福岡高等裁判所 昭和25年(う)1336号 判決 1950年11月21日
被告人
一ノ瀬勇
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
被告人の控訴趣意第二点について。
記録を調査するに、本件被害者白浜安太郎の死因は硬脳膜外出血による脳圧迫死であつて、この傷害は被告人が警棒を以て被害者の頭部を殴打したため生じたものに外ならず、従つて被告人の行為と被害者の死の結果との間に因果関係のあることは明らかである。尤も被告人の行為による傷害か直ちに死の結果を生じたものとは言い得ないのであつて、原判決引用の各証拠によれば、被害者はその勤務する佐世保市金比良町巡査派出所において被告人より頭部を殴打され左耳部に激痛を覚えたので速刻医師の診療を受けた後、軽卒にも右派出所を距る約三十米の元海寺墓地横広場に横臥していたため、深夜戸外の寒気は前記傷害の程度を一層促進し数時間を出ずして死の結果を誘発するに至つたのである。この点に関する原判決の事実摘示は多少不十分の嫌なしとしないが、その証拠説明を参照すれば原判決も結局石の如き認定を為したものと解せられる。しかしながら斯様に被告人の行為と被害者の死の結果との間に被害者の不注意な行動が介在していても、被告人の行為が死の結果に対する有力な原因である以上、もとよりその間の因果関係は遮断せられるわけではない。すなわち被告人が被害者の死の結果について刑責を負うべきは当然であつて、原判決には所論のごとき事実誤認はなく、又所論のごとく死因についての再鑑定を施行しなかつたとしても審理を尽さなかつた違法があるとはいえない。従つて論旨は理由がない。