福岡高等裁判所 平成7年(ネ)780号 判決 1996年12月09日
一審原告(平成七年(ネ)第七八〇号事件被控訴人・同第八七五号事件控訴人)
A
右訴訟代理人弁護士
田邊匡彦
同
安部千春
同
尾崎英弥
同
横光幸雄
同
荒牧啓一
同
中村博則
同
三浦久
同
吉野高幸
同
秋月愼一
同
河辺真史
同
蓼沼一郎
同
縄田浩孝
同
前田憲徳
同
諫山博
同
小島肇
同
山本一行
同
安部尚志
一審被告(平成七年(ネ)第七八〇号事件控訴人・同第八七五号事件被控訴人)
福岡県
右代表者知事
麻生渡
右訴訟代理人弁護士
前田利明
同
森竹彦
同
福田恒二
同
坂口繁和
右指定代理人
中ノ森稠基
外一名
主文
一 本件各控訴をいずれも棄却する。
二 平成七年(ネ)第七八〇号事件の控訴費用は一審被告の、同第八七五号事件の控訴費用は一審原告の、各負担とする。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 一審原告(平成七年(ネ)第八七五号)
1 原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。
2 一審被告は、一審原告に対し、金二九〇万円及びこれに対する昭和五九年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 一審被告(平成七年(ネ)第七八〇号)
1 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
2 一審原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。
第二 事案の概要
一 事案の要旨
本件は、
1 一審原告において、
福岡県警察折尾警察署警備課の三人の警察官が、日本共産党員で日本民主青年同盟(以下「民青同盟」ともいう。)八幡遠賀地区委員会副委員長であった一審原告に対し、昭和五九年一一月七日午後一一時すぎごろ、一時停止違反等の取調べと称して派出所の二階の一室に同行して退出できないようにした上、翌一一月八日午前一時三〇分ごろまでの間に、一審原告に対して暴行、脅迫を加え、現金供与等の利益誘導を行うことによって、一審原告が所属する日本共産党や民青同盟に関する情報を継続して提供することを要求した行為が、交通違反の取調べに名を借りて一審原告を監禁し、一審原告に変節を強要して、一審原告を警察に対する情報提供者にしようとしたものであって、地方公共団体である一審被告の公権力の行使に当たる公務員が、警備情報の収集という職務を行うについて、故意に、一審原告の人間としての尊厳、人格権、名誉権を侵害した不法行為である
と主張して、国家賠償法一条一項に基づき、一審被告に対し、慰謝料三〇〇万円と弁護士費用三〇万円及びこれらに対する右不法行為の日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めたのに対し、
2 一審被告において、
三人の警察官が、一審原告を監禁して、暴行、脅迫、利益誘導等により一審原告に対して情報提供者となることを強要したとの一審原告の主張事実を否認し、右警察官らは、右当日は、全国一斉指名手配被疑者捜査強化月間に当たって、特に極左暴力集団関係の指名手配被疑者の検挙を目指して夜間捜査に従事していたところ、一審原告が軽トラックを運転して一時停止違反を連続して行うなど不審な行動をとったことから、極左暴力集団の活動家であるとの疑いを抱き、道路交通法違反で検挙して職務質問により右の疑いを解明しようと考え、一審原告を停止させた上、派出所に任意に同行を求めて、道路交通法違反事実の取調べと極左容疑解明のための職務質問を行ったものであって、適正妥当な職務行為である、と主張して、一審原告の請求を争っている
事案である。
二 争いのない事実
一審原告は、昭和五九年一一月七日当時、日本共産党員であり、民青同盟八幡遠賀地区委員会副委員長であった。
福岡県警察折尾警察署警備課警備課長甲野一郎警部(以下「甲野」という。)、同課公安係乙川二郎巡査部長(以下「乙川」という。)、同丙山三郎巡査部長(以下「丙山」という。以上の三人を、以下「甲野ら」という。)は、同日午後一一時二〇分ころ、普通乗用自動車に乗車中、福岡県遠賀郡芦屋町大字山鹿三三七番地先路上付近において、折から一審原告が北九州市八幡西区黒崎方面から自宅のある福岡県遠賀郡芦屋町柏原方面へ向け運転する軽四輪貨物自動車(以下「原告車両」という。)を追い越して停止させ、一審原告に対し、警察手帳を示して、運転免許証の呈示を求め、一時停止違反等の事実について簡単な質問をした後、最寄の警察施設への同行を求め、一審原告を警察車両に同乗させ、同署山鹿駐在所(芦屋町山鹿一六番二六号所在。現在は取り壊されている。以下「山鹿駐在所」という。)前を経て、同日午後一一時五〇分ころ、同署芦屋派出所(同町緑ケ丘一四五五番地所在。以下「芦屋派出所」という。)の二階北側の和室に同行した。
