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福岡高等裁判所 平成9年(ネ)1111号 判決 1998年7月30日

控訴人

株式会社西洋フードシステムズ九州

右代表者代表取締役

前川浩

右訴訟代理人弁護士

堤克彦

古江賢

被控訴人

毛利重德

右訴訟代理人弁護士

東富士男

東武志

井上智夫

主文

一  原判決中被控訴人の増額確認請求に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人が控訴人に賃貸している別紙物件目録記載の建物の平成七年五月一日以降の賃料は一か月金一六二万三〇〇〇円であることを確認する。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  本件控訴中その余の控訴を棄却する。

ただし、原判決主文第二項の「被告(反訴原告)のその余の反訴請求を棄却する。」を「控訴人の反訴請求を棄却する。」と更正する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その七を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人が控訴人に賃貸している別紙物件目録記載の建物の平成七年五月一日以降の賃料は一か月金一三〇万円であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二  事案の概要

本件は、被控訴人が控訴人に賃貸している建物について、被控訴人が賃料増額請求をし、控訴人が賃料減額請求をして、それぞれが改定賃料額(いずれも消費税額を含まない金額である。以下、特に明示しない。)の確認を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  被控訴人は、平成三年一一月二五日、控訴人に対し、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を、左記の約定で賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という。)。

① 賃貸期間 平成四年四月二七日から一五年間

② 賃料 一か月一六〇万円

③ 敷金 一三〇〇万円

④ 賃料の改定(以下「本件自動改定条項」という。)

賃料は、三年経過ごとに改定するものとし、改定基準は三年経過で七パーセント増額とする。ただし、経済情勢・物価の変動等の一般社会情勢に著しい変動があった場合は、公租公課及び本物件の評価価値を考慮して双方協議の上増減できるものとする。

(改定の基準)

開店日より三年間 一六〇万円

四年目から六年目

一七一万二〇〇〇円

六年目から九年目

一八三万一〇〇〇円

一〇年目から一二年目

一九五万九〇〇〇円

一三年目から一五年目

二〇九万六〇〇〇円

2  被控訴人は、平成七年四月三日、控訴人に対し、本件自動改定条項に基づき、本件建物の賃料を同年五月一日以降一か月一七一万二〇〇〇円に増額する旨の意思表示をした。

3  控訴人は、平成七年四月一〇日、被控訴人に対し、本件建物の賃料を同年五月一日以降一か月一三〇万円に減額する旨の意思表示をした。

二  争点

1  本件自動改定条項の効力

(控訴人の主張)

本件自動改定条項は無効である。すなわち、控訴人は、賃借人であった株式会社グルッペ(以下「グルッペ」という。)から引き継いで、本件建物を賃借したところ、従前賃料は、グルッペ当時の賃料額に18.4パーセント上積みしたものであるから、本件自動改定条項を適用すると、本件賃貸借契約終了時には、グルッペ当時の賃料額の三一パーセント増という、賃貸人にのみ有利な結果を招来することになる。しかも、本件賃貸借契約の締結時は、バブル経済の最盛期であったのに、その後、これが崩壊するという大きな経済変動が生じており、本件自動改定条項を維持することは、当事者の公平を欠き、不合理である。

2  本件自動改定条項ただし書きの適用

(控訴人の主張)

仮に本件自動改定条項が有効であるとしても、バブル経済の崩壊という著しい経済情勢の変動が生じ、地価が著しく下落しているから、同条項のただし書きを適用して、賃料を減額すべきである。

第三  争点に対する判断

一  本件自動改定条項について

1  証拠(甲一、二、乙一七、一八、原審証人山下正孝)によれば、本件建物(正確には建替え前の建物)は、昭和五三年三月二六日にグルッペが賃借して、ファミリーレストランの営業を始めたが、平成三年五月一七日、控訴人が右の営業と賃借権を譲り受けることになり、同年一一月二五日、改めて、本件賃貸借契約が締結されたこと、本件建物は、老朽化していたため、約八〇〇〇万円の工事費で建替るえることになり、控訴人と被控訴人との間で、右工事費は控訴人と被控訴人とが折半で負担することと、右の被控訴人負担部分のうち二七〇〇万円は控訴人が融資し、その返済は賃貸期間一五年間の均等月割りによって毎月の賃料と相殺することが合意されたこと、控訴人は、右建替え完成後の平成四年四月ころ、本件建物で「CASA小田部店」の営業を開始したこと、被控訴人とグルッペ間の賃貸借契約書(乙一七)では、賃料の改定について、「賃料の改定は経済情勢並びに公租公課の変動を基準にして三年経過ごとに一〇パーセントを目安として増減することができるものとする。」と規定されていたが(なお、賃料は当初一一五万円であったが、平成元年四月から一三九万一五〇〇円(消費税込み)に改定されている。)、本件賃貸借契約に改定率を入れるかどうかについて、控訴人と被控訴人間で交渉がなされ、当時、不動産価格が上昇傾向にあったこともあって、結局、本件自動改定条項が合意されたこと、以上の事実が認められる。

2  右事実によると、被控訴人とグルッペ間の賃貸借ではその改定条項は条文どおりには適用されていなかったこと、本件自動改定条項は不動産価格が将来も上昇すると予測して合意されたことが認められる。右事実に照らすと、本件自動改定条項は、賃料は当然に自動改定されて、社会情勢に著しい変動があった場合に限って協議をするというにとどまらず、ただし書きに規定するような事情の変更があった場合には、賃料の自動改定は排除されるものと解釈するのが相当である。控訴人は本件自動改定条項が無効であると主張するが、右の趣旨を規定するにとどまる本件自動改定条項をもって無効とする理由はない。

そして、証拠(乙三の1ないし3、六、原審における鑑定人瀧口良爾の鑑定)及び弁論の全趣旨によれば、昭和六二年ころから急上昇した全国都市圏における商業地の地価は、平成二、三年ころをピークに、一転して下落を始め、本件建物を含む商業地域においても、平成四年から平成七年までに二〇パーセント前後下落していることが認められ、右事実は、本件自動改定条項のただし書きに規定する、経済情勢の著しい変動に該当するものと解される。そうすると、本件自動改定条項における賃料の自動改定は排除され、本件建物の賃料額は借地借家法三二条一項に従って改定されることになる。

二  本件建物の適正賃料額について

原審における鑑定人瀧口良爾の鑑定結果によれば、同鑑定人は、本件建物の平成七年四月三日時点の適正賃料額について、まず、差額配分法(三分法)による月額支払賃料を一六三万二〇〇〇円、スライド法(スライド率は、外食と国民総生産名目を中心に、地価の下落傾向等を考慮して二パーセントとした。)による月額支払賃料を一六八万五〇〇〇円とそれぞれ試算し、これらに検討を加えた上、最終的には、差額配分法による試算賃料を基本にして、適正賃料を一か月一六二万三〇〇〇円と評価したことが認められる。

右の鑑定結果は相当として是認できるものであって、平成七年五月一日までにこれが変動したとの証拠もないから、本件建物の同日時点の適正賃料額は一か月一六二万三〇〇〇円をもって相当と認める。

第四  結論

以上によると、被控訴人の請求は、本件建物の賃料を平成七年五月一日以降一か月一六二万三〇〇〇円であることの確認を求める限度で認容し、その余は失当として棄却すべきであるから、原判決を右のとおり変更し、また、控訴人の請求は、全部失当として棄却すべきであるから、右請求に関する控訴を棄却することとする。

(裁判長裁判官下方元子 裁判官木下順太郎 裁判官川久保政德)

別紙物件目録<省略>

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