福岡高等裁判所 昭和26年(ナ)17号 判決
原告 宇都宮秀綱
被告 大分県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は「被告が昭和二十六年二月二十日執行の別府市議会議員選挙の効力に関する原告の訴願に対し同年七月二十五日になした裁決を取消す。右選挙は無効とする。訴訟費用は被告の負担とする」という判決を求め、その請求の原因として、
原告は昭和二十六年二月二十日執行の別府市議会議員選挙に立候補して落選したものであるが、右選挙に関し選挙法違反の事実があり、選挙の結果に重大な影響があるものとして別府市選挙管理委員会に選挙の効力に関する異議の申立をしたが、異議を排斥する旨の決定を受けたので、更に被告に対し訴願を提起したところ、被告は同年七月二十五日訴願を棄却する旨の裁決をなし同月二十八日該裁判書は原告に送達された。しかし被告の裁決は不当であつて右選挙は次の事由によつて無効である。
(一) 右選挙において無権利者である市外転出者に投票所入場券を配布し代人による不正投票が行われた。
(二) 選挙期日の前日及び前々日県外旅行者の代人による不正の不在者投票が多数行われた。
(三) 脳病院に入院中の患者が投票しているが、それは本人の意思によるものとは認められない。
(四) 投票立会人の立会がなくして不在者投票が行われ、市吏員が不在者投票を受理して机の抽斗にこれを収納し、且つ不在者投票の投票管理者に対する送致が直ちになされず投票期日になつてもなおなされなかつた。
(五) 亀川校区開票所における開票の際、同一人に対する同一筆蹟の投票が多数発見されたが、これは盥廻しの投票である。
(六) 投票総数と投票簿による投票人員数が一致せず、前者が後者よりも多くなつている。
以上の事由は選挙の結果に異動を生ずる重大な瑕疵であるから本件選挙は無効である。そこで本件裁決の取消並に本件選挙無効の確定を求めるため本訴に及んだものである。
と陳述した。(証拠省略)
被告代表者は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告が本件選挙に立候補して落選したこと並に原告主張の異議及び訴願に関する事実は認めるがその他の事実は否認する。たとい原告主張の(一)乃至(三)及び(五)のような事実があつたとしても、それらは選挙の管理執行に関する違法ではないから選挙無効の事由とならない。(四)の事実については、不在者投票の際は選挙人名簿に登録された市吏員を立会人に選任し、その立会の下に投票が行われ、不在者投票は別府市選挙管理委員会の委員長臨時代理者である同委員会の書記において投票整理の都合上一時机の抽斗に入れて保管し、投票所の閉鎖時刻までに当該投票区の投票管理者に送致したのであつて、その送致に関する公職選挙法施行令中に「直ちに」とあるのは訓示的規定で、投票所閉鎖時刻までに送致すればよいわけであるから、何等違法の点はない。(六)の事実については多数の投票者中には成規の投票用紙以外の白紙又は名刺等を投票箱に投入するものがあり、これを無効投票として投票総数に算入するので、投票人員数よりも投票総数の多い場合があるから、投票総数が多くても選挙無効の事由とならないと陳述した。(証拠省略)
三、理 由
本件選挙において原告が候補者であつたこと並に原告主張の異議及び訴願に関する事実は当事者間に争がない。
しかし原告主張の(一)乃至(三)、(五)及び(六)の事実についてはこれを認むべき証拠がないばかりでなく、たといそのような事実があつたとしても、それらは選挙の管理執行に関する違法とは認められないから選挙無効の事由とならない。(四)の事実は選挙の管理執行に関する事項に属するけれどもその事実を認むる証拠がない。もつとも別府市選挙管理委員会の委員長臨時代理者である同委員会の書記において不在者投票を整理の都合上、一時机の抽斗に入れて保管したこと及び投票区の投票管理者に対する不在者投票の送致が直ちになされないで、投票所の閉鎖時刻までに送致されたことは、被告の自認するところである。しかし市選挙管理委員会の委員長は法定の不在者投票管理者であつて、被告のいう委員長臨時代理者は不在者投票管理者の職務管掌者を指すものと認められるから、右職務管掌者が一時不在者投票を前示のような方法で保管しても、これを違法とはいえない。又不在者投票の送致に関する公職選挙法施行令第六十条第一項中に「直ちに」送致すべき旨の規定は、なるべく速に送致せよという程度の訓示的規定であつて、投票所閉鎖時刻までに送致すればよいことは同令第六十二条の規定からも窺い得られるから、投票所閉鎖時刻までに送致されたとすれば違法ではない。従つてこれ亦選挙無効の事由とならない。
そこで原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却すべきものと認め、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 竹下利之右衛門 中園原一 岡林次郎)