大判例

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福岡高等裁判所 昭和26年(ナ)2号 判決

原告 隈元喜次郎 外一五名

被告 鹿児島県選挙管理委員会

一、主  文

昭和二十六年八月十五日附鹿児島県選挙管理委員会がなした「この訴願はこれを棄却する」との裁決は之を取消す。

昭和二十六年四月二十三日執行の鹿児島県川内市議会議員選挙は全部無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告等は、主文同旨の判決を求め、其の請求原因として原告等は、昭和二十六年四月二十三日執行せられた川内市会議員選挙の選挙人であつて、同年六月十一日被告に対し、右選挙の効力に関する異議申立につき、川内市選挙管理委員会の決定に対する訴願をなしたところ、被告に於て同年八月十五日附「この訴願は之を棄却する」との裁決を為し、其の裁決書は同年同月十八日原告等に送達せられた。右選挙に際し、網津町第十投票所に於ては午前七時十五分頃投票を開始したところ、午前八時過頃に至り、投票管理者は県議会議員の投票用紙で市議会議員の投票させてゐたことに気付いたので直に投票を中止したが、其の時は既に六十三名が投票を終つた後であつた、そこで投票管理者山上豊二は、(一)川内市水引支所庶務課長下川浅夫に図り投票箱(市長選挙と合併)を開いて投票済の右六十三票を抜き取り、之を一括して自己の上衣ポケツトに入れた。(二)其の後投票を再開することを宣告し、市議会議員投票用紙を選挙人数名に交付したが、投票所に参集した数十名の選挙人は「此処で大事な箱を開いてよいのか」等と係員に詰問する者続出し、場内騒然となり、此の間数名の選挙人は投票用紙を持つた儘場外に出づるなど場内混乱し、収拾することが出来なかつたので、更に投票を中止し(三)其の後約一時間位して漸く投票を開始したが、其の際選挙人の面前で投票箱に何も入つていないことの確認をなさずして投票させ、(四)投票箱から抜き取つた右六十三票を無効投票と勝手に決定し、(五)先に投票を終つて帰宅した六十三名を再度投票所に呼び出して法規の定むるところによらないで投票せしめた。(六)其の六十三名の内一名は遂に呼び出すことが出来ず、再投票不能に陥入らしめた。(七)翌二十四日の開票日には其の投票を他の投票所の投票と混合して開票し当選人を決定した。其の結果、最下位当選者の得票は二百八十一票で次点者の得票は二百七十五票で其の差は六票に過ぎなかつた。右選挙に於ける投票総数は二万三千九百九十七票で内有効投票とされたものは二万三千三百九十八票で、網津町第十投票所の投票数は八百七十一票であつたのである。然らば原告等が前段(一)乃至(七)に於て述ぶる網津町第十投票所の投票管理者の所為は明に選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且適正に行はるべき選挙法の規定に違反するから右網津町第十投票所で投票された八百七十一票は無効のものとすべきである。仮りに然らずとする右の内尠くとも再度投票の六十二票は無効とすべきである。従つて右の無効は選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に該当するから本訴に及んだと陳述した。(証拠省略)

被告は、原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告等が昭和二十六年四月二十三日執行せられた川内市議会議員の選挙の選挙人で、同年六月十一日被告に対し、右選挙の効力に関する異議申立につき川内市選挙管理委員会の決定に対する訴願をなしたところ、被告が同年八月十五日附「この訴願は棄却する」との裁決を為し、其の裁決書が同年八月十八日原告等に送達せられたこと右選挙に際し、網津町第十投票所に於て午前七時十五分頃投票を開始したところ、午前八時過頃に至り投票管理者が県議会議員の投票用紙で市議会議員の投票をさせてゐたことに気付いて、直に投票を中止したが、其の時は既に六十三名が投票を終つてゐたこと、投票管理者山上豊二が投票箱を開き、投票箱から右六十三票を取出したこと、右六十三名に投票所に来るやう告知し、六十二名が更に投票したが一名は投票しなかつたこと、翌二十四日の開票日に其の投票を他の投票所の投票と混合して当選人を決定したこと、川内市議会議員選挙の総投票数は二万三千九百九十七票で内有効投票とされたものは二万三千三百九十八票で、網津町第十投票所の投票数は八百七十一票であつたこと、及最下位当選者の得票は二百八十一票で次点者の得票は二百七十五票であつたことは之を認める。其の他の原告等主張事実は之を争ふ。仮りに網津町第十投票所の選挙管理者の所為が選挙法の規定に違反するとしても、選挙の自由公正を害することなく、又之が為に選挙の結果に異動を及ぼす虞もないから、原告等の本訴請求は失当であると陳述した。(証拠省略)