三 争点
1 争点の概要
本件の主たる争点は、芦屋派出所内において、一審原告の主張する、甲野らによる、一審原告を監禁して、暴行、脅迫を加え、利益誘導等の方法により、一審原告に対して日本共産党や民青同盟に関する警察への情報提供者になるよう強要した行為があったかどうかであるが、その前提となる実質的な争点は、右の一審原告の主張に沿う原審における一審原告本人尋問の結果(第一、二回)、一審原告の陳述署(甲一)及び一審原告作成のメモ(甲三六の二、以下「本件メモ」という。)並びにこれに関連する原審証人の証言及び陳述書等の信用性である。
2 事実経過について
本件の事実経過に関する当事者双方の主張は、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「三 争点」の欄(原判決七頁八行目から四〇頁末行まで)に摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決八頁七行目に「午後一一時四〇分ころ」とあるのを「午後一一時五〇分ころ」と、同一七頁八行目に「約一時間五〇分」とあるのを「約一時間四〇分」と、それぞれ改める。)。
3 一審原告の供述の信用性について
(一審原告)
(一) 一審原告は、芦屋派出所を出た後、すぐに民青同盟福岡県委員会の副委員長である大石正信(以下「大石」という。)に電話をかけて事実を報告し、大石の指示によって、日本共産党八幡遠賀地区委員会の副委員長である原田祥昌(以下「原田」という。)にも電話をかけ、その指示により、帰宅して直ちに事実経過についてのメモを作成した。そして、当日(昭和五九年一一月八日)午前八時ごろには、日本共産党八幡遠賀地区委員会に出向いて、原田らに対して、右のメモ(本件メモ)を元にして詳細な説明をなし、さらに、同日正午ごろには、日本共産党中間遠賀議員団事務所において、田邊弁護士らに対して、事件の報告をした。
(二) 本件メモは、右のように、事件直後に作成されたものであり、内容的にも具体的で説得力に富むものであって、信用性の高いものである。
(三) さらに、右の日本共産党中間遠賀議員団事務所での一審原告の報告の際に、田邊弁護士はメモを作成している(甲一一二、以下「田邊メモ」という。)が、この田邊メモは、弁護士が職務の遂行の過程で作成したもので、信用性の高いものである。
(四) 一審原告の供述内容は、一貫していて筋が通った合理的なものであるし、いずれも具体的で、説得力に富むものであり、実際に体験した者でなければ供述のできないものである。
(五) 一審原告には、本件のようなスパイ強要事件をわざわざ捏造するメリットは全くない。一審原告は、これまで芦屋町で漁師として真面目に漁業に従事するとともに日本共産党員、民青同盟員として熱心に活動をしてきた人物であり、本件事件を公表することは、名誉なことではなく、加えて、本業や本来の活動とは無関係の訴訟活動や支援要請活動を強いられている。
(六) 以上のとおり、一審原告の供述は信用性の高いものである。
(一審被告)
(一) 一審原告の本件メモについて
一審原告は、本件メモについて、事件当夜に、まず、順番をメモしながら、内容をまとめた上で、二、三時間で書き上げたものであると述べているが、以下のとおり、事件当夜に本件メモが作成されたとは考えられない。
(1) 本件メモは、総字数四四七〇字であり、通常の成人の単純な筆記速度(読み上げられる文章を筆記する速度)である一分間三〇字で筆記したとして、約二時間三〇分を要するものであって、文章の構成・内容を考えながら書く場合には、これよりも筆記速度は低下するから、分量の点からだけでも、一審原告が本件メモを二、三時間で書き上げたとすることは疑わしい。
(2) 本件メモには、記載内容の重複や乱れはなく、文章自体はきちんとまとめられており、このような内容を二、三時間で書き上げることは、抜群の国語力を要するものである。
(3) 本件メモには、多数の漢字の誤りがあり、しかも、その誤り方が一定しない上、旧漢字や旧かなづかいが用いられており、戦前の教育を受けた年配者が原稿を作成し、その原稿を意味不明のまま模写したことを強く窺わせるものである。
(4) 本件メモは、本件訴訟に先立ってなされた告訴及び付審判請求の資料としては提出されず、本件訴訟においても、当初は一審原告の自筆でない陳述書が提出されたのみであり、その提出時期が不自然である。
(二) 田邊メモについて
田邊メモについても、以下のとおり、田邊弁護士の本件訴訟における証言(以下「田邊証言」という。)及びそのメモの内容自体に照らして、到底信用のできないものである。
(1) 田邊証言は、日本共産党中間遠賀議員団事務所における原田及び一審原告の説明についての詳細な証言を含むものであるが、田邊弁護士が、その経過説明を受けたのは、証言時から約一〇年も前のことであり、詳細な記憶があるとは考えられない。
(2) 田邊メモと田邊証言とを対比すると、両者が整合性を欠いている部分が少なくない。
