福岡高等裁判所 平成4年(ネ)52号 判決 1993年12月06日
熊本市大江本町八番二四号
控訴人
伊井久雄
右訴訟代理人弁護士
千場茂勝
東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
被控訴人
国
右代表者法務大臣
三ヶ月章
右指定代理人
菊川秀子
同
白濱孝英
同
松永誠
同
中島誠一
同
小松弘機
同
徳田実生
同
河野通法
同
福田道博
同
相馬順一
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一月二二日から支払済みまで五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであり、証拠の関係は、原審及び当審の各訴訟記録中の書証目録、証人等目録に記載のとおりであるから、これらを引用する。
1 原判決三枚目表一行目の「考慮すれば、」の次に「任意の調査によるべきでありこれで目的を達することができる場合であったから、」を加える。
2 同三枚目裏八行目の「承諾もなく、」の次に「右のように拒絶権のあることを告知すべきであるのにこれをしないことによって」を加える。
3 同三枚目裏九行目の次行に改行のうえ次のとおり加える。「また、控訴人病院に対する臨検許可状及び捜索差押許可状の執行に当たっては、これらの許可状に基づいて処分を受ける者である控訴人に対してこれらの許可状を呈示すべきであるのにこれをせず、加えて国税犯則取締法六条一項に則って控訴人病院の所有主である控訴人を立会させなければならないのにこれをしないまま、本件差押をしてしまった。
さらに、右のような事情のもとではあったが、控訴人の妻伊井佐葉子は、控訴人の指示に従ってあるいは控訴人の代理人として、後記四・1・(三)のとおり、押収拒絶権の行使をした。それにもかかわらず、査察官らは押収したカルテを持ち去ってしまった。」
4 同一一枚表九行目の「と言った。」の次に「そこで佐葉子は、『控訴人の承諾はないはずだ。持ち出しては困る。医師法によっても持ち出しは禁止されている。』旨を述べて本件カルテの押収に異を唱えたが、内田らはこれを無視して本件カルテ等を運び去った。」を加える。
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求を棄却すべきものと認定判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
当審において取り調べた証拠によっても、右の認定判断を覆すことはできない。
1 原判決一三枚目裏一行目の「同東邦良及び同伊井佐葉子」を「同東邦良(但し、後記の採用しない部分を除く。)及び同伊井佐葉子(但し、後記の採用しない部分を除く。)」と改める。
2 同一四枚目裏末行の「その後の」の次に「自宅に対する」を加える。
3 同一七枚目表四行目の「否定できず、」の次に「それには本件カルテを確保することが必要であるところ、本件犯則嫌疑にかんがみるとき、任意の調査によることなく差押等の強制調査の方法によって本件カルテを確保しようとすることも止むを得ない選択というべきであるから、」を加える。
4 同一八枚目裏一三行目の次行に改行のうえ次のとおり加える。
「(四) 許可状の呈示及び執行の立会人について
控訴人は、控訴人病院に対する臨検許可状及び捜索差押許可状はこれらに基づいて処分を受ける控訴人に対して呈示されるべきであるのにこれをせず、また、控訴人病院の所有主である控訴人を立会させるべきであるのにこれもさせないまま捜索、差押がなされたと主張する。
なるほど、右許可状等は、その執行手続の公正を担保するために、原則としてその処分を受ける者に呈示することを要すると解すべきである。しかし、前記認定の本件差押の経緯によれば、控訴人は、ほぼ同時に自宅と控訴人病院に対して臨検・捜索・差押がなされることを十分に認識していたとみられること、そして自宅に対する許可状等は実際に示されたこと、控訴人病院に対する各許可状は東事務長に示されたこと、以上の事実が認められるから、控訴人病院に対する各許可状が控訴人に示されなかったにしても、このことから直ちに手続の公正を害うとは解し難い。また、同じ前記認定の本件差押の経緯によれば、控訴人病院に対する臨検・捜索・差押について東事務長が立会しているから、国税犯則取締法六条一項所定の者が立会していることが明らかであり、控訴人が立会しなかったことによってその利益の保護に欠け、手続の公正が害われたとみるべき事情は見当たらない。
(五) 拒絶権行使の有無
伊井佐葉子は、原審及び当審において控訴人が主張するように本件カルテの差押につき拒絶したと供述する。
しかし、前記認定の本件差押の経緯によれば、控訴人自らが拒絶権を行使しようとすれば必ずしも不可能でなかったのにこれをしなかったこと及び原審証人内田繁の証言と対比すると、伊井佐葉子の右の各供述は直ちには採用し難い。」
5 同一八枚目裏末行の「(四)」を「(六)」と改める。
二 よって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 緒賀恒雄 裁判官 近藤敬夫 裁判官 木下順太郎)