三、理  由

原告等が昭和二十六年四月二十三日執行せられた川内市議会議員選挙の選挙人であつて、同年六月十一日被告に対し、右選挙の効力に関する異議申立につき、川内市選挙管理委員会の決定に対する訴願をなしたけれど被告が同年八月十五日附「この訴願は棄却する」との裁決を為し、其の裁決書が同年八月十八日原告等に送達せられたこと、右川内市議会議員選挙に於ける投票総数は二万三千九百九十七票で、内有効投票とされたものは二万三千三百九十八票であり、網津町第十投票所の投票数は八百七十一票であつたこと及最下位当選者の得票は二百八十一票で、次点者の得票は二百七十五票で其の差僅に六票に過ぎなかつたことは当事者間に争のないところである。

仍て、右選挙は有効なりや否の争点に付案ずるに、網津町第十投票所に於ては午前七時十五分頃投票を開始したところ、午前八時過頃に至り投票管理者が県議会議員の投票用紙で市議会議員の投票をさせてゐたことに気付き、直に投票を中止したが、其の時は既に六十三名が投票を終つてゐたこと、投票管理者山上豊二が投票箱を開き投票箱から右六十三票を取出したこと、右六十三名に再び投票所に来るやう告知し六十二名が更に投票したが、内一名は投票しなかつたこと及翌二十四日の開票日には、其の投票を他の投票所の投票と混合して当選人を決定したことは当事者間に争なく、成立に争のない甲第一号証証人浜田源太、半崎フデ、寺脇秋夫、二ノ宮義友、竹島安信、楢木与一郎、仮屋理孝の各証言を綜合し、尚原告佐多直衛、山元五男の各陳述を参酌して考ふるときは、選挙管理者は前段認定の如く六十三票の投票を投票箱から抜き取りて後、投票を再開することを宣告し、市議会議員の投票用紙を選挙人数名に交付したが、投票所に参集した数十名の選挙人は「此処で大事な箱を開いてよいのか」等と係員に詰問する者続出し、此の間数名の選挙人は投票用紙を持つた儘場外に出づるなど場内混乱し収拾することが出来ず、再び投票を中止したこと及其の後約一時間位して漸く投票を開始するに当つては、選挙人の面前で投票箱に何も入つてゐないことをの確認をなさしめず、且つ投票箱には鍵もかけず封印もなさゞる儘投票させたことは、尠くとも之を肯定し得べく、右認定に牴触する前示甲第一号証の記載部分及証人上山豊二、浜田政世、仮屋理孝、半崎フデの証言部分は当裁判所の信用しないところで、其の他右認定を覆すに足る証拠は存在しない。

果して然りとするならば、前段認定の開票管理者にあらざる投票管理者が投票箱を開きたる点開票管理者にあらざる投票管理者が県議会議員の投票用紙で投票せられた六十三票を投票箱から抜き取り、之を無効に帰せしめた点、投票管理者が六十三名の選挙人に再び投票所に来るやう告知した点、投票管理者が再び投票を開始せんとするに当り、混乱を生ずるや数名の選挙人には投票用紙を持たせた儘場外に立出でさせた点、投票管理者が再び選挙を開始した際、選挙人の面前で投票箱に何も入つてゐないことを確認させなかつた点及其の投票箱に鍵もかけず封印もなさない儘投票させた点は孰れも選挙法の規定に違反し、其の違反たるや選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に選挙の行はるることを確保する吾選挙法の目的を全く没却してゐるので網津町第十投票所に於ける投票は全部無効のものと謂ふべきである。此の事たるや川内市議会議員選挙に於ける最下位当選者の得票二百八十一票に対し、次点者の得票二百七十五票であつたことに鑑みれば、延いて選挙の結果に異動を及ぼす虞のある場合に該当すると判定すべきこと勿論であるから、原告等の本訴請求を相当と認め、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 甲斐寿雄 二見虎雄 長友文士)

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