(3) 田邊メモのうち、当初の説明を受けて書かれたと思われる部分には、スパイ強要の点をはじめとして、一審原告が本件で不法行為と主張する事実が出ておらず、不自然である。
(4) 田邊メモも、付審判請求では提出されておらず、本件訴訟においても、一審の結審間際に提出されたものであって、その提出時期も不自然である。
(三) 一審原告の供述について
一審原告の供述は、以下のとおりの供述の変遷や、供述自体に不自然、不合理な点があり、甲野らの証言に照らしても、信用のできないものである。
(1) 一審原告の供述には、芦屋派出所内に入るまでの間についても、民青同盟八幡遠賀地区委員会事務所を出た時刻、密航監視の話を出した状況、警察官から同行を求められた際のやりとり、後続車両の様子、山鹿駐在所に至るまでの停止要求の有無、芦屋派出所に入るときの状況等について、供述の変遷がみられている。
(2) 他方、一審原告と公安調査官副島及び松田との接触状況からすれば、一審原告は、副島や松田が公安調査官であることを知りながら情報を提供していたと認められるのであって、そのことからすれば、一審原告は、日本共産党や民青同盟からの調査、処分を受けることなく松田との関係を切るため、甲野らによる一時停止違反の取調べと極左容疑解明のためになした行為を、スパイの強要とすり替えたものである。
(3) また、一審原告の芦屋派出所内での状況に関する供述についても、芦屋派出所の客観的状況とのそご、一審原告が乙川を覚えていたとする点、甲野らの脅迫内容、一審原告が大声で助けを求めたとする点、再会の約束の有無等について、不自然、不合理なところがある。
第三 証拠<省略>
第四 争点に対する判断
一 判断の概要
当裁判所は、本件事件当日の一連の事実経過についての一審原告の供述は、基本的な部分において一貫しているというべきところ、このうち、芦屋派出所に至るまでの一審原告と甲野らとのやり取りの点は、おおむね甲野らの証言とも符合しており、また、芦屋派出所を出た後の一審原告の行動に関する点は、関係証人の証言等によって裏付けられているのであり、問題の芦屋派出所内での出来事に関する点も、殊更に虚偽の事実を述べたものとは考えられず、この点についての甲野らの証言がにわかに信用し難いこととの対比においても、おおむね信用することができるものというべきであって、右の供述によれば、一審原告は、芦屋派出所において、事実上、退出することを困難にされ、外部へ電話をかけることも禁止された状態で、約一時間四〇分にわたって、甲野らから、交通違反や、公安調査官と接触していることを説得材料としつつ、日本共産党や民青同盟についての警察に対する情報提供者になるよう執ような説得を受けたとの事実を認めることができ、甲野らによる右の説得は、一審原告の身体の自由を束縛し、警備情報の収集の方法として許される範囲を越えた違法な行為として、不法行為にあたるといわなければならず、それによる身体的、精神的苦痛に対する慰謝料としては金三〇万円が相当であり、また、本件訴訟の遂行に要した弁護士費用としては金一〇万円が相当である、と判断する。
なお、一審原告の本件メモについては、一審原告が、これを事件当夜に二、三時間で書き上げたとするには合理的な疑いを挟む余地があり、後日作成されたとの疑いを拭いきれないが、そうであるからといって、一審原告の供述が全体的に信用できるとの右判断を覆すに足るものではないと判断する。
二 右の判断の理由は、以下に付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」の欄(原判決四一頁以下)に説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決四四頁九行目の冒頭から同四七頁表初行の末尾までを、以下のとおり改める。
「(三) 確かに、本件メモは、書きなぐったような字で書かれ、多数の誤字や文字を抹消した個所があることなどからすると、かなり短時間のうちに急いで作成されたことが窺われるところではある。
(四) しかしながら、本件メモは、仔細にみると、
(1) 一行約二〇字、一頁約一七行で約一二頁の分量があり、字数にして約四〇〇〇字にのぼるものであるところ、成人の筆記速度(耳で聞いた文を筆記する速度を指すと思われる。)が一分間で約三〇字とされていること(乙二七)からすると、本件メモを二、三時間で書き上げるには、ほぼ休みなく筆記を続ける必要があったと思われること
(2) 本件メモは、本件事件当日の経過を記載した部分と、松田との関係を記載した部分とに分かれているところ、経過を記載した部分は、時間順に丁寧に整理され、時間の前後や出来事を後から挿入した部分もなく(六頁目と七頁目の上部に会話を付加した部分がみられるだけである。)、当初から内容を十分に吟味し整序して書き始められたものと考えざるを得ないところ、本件メモの分量との対比においても、本件メモが右のような短時間で書き上げられたとするには疑問が残ること
