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福岡高等裁判所 昭和26年(ナ)24号 判決

原告 島崎秀之助

原告補助参加人 森田松三郎 外三名

被告 長崎県選挙管理委員会

被告補助参加人 島原市選挙管理委員会 外三十名

一、主  文

昭和二十六年四月二十三日執行の島原市長選挙並に島原市議会議員選挙の効力に関し被告のなした同年九月十日附訴願裁決を取消す。

右各選挙は全部無効とする。

本訴訟の訴訟費用及び原告補助参加人の参加によつて生じた訴訟費用は被告の負担とし、各被告補助参加人の参加によつて生じた訴訟費用は当該被告補助参加人の負担とする。

二、事  実

原告の請求の趣旨

「主文第一、二項と同旨並に訴訟費用は被告の負担とする」という判決を求める。

原告並に原告補助参加人の請求原因その他の主張

一、原告は昭和二十六年四月二十三日同時に執行された島原市長選挙並に島原市議会議員選挙(以下両選挙を本件選挙と称する)の選挙人であつて、同年五月六日島原市選挙管理委員会に対し本件選挙の効力に関する異議の申立をしたところ、同委員会は同年六月二日附を以て「島原市長選挙に対する異議申立は相立たない。島原市議会議員選挙に対する異議申立はこれを認め選挙の一部を無効とする。但し三四六票以上の得票者の当選の効力を失わない」旨の決定をした。そこで原告は更に同月二十三日被告に対し訴願の申立をしたところ、被告は同年九月十日附を以て「この訴願はこれを棄却する。島原市選挙管理委員会のなした決定中『島原市議会議員選挙に対する異議申立はこれを認め選挙の一部を無効とする。但し三四六票以上の得票者の当選の効力を失わない』とあるのを取消す」旨の裁決をなし、該裁決書は同月十一日原告に送達された。

二、しかし本件選挙は以下述べる事由によつて全部無効である。

(一)  島原市選挙管理委員会(以下市委員会と称する)は本件選挙に関し昭和二十六年三月十一日及び同年四月十日の二回委員会を開いて後記(二)に記載するように形式的に選挙長等を選任した外、その職務権限の一切を挙げて市委員会書記伊藤昇、書記補本田行寛等に一任して顧みなかつた。委員長以下各委員は選挙法規並に選挙の運営に通ぜず職務に怠慢で、事務局職員、投票管理者及び投票立会人等に対する指導並に一般選挙人に対する周知啓蒙の能力を欠き何等適切な措置を講せず、そのため本件選挙は闇の選挙に終始した。

(二)  選挙長・開票管理者・投票管理者及びこれらの者の職務代理者並に投票立会人はすべて、当時なお島原市長に在職中であつた市長候補者中岡秀蔵及び島原市助役陶山源その他の同市役所吏員によつて確定的に選定されたものを市委員会はただ形式的に付議決定したに過ぎない。しかもその人選をみるに、投票立会人以外の者は全部島原市役所吏員であつて、投票立会人は中岡候補者と平素特殊関係のあるもの又は同候補者に対し特に厚意を有するものと市民一般から認められているもののみである。このような者等によつて自由公正な選挙が行われたとは到底考えられない。

(三)  公職選挙法施行令第五五条第一項の規定によれば、選挙人が登録されている選挙人名簿の属する市町村における不在者投票については、その市町村の選挙管理委員会の委員長が不在者投票管理者である。しかるに市委員会の委員長である光永勇三はこのようなことすら知らず、自己の投票管理のもとになさるべき投票者八八八名の不在者投票に何等関与することなく、これらの不在者投票はすべて管理権限のない市委員会事務局職員又はその職員が勝手に委嘱した島原市役所吏員の管理のもとに無秩序のうちに行われた。

(四)  市委員会は昭和二十六年四月十日高木広太郎・吉田松蔵・近藤東海の三名を第八投票所の投票立会人に選任した。しかるに選挙の期日に参会した投票立会人は高木広太郎及び吉田松蔵の両名だけであつて近藤東海は全然参会せず、しかも同投票所の投票管理者によつて選任された投票立会人もない。従つて同投票所におけるすべての投票は結局二名の投票立会人の立会によつてなされたことになる。

被告はこの点について、光永委員長は、投票立会人予定者の承諾を得られない場合の補充選任を委員長に一任する旨の市委員会の予ての議決に基き岡野哲子を選任したと主張するけれども、投票立会人の選任は委員会の権限に属し、委員長にその権限を委任することは許されない。又委員会が投票立会人を選任した場合には選挙の期日前三日までに本人に通知すべきものであるから、委員会がその選任をすることができるのは選挙の期日前三日までである。従つて仮に委員長にその選任を委任することができるとしても、委員長が選任することができるのも選挙の期日前三日まででなければならない。ところが、光永委員長が岡野哲子を選任したのは選挙期日の前夜であるから、その選任はこの点からみても無効である。

