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福岡高等裁判所 昭和25年(ネ)75号・昭25年(ネ)153号 判決

原判決中被控訴人浅利都純との関係において控訴人の敗訴した部分を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人浅利都純に対し金参拾四万弍千九百四拾九円参拾弍銭を支払わなければならない。

右被控訴人のその余の請求はこれを棄却する。

控訴人の被控訴人浅利留蔵に対する本件控訴及び被控訴人浅利都純の本件附帯控訴はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用中、控訴人と被控訴人浅利都純との間に要したものは第一、二審を通じてこれを五分し、その三を控訴人、その二を被控訴人浅利都純の各負担とし、控訴人の被控訴人浅利留蔵に対する控訴に要したものは控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は控訴について「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人等の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする」という判決を、附帯控訴について「附帯控訴を棄却する」という判決を求め、被控訴人両名代理人は控訴について「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」という判決を、被控訴人浅利都純の附帯控訴について「原判決中被控訴人浅利都純の敗訴した部分を取消す、控訴人は同被控訴人に対し金六十万円を支払わなければならない、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする」という判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出援用認否は、

被控訴代理人において、被控訴人浅利都純が本件事故による災害について被控訴人主張の補償金及び補償助成金を受領したことは争わないが、これらはいずれも法規に基くものであるから本訴請求の損害賠償額から控除さるべきものではないと述べた。<立証省略>

控訴代理人において、(一)凡そ電気工事に従事する者は高圧線に触れるような場合には他人の指図にまつまでもなく、電流が遮断されているか否かを自ら充分確めた上作業に取りかかるべきであるのに、被控訴人浅利都純はこのような電工として当然なすべき注意義務を怠り、漫然電流が遮断されているものと軽信し、工事上何等高圧線に触れる必要もないのに非常識にも両手を以て高圧線に触れたため本件事故を惹起したものであつて、同人の負傷は全く同人自身の重大な過失に基くものであるから、たとい控訴人に本件損害賠償の義務があるとしても、その損害賠償額の算定について同人の過失を斟酌すべきである。(二)控訴人は被控訴人浅利都純に対し本件事故による災害補償として、労働基準法に基き(イ)療養補償金六万二千五百九十円五十七銭、(ロ)休業補償金九千六百四十円八銭、(ハ)障害補償金三万七千五十七円を支払つた外、労働基準法によらないで(ニ)休業補償助成金一万三百五十三円六十銭を支払つているから、この内(ロ)乃至(ニ)の金額合計五万七千五十円六十八銭は本件賠償額より当然控除せらるべきものであると述べた。<立証省略>

外原判決に示すところと同一であるからここにこれを引用する。(但し原判決三枚目裏二行目に「十二尺」とあるのは「十二メートル」の誤記、四枚目表三行目に「一月二十六」とあるのは「一月二十八」の誤記であるから、訂正する。)

