福岡高等裁判所 昭和26年(う)573号 判決
本件公訴の第二事実は「被告人は昭和二十四年七月二十五日頃鮮魚めじか外数種合計五百六十貫五百八十匁を熊本市内に於て丸岡水産株式会社に対し統制額を超え代金合計十六万二千九百五十二円七十九銭(超過額六万三百六十八円八十三銭)にて販売した」というにあるが原判決は「被告人が同日頃同数量の鮮魚を同会社に委託販売した」と認定してあり訴因を異にする。訴因の変更なくして委託販売として処罰したのは違法であるというのである。起訴事実と判示委託販売による統制価格超過販売事実は社会観念上事実の同一性あり罪責、構成要件を同じくしているから訴因の変更なくして審判することを妨げないと解するを相当とする。原審には所論のような手続上の違法は認められないから論旨は理由がない。
弁護人のその余の論旨に付判断する前に職権を以て調査するに、原判決は「被告人は法定の除外事由なくして昭和二十四年七月二十五日頃鮮魚めじか外数種五百六十貫五百八十匁を熊本市内において丸岡水産株式会社に委託販売し別紙一覧表のとおり熊本市内に於ける卸売業者販売価格の統制額より合計五万二千七百九十二円八十五銭を超過する代金合計十六万一千八百三十七円九十九銭を同会社から受領した」旨認定し(判示第二事実)物価統制令違反行為として処罰している。
然し物価統制令には委託販売を禁止した規定なく又委託販売に於ける売買行為は受託者と買受人間に行われるものであるからその売買行為による公定価格を超過した売却代金を受領することは物価統制令違反の罪を構成しない、故に右事実摘示は物価統制令違反罪の構成要件該当事実の記載を欠くものというべく理由不備の違法ありといわざるを得ない。
次に物品の委託販売に於ては売買は受託者と買主間におこなわれるものであるから委託者につき物価統制令(公定価格違反)違反の罪を認定するには(一)委託者が受託者に対し公定価格を超過する価格で売ることを指示したか否か(二)受託者の公定価格超過販売事実の二点を審理し委託者が受託者と共犯関係に立つか或は所謂間接正犯としてその刑責を問うか否かを極めなければならない。原審で取調べた証拠の程度では委託者たる被告人が受託者たる丸岡水産株式会社の判示鮮魚の公定価格超過販売に関し物価統制令違反の刑責を負うべき根拠が判然としない。原審はこの点に於て審理不尽の違法あり破棄を免れない。よつて弁護人の前敍以外の論旨に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄し、本件は当審に於て直ちに判決することができないと認めるから同法第四百条但書に則り事件を原裁判所に差し戻すこととし主文のとおり判決した。