福岡高等裁判所 昭和24年(ネ)117号 判決
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、ヤンマーヂーゼルS型三馬力一台を引渡せ。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出援用認否は、控訴代理人において「仮りに訴外米沢栄に被控訴会社のため本件物件を販賣する本來の権限がなかつたものとしても、控訴人は当時被控訴会社福岡支店の販賣係であつた同人にその権限があるものと信じ、すなわち無権限について善意で取引をしたのであるから、商法第四十四條の規定により、被控訴会社は右訴外人の行爲につき責をまぬかれない。」と述べた。
<立証省略>
三、理 由
被控訴会社がヂーゼル機関その他の発動機等の販賣を業とする会社である事実、及び訴外米沢栄が当時被控訴会社福岡支店の使用人(但し同人の地位身分の点を除く。)であり、右訴外人が控訴人に対しその主張の頃本件ヤンマーヂーゼル一台の賣渡契約を爲した事実は、当事者間に爭がない。
ところで、控訴代理人は「昭和二十二年十二月二十五日控訴人は被控訴会社福岡支店の販賣係米沢栄を介し被控訴会社との間に、ヤンマーヂーゼルS型三馬力一台につき代金二万六千六百円引渡期間昭和二十三年二月末日までの約定で買受け契約を爲し、同日右代金を右訴外人に支拂つた。」と主張して、被控訴人に対し右買受け物件の引渡を求めているのであるが、右訴外米沢に被控訴会社のため右物件について第三者と賣買契約を結ぶ権限のあつた事実については、これを認めるに足る証拠はなく、却つて原審証人吉岡重美、原審並びに当審証人米沢栄、前田周男、当審証人伊豆正の各証言及び原審並びに当審における控訴人本人尋問の結果を総合すれば、
訴外米沢栄は被控訴会社福岡支店に雇われ後日浅く、正式の社員ではなくて、販賣係主任吉岡重美の下で見習として事務を執り、その執務にあたつては右主任吉岡もしくは同人不在の際は支店長または次長の指図を受けなければならなかつたのであり、独立して客と契約をする権限など全くなかつたのであつたが、控訴人との本件賣買契約は、米沢がさきにも爲した事例と同様、主任もしくは支店長には秘密の、從つて被控訴会社には関係のない、且つ切符制度を無視した正規の手続によらないもので、同人個人の且つ不正な取引であつたのである。一方控訴人としては米沢が中学の後輩である特殊関係から、米沢個人を信用し、現品の入手につき米沢個人の斡旋盡力に期待するところがあつたのであつた。
という事実を認めることができるから、右訴外米沢には被控訴会社のため控訴人と本件賣買契約を爲す権限はなかつたものと断ぜざるを得ない。右認定を左右する証拠はない。
つぎに控訴代理人の商法第四十四條に関する主張について檢討する。本條は物品販賣店の性格と該所における取引の実情に鑑がみ、営業主の意思により右販賣店内において公衆と直接取引をする衝に立つている者に、販賣に関する権限があるものとみなし、以つて物品販賣店における取引の必要にこたえたものであつて、本條の適用を受けるがためには、その店舗に在る物品の現実の販賣であり、從つて販賣契約はその店舗内において行われなければならないのである。ところが、当審証人米沢栄の証言及び原審並びに当審における控訴人本人尋問の結果によれば、当時本件物件の現品は被控訴会社福岡支店にはなくて、控訴人より米沢栄に対する買注文であり、しかも右買注文は被控訴会社福岡支店内で爲されたのではなくて、そことは全く関係のない一喫茶店内でひそかに行われたものであることが明白であるから、商法第四十四條の規定により、米沢栄に被控訴会社のため本件物件を販賣する権限があるとして、被控訴会社の責任を問わんとする控訴代理人の右主張もまた到底採用するに由がない。
よつて、控訴人の本訴請求は失当であつて、これを排斥した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四條第八十九條を適用して、主文のように判決する。
(裁判官 小野謙次郎 桑原國朝 森田直記)