(3) 一審原告は、昭和二八年生まれで、昭和三〇年代から四〇年代にかけて学校教育を受けているのに、旧かなづかいが二か所にみられるところ、記憶を喚起しながら筆記を集中して行っている場合に、普段用いない表記法を用いることは不自然といわざるを得ないこと
(4) 複数回出現する文字について、「確」「真」「喫」など、その書き癖が一定しない文字があるところ、右(3)で指摘したと同様に、筆記を集中して行っている場合には、漢字の書き癖が異なることは不自然といわざるを得ないこと
などの特徴があり、これらの点からすると、本件メモが、一審原告が述べるように、一審原告の記憶に基づいて、一気に書き上げられたとするには、疑問があるといわなければならない。
(五) 右に加えて、
(1) 本件メモの原本が当裁判所に提出されていないこと(顕著な事実)
(2) 田邊証言は「原田がメモのようなものを持っていた。」というのみで、本件メモの存在について明確にしていないし、田邊弁護士自身が本件メモの存在について、日本共産党中間遠賀議員団事務所で確認した訳でもないこと
(3) 田邊メモが、おおむね田邊メモの判読文(甲一一六の一、二)に付された番号の順序で作成されたとする田邊証言に基づいて、本件メモと田邊メモを対比すると、原田が田邊弁護士に対してなした説明の内容は、本件メモの順序に沿うものではなく、原田の説明が本件メモに基づいてなされたとは必ずしも認め難いこと
等の事実及び事情も認められるのであって、以上の各事実及び事情に照らすと、本件メモが事件当夜に短時間で書き上げられたとすることには、合理的な疑問があるといわなければならない。
(六) 以上によれば、本件メモが、本件事件の当夜に二、三時間で作成されたとは認めることができず、本件メモの記載を、本件事件直後に作成された書面として採用することはできないというべきである。
(七) ただし、そうであるからといって、以下のような事情に照らすと、本件メモの全体が信用できないものとして証拠から排斥することはできず、本件メモは、本件事件の後、いずれかの時期に、基本的に一審原告の体験に基づいて作成されたものとして、他の証拠と一致する限りにおいて、証拠としての価値を有するものといわなければならず、ひいては、一審原告の供述全体の信用性の裏付けとなり得るものである。
(1) 本件メモの内容は、極めて具体的詳細であって、基本的には、実際に経験した者でなければ書けないような臨場感及び具体性のある内容であること
(2) 本件メモには、「コウチョウ?」「逃ぼうのおそれ」「証拠インメン」等、日常的には使用しないと思われる用語が用いられており、一審原告が本件事件当日に甲野らから聞いた言葉を、記憶のとおりに記述したものと考えられること
(3) 後記のとおり、本件メモを除けば最も早い時期に作成されたと認められる田邊メモと、本件メモの内容がおおむね符合していること」
2 原判決四七頁五行目に「甲一一六の一」とあるのを「甲一一二」と、同四八頁七行目に「日本共産党八幡遠賀地区」とあるのを「日本共産党八幡遠賀地区委員会」と、同八行目から九行目にかけての「原田は原告に事実経過を記録することなどを指示し、」とあるのを「右委員会事務所で一審原告からの電話を受けた原田は、」と、同末行から同四九頁初行にかけて「それなりに合理的である。」とあるのを「それなりに合理的であり、その対応が緊迫感を欠いているとまではいえない。」と、同四九頁六行目から七行目にかけて「より詳細になったからといって、」とあるのを「より詳細になり、また、一審原告に事実経過の記録を指示した点についての証言部分が前示の本件メモについての当裁判所の判断に照らして必ずしも信用することができないからといって、右の証言の根幹部分に関する限り、」と、それぞれ改め、同七行目の次に改行の上、以下のとおり加える。
「(四) なお、一審被告は、特に田邊メモについて争っているので、この点について付言する。
確かに、一審被告が主張するように、田邊証言のうち、田邊メモの記載につき、原田や一審原告から受けた説明の内容を述べる部分の信用性については、右証言時から一〇年も前の出来事に関する事柄であることなどからして、いくらかの疑問の余地があり、また、田邊メモが本件の一審の最終段階に至って提出されていることも説明のつき難いことではある。
しかしながら、田邊証言のうち、日本共産党中間遠賀議員団事務所に行って本件の説明を受け、その際に田邊メモを作成した旨の、田邊メモの作成に至る過程を述べる部分については、その事実経過に特に不自然と思われるところはないほか、田邊メモの記載内容自体からしても、また、田邊弁護士が本件訴訟における一審原告代理人として活動してきていることからして、当然に記憶のある事柄というべきことからしても、その信用性に疑いを生じる余地はなく、田邊メモが本件当日、日本共産党中間遠賀議員団事務所において作成されたことは明らかといわなければならない。」
