福岡高等裁判所 平成4年(く)66号 決定 1992年10月09日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は、請求人が提出した「抗告状(即時抗告の申立)」と題する書面に記載されたとおりであるから、これを引用するが、所論は、要するに、仲家暢彦、福崎伸一郎及び櫻庭信之には、職権濫用に該当する事実はないとして、請求人の付審判請求を棄却した原決定は、失当であるから取消を免れない、というのである。
そこで、一件記録を調査して検討するに、原決定がその「当裁判所の判断」の項において説示するところは正当なものと是認できる。すなわち、仲家暢彦、福崎伸一郎及び櫻庭信之は、福岡地方裁判所小倉支部の裁判官として、請求人を被告人とする有印公文書偽造、同行使、詐欺、窃盗被告事件(福岡地方裁判所小倉支部平成三年(わ)第四四号、同第六七号、同第一四九号、同第四二二号、同第四九九号)の審理を担当したものであること、右被告事件については、国選弁護人が付されて審理が進められ、平成四年一月二一日に判決が宣告されたこと、請求人は、右判決の確定前である同月二二日に同裁判所に対し、同事件の公判調書の閲覧の請求をしたが、書記官がこれに応じなかったことが認められる。所論は、前記仲家暢彦ら三名の裁判官が共謀のうえ、職権を濫用して、請求人の公判調書閲覧請求権を妨害したというのであるが、刑事訴訟法上、公判調書につき被告人側が閲覧権を持つのは原則として弁護人であり(同法四〇条参照)、被告人は、弁護人がいないときに、その閲覧権を持つものであるところ(同法四九条)、弁護人選任の効力は、判決言い渡しによって失われるのではなく、その後も判決の確定又は上訴申立までは継続すると解されるのであるから、請求人の公判調書閲覧請求を許さなかった書記官の処置に違法、不当な点は認められない。
また、所論は、請求人は同月二七日右判決に対し、控訴の申立をしており、これにより従来の弁護人については選任の効力が失われるのであるから、請求人のなした前記公判調書の請求は、遡ってその効力を生じるというべきである、というのである。しかし、控訴申立より前になした閲覧請求につき、閲覧権がないとして斥けられたあと、控訴申立がなされたからといって、その後に閲覧請求することなしに、前の閲覧請求に遡及効を認めるべき合理的根拠は見当たらず、右所論は独自の見解であって採用することができない。
その他、請求人が原決定につき種々論難している点は、いずれも本件と事案を異にし、あるいは関連性に欠けて採用の限りではなく、又、記録を精査しても、前記仲家暢彦ら三名の裁判官に職権濫用の事実やその認識があったとは少しも認められない。
してみると、請求人の本件付審判請求を棄却した原決定は相当であって、本件抗告は理由がないから、刑事訴訟法四二六条一項後段によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。