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福岡高等裁判所 平成6年(ラ)121号 決定 1994年7月06日

抗告人

塘内義隆

主文

一  本件抗告を却下する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「異議申立の否認決定に対する抗告申立書」記載のとおりであつて、裁判所書記官(以下「書記官」という。)の作成した証人調書、本人調書の記載が不正確であるので異議を申し立てたが、書記官が当該調書の訂正をせず、抗告人のこれに対する異議申立てについて裁判官が否認決定したので、その取消を求めるというものである。

二  本件記録によれば、次の事実が認められる。

1  抗告人は、原審の平成六年一月二〇日の第四回口頭弁論期日になされた証人塘内竹年の供述を記載した証人調書に対して、同年二月二一日に、同年三月三日の第五回口頭弁論期日になされた原告(抗告人)本人の供述を記載した本人調書に対して、同年四月二〇日に、同月二一日の第六回口頭弁論期日になされた被告本人の供述を記載した本人調書に対して、同年五月二四日に、いずれも供述内容の記載に誤りがあるとして、その加除訂正を求める調書の記載に対する異議を述べた。

2  書記官は、これに対していずれも右異議の申立てがあつたことを当該調書に記載しただけで、調書の訂正をしなかつた。

3  抗告人は、これを不服として、異議を述べたが、原審は、平成六年五月二六日の第七回口頭弁論期日において、抗告人の右各異議申立てに対して、「書記官に調書の訂正は命じない。」旨の決定をした。

三  ところで、証人調書、本人調書は、裁判の基礎となる訴訟資料としてその内容を客観的かつ正確に記載しなければならない(ただし、記載するのは弁論の要領であつて(民訴法一四四条)、供述内容を逐語的に記載する必要はなく、必要最小限度の概要で足りる。)ことはいうまでもなく、民訴法も関係人から調書の記載について異議を述べる権利を認めている(同法一四六条二項)ところである。その異議の申立てがあつた場合、右調書の作成権限者である書記官がまずその当否を判断することになるが、書記官がこれを却下した(調書を訂正せず、単に異議があった旨を記載するに止めた)ときは、関係人は、裁判所に右書記官の処分に対して異議の申立てが許される(同法二〇六条)と解され、原審が平成六年五月二六日の第七回口頭弁論期日においてした「書記官に調書の訂正は命じない。」との措置は、右異議の申立てを却下する趣旨であると考えられる。

問題は、右の原審の却下決定に対して抗告ができるかどうかである。一般に、民訴法二〇六条の決定に対しては、抗告が許されてはいる(同法四一〇条)が、本件のような証人調書、本人調書に対する訂正の申立てについては、調書の記載の当否についての判断は、いわば当該裁判長(裁判官)と書記官の専権に属する事項であって、上級審は調書の訂正を命ずる立場にはないと解すべきであるから、抗告はできないと解するのが相当である。

四  そうであれば、抗告人の本件抗告の申立ては、不適法であるから却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官足立昭二 裁判官有吉一郎 裁判官奥田正昭)

別紙

異議申立の否認決定に対する

抗告申立書

原告塘内義隆

被告塘内竹光

右当事者間の熊本地方裁判所八代支部において平成五年(ワ)第六五号所有権移転登記手続請求事件について平成六年一月二〇日付証人尋問における証人塘内竹年の証人調書の記載内容が供述と違うため証人調書に対し異議申立を平成六年二月二一日付に及んだ又原告の本人調書平成六年三月三日付に対し同理由にて異議申立を平成六年四月二〇日付に及ぶ尚被告人尋問の被告の本人調書平成六年四月二一日付に対し同理由にて異議申立を平成六年五月二四日付に及んだ右異議申立について同裁判所は平成六年五月二六日付による異議申立否認決定に対し抗告を申立てる

抗告の趣旨

原決定を取消す

抗告の理由

一、異議申立立証のため録音テープの聞取り不履行

二、平成六年五月一三日午前一二時前同裁判所において〓梠書記官より被告人尋問の本人調書平成六年四月二一日付を受取るこの調書のあまりの間違いに午後一時を待って(一二時から午後一時まで昼休みのため)〓梠書記官にこの間違いをたづねると同書記官は記録帳を開いて見たところ立入禁止の立札をはつきり記載していた書記官も私達もそこで確認した同書記官は証言はたしかに聞いていると言つてこれはたいしたことではないと思つて調書には記載しなかつたと証言があったことを認めたその時調書の訂正についても話した。

三、薮下晴治弁護士の本件訴訟行為の解任にいたつた経緯その他については後日書面にて提出する。

以上申上げたとおり裁判の根幹にかかる証言調書を歪曲する行為は違法であるよつて抗告におよぶ次第である。

平成六年六月一日

抗告本人塘内義隆

福岡高等裁判所御中

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