福岡高等裁判所 平成5年(行コ)30号 判決 1996年10月01日
控訴人
西野雅三
外一二名
右控訴人ら訴訟代理人弁護士
池永満
同
城台哲
同
名和田茂生
同
八尋光秀
同
石渡一史
被控訴人
福岡市長
桑原敬一
被控訴人
福岡市
右代表者市長
桑原敬一
右両名訴訟代理人弁護士
辻井治
被控訴人
株式会社パスコ
右代表者代表取締役
中島清治
右訴訟代理人弁護士
藤原政治
被控訴人
前田建設工業株式会社
右代表者代表取締役
前田顯治
右訴訟代理人弁護士
堤克彦
同
古江賢
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人福岡市長が昭和六三年一〇月二五日付第六三―一五〇号をもって被控訴人株式会社パスコ(以下「被控訴人パスコ」という。)に対しなした開発行為許可処分(以下「本件許可処分」という。)を取り消す。
3 被控訴人パスコ及び被控訴人前田建設工業株式会社(以下「被控訴人前田建設」という。)は、原判決別紙二「土地目録」記載の土地(以下「本件土地」という。)において、マンション建設のための開発行為(許可番号・福岡市第六三―一五〇号、以下「本件開発行為」という。)に伴う工事(以下「開発工事」という。)をしてはならない。
4 被控訴人福岡市、被控訴人パスコ及び被控訴人前田建設は、控訴人らに対し、連帯して、各金一〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一〇月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員をいずれも支払え。
5 訴訟費用は、第一審、二審とも被控訴人らの負担とする。
6 第4項につき仮執行宣言
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 主文同旨
2 担保を条件とする仮執行免脱宣言(被控訴人福岡市)
第二 事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおり訂正、付加する外は、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要等」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の訂正
1 原判決二枚目裏七行目から八行目の「被ったとして」を「被り、弁護士費用等の出捐を余儀なくされたとして、」と改める。
2 同四枚目表五行目の「明らかであったが」を「明らかであった。ところで」と、同八行目の「条件としており」を「条件としているところ、施行令二三条の三によれば、右『政令で定める規模は一ヘクタールとする。』と定められ」と、それぞれ改める。
3 同六枚目裏一二行目の末尾に「そうでないとしても、被控訴人福岡市は、本件許可処分の違法性について当時知り得べきであったから、過失がある。」を加える。
4 同八枚目裏七行目の末尾に「また、控訴人らは、本件訴訟を提起するにあたり活動費用等として合計二四六万九七四六円を出捐し、控訴人ら代理人弁護士らに対し弁護士費用として合計二七〇万円を支払う旨約したから、控訴人一名当たり少なくとも三〇万円の損害を被った。」を加える。
5 同九枚目表二行目の「被告福岡市は原告らに対し、」を「各控訴人らに対し、被控訴人福岡市は、」と改める。
二 当審における本案前の主張について
(被控訴人福岡市長)
1 本件開発行為は平成三年六月一二日に完了し、検査済証も交付されているから、最高裁平成五年九月一〇日判決が判示するとおり、開発行為の許可の本来の効果は既に消滅しており、控訴人らの被控訴人福岡市長に対する本件許可処分の取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠くに至り、不適法である。
2 控訴人らは、本件は右最高裁判決とは事案を異にし、開発行為の許可(以下「開発許可」ともいう。)が有効であることを前提として建築確認がなされるのであるから、右開発許可の取消しが建築確認の法律的効果に影響を与える旨主張する。しかし、前記最高裁判決の説示に照らして、本件が右判決の射程距離の範囲内であることは明らかである。また、開発許可と建築確認とは、それぞれ制度として完結したものであり、両者は制度的に一体のものではない。このことは、法四条一二項が「開発行為とは、主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更」と規定しているところ、「特定工作物の建設」には建築確認を要しないこと、また、開発許可の申請時において建築物の建築を目的としていたが、その後の事情の変化により当該開発行為の対象となる土地の上に建築物を建築しないこともあり得ることに照らしても明らかである。
(控訴人らの反論)