(五)  市委員が選任した第七投票所の投票立会人は古瀬わき・谷口善治・豊永正義の三名であるが、豊永正義は投票開始時刻に遅刻したので投票管理者森本車治は山中藤市を投票立会人に選任した。そこで豊永正義はこれによつて投票立会人の資格を失つたわけである。しかるに豊永正義が定刻に五分乃至十分遅れて参会するや山中藤市は不用意にも立会人席を退席して豊永正義と代り、豊永は古瀬及び谷口とともにその後の投票に立会つた。従つて豊永の参会後における投票は結局二名の投票立会人によつて行われたことになる。

(六)  第二乃至第十投票所においては、参会した投票立会人三名(但し第七及び第八投票所の投票立会人中各一名は前記(四)及び(五)に記載するとおり成規の投票立会人ではない)が、一名宛又は同時に二名宛代理投票の補助者となつて投票立会人の職責を放棄し、一般投票も引続き行いながらその間投票立会人を補充した事実がない。従つてその間になされた代理投票及び一般投票は最低法定数を欠く投票立会人のもとに行われたわけであつて、このような違法管理にかかる投票は約五、六千票と推定され総投票数の二、三割に達する。

(七)  第二投票所において代理投票に際し、投票立会人が投票の秘密を侵犯し且つ投票に干渉した事実があるにかかわらず、投票管理者広瀬忠雄は何等の措置も講じなかつた。

(八)  市委員会事務局職員中任命の権限を有するものによつて任命されたのは書記長高木長義・書記伊藤昇・書記補本田行寛の三名であつて、その他の職員はすべて任命権限のない右三名によつて島原市役所吏員の中から任命された。そうして本件選挙はこのような職員によつて執行されたのである。

(九)  書記伊藤昇は本件選挙を主管する権限がなく、しかも同人の法的素養は幼稚で事務的才能も亦未熟であるにかかわらず、事実上本件選挙を主管し、書記補本田行寛その他の職員と通謀して計画的に特定候補者に当選を得しめるため、不在者投票に際し事務処理上の手加減、便宜供与、投票の秘密侵犯、公印の不正使用、公文書の偽造変造、投票の抜替、証拠湮滅等数々の不法を敢行した。

(一〇)  投票用紙、不在者投票用封筒その他の用紙の調製についても、光永委員長は関与しないで権限のない書記伊藤昇等が発注して調製し、且つこれらの用紙の受入交付等について正確な記録も作成していない。しかも本件選挙に関する異議申立のあつた前後に、使用済の不在者投票用封筒の一部及び未使用の投票関係用紙全部が関係者によつて焼却されている。これらの事実を前記(九)の事実と考え合せても本件選挙について計画的な不正不法が行われたことは容易にこれを推測することができる。

(一一)  一部の選挙人、候補者又は島原市役所吏員等が自己又は他の候補者の当選を企図し不法行使の目的で不在者投票用紙請求書の用紙を一名で多数請求したのに対し、市委員会事務局職員はその事情を察知することができるにかかわらず、選挙人の同居の親族でもない者に一名について数枚又は数十枚を交付し、その結果公職選挙法施行令第五〇条、第五三条、第五八条に違反する不正行為が多数行われるに至つた。

(一二)  不在者投票に関し提出された同居の親族であることの疎明書(甲第六号証の一乃至五七六)の内、自書したものは約一割で、その他は悉く事務局職員において代理記載しながら、代理記載の理由について附箋処理をしていない。又右疎明書と不在者投票用封筒(甲第七号証)及び不在者投票に関する調書(甲第八号証の一乃至一〇)を対照するに、不在者投票用紙及び不在者投票用封筒の請求・交付並に不在者投票の受領に際し選挙人名簿との照合が粗雑で満足な照合は行われていない。

(一三)  公職選挙法施行令第五六条第一項の規定による不在者投票をなした者は三〇八名であるが、島原市役所内に設けられた不在者投票の記載場所には同令第三二条に適合する設備がなく、不在者投票管理者及び投票立会人の席も設けず、且つ不在者投票管理者及び成規の投票立会人は立会わないで不在者投票を行わせている。

(一四)  不在者投票事務を処理した事務局職員等は、同居の親族に関する疎明書の記載内容の真偽について何等の検討もせず、かえつて選挙人又は候補者と通謀して不在者投票用紙等を不正に交付し、不正な不在者投票を受領し且つ不在者投票用封筒の記載事項の不備を勝手に追記した事実がある。

(一五)  不在者投票総数は市長・市議会議員の両選挙とも各九〇七票であるが、不在者投票用封筒の裏面に不在者投票管理者において記載すべき投票の年月日及び場所を記載したものは一枚もなく、不在者投票管理者の記名のあるものは約半数に過ぎない。又これらの不在者投票は昭和二十六年四月四日以降毎日行われたのであるが、その都度その投票は各投票区の投票管理者に送致しなければならないにかかわらずこれを送致しないで、事務局職員の机上又は机の抽斗等に保管し、選挙の期日になつてその全部を一括して送致しているので、その間投票の秘密が犯され且つ投票の抜替がなされたものと思料される。しかもその不在者投票には不在者投票の証明書を添附しないで不在者投票に関する調書だけ添附してこれを送致しているのである。

