大判例

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福岡高等裁判所 昭和26年(う)2032号 判決

原判決は措辞にやや不明確な点があるけれども、これをその援用に係る証拠と対照すれば、原判決の認定した事実は、被告人は西日本重工業株式会社長崎造船所の工員をしていたもので、昭和二十五年十月二十六日同会社から同月三十日までに退職するよう勧告を受け同時に同月二十七日以降同造船所構内に立入ることを禁止する旨の通告を受けたにかかわらず、そのことを諒知しながら同月二十八日同造船所銅工場二階の小細工部屋に故なく侵入したというのである。そうして原判決は原審弁護人の主張に対する判断として、「被告人が共産党員たるの故を以て判示の如く退職勧告を受け、立入禁止の通告を受けていたにせよ、被告人が具体的に工場破壊等企業の運営を阻害する企図乃至行為が看取せられない以上、従業員にして労働組合員たるの身分を有している限りにおいて、職場大会に出席して発言する目的を以て判示造船所構内に立入り職場大会に出席することは住居侵入罪を構成しない」が「被告人は右目的と同時に今まで世話になつた人とか親友に挨拶する目的をも意図して立入つたことが認定される」から、「被告人の判示小細工部屋えの立入はこの点において長崎造船所の管理権を侵害し住居侵入罪を構成する」と説示し、被告人を刑法第百三十条の罪に問擬処断したことは所論のとおりである。

被告人が右会社から長崎造船所構内に立入ることを禁止する旨の通告を受けながら、その構内の一部である銅工場二階の小細工部屋に立入つたことは同工場の管理者たる同会社の意思に反することはいうまでもない。しかしその立入行為に違法性があるか否かが問題となるわけである。被告人は同会社から退職の勧告は受けたけれども、小細工部屋に立入つた当時はなお同会社長崎造船所の工員であり且つ同造船所労働組合の組合員であつて、被告人は当日小細工部屋で開かれた同労働組合の職場大会に出席し且つ友人知已に挨拶する目的でその部屋に立入つたものであることは、原判決にも判示しているとおりであるが、それらの事実は、被告人の小細工部屋への立入が何人の制止も受けず極めて平穏になされた事実とともに原判決挙示の証拠によつて明瞭である。そもそも労働者の所謂就労請求権については種々の見解があるけれども、事は単なる債権理論だけで解決される問題ではない。

労働者の労働力は当該企業の生産力を構成するものであつて、労働者は自己の負担する労務を誠実に履行して当該企業の生産に役立て、ひいて社会の福利に寄与することによつて、勤労の喜びを享受し生存の意義を全うすことができるのである。されば、労働者が工場を破壊し工場内の秩序を攪乱する等の具体的危険があるとか、電力資材の不足によつてやむを得ないことで操業を制限休止するとか、その他正当の事由がある場合は格別、かような正当の事由がなくして、使用者が一部労働者の工場立入を禁止しその就労を拒否することは、たとい休業中の給与を支給する場合と雖も、労働者の人格を侮蔑するものであつて使用者の権利の濫用といわねばならない。又労働者がその所属労働組合の職場大会に出席することは労働組合員としての当然の権利であつて、たとい職場大会の会場が工場の一部であつても、労働組合がその工場の一部を会場に使用することが工場管理者の意思に反せず不法の使用でない以上は、一部労働組合員が職場大会に出席する目的でその会場に当てられた工場の一部に平穏に立入ることを使用者すなわち工場管理者において拒否すべき事由はないわけである。本件においては原審の取調べた総ての証拠及び訴訟記録を精査しても、本件会社が現にその雇傭中の工員である被告人に対し工場立入を禁止しその就労を拒否すべき正当な事由及び被告人の所属する長崎造船所労働組合が同造船所構内の工場の一部である小細工部屋を職場大会の会場に使用したことが工場管理者たる同会社の意思に反し不法の使用であつたと見るべき事情は全くこれを見出し得ないのである。されば同会社が被告人に対し退職を勧告するに際し、その未だ退職又は解雇に至らない前から、何等正当の事由なくして被告人の同造船所構内えの立入を禁止し以てその就労を拒否したことは不当であるのみならず、被告人の所属する労働組合が同造船所構内の工場の一部である小細工部屋を職場大会の会場に使用することが同会社の意思に反せず不法の使用といい得ない以上は被告人がその職場大会に出席する目的で何人の制止も受けず平穏にその会場に当てられた小細工部屋に立入ることを工場管理者たる同会社において拒否すべき理由もないわけであるから被告人の小細工部屋えの立入行為を以て違法の行為と目することはできない。たとい被告人に、職場大会に出席する目的以外に友人知己に挨拶する目的もあつたとしても、その挨拶が同会社にとつて特に危険有害なものであれば格別、挨拶目的を兼ねたがため、もともと違法性を有しない立入行為が違法となるべき理由はない。

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