1 開発行為は、主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更であるから、当然に、何らかの建築物の建築が予定されている。他方、建築に対する規制として建築確認制度があり、開発行為と建築行為が一体として行われる場合には、開発許可と建築確認がともに必要である。その結果、開発区域において建築確認を申請する場合は、当該建築に係る敷地が開発許可を受けた開発行為によって宅地造成されたものである等、同法二九条、三七条、四一ないし四三条までの規定に適合する旨の証明書(以下「適合書面」という。)を添付しなければならないとされている(建築基準法施行規則一条七項及び都市計画法施行規則六〇条)。そうすると、開発行為の許可が有効であることを前提として建築確認がなされるのであるから、開発行為の許可が取り消されれば、当該場所においては、一切の建築物に関して建築確認がなされることはないのである。したがって、開発許可は「適法に開発行為をすることができる」という法的効果とともに、「当該場所において建築確認を受けることができる」という法的効果をも有するのである。
2 ところで、本件においては、開発工事は終了したが、建築確認申請が未だになされていないのであるから、右開発許可の取消しが建築確認の法律的効果に影響を与えるのは明らかであって、依然として本件許可処分の取消しを求める訴えの利益が存在している。
3 被控訴人福岡市長の指摘する最高裁判決は、開発工事が完了した後に、予定建築物についての建築確認や建築工事及び検査済証の交付も終了した事案であるから、本件と事案を異にしており、本件に適切ではない。
三 当審における区域外開発の違法の主張について
(控訴人ら)
1 本件開発許可処分にかかる開発区域の面積は、9716.34平方メートルであるが、本件開発行為によって生じた土地の区画形質の変更は、実際には次のとおり右許可外の区域である愛宕三丁目四二八三番一一の土地と同番六の土地のうち合計400.85平方メートル(以下「イ、ロの土地」という。)及び同四丁目四二八二番一の土地と同番一三のうち合計184.70平方メートル(以下「ハ、ニの土地」という。)に及んでおり、これらを加算すれば、開発総面積は一ヘクタールを超えるから、法三三条一項九号、一〇号の基準を満たす必要がある。しかるに、本件許可処分は、これを看過してなされており違法である。
2 イ、ロの土地について
イ、ロの土地は、開発行為地区の南側に位置し、予定建築物の予定敷地と用途上有機的関連性のある土地として供されることが予想されるから、主として建築の用に供される土地である。また、右各土地は、従前開発の対象となった丘陵の斜面の法面であったが、開発工事によって右法面がなくなり、従前存在した住居敷地を含めて全体について整地がなされて土地の形質の変更がなされ、外周に沿って側溝(幅約五〇センチ、深さ約一メートル)とこれに付随する排水口が設置されており、且つ、隣地である愛宕三丁目四二八三番地五の土地との境界に新たに植樹による柵が設置されて土地の区画の変更がなされている。なお、地目がすでに宅地であって、そこに既存建物が存在していたとしても、他の土地との境界を取り去り、同一建築物の敷地として一団の土地とする際に、切土、盛土等の造成工事を伴う場合は、法四条一二項の「開発行為」であるから、事前許可を受けるべき同条一三項の「開発区域」に該当するというべきである。
そして、右各土地は、予定建築物の外側をめぐる空地として有用であり、とりわけ消防用の活動用空地への進入路として最適の位置にあるところ、被控訴人パスコは、本件許可処分に近接した平成元年三月九日に右各土地を取得しており、本件開発工事と一体として造成工事をしたこと等に照らせば、被控訴人パスコ及び被控訴人福岡市は、本件開発許可申請前に右各土地に対する土地区画形質の変更を予定していたことは明らかである。右被控訴人らは、本件開発区域を一ヘクタールを超えない面積に減少させるために、脱法的に、右各土地を開発区域から除外したものである。
3 ハ、ニの土地
ハ、ニの各土地は、本件開発区域の北側丘陵の斜面であるが、樹木の伐採及び切土がなされて、土地の形質の変更がなされている。したがって、開発許可申請者が開発行為を予定しておらず、復旧工事がなされたとしても、開発行為に該当し、開発区域である。
(被控訴人福岡市長)
1 イ、ロの土地
前記のとおり、開発行為は、主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更であるところ、法四条一三項は「この法律において、『開発区域』とは、開発行為をする土地の区域をいう。」と規定しており、区画形質の変更が行われる土地の区域の全てを開発区域とするものではない。
イ、ロの土地は、従前から宅地として利用され、右各土地上に建物が存在していたのであるから、仮に区画形質の変更が行われたとしても、「主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行なう」ものではないから、法四条一二項に規定する開発行為に該当せず、したがって、右各土地は、同条一三項に規定する開発区域には含まれない。