(一六)  事務局職員は公職選挙法施行令第五六条の規定による不在者投票について同条に違反して不在者投票を入れた投票用封筒に封をさせないでこれを提出させ、後日勝手にその封をし、しかも不在者投票に関する調書には封をして提出したかのように不実の記載をしている。従つてその間投票の秘密が侵犯され又投票の抜替が行われたことを推認することができる。

(一七)  公職選挙法施行令第五八条の規定による不在者投票について、不在者投票を入れた封筒を更に他の適当の封筒に入れたものは一枚もない。且つこの不在者投票についてもその多くは投票用封筒に封をさせないで提出させ、事務局職員が後日勝手にその封をしながら、不在者投票に関する調書には前同様の不実の記載をしている。従つてこれについても前同様の不正が行われたことを推認することができる。

(一八)  事務局職員等は、その保管中の不在者投票の投票用封筒に選挙人又は投票の代理記載人において記載すべき事項が記載漏れとなつたものを勝手に記入し、且つ公印の漏れたものに後日公印を押捺し、不在者投票に関する調書にはその事実を記載しないで恰も始めから完全なものであつたかのように不実の記載をしている。

(一九)  公職選挙法施行令第五六条の規定による不在者投票については投票立会人を選任した事実がなく、又事実上立会つた者もないにかかわらず、事務局職員等はその保管中の右不在者投票の投票用封筒に勝手に自己又は他の者の氏名を投票立会人として記載し、これを各投票所の投票管理者に送致して該管理者の不在者投票の受理不受理に関する審査を妨げた事実がある。

(二〇)  光永委員長は、公職選挙法施行令第五八条の規定による不在者投票について、盲者、文盲者、精神病者、聾唖者等の投票能力のないものの名義を利用して多数の不正投票が行われる状況を知りながら何等の対策も講じなかつた。又右不在者投票事務に関与した事務局職員等も候補者又は選挙運動員の不正行為を知りながらかえつてこれを助成するような措置をした事実がある。

(二一)  事務局職員等は公職選挙法施行令第五八条の規定による不在者投票に際し、選挙人が不正選挙運動員に連行されて不在者投票を提出し又は選挙人の同居の親族でない者が何名分もの不在者投票をまとめて提出したのを、その事情を知りながらそのまま受領し、且つ不在者投票封筒の記載事項の欠けたものを勝手に追記して、不在者投票に関する調書には郵便又は同居の親族によつて提出したかのように不実の記載をしている。

(二二)  光永委員長は公職選挙法施行令第六〇条の規定による不在者投票の送致についても何等関与しないで事務局職員によつて処理され、しかもその送致には送致用封筒を用いず単に新聞紙等に包んだり又はむきだしにして紐でくくつたまま送致し、運送人及び送致先の受領者が何人であつたかについて記録したものもない。

(二三)  不在者投票に関する調書も事務局職員だけで作成し、光永委員長はこれに関与していない。従つて同調書には光永委員長の署名を欠き且つ作為による不実の記載や法令の不知に基く誤謬等がある。従つてこのような調書によつて不在者投票の受理不受理の審査決定が適正に行われる筈はない。

(二四)  公職選挙法施行令第五八条の規定による不在者投票用紙等の請求書に添附して提出された不在者投票事由に関する医師の証明書によれば、当該選挙人が盲目、文盲、精神病、耳目の故障等によつて投票能力のないものであることを知り得るにかかわらず、事務局職員等はこのような者の請求に基き不在者投票用紙等を交付し、その結果多数の不正投票が行われた事実がある。

(二五)  事務局職員等は公職選挙法施行令第五〇条の規定に違反して不在者投票用紙等の請求書を提出させず又は同令第五二条の規定に違反して不在者投票事由に関する証明書もしくは疎明書を提出させないで、不在者投票用紙等を交付し投票をさせた事実がある。

(二六)  公職選挙法施行令第五六条の規定によつて不在者投票用紙等の交付を受けた選挙人が市委員会の指定した投票記載場所以外の場所で不在者投票を記載した上提出したのを、事務局職員等は何等の措置も講じないで受領し、これを成規の手続による投票として処理している。

(二七)  事務局職員等は公職選挙法施行令第五八条の規定による不在者投票について、選挙人がその投票の前日死亡したのに生存中のものとしてその投票を処理している。

(二八)  各投票所の投票管理者及び投票立会人はいづれも、不在者投票に関する法的智識がないため、本件選挙に用いられた不在者投票用封筒中現存するもの(甲第七号証)について調査してみてもその記載事項の完備したものは一枚もなく、従つてその全部を不受理と決定すべきにかかわらず、これを有効投票として受理している。

(二九)  公職選挙法施行令第五八条の規定による不在者投票中、不在者投票用封筒を更に他の適当な封筒に入れて提出したものは一票もない。その他現存の投票用封筒を調査すると次のような不備欠点があつて、完全なものは一枚もない。

(イ)  公職選挙法施行令第五六条の規定による不在者投票用封筒中に選挙人の氏名が同一筆跡と認められるものが、市長及び市議の同選挙にそれぞれ二百数十枚ある外、数枚又は数十枚宛同一筆跡のものが多数ある。

