大判例

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福岡高等裁判所 昭和26年(ナ)23号 判決

原告 後藤末男

被告 大分県選挙管理委員会

一、主  文

昭和二十六年四月二十三日執行の大分県直入郡荻村議会議員選挙の当選の効力について、同村選挙管理委員会の為した決定に対する原告の訴願に対し、被告が、同年九月四日為した裁決は、これを取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は、昭和二十六年四月二十三日執行の、大分県直入郡荻村議会議員選挙に立候補し、得票数百五票で当選し、同選挙で、立候補した後藤静彦は、得票数百二票で次点となつた。しかるに、選挙人訴外藤井義意外二名より、同年五月七日、同村選挙管理委員会に対し、右選挙の当選の効力に関する異議を申立てたところ、右村委員会は同年五月二十二日付で、原告の得票中に、後藤静彦の得票二票、後藤藤正の得票中にも後藤静彦の得票一票がそれぞれ混入していたとの理由で、原告の得票数を百三票、後藤静彦の得票数を百五票と算定して、原告の当選を無効とする旨決定し、その旨通知があつた。

(二)  そこで、原告は、同年六月十一日被告委員会に訴願を提起したところ、被告委員会は、原告の得票数を百二票、後藤静彦のそれを百四票と裁定し、同年九月四日原告の訴願を棄却する旨の裁決をなし、原告は同月九日右裁決書の交付を受けた。

(三)  しかし、右裁決には、次のとおり違法がある。

(イ)  訴外藤井義意外二名の本件選挙の当選の効力に関する異議の申立は、真実右申立名義人の意思に係るものではなくして、事実は右村選挙管理委員会書記後藤惟寿が為したものであるから本件異議申立は無効である。

(ロ)  被告委員会は、昭和二十六年五月二十二日付の本件異議申立に対する村選挙管理委員会の決定を、有効に成立したものだと裁定しているが、右同日村委員会においては、異議申立についての審議を結了するに至らずして、同月二十五日に持ち越されたが、同日もまた結論を得ずして、同月二十九日続行したところ、同日も、委員中二名が退場したため、遂に決定は成立するに至らなかつたのが事実であるから、有効に成立していない村選挙管理委員会の決定を前提として為された本件裁決は違法である。

(ハ)  原告の得票中に混入していたという後藤静彦の得票二票、後藤藤正の得票中に混入していたという後藤静彦の得票一票、計三票(甲第二号証乃至同第四号証)は、何れも同一筆蹟であり、しかも、開票立会人関与の下に厳格にして且つ周到なる注意を以つて点検を終了した投票が、後日に至り他の候補者の得票中に混入し、その結果、当選人に異動を生ずるというが如きことは、稀有のことであることからみても、右の三票は後日に何人かが取替えるなど、不正な方法により、作為されたものと断ぜねばならない。なお右三票の中甲第四号証の一票は、大分県議会議員選挙の投票用紙に記載されたものであるから、正規の用紙を用いない投票として、その理由でも無効である。

(ニ)  被告委員会が、本件訴願に際し、原告の得票中無効と裁定した検証調書添付図面第五表示の「すエおサんに」と記載された一票は、敬称を記入したものとして、有効とすべきである。

(ホ)  後藤静彦の得票中検証調書添付図面第四表示の「ご藤静ひこ」なる右肩に鉛筆による黒丸の余記ある一票は、右黒丸を、意識的に記入したものと認められるので、他事記載をしたものとして、無効である。もつともこれについては、本件裁決も同様の判定をしている。

しからば原告の得票数は、後藤静彦の得票数以上であること明かであるから、原告を当選人と定めた選挙会の決定は適法であつて、村選挙管理委員会の決定を認容して原告の当選を無効とした被告委員会の裁決は違法であるから、右裁決の取消を求めるため本訴に及んだと陳述し、被告の答弁に対し、本件選挙に関し被告主張のとおりの不在者のための代理投票があつたことはこれを認めるが、前記甲第二乃至第四号証の三票は右代理投票に関係がない。仮に右三票が右代理投票に関係のないことが立証されないとしても、右の如き立証は祕密投票の制度上から至難のことであるのと前記原告主張の如き事実の存在することからして、特に反対の事実の証せられない限り、不正投票とみるのが相当であると附陳した(証拠省略)。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、その答弁として、原告主張事実中前記(一)(二)の事実、及び(三)の事実中被告委員会の裁決に関する原告の見解の点(但し後藤静彦の氏名記載の上部右肩に、鉛筆の黒丸の余記ある一票に対する原告の無効見解は、これを是認する)、本件異議申立が申立名義人の意思に基いていないとの点、右異議申立に対する村選挙管理委員会の決定が有効に成立していないとの点、及び甲第二乃至第四号証の三票が同一筆蹟であり、後日取替えられたものであるとの点を除いて、その他はこれを認めるが、右裁決は適法である。なお

(一)  甲第四号証の一票が県議会議員選挙の投票用紙に記載されているものであることは、原告主張のとおりであるが、右は選挙関係の事務係員が右用紙を誤つて交付したことに基因するのであるから、右投票は無効でない。

(二)  原告主張の甲第二号証乃至同第四号証の三票が、何れも、同一筆蹟だとしても、本件選挙における不在者投票三百五十二票中その代理投票が四十四票存在し、そのうち一人で四票を代筆したもの一名、二票を代筆したもの二名、他は一票を代筆したものであるが、代筆者は大部分有権者であるから、二票同一筆蹟のもの三十票存在することとなるので、右三票は、直ちに不正投票による同一筆蹟だということはできない。