2 ハ、ニの土地
ハ、ニの土地は、本件開発行為のための土砂等の搬出路として一時的に使用する目的で土砂の切り取り工事が行われ、復旧工事もされているもので、開発行為に該当せず、したがって、右各土地は右開発区域には含まれない。
(被控訴人パスコ及び被控訴人前田建設)
イ、ロの土地には開発区域との境界付近に傾斜地があったところ、開発区域の造成工事を行うと右傾斜地が取り残されて、降雨による土砂の流出等の危険があるため、防災上の見地から、やむを得ずこれを削り取り、右土砂を整地したものである。
第三 当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人らの被控訴人福岡市長に対する本件開発行為許可処分の取消し請求、被控訴人パスコ及び被控訴人前田建設に対する本件開発工事の差止め請求はいずれも訴えの利益がないから、各訴えを不適法として却下すべきであり、被控訴人福岡市、被控訴人パスコ及び被控訴人前田建設に対する損害賠償請求は、理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除する外は、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決一二枚目裏八行目の「認められるので」から同一二行目の末尾までを次のとおり改める。
「認められる。
ところで、最高裁平成五年九月一〇日第二小法廷判決(民集四七巻七号四九五五頁)は、これと同種の事案(但し、予定建築物について建築確認、建築工事、検査済証の交付も終了している事案)について、『都市計画法二九条に基づく許可(以下「開発許可」という。)は、あらかじめ申請に係る開発許可が同法三三条所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判断する行為であって、これを受けなければ適法に開発行為を行うことができないという法的効果を有するものであるが、許可に係る開発行為に関する工事が完了したときは、開発許可の有する右の法的効果は消滅する。このような場合にも、なお開発許可の取消しを求める法律上の利益があるか否かについて検討するのに、……建設大臣又は都道府県知事は、法三三条所定の要件に適合しない開発工事を行なった者に対して、法八一条一項一号の規定に基づき違反是正命令を発することができるから、開発許可の存在は、違反是正命令を発する上において法的障害となるものではなく、また、たとえ開発許可が違法であるとして判決で取り消されても、違反是正命令を発すべき法的拘束力を生じるものではないというべきである。そうすると、開発工事が完了し、検査済証が交付された後においては、開発許可が有する前記のような本来の効果は既に消滅しており、他にその取消しを求める法律上の利益を基礎づける理由も存しないことになるから、開発許可の取消しを求める訴えは、その利益を欠くに至るものといわざるを得ない。』と判示した。
本件においても、前認定のとおり開発工事が完了し、検査済証が交付されているのであるから、開発許可が有する本来の効果は既に消滅しており、他にその取消しを求める法律上の利益を基礎づける理由は存しないといわねばならず、開発許可の取消しを求める訴えは、その利益を欠くに至ったものといわざるを得ない。
控訴人らは、開発許可が取り消されれば、建築確認申請の際に必要とされる適合書面が作成されないから、建築確認が認められない点において、『他にその取消しを求める法律上の利益を基礎づける理由』があり、本件は未だに建築確認申請がなされていない点において、右最高裁判決と事案を異にする旨主張する。
しかしながら、右最高裁判決は、『他にその取消しを求める法律上の利益を基礎づける理由』について、右のとおり違反是正命令の発令の可否についてのみ考慮しているところ、仮に建築工事との関係において訴えの利益が認められる可能性があるのであれば、建築確認や建築工事の完了等について触れられるはずであるが、これらに何ら言及していないことに照らせば、開発許可の取消しを求める訴えの利益の有無を開発工事の完了と検査済証の交付にのみ係らしめたものと解するほかはないのであって、本件も右最高裁判決の射程距離内の事案というべきであるから、右主張は採用することができない。
なお、控訴人らは、開発許可は適法に開発行為をすることができるという法的効果の外に、当該場所において建築確認を受けることができるという法的効果をも有する旨主張する。しかし、法三七条は、「開発許可を受けた開発区域内の土地においては、前条三項の公告があるまでの間は、建築物を建築し、又は特定工作物を建設してはならない。」と規定しているところ、法三六条一項は「開発許可を受けた者は、開発行為に関する工事を完了したときは、……都道府県知事に届け出なければならない。」旨、同条二項は「都道府県知事は、……当該工事が開発許可の内容に適合しているかどうかについて検査し、右検査の結果、当該工事が当該開発許可の内容に適合していると認めたときは、検査済証を交付しなければならない。」旨、同条三項は「都道府県知事は、検査済証を交付したときは、遅滞なく、……工事が完了した旨を公告しなければならない。」旨をそれぞれ規定しているのであるから、法三七条の建築禁止等の規制が解除されるのは、工事完了検査によって開発工事が適正に行われたことが確認されるためであり、予定建築物を建築することができるのは、開発許可自体の効果ではなく、検査済証の交付の効果と解されるから、控訴人らの右主張は採用することができない。」