三、理  由

控訴会社は九州配電株式会社から電気工事を下請して配電線の架設その他の電気工事を施行することを業とする会社であること及び被控訴人都純は控訴会社に雇われ控訴会社大分支店臼杵出張所の電工として昭和二十三年一月二十日大分県北海部郡佐志生村桑原所在の九州配電株式会社佐志生電業所区内目明線第六号電柱建替工事の作業に従事中、同日午後三時三十分頃高さ十二メートルの同電柱上において高圧線に感電して墜落負傷したことは当事者間に争がない。そこで被控訴人都純の右負傷に関し控訴会社の被用者及び被控訴人都純の過失の有無及び右負傷の程度について検討するに、成立に争のない甲第一、二号証、乙第三乃至第十一号証、原審証人幸福生、同児玉忠、原審及び当審証人竹田愛雄、同竹田和雄、同宮島勇夫、当審証人後藤哲也の各証言(但し竹田和雄及び宮島勇夫の証言は各その一部)、右宮島勇夫の証言によつて成立を認める乙第一号証、原審及び当審の各検証の結果、原審鑑定人安永敏教及び当審鑑定人溝口研悟の各鑑定の結果並に原審及び当審における被控訴人浅利都純の本人尋問の結果を綜合すると、控訴会社は訴外九州配電株式会社から前記電柱建替工事を請負つた上、訴外竹田愛雄を該工事の現場責任者に指名し、同人以下被控訴人都純を含む控訴会社大分支店臼杵派出所勤務の電工六名をしてその工事を施行させたこと、この工事を施行するには前記第六号電柱より電源に近い目明線第一号電柱に新に油入開閉器を取付けこれを開放して第六号電柱えの電流を工事中遮断する必要があり、又第一号電柱に油入開閉器を取付けるには、更にこれより電源に近い佐志生幹線第一八一号電柱に取付けてある油入開閉器を開放する必要があり、しかも第一号電柱の油入開閉器を取付けてこれを開放し第六号電柱への電流遮断の措置が終れば、佐志生幹線の電流は工事中でもなお一尺屋方面に送電しなければならないから、第一八一号電柱の油入開閉器を閉路に戻さなければならないので、竹田愛雄は配下の電工五名の内竹田和雄を責任者とする同人外二名の者に第一号電柱の油入開閉器の取付及び第一八一号電柱の油入開閉器の開閉等の作業を命じ、これらの者は先ず第一八一号電柱の油入開閉器を開放し次で第一号電柱に新に油入開閉器を取付けた上、竹田和雄が自らこの新設開閉器を開放すべく該開閉器の切側引綱を引いたのであるが、たまたま入側引綱が電柱の足場釘に引つかかつていたため、切側引綱を引いた際これに伴つて上に引上げらるべき入側引綱が充分引上らず、従つて油入開閉器は僅かに開きかけただけであつたが、竹田和雄はこれらのことに気付かず慢然開放できたものと軽信して切側引綱を放したため、一旦開きかけた開閉器は自動的に閉路に戻つたこと、竹田和雄等はその後直ちに第六号電柱建替工事現場に戻り、和雄から現場責任者たる竹田愛雄に対し第一号電柱の開閉器取付を終つて該開閉器を開放したことを報告したので、竹田愛雄はたやすく和雄の報告を信用し同人に第一八一号電柱の開閉器を閉路に復するよう命じ、和雄は直ちに第一八一号電柱に引返して該電柱の開閉器を閉路に戻した上再び第六号電柱の工事現場に戻りその旨報告したこと、従つて佐志生幹線の電流は一尺屋方面だけでなく第一号電柱を経て第六号電柱の方にも流れ出したわけであるが、竹田愛雄は第六号電柱への電流が完全に遮断されているか否かを検認する何等の方法をも構じないで、被控訴人都純に対し第六号電柱の頂上に架設してある高圧線の縛着状況の検査を命じたので、同被控訴人は同電柱に登り両手で同高圧線の両線を同時に握つたため、たちまち感電して地上に墜落し、両前膊手部に第三度電撃火傷を負い、入院加療に努めたがついに左右の各肘関節から腕先に約十糎を残して両腕を切断するのやむなきに至りその後左右とも義手を装着したが、今後の練習によつてはスプーンを義手にはさんで食事をすることは可能であるが用便さえ独りでは困難で、労働能力は完全に喪失し将来その能力を回復する見込も全くないことが認められる。証人竹田和雄及び宮島勇夫の各証言中叙上の認定に反する部分は信用することができないし、その他に該認定を覆すに足る証拠はない。