3 原判決四九頁九行目に「本件メモを作成後、」とあるのを削り、同五〇頁三行目に「本訴訟を提起したが」とある次に「(弁論の全趣旨)」を、同五一頁二行目に「違いが生じているが、」とある次に「原審における本人尋問における一審原告の供述の趣旨は、一審原告は、右事務所を出た時刻について明確な記憶がなく、芦屋派出所に入った時刻が午後一一時四〇分であったことから逆算して一〇時半ころと答えた、というものであって、」を、それぞれ加え、同五三頁末行の次に改行の上、以下のとおり加える。
「(五) 一審被告は、一審原告が、原審における本人尋問において、後続車両の状況について詳細な供述をしたこと、山鹿駐在所前で甲野らに対して原告車両内にある鞄を甲野らに渡さないために原告車両を友人宅に置くよう求めたと述べたこと、及び芦屋派出所に入る際の状況について陳述書(甲一)と矛盾する供述をしていることは、いずれもスパイ工作が行われようとしたかのような外観を仮装するためであると主張する。確かに、一審原告の供述には、時間の経過とともに誇張が含まれてきていることや、陳述書と矛盾する供述があることは否定できないが、一審原告の供述は、少なくとも芦屋派出所内で情報提供者になるよう強要されたという基本的な点については一貫しており、後記のように原審における甲野らの証言が信用できないことと対比すれば、右のような供述の基本的な点にかかわらない事項について、誇張や変遷が含まれるからといって、原審における一審原告の供述の信用性を否定することはできないというべきである。」
4(一) 原判決五四頁六行目の末尾に「(弁論の全趣旨)」を、同一〇行目の末尾に「(原審証人甲野一郎、同乙川二郎、同丙山三郎)」を、同五五頁七行目の末尾に、「(争いのない事実、顕著な事実)」を、それぞれ加え、同末行の末尾に改行の上、次のとおり加える。
「確かに、一審原告は、原審における本人尋問において、松田の身分について疑問を抱きつつも松田と接触し、松田に対して、日本共産党や民青同盟に関する話をしていたと供述し、また、松田に対して赤旗を提供した手続についても、定められた正式の購読手続を踏んでいないと思われる(甲四四、乙四)けれども、一審原告が松田に話した内容は、せいぜい選挙の結果とか民青同盟全国大会への参加などであって、日本共産党や民青同盟の組織に関する事項(これらの事項について、一審原告は、原審における本人尋問でも供述を拒否している。)については、答えなかったというのであるから、右のような一審原告の供述や購読手続の点からだけでは、一審原告が松田を公安調査官と知って接触していたとの事実を推認することは困難といわなければならない。」
(二)(1) 原判決五七頁三行目の末尾に「(弁論の全趣旨)」を加え、同八行目に「高さは窓の大きさと一致せず、」とあるのを「高さは一見して明白に寸足らずで窓の大きさと不釣合であり、取調べにも用いるという部屋(原審証人甲野)に、夜間には中が見通せるレースのカーテンしかかけられていないことを含めて、明らかに」と改める。
(2) 原判決五八頁六行目に「供述するが、」とある次に「そもそもその男が乙川であったという証拠がない上、」を加え、同九行目に「不自然である」とあるのを「不自然であって、一審原告の供述の信用性に重大な影響がある」と改め、同五九頁三行目の「松田と会っていた時に」から同五行目の末尾までを「前記のような乙川の発言を受けて、松田と会っていた時に、自分の後ろの席に一人で座っている目つきの鋭い男がいたことを思い出し、そのことと乙川の発言とを結びつけて考えたということは、その人物が乙川であると否とにかかわらず、ごく自然なことといわなければならない。」と改める。
(3) 原判決五九頁七行目から同六〇頁五行目までを次のとおり改める。
「一審被告は、一審原告の供述する甲野らの脅迫は、一審原告が接触していた松田が公安調査官であることを公表すると脅す一方で、その公安調査官の名前を教えろと執ように要求したというもので、名前も知らない人物を公安調査官と指摘する点において不自然であるし、スパイ強要のための脅迫にしてはいかにも迫力に欠けた稚拙なものであると主張する。
しかしながら、前記のとおり、一審原告は松田が公安調査官であることを知っていたとは認められないから、一審原告に対して松田が公安調査官であることを告知するだけでも、十分に一審原告を驚かせ、困惑させるものであると認められるから、右の発言が迫力に欠けているとはいえないと考えられる上、甲野らは、一審原告に電話をかけさせないようにして外部との接触を絶った状態で、右以外にも、一審原告に対して「直方の浜のようになるぞ。」「芦屋に住めなくなる。」などとも言いつつ、他方で利益供与の申し出もしているのであって、このような行為を全体としてみた場合に、それが不自然で迫力を欠いているということはできない。」
(4) 原判決六〇頁八行目から同六一頁四行目までを、以下のとおり改める。
