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福岡高等裁判所 平成5年(ツ)30号 判決 1994年8月31日

上告人

林ゆかり

右訴訟代理人弁護士

板井優

被上告人

株式会社オリエントコーポレーション

右代表者代表取締役

新井裕

右訴訟代理人弁護士

松本伸一

主文

一  原判決を破棄する。

二  被上告人の控訴を棄却する。

三  控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人板井優の上告理由第一点(上告理由書二)について。

一  原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1  上告人は、平成三年二月一九日、割賦購入あつせんを業とする被上告人との間で、次の内容の売買代金立替払契約を締結した(以下「本件立替払契約」という。)

(一)  被上告人は、上告人が平成三年二月一九日、株式会社熊本大理苑(以下「本件販売店」という。)から、上告人宅で買い受けた、袋帯ほか一点(以下「本件商品」という。)の売買契約(以下「本件売買契約」という。)の代金三〇万円を立替払する。

(二)  上告人は、被上告人に対し、右立替払金に手数料を加算した三七万二九〇〇円を、平成三年五月から平成六年五月まで毎月二七日限り三六回に分割して支払う。

(三)  上告人が前項の支払いを怠り、被上告人から二〇日以上の相当な期間を定めて催告されたにもかかわらず、その支払いをしないときは、上告人は期限の利益を失う。

2  上告人は、その直後、右代金を支払えないことから、本件販売店八代支店長の有田栄子に右売買契約を解消する旨の意思を口頭で伝えた。

3  被上告人は、平成三年三月一〇日、本件販売店に、本件商品代金三〇万円を立替払した。

4  被上告人は、同年七月二三日に到達した書面で、上告人に対し、支払期限を過ぎた未払割賦金を同年八月一二日までに支払うように催告した。

二  原審は、右事実関係の下において、割賦販売法三〇条の六、四条の三第一項によれば、割賦購入あつせん関係販売の申込みの撤回等は、「書面により」行う旨規定されているから、購入者に書面による申込みの撤回等を要求することが契約当事者間の信義に反するような特段の事情が認められない限り、書面によらなければ効力がないとしたうえ、本件においては、上告人が本件売買契約の解除の意思表示を書面でしたとの主張はなく、購入者に書面による申込みの撤回等を要求することが契約当事者間の信義に反するような特段の事情の主張立証もないとして、上告人のいわゆるクーリングオフの主張は主張自体失当であると判断し、被上告人の請求を棄却した第一審判決を取り消し、上告人に本件立替払金等三七万二九〇〇円及びこれに対する平成三年八月一三日から支払済みまで年六分の遅延損害金の支払を命じた。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

確かに、割賦販売法三〇条の六、四条の三第一項が、購入者に、一方的意思表示により割賦購入あつせん関係販売の申込みの撤回又は当該契約の解除(以下「申込みの撤回等」という。)を行うことができる旨規定していることはいうまでもない。しかしながら、同条項が申込みの撤回等を行う場合には「書面により」行うことを要するとしているのは、申込みの撤回等について後日紛争が生じないよう明確にしておく趣旨であつて、書面によらない場合の申込みの撤回等の効力については、同条項はその申込みの撤回等は書面によらなければその効力がない旨を明文で定めている訳ではなく、その結論は、同条項の立法の趣旨を踏まえての解釈の問題に帰着するというべきである。そこで検討すると、同条項は、訪問販売等においては購入意思が不安定なまま契約してしまい後日紛争が生じる場合が多いので、その弊害を除去するため、一定の要件のもとで申込みの撤回等を行うことができることにしたものであつて、その申込みの撤回等は書面を発した時に効力を生じることにする(同法四条の三第二項)、また、これらの規定に反する特約であつて購入者に不利なものは無効とする(同法四条の三第四項)等、いわゆる消費者保護に重点を置いた規定であること、書面を要する理由が申込みの撤回等について後日紛争が生じないよう明確にしておく趣旨であるとすれば、それと同等の明確な証拠がある場合には保護を与えるのが相当である(なお、仮に購入者がその立証ができなければ、その不利益は購入者が負うのは当然である。)こと、から考えると、同条項が、書面によらない権利行使を否定したものと解釈するのは問題があるというべきである。

これを本件についてみると、上告人は、本件売買契約の直後、右代金を支払えないことから、本件販売店八代支店長の有田栄子に右売買契約を解消する旨の意思を口頭で伝えたというのであるから、割賦販売法三〇条の六、四条の三第一項による申込みの撤回等は有効になされたというべきである。

四  以上によれば、右と異なる解釈の下に被上告人の請求を認容した原判決には、法令の解釈を誤つた違法があるといわざるを得ず、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。この趣旨をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、以上に述べたところからすると、本件売買契約は有効に解約されたもので、被上告人の請求を棄却した第一審判決は正当であつて、被上告人の控訴は理由がないから、原判決を破棄し本件控訴を棄却すべきである。

五  よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官足立昭二 裁判官有吉一郎 裁判官奥田正昭)

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