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福岡高等裁判所 平成4年(ネ)107号 判決 1992年9月16日

亡松本茂訴訟承継人

控訴人

中村蒔代美

右訴訟代理人弁護士

松波克英

安田佳子

右安田佳子訴訟復代理人弁護士

黒川忠行

被控訴人

福岡県信用保証協会

右代表者理事

近藤榮次郎

主文

一  福岡地方裁判所が平成四年(モ)第二五五三号訴訟受継申立事件について同年二月四日なした決定中、控訴人に対し訴訟手続を受継すべきことを命じた部分を取り消す。

二  右事件について被控訴人からなされた訴訟手続受継の申立のうち、控訴人に対し訴訟手続を受継させることを求める部分の申立を却下する。

三  控訴費用は被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決中の訴訟承継による控訴人に関する部分を取り消す。被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めたが、被控訴人は、当審における口頭弁論期日に出頭せず答弁書その他の準備書面も提出しない。

二  被控訴人主張の請求原因事実は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

三  控訴人は、本件訴訟の承継、被控訴人の請求原因に対する認否並びに抗弁として、次のとおり述べるとともに<書証番号略>を提出した。

1  本件訴訟は、当初、松本茂を被告にして進められ、原判決も同人を被告として言渡されたが、その後、原判決の正本が同人に送達されないうちに同人が昭和六二年六月一〇日死亡したので、被控訴人の受継申立に基づき平成四年二月四日なされた受継決定(福岡地方裁判所平成四年(モ)第二五五三号訴訟受継申立事件)により、控訴人において他の相続人とともに本件訴訟を受継し、ひとり控訴を申立てた。

2  請求原因一項ないし六項の各事実は知らない。同七項を争う。

3  控訴人は、松本茂の相続人のひとりであるが、同人の死亡の事実すなわち相続開始の事実を平成三年一一月一五日に初めて知り、同年一二月一六日に相続開始地を管轄する福岡家庭裁判所飯塚支部に相続放棄の申述をなし、平成四年二月二五日受理された。

したがって、控訴人は、初めから松本茂の相続人にはならなかったものとみなされるから、被控訴人請求にかかる本件求償債務を承継するものではない。

理由

一原審及び当審各記録並びに弁論の全趣旨によれば、前記事実の三項の1及び3の各事実を認めることができる。

右認定事実によるとき、控訴人の相続放棄の申述は民法九一五条所定の期間内になされたというべきであるから、控訴人の相続放棄は有効であると認められる。そうすると、本件受継決定中、控訴人に対して本件訴訟手続を受継すべきことを命じた部分は、本件訴訟を受継する資格のない者に対してこれを受継すべきことを命じた点において違法であるというほかはない(因みに、原審記録には、原審が民訴法二一七条所定の被控訴人から右の受継申立がなされた事実を控訴人らに通知した形跡はない。もしも、この通知がなされておれば、控訴人は既に相続放棄の申述をなしていたのであるから、右の申立について控訴人らからそれなりの対応がなされ、相当の決定がなされていたかも知れない。)。

二ところで、本件控訴は、被控訴人の本訴請求の当否についてのみ更に判断を求めているもので、本件受継決定の当否についてまでは判断を求めていないものと解される。

しかし、もともと訴訟手続受継の申立の当否について裁判所は職権をもって調査したうえで判断しなければならず、しかもこの申立を許容した受継決定に対して独立して抗告の方法による不服申立をすることは許されないと解されていること、したがって右の受継決定に不服のある当事者は当該訴訟手続内において自己または相手方の当事者適格を争い、これが容れられないときは上訴のなかで不服を申立てるほかないこと、他方、裁判所が受継申立を許容して訴訟手続を続行しても、後に新当事者に当事者適格のないことが判明したときには先の受継決定にとらわれることなく、これと異なる決定をしても差し支えないこと、などの諸点を考慮するとき、控訴によって、原審においてなされた受継決定の当否も控訴審の審理、判断の対象となったものと解すべきである。そして、本件受継決定は、原判決言渡し後、原判決の効力の及ぶ新当事者として控訴人らを指定したものにほかならないから、当審における審理、判断は本訴請求の当否に先行して控訴人の本件訴訟の受継資格の有無についてまずなすべきである。

そこで、控訴人の本件訴訟の受継資格の有無についてみると、既に説示したとおり、控訴人には右の資格がなく、本件受継決定は違法であるというのであるから、本件受継決定を取り消し、被控訴人の受継申立のうち控訴人に関する部分の申立を却下するべきである。そして、この措置によって、原判決は控訴人に対して何の効力、影響をも及ぼさないことになるから、当審においては、最早、被控訴人から控訴人に対する本訴請求の当否に関して審理、判断する必要はなく、この部分の控訴について、強いて却下するなどの格別の措置を講じなくても差し支えがないものと解される。

三よって、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官緒賀恒雄 裁判官近藤敬夫 裁判官木下順太郎)

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