二 同一三枚目表九行目の「精神的苦痛」と同一〇行目の「慰藉料」の次に各「等」を、同裏二行目の「第三七号証、」の次に「第五〇、第五一号証、第六一号証の一ないし七、」を、同四行目から五行目にかけての「検証の結果」の次に「(原審、当審)」を、同五行目の「佐藤賢治」の次に「、同中川修一(当審)」を、同六行目の「西野雅三」の次に「(原審、当審)」を、それぞれ加える。
三 同一五枚目表初行の「調査等が」の次に「消防局警防課からは、消火栓一基の設置、防火水槽二〇トンにつき別途打ち合わせること及び活動用空地を四か所設けることが、」を加え、同裏末行の「名義」を削除し、同一六枚目裏六行目の「本件道路のうち」から同七行目の「の拡幅」までを「昭和五四年ころから逐次本件道路の拡幅工事を行って、多くの部分で幅員約五メートルとなっていたが、一か所(図面(一)の訴外梅崎順平宅横付近)のみ未了であったため、右部分の拡幅工事」と、同八行目の「取得していた。」を「取得し、近く拡幅工事を実施することを具体的に予定していた。」と、それぞれ改め、同一〇行目の「締結するとともに、」の次に「前記の法三二条により関係部局との間の同意協議の結果等に基づき作成した図面や同意書(協議書)等を添付して、」を、同一二行目の「三三条」の次に「一項」を、それぞれ加える。
四 同一八枚目裏一一行目の「四二八二番の」の次に「一、」を、同一九枚目表四行目の「できていなかったために、」の次に「右伐木搬出のために使用した搬出路は、」を、同二一枚目表末行の「四二八二番」の次に「の一、」を、それぞれ加える。
五 同二二枚目表一〇行目の「ないものの」の次に、「(なお、開発予定区域の西側の景勝台側道路への接続は、買収予定土地が同業者に既に買収されていたため不可能であったことは、前記1の(二)認定のとおりである。)、開発区域の東側には、ほとんどの部分で幅員約五メートルの本件道路があり、しかも」を、同裏七行目の「買収され、」の次に「近く拡幅工事が実施されることが具体的に予定され、実際にも、」を、それぞれ加える。
六 同二三枚目裏六行目の「景勝台」から七行目の「確保できず、」までを削除し、同二四枚目表六行目の「一三の土地」を「一、一三の土地(ハ、ニの土地、182.70平方メートル)」と、同七行目の「同被告が」から八行目の「はなく、」までを「これは地元住民や消防関係等からの要請により防災上やむを得ずなされた措置であって、当初から、同被控訴人が右土地について開発行為を予定していたものではない上、」と、同九行目の「認められず、」から一一行目の末尾までを次のとおり改める。
「認められない。
次に、イ、ロの土地について検討するに、<証拠略>によれば、イ、ロの土地(合計400.85平方メートル)は、もとは訴外安川正己所有の建物(「愛宕山照真寺」)の敷地(愛宕山三丁目西四二八三番地の六、一一の土地、登記簿上の面積合計711.30平方メートル)の北側部分であって、その大部分は標高約二〇メートルの高さにあったが、右建物の背後(北側)の本件開発区域との境界付近は、本件開発区域内の丘陵に続く斜面に当たっており、東西約二〇メートル、高さ約四ないし五メートルの傾斜地(法面)であって、最も高い地点は標高約26.6メートルであったこと、本件開発区域の造成工事においては、右傾斜地に接する部分の基盤(レベル)が標高24.35メートルとされていたため、被控訴人前田建設の下請業者である訴外丸磯建設株式会社が、開発区域内につき切土工事を行ったところ、右傾斜地部分がいわば三角形の壁のような形で取り残されることになり、土砂の流出や児童の転落事故等の危険が予想されたこと、そこで、右担当者は、被控訴人前田建設の現場責任者に対し、右部分の施工方法について質問したところ、防災のため切り取るように指示されたため、平成二年三月ころ右傾斜地部分(南北方向の奥行約二ないし四メートル)を削り取って、その土砂を地上建物を解体した敷地の北側部分(イ、ロの土地部分)上に均して整地し、生け垣等を設置したため、右イ、ロの土地は、現在では全体がほぼ平地となり、開発区域の土地より約0.6ないし0.7メートル低いものの、徒歩による通行が可能な状態となっていること、そして、開発工事が終了した後の平成三年、被控訴人パスコは、愛宕三丁目の住民から、開発区域やイ、ロの土地から雨水が隣接地に流入するので早急に対策を取って欲しいとの要望を受けたため、イ、ロの土地に雨水溝(土を掘り、その上にコンクリートを流した簡易なもの)を設け、開発区域内の雨水枡に雨水が流入するようにしたことが認められる。