(ロ)  一枚の投票用封筒で同一人において記載すべき事項が数名の筆跡と認められるものが多数ある。

(ハ)  投票用封筒の裏面に投票の年月日及び場所の記載のないものが、市長選挙について七八四枚、市議選挙について七七八枚ある。

(ニ)  投票用封筒の裏面に不在者投票管理者の記名のないものが市長選挙について三九七枚、市議選挙について四〇九枚ある。

(ホ)  投票用封筒の表面に投票記載の年月日及び記載場所等の記載のないものが、市長選挙について一四五枚、市議選挙について一三六枚ある。

(ヘ)  盲目、文盲、聾唖、精神病、言語不能、老衰、遠耳、視力弱等の事由で不在者投票をなし又は不在者投票事由を記載しない証明書を提出して不在者投票をしたものの投票用封筒が市長選挙について六六枚、市議選挙について六八枚ある。

(ト)  同一選挙人の投票用封筒で、市長選挙及び市議選挙のいづれか一方は代理人が記載し他の一方は選挙人が自書したもの、両選挙について代理記載人が異るもの、字体の異るもの及び投票立会人の異るものが、市長選挙について二九枚、市議選挙について三二枚ある。

(チ)  選挙人の同居の親族でないと認められるものの代理記載したものが、市長選挙について三四枚、市議選挙について三二枚ある。

(リ)  公職選挙法施行令第五六条の規定による不在者投票で投票用封筒に投票立会人の記載のないもの及び同令第五八条の規定による不在者投票で投票用封筒に投票立会人の記載があるものが、市長選挙について三一枚、市議選挙について二四枚ある。

(ヌ)  投票用封筒に代理記載人の住所の記載のないもの及び記載した住所が実際と異るものが、両選挙ともそれぞれ四七枚ある。

(ル)  投票用封筒の記載が不在者投票に関する調書と年月日の異るもの及び選挙人名簿と住所の異るものが、市長選挙について四九枚、市議選挙について四三枚ある。

(ヲ)  投票用封筒に投票立会人の氏名を記載してないものが、市長選挙について二八枚、市議選挙について三二枚ある。

(ワ)  投票用封筒に受理期間外の年月日を記載したものが、市長選挙について二八枚、市議選挙について二七枚ある。

(カ)  盲目、文盲、聾唖、精神病等で投票能力のないと認められるものの投票用封筒が両選挙ともそれぞれ三〇〇枚以上ある。

(ヨ)  疎明書及び不在者投票に関する調書と対照して年月日、場所、氏名、投票事由等が合致しないものが、両選挙ともそれぞれ不在者投票総数の約半数ある。

又投票用封筒の不足したものが、市長選挙について一〇六枚、市議選挙について一二五枚ある。

なおこれらの投票用封筒は、本件選挙直後島原市警察署より該封筒等の提出を命ぜられた際、書記伊藤昇その他の者が不法にも記載事項の不備な点を追記し公印の漏れたものを押捺してこれを補正したのであるが、それにもかかわらずなお以上記載のとおり数々の不備があるのであつて、この事実からみても本件選挙における不在者投票は全部不受理とすべきものであつたことを知ることができる。しかるにその全部を有効投票として受理しているのである。

(三〇)  島原市役所吏員は前市長であつた市長候補者中岡秀蔵並に一部の市議会議員候補者に当選を得しむるため組織的に選挙運動をなし、中岡候補は市長に当選して就任するや右選挙運動の論功行賞として市役所吏員の昇級増俸異動等の人事を行つた。この事実を選挙長、開票管理者、投票管理者及び臨時嘱託の事務局職員がすべて島原市役所吏員で占められていた事実と考合せても、本件選挙管理が自由公正になされたと考えるものはいないであろう。

(三一)  代理投票の際代理投票の補助者が特定候補者の氏名を呼称し当該選挙人を誘導して代理投票をさせた事実がある。

(三二)  選挙人が唖で且つ文盲のため投票すべき候補者の氏名を指示することができないのに、投票管理者はかような選挙人の代理投票を拒否せず、補助者となつた選挙事務従事者において勝手に代理記載をして代理投票をさせた事実がある。

(三三)  選挙の期日に選挙権を失つたもの又は始めから選挙権のないもの、もしくは投票区が不明な者を整理しないで、これらのものに投票をさせた事実がある。

(三四)  同一選挙人に二重に投票をさせた事実がある。

(三五)  代理投票の補助者の任命にあたり、公職選挙法第四八条の規定に違反し、投票立会人の意見を聞かないで投票管理者が独断で任命した事実がある。

(三六)  投票録の作成がでたらめで、次のような不実記載及び記載漏等がある。

(イ)  第二投票所の投票録には、代理投票の補助者の氏名、不在者投票数及びその受理決定数について事実と異る記載がある。

(ロ)  第三投票所の投票録には、不在者投票数及びその受理不受理の決定数が記載していない。

(ハ)  第四投票所の投票録には、代理投票の補助者の氏名について事実と異る記載がある。

(ニ)  第五投票所の投票録には、代理投票の一部しか記載していない。

(ホ)  第八投票所の投票録には、代理投票の一部だけ記載し且つ代理投票の補助者の氏名について事実と異る記載がある。

(ヘ)  第九投票所の投票録には、代理投票の一部だけ記載し且つ不在者投票の受理不受理の決定数について事実と異る記載がある。

選挙に関しもつとも重要な証拠書類である投票録の記載がこのようにでたらめであるのは、単なる誤記ではなく、選挙管理の違法を秘匿するため計画的に不実の記載をしたものと推認することができる。