凡そ電気工事、わけても高圧線を架設した電柱の建替等の工事は往々にして危険が伴うので、かような工事に従事する電工は自己及び他人の危険を防止するため電流の遮断を完全にし、たといその遮断措置を終つても、思いがけない原因で流電することもあるから、架設電線は常にいわゆる生線だという心構えで、各自検電して電流の有無を確めるべきであつて、それが電工の常識である。しかしこのことは電気工事の現場責任者の注意義務を軽減するものではなく、いやしくも他の電工を指揮監督する現場責任者は、たとい一部の作業現場の責任者であつても、開閉器が完全に開放されているか否か作業現場の電線の電流が完全に遮断されているか否かについて、自ら検査するか、さもなくばなるべく経験の深い他の適当の電工を自ら指揮して検査させ、以て危険を未然に防止するため万全の注意をなすべき義務があるものといわねばならない。しかるに前記認定の事実によれば、竹田和雄は一部の作業現場責任者でありながら、第一号電柱に取付けた開閉器の入側引綱が電柱の足場釘に引つかかつていて、切側引綱を引いても手を放せば閉路に復する状態になつていたにかかわらず、引綱が足場釘に引つかかつていることにさえ気付かず、切側引綱を引いただけで慢然開閉器が開放されたものと軽信し、果して完全に開放されたか否かを確めるべき何等の方法を構じないで竹田愛雄に右開閉器の取付及び開放を終つた旨を報告し、竹田愛雄も本件工事全般の現場責任者でありながら、和雄の報告だけに信頼して第一号電柱の開閉器が果して完全に開放されたか否か第六号電柱への電流が果して完全に遮断されているか否かについて何等の検査もしないで被控訴人都純に前記高圧線の縛着状態の検査を命じたのは、いずれも現場責任者としての注意義務を怠つたものという外はない。又一般の電工も各自危険防止のため充分の注意をなすべきことは先に述べたとおりであつて、ことに高圧線の両線を両手で同時に握ることは電工の常識に反したもつとも危険なことで、高圧線の縛着状態を検査するため高圧線の両線を同時に両手で握る必要は全くないわけであるから、被控訴人都純がその検査のため第六号電柱の高圧線の両線を同時に両手で握つたことは同被控訴人の過失であることはいうまでもない。そうして本件事故は現場責任者たる竹田愛雄、竹田和雄及び被害者たる被控訴人都純の叙上の各過失の競合による結果だと認むべきものであつて、被控訴人都純に過失があつたことは竹田愛雄等の過失の責任を否定する根拠にならないことは明である。

次に控訴会社に被用者の選任監督について過失がなかつたか否かを審査するに、成立に争のない乙第十二乃至第十四号証、原審及び当審証人宮島勇夫、当審証人安本愛美、同竹田愛雄の各証言によると、控訴会社は所属の電工に対し事故防止のため平素種々の注意を与えていたことは認められるが、それは電工の注意を喚起することを主としたもので、事故防止に必要な用具の供与その他物的施設に充分の注意監督をなした事実は認められない。且つ又満十八歳に満たない年少者を危険な業務に就かせることは労働基準法第六十三条によつて禁止されているにかかわらず、控訴会社は後に認定するように本件事故当時満十八歳に満たない被控訴人都純を高圧線を架設した電柱に登つてなすような危険な業務に就かせているのみならず、本件事故前にも同様の違反に関し所轄監督官署から始末書を徴されたこともある事実が認められるのであつて、控訴会社がその事業の監督について相当の注意をなしたもの又は相当の注意をなしてもなお本件事故が避け得なかつたものとは認められない。従つて控訴会社はその被用者たる竹田愛雄及び竹田和雄等が控訴会社の業務の執行に際し過失によつて被控訴人等に加えた損害を賠償する義務があるものといわなければならない。