「一審原告は、芦屋派出所二階の道路に面したサッシ窓に鍵がかかっていないことを発見したので、窓を開けて、大声で「助けてくれ。」と叫び、甲野と丙山から押さえ込まれたと供述しているところ、一審原告の供述によれば、その当時、一審原告は、鞄を抱えて部屋の中を立ち歩きながら、電話をかけることを要求したり、一階に降りようとして丙山に阻まれたりしていたというのであり、そのような状況に照らすと、一審原告が窓に鍵がかかっていないことを発見して外に向かって叫んだという行為は、何ら不自然でも唐突でもないというべきであるし、右のことは、田邊メモにも本件メモにも記載されている出来事であって、一審原告の供述としても一貫しているものである。」
(5) 原判決六二頁四行目に「しかし、」とある次に「右の事実は田邊メモに記載がある事実である上、」を加え、同六三頁初行に「不自然ではない。」とあるのを「不自然ではなく、本件当日の午後一時ごろに、一審原告が右喫茶店に行った際に、甲野らが現われなかったことは、一審原告の右供述が虚偽であることの決め手となるものではない。」と改め、同六三頁六行目の「行っていること」から同八行目の末尾までを「行っていること(原審証人原田、同田邊)は、右の甲野らとの再会の話があったことの端的な裏付けというべきである。」と改める。
(6) 原判決六五頁三行目から四行目にかけての「①は主張のとおり」から同七行目の末尾までを「④の点については、田邊メモ及び本件メモに記載されているほか、一審原告の供述する本件の事実経過に照らして、迷惑料の趣旨や一審原告との関係を継続する手段として、金銭を提供すること(甲二七、甲六二参照)は、あながち不自然ということはできないというべきであり、これらの点についての一審被告の主張は採用できない。他方、①の点については、一審被告の主張するとおり、供述内容が不自然であって、その真実性には疑問があり、③のテープレコーダーの点については、一審原告の述べるその前後の経緯からして不自然さを否定し難いところであり、また、田邊メモ及び本件メモに記載のない事柄であって、これらの点に関する一審原告の供述は裏付けを欠くものとして採用することができない。しかし、右の点は、芦屋派出所二階での一審原告と甲野らのやり取りの一部にすぎず、これをもって、一審原告の供述の全体の信用性を揺るがすものとはいえない。」と改める。
5 原判決六五頁九行目に「本件メモの作成に始まる」とあるのを「田邊メモに記載されたことをはじめとする」と改める。
6(一) 原判決六六頁四行目に「約4.6キロメートル離れている」とある次に「(甲一、弁論の全趣旨)」を、同五行目に「被疑事実の捜査としては、」とある次に「証拠保全の観点から、」を、同六七頁初行に「認めることはできず」とある次に「(原審における検証の結果、甲一〇)」を、それぞれ加え、同二行目から三行目にかけて「少なかったことが推認され、」とあるのを「少なかったものと認められ(甲一一、甲一三)、」と、同七行目の「原告を停止させることは」から同八行目の末尾までを「原告車両を停止させることは、十分に可能であり、かつ容易であったというべきであるから、甲野の右説明は信用できない。」と、それぞれ改める。
(二) 原判決六八頁四行目に「一時停止違反」とある前に「深夜の交通量の少ない交差点での」を加え、同五行目から六行目にかけての「被疑者である原告を芦屋派出所まで」とあるのを「原告車両を現認場所から遠く隔たった場所まで追跡した上で停止させ、運転者であった一審原告に対して最寄の警察施設まで」と、同七行目に「霧も深いのに」とあるのを「霧も出ているのに」と、それぞれ改め、同九行目に「現認したというのである」とある次に「(原審証人甲野、同乙川、同丙山の各証言)」を加え、同行の「これでは、」から同六九頁初行の末尾までを「このような現認の態様は、一時停止等の規制地点に警察官を配して行うとされている交通違反の取締方法(甲一九)に比べて、事実の把握の程度が著しく劣るものであって、それだけでも立証に困難を伴うものといえる上、前記のとおり原告車両を停止させた場所は、現認場所からはるかに隔たった場所であることも合わせ考えれば、甲野らが道路交通法違反事件の処理に精通しない警備課所属の警察官であることを考えても、一審原告が否認した場合に立件が困難であることは容易に理解できたものというべきである。」と、同六九頁四行目に「一度だけであり、」とあるのを「一度だけであるという一方で、」と、同五行目から六行目にかけて「巡回していながら、」とあるのを「巡回していたと供述している(原審証人甲野、同乙川、同丙山の各証言)ところ、右の甲野らの供述を前提とし、一審原告が一時停止違反をした交差点においては、一時停止をしない車両がしばしばみられる事実(甲一一)に照らすと、仮に一審原告が一時停止違反を二回連続して行ったにしても、甲野らが、一審原告の一時停止違反のみをあえて検挙しようとしたことは不自然であるといわざるを得ない。」と、それぞれ改め、同八行目の冒頭から同七〇頁三行目の末尾までを削る。