右認定の事実によれば、被控訴人パスコは、右イ、ロの土地について右傾斜地の切土と整地により土地の区画形質の変更を行ったものといわざるをえない。
しかしながら、<証拠略>によれば、被控訴人パスコは、昭和六三年一〇月に開発許可を受けた後になって、前記1の(二)記載の同業者(株式会社セゾン企画、但し、同年三月当時の所有名義人は株式会社オカムラ企画設計及び岡村宗雄)から、前記景勝台との間との土地及び愛宕三丁目四二二九番の一三の土地の買い取りを強く求められたため、これに応じざるをえなくなったこと、ところが、右四二二九番の一三の土地のみでは、利用の目処が全くないため、被控訴人パスコは、右土地の西側に接して開発区域との間に所在する土地である前記愛宕三丁目四二八三番の六、一一の土地(イ、ロの土地を含む。)を訴外安川らから取得することとし、平成元年三月九日、右四二二九番の一三の土地と同時に、右各土地を買い取ったものであり、昭和六三年一〇月の本件開発許可申請当時は、右四二八三番の六、一一の土地を購入する予定は全くなかったこと、及び、予定建築物の容積率等の関係において必要とされる敷地面積は、本件開発区域内に既に確保されていることが認められる。
そうすると、被控訴人パスコは、本件開発許可申請時において、申請したとおりの開発区域(一ヘクタール未満)を開発する予定であり、右イ、ロの土地について区画形質を変更する予定はなかったのであるから、法三三条一項九号の規制を潜脱するために、右部分を除いて開発区域を一ヘクタール未満として開発許可申請をしたものではないというべきである。また、被控訴人福岡市長は、申請者の開発申請区域について、法が定めた基準を充足しているか否かを審査すれば足りるのであるから、右時点における被控訴人パスコの申請が右のとおりである以上、被控訴人福岡市長が本件開発許可申請が法の定めた基準を充足していると判断したことには、何ら違法な点は存しない(なお、法は、『開発区域とは、開発行為をする土地の区域』と規定し(四条一三項)、『開発行為とは、主として、建築物の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更』と規定しているところ(同条一二項)、イ、ロの土地に対する区画形質の変更は、前認定のとおり事後的に防災上の観点から実施されたものであり、現時点において、右イ、ロの土地が予定建築物の用に供される土地として使用されると認めるに足りる証拠はないから、右区画形質の変更が開発行為であって、右イ、ロの土地が開発区域に該当すると認めることはできない。仮にイ、ロの土地が予定建築物の敷地等『建築物の用に供するため』に使用されることになれば、右区画形質の変更が、開発行為に該当して法八一条所定の監督処分の対象となる等の可能性があるが、これは別個の問題である。)。
これに対し、控訴人らは、右各土地は予定建築物の外側をめぐる空地として有用であり、とりわけ消防用の活動用空地への進入路として最適の位置にあって、右土地の取得時期が本件許可処分と近接しており、造成工事が本件開発工事と一体としてなされたから、右各土地に対する区画形質の変更は、本件開発許可申請前に予定されていた旨主張する。
しかし、本件開発許可申請時においては、未だ、右各土地は被控訴人パスコが所有権を取得していない土地であった上、右土地取得の経緯に照らせば、開発申請当時、所有権を取得する予定もなかったことは前認定のとおりである。また、前記1の(二)認定のとおり、事前審査の段階で消防自動車の「活動用空地」の設置が指導されていたところ、<証拠略>によれば、被控訴人パスコは、消防関係機関との協議の結果、本件開発許可申請書の添付書類である給水汚水計画図に示されているとおり、消防自動車の活動用空地を三箇所(そのうち予定建築物の南側に二箇所)設置することになったこと、及び、右南側二箇所の活動用空地へは、予定建築物の南端の一、二階部分に設置される車路を通行することとされており、予定建築物の南側隣地である右イ、ロの土地を使用することは予定されていないことが認められるから(控訴人は、甲第二号証の図面(予定建築物の断面図)では、予定建築物の南端部分が『車庫』と記載されているのに、後の図面では『車路』と記載されており、不自然である旨主張するけれども、甲第二号証の右図面を子細に見れば、当初の図面でも当該部分は『車路』と記載されているから採用できない。)、控訴人らの右主張は、採用することができない。」
七 同二六枚目裏六行目末尾の「ら」を「わ」と、同二八枚目表三行目の「ブルトーサー」を「ブルドーザー」と、同三〇枚目表五行目の「よるべきもと」を「よるべきものと」と、それぞれ改める。
第四 結論
よって、これと趣旨を同じくする原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条、九三条本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 谷水央 裁判官 田中哲郎 裁判官 永松健幹)
別紙土地目録<省略>
図面<省略>