号欄に○印がつけられているほか、第一号事件原告の記号欄の右側縦線の区分欄に「厳著於本人」との記載があるものであり、他事記載があるものとして、法第四六条の二第二項、第六八条第一項五号により無効票である。
ウ 検証の結果によると、検記号無効2の3、同無効2の6の二票は、佐藤三千生の記号欄に○印がつけられているとともに、第一号事件原告の記号欄にも○印の一部、半円状の記号が記載されているものであって、転写や誤記の訂正等を窺わせるような状況も認められないので、候補者の何人に投票したのか確認できないものとして、法第四六条の二第二項、第六八条第一項三号、七号により無効票である。
エ 検証の結果によると、検記号無効2の4の票は、佐藤三千生の記号欄に○印がつけられているとともに、第一号事件原告の記号欄にも○印と○印の一部、半円状の記号が重なって記載されているものであり、その第一号事件原告の記号欄の記載は未だ誤記の訂正とまでは認め難いので、前記ウの二票と同様、候補者の何人に投票したのか確認できないものとして、無効票と解すべきである。
五してみると、第二号事件では、前記四(3)及び(8)エの検記号無効1の4,2の10(裁決書別記七)、同無効1の5,2の11(裁決書別記八)の二票について、本件裁決と判定を異にし、本件裁決で無効票とされた右二票が佐藤三千生に対する有効投票に加えられる結果、本件裁決で佐藤三千生と第一号事件原告の得票数が三八二六票の同数(投票総数七七四二票、無効票九〇票)のところ、佐藤三千生の得票数三八二八票、第一号事件原告の得票数三八二六票(無効票八八票)となり、これを同数とした本件裁決の取消を求める第二号事件原告の請求は理由がある。
なお、第二号事件原告は、本件裁決が第一号事件原告の得票が佐藤三千生を上回るとした庄内町選挙管理委員会の決定を取消していることから、本訴請求の趣旨として、本件裁決が本件選挙における当選人佐藤三千生の当選を無効とした部分の取消だけを求めるかのように述べているが、本件裁決の右当選を無効とする部分は、佐藤三千生の得票数と第一号事件原告の得票数が同数であるとの認定、判断と不可分であり、後者を維持して当選無効部分のみの取消を求め得ない道理であるから、その取消を求める第二号事件原告としては、当然本件裁決全体の取消を求めざるを得ず、本訴請求の趣旨もその趣旨であると解するのが相当である。
六よって、第一号事件原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、第二号事件原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官緒賀恒雄 裁判官田中貞和 裁判官木下順太郎)