(三) 原判決七一頁六行目に「地図を示したりもしていないのである。」とあるのを「地図を示したり、違反場所の地番を確認することもしていない(原審証人甲野、同乙川、同丙山の各証言)のである。」と改める。
(四) 原判決七一頁六行目の次に、改行の上、次のとおり加える。
「(四) なお、甲野らは、原審において、一審原告とは初対面であることを前提とする証言をしている。しかしながら、昭和五九年当時、警備警察の任務である警備情報活動における情報収集の主な対象の一つとして日本共産党が上げられていたこと(甲一五ないし一八、甲一二六の一、二)、甲野らは折尾警察署警備課に所属する警察官であり、特に甲野は警備課長であったこと(争いがない。)などからすると、甲野らは、その職務上、日本共産党及び民青同盟についての情報を収集していたものと推認することができ(原審証人甲野の証言中には、日本共産党に対する情報収集活動を否定する部分があるが、右各証拠に照らして信用できない。)、民青同盟八幡遠賀地区委員会副委員長であり、日本共産党の発行する「グラフこんにちわ」の表紙にも載ったことのある一審原告についても、その人物を特定するに足る情報を把握していたものと考えるのが合理的であるから、これを否定する前記甲野らの各証言は、不自然といわなければならない。」
(五) 原判決七一頁八行目に「不自然というべきである。」とあるのを「不自然というべきであり、甲野らは、むしろ、原告車両の運転者が一審原告であることを知りながら、一審原告に対して、交通違反を口実として、別の目的を持って一審原告との接触をはかったと考える方が、はるかに自然であるといわなければならない。」と改める。
7 原判決七二頁三行目に「所持していただけであり、」とある次に「拳銃の所持もなく、場合によっては極左暴力集団の活動家の検挙を伴うことが予想される」を、同七三頁初行に「右の理由は、」とある次に「原告車両が何の特色もない一般的な軽トラックであること(原審における検証の結果)や、甲野らが原告車両が一時停止違反をしたと証言する交差点においては、特に夜間は一時停止をしない車両がかなりあること(甲一一)に照らすと、」を、同九行目に「同行を求めた際のやり取り、」とある次に「その際に一審原告の逃走を防止する体制をとらず、可能な範囲での所持品検査や原告車内の携行品の検査もしていないこと、」を、同末行に「闘争や抵抗」とある次に「、逃亡等」を、それぞれ加え、同行の次に改行の上、次のとおり加える。
「(三) 右のとおり、一審原告に極左容疑を抱き、その解明のために原告車両を停止させ、一審原告に警察施設までの同行を求めたという甲野らの各証言は、甲野らの装備の点に照らしても、また、原告車両の追跡状況や、原告車両を停止させてから芦屋派出所内に至るまでの、甲野らの一審原告に対する対応に照らしても、不自然であって、到底信用のできるものではないといわなければならない。」
8(一) 原判決七六頁九行目に「該当する事実」とある次に「(主なものは、前記一審原告の主張する不法行為を構成する事実(原判決一七頁七行目から二二頁四行目まで)のうち⑤、⑥)」を加える。
(二) 原判決七六頁末行の冒頭から同八二頁末行の末尾までを次のとおり改める。
「2 折尾警察署警備課に所属していた甲野らは、かねてから日本共産党員であり、民青同盟員でもあった一審原告が、公安調査官と接触していた事実をつかんでいたことから、そのことを一つの説得材料に用いて、一審原告を警察に対する日本共産党や民青同盟に関する情報の提供者となるよう説得することを企図し、昭和五九年一一月七日午後一一時すぎごろ、民青同盟八幡遠賀地区委員会事務所から帰宅途中の原告車両を追尾していたところ、一審原告が、北九州市八幡西区浅川一丁目八番地先交差点(浅川中学校前交差点)及びそこから四、五〇〇メートル離れた同区大字浅川五〇九番地先交差点を、一時停止せずに通過したことから、原告車両を、遠賀郡芦屋町大字山鹿三三七番地先の人気のない道路まで追尾して停止させた。そして、一審原告に対し、一時停止違反等をしているが切符がないなどと言って、あたかも道路交通法違反の被疑事実の取調べのためであるかのように装って、最寄の警察施設までの同行を求めた。一審原告は、右の甲野らの言葉を聞いて、免許の点数が残り少なかったことから、甲野らの指示に素直に従った方がよいと判断して、同行に応じ、甲野らから指示されるまま警察車両に乗り移り、原告車両は丙山が運転してその場を出発し、山鹿駐在所前を通り過ぎて、同日午後一一時五〇分ごろ、遠賀郡芦屋町緑ケ丘一四五五番地所在の芦屋派出所裏の駐車場に至り、甲野が、一審原告に指示して、同派出所二階北側の和室に入った。
右和室において、甲野及び乙川は、一審原告に対し、一時停止違反の事実を告げたものの、詳細な取調べは行わず、自分達が左翼対策の警察官であることを明かし、一審原告が日本共産党員であり民青同盟員であることを知っている、日本共産党の発行する「グラフこんにちわ」の表紙に出たことも知っている、などと話を切り出した。