(三七)  選挙についてなすべき次のような指定又は告示がなされていない。

(イ)  第一乃至第十投票所の各投票管理者中公職選挙法第三九条、第四一条の規定により投票所を指定告示したものは一人もいない。

(ロ)  市委員会は昭和二十六年三月十一日の委員会において高木長義を開票管理者に、伊藤重勝をその職務代理者に各選任しながらその告示をしていない。

(ハ)  開票管理者は各候補者の届出た開票立会人が十名を超えるにかかわらず、その互選を行うべき場所及び日時を告示していない。

(ニ)  開票管理者は開票の場所を指定しその場所及び日時を告示しなければならないにかかわらず、その指定及び告示をしていない。

(ホ)  選挙長は選挙会の場所及び日時を告示しなければならないにかかわらず、その告示をしていない。

仮にこれらの告示がなされたとしても、市委員会規程によれば、選挙に関する告示は島原市役所の掲示台に告示文書を掲示してこれをなすことになつているのであるが、本件選挙当時の同市役所の掲示台はその前面を金網で張り台の裏側の出入口の扉には平常錠をしているのに、公示文書は罫紙数枚の場合にはこれを重ねた上、一枚の場合も数枚の場合もその右肩に紙縒を通して掲示台の釘にかける方法で掲示していたのであるから、たまたま表面に向いた一用紙の半面しか展示されないので、このような不完全な方法でなされた告示は告示しなかつたと異るところはない。

以上のとおり本件選挙にはその管理執行に関し幾多の違法があつて選挙の自由公正は著しく害せられ、徹頭徹尾闇の選挙罪悪の選挙に終始した。そうして本件市長選挙については当選者の得票数は九、九八八票、次点者の得票数は九、七四一票、差数は二四七票で、本件市議会議員選挙については最高位当選者の得票数は六三九票、最下位当選者の得票数は三三八票、次点者の得票数は三三七票、差数は三〇二票乃至一票であるから、前示選挙管理の違法は選挙の結果に異動を及ぼす虞があること明である。故に本件選挙はいづれも全部無効である。

三、選挙の効力に関する異議又は訴願において主張しなかつた事実を訴訟において主張することは妨げないことであるから、この点に関する被告の主張は理由がない。

被告の答弁の趣旨

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」という判決を求める。

被告並に被告補助参加人の答弁その他の主張

一、原告等主張の一の事実は認める。同二の選挙無効の事由中には本件選挙の効力に関する異議又は訴願において主張しなかつた事実が少くない。このような新な事実を本訴において主張することは許されない。仮にそうでないとしても原告主張の事由に対する被告等の主張は次のとおりである。

二、原告等主張の事由中

(一)について。

原告等の主張事実は否認する。本件選挙に関し市委員会を開催したのは四、五回であつて、議事録を作成したのがその内二回である。委員長以下各委員及び事務局職員はいづれもその職責を自覚して誠実に選挙事務に従事し、投票管理者の協議会を開き一般選挙人には「市政だより」等によつて選挙の周知啓蒙に努めた。

(二)について。

選挙長、投票管理者及びこれらの者の職務代理者に選任されたものがいづれも当時島原市役所吏員であつたことは認める。しかし市役所吏員より選任したのは自治庁の指導方針に従つたのであつて、島原市に限つたことではない。又投票立会人に選任されたものと中岡候補との間に原告等主張のような関係はない。

(三)について。

原告等の主張事実は否認する。昭和二十六年二月公職選挙法の改正によつて、それまでは不在者投票管理者は不在者投票用封筒等に署名しなければならなかつたのが記名すればよいことになつたので、不在者投票管理者が不在者投票の際その場所に立会う必要はなくなつたのである。しかも光永委員長は本件選挙についてはなお不在者投票管理者として自らその投票を管理したのであるから何等の違法もない。

(四)について。

市委員会は高木広太郎、吉田松蔵、近藤東海の三名を第八投票所の投票立会人に選任したけれども、近藤東海が中岡候補の選挙運動をすることがわかつたので同人の選任を取消し、更に他の者を選任した。しかるにその者の承諾が得られなかつたので、光永委員長は、投票立会人予定者の承諾が得られない場合の補充選任は委員長に一任する旨の市委員会の予ての議決に基き岡野哲子を補充選任したのである。この点に関し市委員会議事録中に右選任を事務者に一任する旨記載しているのは委員長に一任すると記載すべきを誤つたものである。