(三)  原告は「すエおサんに」なる投票を有効だと主張するけれども「サん」は敬称であるが、「に」は他事記載という外なく、従つて該投票は無効である。

これに対し、前記黒丸の余記ある一票に対する原告の無効見解を是認するわけは、右黒丸の余記を有意の記入であるとする原告の主張事実を認めざるを得ないからである。

しからば、本件村選挙管理委員会の決定を正当として、本件訴願を棄却した、被告委員会の裁決(得票数は決定にあつては原告百三票、後藤静彦百五票、裁決にあつては、前者百二票、後者百四票であつて、それは右(三)の無効各一票を差引いたからである)は適法であり、原告の本訴請求は失当であると陳述した(証拠省略)。

三、理  由

原告主張事実中(一)(二)の事実、並びに(三)の事実中被告委員会の裁決に関する原告の見解の点(但し、前記黒丸の余記ある後藤静彦の一票に対する原告の無効見解は、これを是認する)、本件異議申立が申立名義人の意思に基いてないとの点、右異議申立に対する村選挙管理委員会の決定が有効に成立していないとの点、及び甲第二乃至第四号証の三票が同一筆蹟であり、後日取替えられたものであるとの点を除いて、その他は、当事者間争いのないところである。

第一、原告は訴外藤井義意外二名のした本件選挙の当選の効力に関する異議申立は、同人等の真意に基いて為されたものでないと主張するけれども、右事実を認める証拠はない。

第二、原告は、前記異議申立に対する村選挙管理委員会の昭和二十六年五月二十二日付の決定は有効に成立するに至つていないと主張し、証人田部豊三郎、安藤久、山村孝光は、いずれも右主張に沿うもののような証言をするけれども、右各証言は、証人本田祐人の証言に対照して措信し難く、他に右事実を認定するに足る証拠はなく、却つて、右証人本田祐人の証言によれば村選挙管理委員会の該決定は何等の瑕疵なく、成立するに至つたものであつて、原告主張の同年五月二十五日、同月二十九日の各期日は、本件異議審議のための続行期日ではなくて、選挙会の開催期日であることが認められるので、原告の右主張は採用し難い。

第三、原告は、甲第二号証乃至同第四号証の三票は、何れも同一筆蹟であり何人かが、後日に該投票を偽造したものだと主張し成る程、鑑定人進藤鶴吉、同古賀定一の各鑑定の結果を総合すれば(鑑定人篠田国太郎の鑑定の結果は採用し難い)右三票は何れも同一筆蹟であることが認められるけれども、他面本件選挙において、被告主張の如き不在者投票中四十四票の代理投票が存在したことの当事者間争いのない事実と成立に争いのない乙第三号、証同第四号証、同第五号証の一乃至四十四、同第六号証によれば、右代理投票中には一人で四票を代筆したもの一名、二票を代筆したもの二名があり(この事実は当事者間に争いがない)、右三名は何れも有権者である外、その他の代筆者の大部分も有権者であること等からみて、右三票の同一筆蹟という事実が右代理投票からも生ずる可能性があるので、仮令右三票が、右代理投票者によつて為されたものでないことの立証が、祕密投票制度の上から至難であるからといつて、右三票の同一筆蹟が、不正投票に基くものということはできない。他に同投票が、原告主張の如き偽造投票であることを認めに足る証拠はない。従つてこの理由によつては、右三票を無効投票とすることはできない。

第四、しかし右三票の中甲第四号証の一票は、県議会議員選挙の投票用紙を用いた投票であることは当事者間争いのないところであるから、該投票は成規の用紙を用いないものとして、無効といわねばならない。被告は、選挙事務に従事しているものが誤つて右用紙を交付したことに基因するものであるから、無効でないと主張するけれども、仮令かかる事実があつたとしても、成規の用紙を用いない投票であることにはかわりなく、敢えてこれを有効とする理拠は見出し難いので、該主張は採用し難い。従つてこの一票は無効投票として、被告委員会が裁定した後藤静彦の得票数百四票より差引かねばならない。

第五、検証調書添付図面第五表示の「すエおサんに」と記載された一票は、「に」を含めた「サんに」を敬称と認めるのが相当である。被告は「サん」は敬称であるが、「に」は他事記載だと主張するけれども、敬称として世俗的に「さんに」との称呼を使用することも稀れではないし、「に」だけを切りはなして敬称に附記した別箇独立の有意の記入と解するのは相当でないから、「に」を他事記載だとする被告の主張は採用し難い。従つてこの一票は有効投票として、被告委員会が裁定した原告の得票数百二票に加えねばならない。

しかして検証調書添付図面第四表示の「・ご藤静ひこ」なる一票の右肩附近の鉛筆による黒丸の余記が、意識的に為された記入であることは、当事者間争いなく、従つて被告委員会の裁定のとおり該投票は他事記載のものとして無効と認めるから、前記第四、第五に示したように、原告並びに、後藤静彦の各得票数は、同数の百三票となること明かである。さすれば本件選挙にあつては、選挙会において、選挙長がくじで当選人を定めることを要し、それによつて当選人が決定するに至るのであるから、後藤静彦を当選人と定め、その理由を以て原告の当選を無効とした村選挙管理委員会の決定は違法であるのに、結局これを認容して原告の訴願を棄却した本件裁決は、違法で取消を免れない。よつて原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用につき、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原国朝 二階信一 秦亘)

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