そして、乙川において、喫茶店「リバーサイド遠賀」で一審原告と会ったことがあると言い、右喫茶店の駐車場にいる一審原告を写した写真を見せて、一審原告が右喫茶店で会っている男は公安調査官であることを告げた。一審原告は、乙川の右の話を聞いて、一審原告が右喫茶店で松田という男と会っているときに、一審原告の座席の後ろに乙川と覚しき男が座っていたことを思い出した。
そして、甲野らは、一審原告に対し、一審原告が公安調査官と会っていることが日本共産党や民青同盟に分れば、一審原告の党員や同盟員としての資格がなくなるだけでなく、直方の浜のようになる(昭和五八年一月に、日本共産党が、直方市会議員である浜信行を公安調査庁のスパイとして除名した事件を指す。甲一〇七、甲一〇八)、芦屋に住めなくなる、などと一審原告に不利益が生じる旨の告知をなし、警察に対して日本共産党や民青同盟に関する情報を提供するよう要求した。
これに対して、一審原告は、右の申し出を断っていたが、甲野らは、一審原告が拒否することは不利益であると述べ、協力すれば、報酬等の便宜をはかることも申し出て、説得を続けた。
このようなやり取りの中で、一審原告は、甲野らの要求を断わり続け、外部へ電話をかけることを要求したり、甲野らの氏名と所属を尋ねたりして、説得に応じない姿勢を示した。そして、その場にあった電話機に手を掛けて電話を掛けようとしたが、甲野らによってその手を押さえられたり、室外に出ようとして阻まれたり、鍵のかかっていなかった窓を開けて外に向かって「助けてくれ。」と叫んだが、甲野と丙山に押さえ込まれたりするということがあった。
甲野らは、このようにして翌一一月八日の午前一時三〇分ごろまで約一時間四〇分にわたって一審原告の説得を続けたが、一審原告は、甲野らの申し出を拒否し続けたため、甲野らは、その場での一審原告に対する説得をあきらめて、もう一度会ってもらいたいと申し入れたところ、一審原告は、同日午後一時に喫茶店「リバーサイド遠賀」で会うと言ったので、一審原告に対する説得を打ち切った。その際、乙川は、一審原告に対し、五万円程度の現金を手渡そうとしたが、一審原告は、受け取らず、その後しばらくして、芦屋派出所を出た。
3 以上のとおりであって、既に説示したとおり、原告車両を停止させた位置やその後の甲野らの行動からすれば、甲野らにおいて真に一番原告の一時停止違反を検挙する意思があったとはいい難く、一審原告に、極左の活動家であるとの疑いを抱いて然るべき行状があったとも認められない上、一時停止違反の取調べと極左容疑の解明のための質問等に一時間半以上の時間を要したとも考えられないことからして、右の点に関する原審証人甲野らの各証言は採用することができず、これらの点に関しては、主として原審における一審原告本人尋問の結果、一審原告の陳述書(甲一)、本件メモ(甲三六の二)、田邊メモ(甲「一一二)等により、右のとおりの事実を認めることが相当である。なお、芦屋派出所内において、一時停止違反の取調べが一切なかったとまではいえないけれども、甲野らは、右の一時停止違反を口実にして、一審原告に対する前記のような説得を行ったというべきものであるから、一時停止違反の取調べが行われたことは、前記認定を左右するものではない。」
9 原判決八三頁八行目に「午前一時三〇ころ」とあるのを「午前一時三〇分ころ」と改め、同八四頁四行目の「認めることはできず、」から同六行目の末尾までを「認めることはできない。確かに、公共の安全を図るため、将来発生するおそれのある犯罪を予防する等の目的で、各種の警備情報の収集を行うことは、警察の責務に含まれるものである(警察法二条一項参照)が、その情報収集活動は、原則として、視察等の外部的観察や、聞込み等の任意の情報提供によってなされるべきものであって、個人の基本的人権に対する干渉にわたるものであってはならない(同条二項参照)というべきである。この観点から甲野らの右行為をみると、甲野らは、軽微な交通違反を口実に、一審原告に警察施設への同行を求め、派出所の一室で、事実上一審原告の退出を困難にし、外部との連絡を絶った状態で、一審原告に対して、一審原告の不利益となる事柄を告知し、一審原告が拒絶するにもかかわらず、執ように警察への情報提供者となることの説得を繰り返したものであって、そのような行為は、日本共産党や民青同盟を警備情報収集の対象とすることの当否にかかわらず、警備情報の収集方法として相当性を欠き、違法であることは明らかといわなければならない。」と改め、同八五頁三行目から四行目にかけて「違法行為の程度、態様」とある次に「、継続時間、これに対する一審原告の対応」を、同八行目に「、本件事案の内容」とある次に「、本件訴訟の経過、右慰謝料の金額」を、それぞれ加える。
第五 結論
以上によれば、一審被告に対して、慰謝料三〇万円と弁護士費用一〇万円の支払を命じた原判決は相当であって、本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとする。
(裁判長裁判官友納治夫 裁判官有吉一郎 裁判官松本清隆)