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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)574号 判決 1950年4月28日

被告人

川上良一

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

但しこの裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

弁護人高田治尚の控訴越意について。

案ずるに物に対する事実上の支配が上下主従の関係を有するに過ぎない場合においては物の従たる支配者は、刑法上の占有するものではないからその者が主たる支配を排して物に対する独占的の支配をするに至つた時は窃盜罪を構成するものと解するのを相当とする。

原判決の挙示する証拠によると被告人は占領軍に自動車の運転者として雇われ占領軍所有の自動車を使用して労務者の輸送及び塵埃の運搬に從事している者でこれに要するガソリンも予め毎日の走行里程により必要量をチケツトと引換に占領軍から受取り帰宅の際はその日の使用報告書を提出すると同時に残量を返還していたことが認められるので被告人が運転勤務中のガソリンに対して事実上の支配を持つていたことは疑ないところであるがそれは單に占領軍の指揮監督の下において持つていた從属的な支配に過ぎないのであつてそのガソリンに対しては同時に指揮監督者である占領軍の主たる事実上の支配があつたものといわねばならぬ。すると被告人が不法領得の意志を以て自己の操車する占領軍自動車のガソリンタンク内からガソリン五ガロン位を他の容器に移し取つた所爲はすなわちそのガソリンを自己の独占支配内に置いたものでありそれが窃盜を構成することは冒頭の説示によつて明らかであるから原判決が右の事実に対し刑法第二百三十五条を適用処断したのは正当であつて原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。

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