(五)について。

第七投票所の投票立会人豊永正義が投票開始時刻に遅れて参会したことは認める。しかし同人が参会するまでは投票管理者において選任した山中藤市が投票立会人として立会つたことは原告等も認めるとおりであつて、同人を選任したことによつて豊永正義が立会人の資格を失うものではない。山中藤市は豊永正義が参会したので同人と交替したのである。

(六)について。

第二乃至第十投票所の投票立会人は常時三名宛立会つていたのであつて、第四投票所において投票立会人が代理投票の補助者となつたことはない。その他の右各投票所においてたとへ投票立会人が一名又は二名宛代理投票の補助者となつたとしても、それは投票立会人の職務を放棄したものではなく両者を兼務したのであつて、これを兼務しても違法ではない。

(七)について。

原告等主張の事実は否認する。

(八)について。

島原市役所吏員多数に市委員会の臨時事務員を委嘱し本件選挙事務に従事させたことは認めるが、それは光永委員長の指示によるものである。

(九)について。

原告等主張の事実は否認する。原告等の主張は事実を誣うるも甚だしいものである。

(一〇)について。

原告等の主張する諸用紙は、光永委員長の指示に基き書記伊藤昇等において発注調製したものである。使用済の不在者投票用封筒を焼却したのは、不在者投票事務に関係のないものが投票終了後投票所を清掃する際、不要のものと誤信し塵埃とともに焼却したもので、未使用の投票用紙を焼却したのは、島原市庁舎移転の際被告の指示を受けて昭和二十五年施行の参議院議員選挙の未使用投票用紙を焼却したので、不要のものと思つて指示以外のものも共に焼却したのである。

(一一)について。

不在者投票用紙等の請求書用紙を、請求に応じて若干一括交付した事実は認める。しかしそれは投票用紙を一括交付したのとは異るから不法でないのみならず、各選挙人が請求のため出頭する手続を省くためにしたのであつて、不正の意図に出たものではない。

(一二)について。

同居の親族たることの疎明書については法令に何等の規定もないのであるが、市委員会は同居の親族であるか否かを確め不在者投票の適正を期するため便宜上疎明書用紙を調製してこれを用いたに過ぎない。従つて疎明書の代理記載について附箋処理をしなくても違法ではない。又選挙人名簿との照会は厳格に履践したから不正投票は行われていない。

(一三)について。

不在者投票の記載場所の設備は、当時の島原市役所庁舎が狭隘であつたため一般投票所のような設備をすることは事実上不可能であつて、空室を利用し随時記載場所を定める外はなかつた。障壁は設けなかつたが机は大きなものを用い、且つ事務従事者及び他の投票者との距離にも注意を加えた。不在者投票管理者が不在者投票をする場所に立会う必要のないことは(三)について述べたとおりである。不在者投票の立会人は光永委員長の指示に基き島原市役所吏員中選挙権を有するもので時間的余裕のあるものをあてたのである。

(一四)について。

不在者投票を行う際は、同居の親族による場合は同居の親族であるかどうかを検討した上投票させた。その他原告等主張の如き事実はない。

(一五)について。

不在者投票を受領してこれを一定の場所に保管し選挙の期日にこれを一括して各投票所の投票管理者に送致したとしても違法ではない。同居の親族によつて提出された不在者投票については、投票用封筒の裏面に原告等主張の事項を記載したり不在者投票管理者が記名する必要はないのであるから、その記載及び記名がないのは当然である。投票用封筒にたとい記載の誤があつても選挙が無効となるものではない。なお投票の秘密侵犯又は投票抜替等の事実はない。

(一六)について。

事務局職員において不在者投票用封筒を開封したまま提出させたことはない。開封のまま提出した場合は提出者に封をさせるか係職員において提出者の面前で封をした。従つて投票の秘密を犯し又は投票を抜替ることのでき得る状態ではなかつた。

(一七)について。

不在者投票用封筒を更に他の適当の封筒に入れてなかつたことは認めるが、その他の主張事実は否認する。

(一八)について。

事務局職員が不在者投票用封筒に補筆したことは認めるが、それは投票者の依頼によるものである。後日公印を押捺したことも認めるが、それは選挙終了後整理する際のことであるから何等の不正もない。

(一九)について。

不在者投票立会人は(三)について述べたとおり光永委員長の指示に基き選任されたものであつて、不在者投票用封筒に原告等主張の如き不実の記載をしたことはない。

(二〇)について。

不在者投票の際は医師の診断書を措信して投票を行わせたのであつて、投票能力のないものの名義を利用して不正な投票をさせたことはない。

(二一)について。

原告等の主張事実は否認する。不在者投票用封筒の補筆については(一八)に述べたところと同様である。

(二二)について。

送致用封筒の様式については法令に規定がないから、紙包にして厳重に包装し二人又は三人で輸送させた。従つて輸送の途中で投票の秘密侵犯又は投票の抜替が行われたことはない。

(二三)について。

不在者投票に関する調書に不在者投票管理者の署名がないことは認める。それは右管理者たる光永委員長が投票所を巡視中で投票送致の時間も接迫したため、やむなく署名に代えて公印を押捺したのであつて、該調書に不実の記載はない。

