福岡高等裁判所 昭和25年(う)2807号 判決
記録にあらわれた各般の証拠並びに当審において取調べた証人山田寅喜の証言を綜合すれば、被告人が、昭和二十五年六月二三日小倉市駅前の中華料理店において、中華人某から塩酸ヘロイン約〇、一瓦を譲り受け、翌二四日福岡市中の島福岡高等学校附近で逮捕されるまでこれを所持していたのは、占領軍の捜査官憲において、中華人らの麻薬不法取扱事件を検挙しようとするにあたり、山田寅喜の依頼により、これが検挙に協力する目的のもとに山田寅喜らとの連絡を保ちながら名を麻薬の買売授受の斡旋に藉りて行動したのに過ぎない事実が明白であり、右のように、麻薬の不法取扱に関する犯罪の検挙に協力する目的のもとに、名を麻薬の買売授受の斡旋に藉りて麻薬を所持する所為が、その違法性を欠き、麻薬の不法所持罪等の犯罪を構成するものでないことは、明らかである。然るに原判決が被告人の本件所為について違法性の欠々を認めず、犯罪の成立を是認したのは、罪とならない事実を罪となるべきものと認めた、事実誤認の違法があるものというのほかなく、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免がれない。
よつて、その余の点に関する判断を省略し、刑訴第三九七条第三八条により原判決を破棄し、刑訴第四〇〇条但し書に従い、本件について更に判決する。
本件起訴状記載の公訴事実によれば、被告人は、麻薬取扱者の免許がないのにかかわらず昭和二五年六月二三日小倉市駅前中華料理店において、中華人ケイ某から塩酸ヘロイン〇、一瓦を貰い受け、翌二四日福岡市中の島福岡高等学校附近で逮捕されるまでこれを所持していたものである。というのであり、その違法性の点を除く、その余の外形事実は、原判決挙示の証拠によつてこれを認定することができるのであるが、被告人の右所為は、麻薬の不法取扱に関する犯罪の検挙に協力する目的のもとに、名を麻薬の買売授受の斡旋に藉りてなされたものであつて、違法性を欠き、罪とならないものであること、前段説示のとおりであるから、刑訴第四〇四条、第三三六条により無罪の言渡をすべきものとする。