そこで損害の数額を検討するに、前示乙第一及び第三号証、当審証人宮島勇夫の証言及び原審における被控訴人両名の本人尋問の結果によると、被控訴人都純は昭和六年一月二十八日生(本件事故当時満十七歳)で、高等小学校卒業後終戦時まで大分航空廠に勤務し、次で下の江造船所を経て昭和二十二年三月控訴会社に入社して電工となつたものであるが、日頃の勤務成績は良好で電工としての将来を嘱目されていたこと及び被控訴人留蔵は被控訴人都純の実父で九州配電株式会社の技手をし、手取七千円位の月収を得ていることが認められる。ところで被控訴人都純と同じ年齢で普通健康体の男子の平均余命が四十三年であることは当裁判所に顕著な事実であるから、他に反証のない本件においては同被控訴人は、もし本件事故がなければ将来なお四十三年間従前同様の職に従事し得たものと推認するのが相当である。そうして同被控訴人の主張するような控訴会社の賃金ベース並に各号級の賃金額、昇給基準等については何等の立証もないので、同被控訴人主張の賃金ベースを以て将来得べかりし平均収入を判定することは不可能であるが、本件事故当時同被控訴人が控訴会社から支給されていた給与の額は一箇月千十円内外で且つその当時の控訴会社の賃金ベースが一箇月二千円であつたことは控訴会社の自認するところであるから、同被控訴人は入社後約十箇月にして右賃金ベースの約半額に相当する給与を受けていたわけであり、この事実と前示のとおり同被控訴人の勤務成績が良好で将来を嘱目されていた事実とを斟酌すると、同被控訴人の将来得べかりし収入、すなわち本件事故によつて喪失した利益の損害は向う四十三年間を通じ一箇月平均二千円と認定するのが相当である。従つて四十三年分合計金百三万二千円となるわけであるが、これを年五分の法定利率に従つてホフマン式計算法により現在一時に支払を受ける場合の金額に引直すと金三十二万七千六百十九円四銭となることは算数上明である。しかし本件事故については被害者たる被控訴人都純にも過失があることは既に認定したとおりであるから、これを斟酌して控訴会社が同被控訴人に対し賠償すべき財産上の損害額は金三十二万円を相当とする。

しかるに控訴会社は被控訴人都純に対し本件事故による災害補償として既に、労働基準法に基き休業補償金九千六百四十円八銭及び障害補償金三万七千五十七円を支払つた外、同法によらないで休業補償助成金一万三百五十三円六十銭を支払つたことは当事者間に争がない。被控訴人都純はこれらの補償金及び補償助成金は本訴請求の損害賠償額から控除すべきではないと主張するけれども、右補償金及び補償助成金は本件事故に基く同被控訴人の療養中の休業及び療養後の身体障害による財産上の損害の補償であつて、結局該事故に基き事故後に得べかりし収入を喪失したことによる本訴請求の損害の一部の賠償に外ならないから、労働基準法第八十四条第二項の規定をまつまでもなく、既に支払済のこれらの補償金及び補償助成金は前記賠償額から控除すべきは当然である。そこでこれらの支払済の金額合計五万七千五十円六十八銭を前記三十二万円から控除した残額二十六万二千九百四十九円三十二銭が賠償未済の財産上の損害額である。

次に被控訴人都純は将来なお春秋に富む青年の身で本件事故により一朝にして両腕を失ひ日常の生活にすら多大の不自由を感ずる不具者となつたのであつて、本人たる同被控訴人はもとより実父たる被控訴人留蔵においても精神上多大の苦痛を受けたことはいうまでもない。それ故控訴会社は被控訴人等の右精神上の損害をも賠償すべきは勿論であつて、その損害の額は被控訴人等の前記経歴、地位、収入及び被控訴人都純の過失等一切の事情を斟酌して、被控訴人都純の分は金八万円、被控訴人留蔵の分は金十万円を相当と認める。さすれば控訴会社は被控訴人都純に対し前記財産上及び精神上の損害合計金三十四万二千九百四十九円三十二銭を、被控訴人留蔵に対し前記精神上の損害金十万円をそれぞれ支払う義務があることは明瞭であるから、被控訴人都純の本訴請求中右の範囲においては正当としてこれを認容し、その他は失当として棄却すべきであり、被控訴人留蔵の本訴請求は全部正当として認容すべきである。従つて原判決が右の限度を超えて被控訴人都純の本訴請求を認容したのは不相当であつて、控訴会社の同被控訴人に対する本件控訴は一部理由があるから、民事訴訟法第三百八十六条によつて原判決中同被控訴人との関係で控訴会社敗訴の部分を変更し、被控訴人都純の本件附帯控訴は理由がないから同法第三百八十四条によつてこれを棄却し、又原判決が被控訴人留蔵の本訴請求を全部認容したのは相当であつて、同被控訴人に対する控訴会社の本件控訴は理由がないから、同法第三百八十四条によつてこれを棄却し、なお訴訟費用の負担について同法第九十六条、第八十九条、第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 竹下利之右衛門 中園原一 岡林次郎)

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