(二四)について。

医師の証明書であるから病気だと速断して不在者投票用紙等を交付したことがあるけれども、その間何等の不正も行われていない。

(二五)について。

原告等主張の事実は否認する。

(二六)について。

原告等の主張事実は不知。仮にそのような事実があつても事務局職員が故意にさせたものではない。

(二七)について。

原告等主張の事実は不知。

(二八)について。

投票管理者及び投票立会人はいづれも相当の人選であつて、不在者投票の受理又は不受理についてはでき得るだけ投票者の意思を尊重したのである。

(二九)について。

不在者投票用封筒を更に適当の封筒に入れて提出したものが全然なかつたことは認める。

(イ)  投票用封筒の記載事項中投票の年月日、住所及び記載場所は提出者に代つて事務局職員がこれを記載したため同一筆跡のものがあるけれども、何等の不正も行われていない。

(ロ)  一枚の投票用封筒で筆跡の異るものがあるのは、本人と事務局職員とで記載したからである。

(ハ)  公職選挙法施行令第五八条の規定による不在者投票の投票用封筒の裏面には原告等主張の事項を記載する必要はない。その外裏面に記載すべき事項を誤つて表面に記載したものが若干あるけれども、それは何等の妨げともならない。

(ニ)  公職選挙法施行令第五八条の規定による不在者投票の投票用封筒裏面には不在者投票管理者の記名をする必要はない。

(ホ)  投票用封筒に原告等主張の事項が欠けたものがあつても、それだけで投票が無効となることはない。

(ヘ)  老衰者は必ずしも投票無能力者ではない。原告等主張のその他のものについては医師の証明書によつて不在者投票事由該当者と信じ投票させたのであるが、医師の証明書も必ずしも信用し難いので投票無能力者と断定することはできない。

(ト)  同一選挙人の両選挙に関する投票用封筒が一枚には自書し、他の一枚には代理記載したものがあるということであるが、それは代理記載人の記載欄が記載漏になつていたともみられるし、又病人等で一枚を自書して後疲労のため自書能力を失い他の一枚には他の者が代理記載する等の場合もあり得る。又代理記載人が両選挙について異つても違法ではない。代理記載人の氏名の筆跡が両選挙について異るものがあつても、それは代理記載人の氏名の記載漏となつた分を後で気付いた事務局職員が投票提出者に確めた上その代理記載人の氏名を記載したためである。

(チ)  原告等主張の事実は争う。

(リ)  公職選挙法施行令第五六条の規定による不在者投票の投票用封筒に仮に投票立会人の記載がないとしても、事実投票立会人が立会つているのであるから有効投票として受理すべきものである。同令第五八条の規定による不在者投票の投票用封筒に投票立会人を記載しているのは、投票受領当時係職員が誤つて記載したに過ぎないから、これ亦有効投票として受理すべきものである。

(ヌ)  代理記載人の住所の記載が欠けたり又は記載した住所が事実と異つていても選挙の公正が害されたとはいえない。

(ル)  投票用封筒に記載した年月日が不在者投票に関する調書と異つていても、それは投票者が封筒の記載を誤つているのである。又投票用封筒に投票者の住所を記載する必要はない。

(ヲ)  投票用封筒に投票立会人の氏名を記載していないものがあつても、実際投票立会人が立会つたことは前示のとおりであるから、有効投票として受理すべきものである。

(ワ)  投票用封筒に受理期間外の年月日を記載していてもそれは投票者の誤記である。

(カ)  (ヘ)について述べたと同様である。

(ヨ)  年月日の記載については(ワ)について述べたと同様である。投票者の氏名が異つているのは疎明書に通称を用いることがあるからである。なお不在者投票事由は不在者投票に関する調書のみに記載しその他の書類には記載していない。

その他の主張事実はいづれもこれを争う。

(三〇)乃至(三二)について。

原告等の主張事実はいづれも否認する。

(三三)について。

選挙の期日に選挙権を失つたもののあつたことはその当時にあつては不明であつた。その他の主張事実は否認する。

(三四)について。

原告等の主張事実は否認する。この点に関する不在者投票に関する調書の記載は誤記である。

(三五)について。

原告等主張の事実は否認する。投票管理者は代理投票の補助者を選任する際投票立会人より何等の異議もなかつたので同意したものと認めて選任したのである。

(三六)について。

投票録に原告等主張の如き誤記のあることは争はない。しかしそれは計画的に不実の記載をしたものではない。

(三七)について。

(イ)の投票所指定告示は各投票管理者が事務局職員に指示してこれをさせた。(ホ)の選挙会に関する告示は選挙長高木長義がこれをなした。

本件選挙は一選挙区一開票区制であるから公職選挙法第七九条の規定に基き開票事務を選挙会の事務に合せて行つたので、(ロ)乃至(ニ)の開票関係の告示をする必要はない。

原告等主張の各得票数及び得票差数は認める。

これを要するに本件選挙を無効とすべき選挙の管理執行に関する違法はないから原告の本訴請求は失当である(証拠省略)。

三、理  由

原告等主張の一の事実は当事者間に争がない。

被告等は原告等の主張する本件選挙無効の事由中本件選挙の効力に関する異議又は訴願において主張しなかつた新な事実は本訴においてこれを主張することは許されない、というのである。しかし同一選挙に関する事実である限り異議又は訴願において主張しなかつた新な事実であつても、訴訟においてこれを主張することを妨げないから、被告等の右主張は理由がない。

原告等主張の二の(六)について。

証人下岸満、副島みさ子の各証言、成立に争のない甲第一二号証中別件証人下岸満、副島みさ子に対する各尋問調書、甲第九号証の二(但し一部の記載を除く)(以上主として第二投票所関係)、証人橋本折助(但し一部の供述を除く)、石本亀久雄の各証言、成立に争のない甲第九号証の三(以上主として第三投票所関係)、証人塚島英雄、塚島宇平治の各証言、成立に争のない甲第九号証の五(以上主として第五投票所関係)、証人山口秀樹、高木登、下田又二(但し一部の供述を除く)の各証言、成立に争のない甲第九号証の六(以上主として第六投票所関係)、証人森本軍治(第一、二回、但し各一部の供述を除く)、豊永正義(第一、二回)、古瀬わき(第二回)、谷口善治(第二回)の各証言、成立に争のない甲第一二号証中別件証人豊永正義に対する尋問調書、甲第九号証の七(但し一部の記載を除く)(以上主として第七投票所関係)、証人林田俊雄、隈部十七男、吉田松蔵の各証言、成立に争のない甲第一二号証中別件証人隈部十七男に対する尋問調書、甲第九号証の八(但し一部の記載を除く)(以上主として第八投票所関係)、証人大場定男、酒井富三男の各証言、成立に争のない甲第九号証の九(以上主として第九投票所関係)、証人古瀬国一郎、相馬未明(但し一部の供述を除く)の各証言、成立に争のない甲第九号証の一〇(以上主として第一〇投票所関係)を綜合すると、本件選挙につき第二、第三及び第五乃至第一〇各投票所において代理投票を行う際、参会した各三名の投票立会人が一名宛又は同時に二名宛代理投票の補助者となり、投票立会人を補充しないで代理投票及び一般投票を続行し、かようにして第二投票所にあつては約五〇票、第三投票所にあつては少くも一四票以上、第五投票所にあつては少くも九票以上、第六投票所にあつては少くも二六票以上、第七投票所にあつては約七〇票、第八投票所にあつては少くも五〇票以上、第九投票所にあつては約八票、第一〇投票所にあつては一票、少くも以上合計二二八票以上の代理投票とこれより遙かに多数の一般投票が行われた事実を認定するのに充分である。証人広瀬忠雄、橋本折助、下田又二、森本軍治(第一、二回)、相馬未明の各証言並に前記甲第九号証の二、七及び八の記載中叙上の認定にそわない部分は信用することができないし、その他に該認定を覆すべき証拠はない。

第四投票所において投票立会人が代理投票の補助者となつたことについては、その事実を認むべき証拠がない。かえつて証人松本金三郎、里見旭の各証言並に成立に争のない甲第九号証の四によると、そのような事実がなかつたことが認められるから、この点に関する原告等の主張は採用しない。

凡そ投票立会人は投票管理者の諮問に答え一般投票及び代理投票が自由且つ公正に行われることを監視する職責を有し、代理投票の補助者は投票記載場所において二名の内一名が投票者の指示する候補者の氏名を投票用紙に代理記載し他の一名は投票者の指示するとおり代理記載のなされることを監視するものであることはいうまでもないことである。それ故同一人が投票立会人と代理投票の補助者を同時に兼ねることはその職務の性質上許されないものといわなければならない。従つて投票立会人が代理投票の補助者となりその他の投票立会人が三名に達しない場合に、投票立会人を補充しないで代理投票を行うことは公職選挙法第三八条第二項の規定に違反すること勿論である。本件においてはこのような違法管理のもとに行われた代理投票及び一般投票の総数を確定することは不可能であるが、前示認定の事実からみて第一〇投票所の分を不問に付してもその総数は如何に少く見積つても五〇〇票を下らないものと推認される。そうして本件市長選挙は当選者の得票数九、九八八票、次点者の得票数九、七四一票、当落の差数二四七票で、本件市議会議員選挙は最高位当選者の得票数六三九票、最下位当選者の得票数三三八票、次点者の得票数三三七票、当落の差数三〇二票乃至一票であることは当事者間に争がないから、前示選挙管理の違法は本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものといわなければならない。

同(三七)の(イ)(ニ)(ホ)について。

証人森雄偉、永野藤衛、本多繁行、高木長義(第二回)、隈部十七男の各証言を綜合し、これに証人林田貞一(第一、二回)、広瀬忠雄、橋本折助、松本金三郎、塚島英雄、山口秀樹、森本軍治(第二回)、林田俊雄、古瀬国一郎の各証言を斟酌すると、本件選挙について第一乃至第一〇の各投票管理者は、選挙の期日から少くも五日前に投票所を告示しなければならないにかかわらず全然その告示をなさなかつたことが認められる。もつとも乙第一号証は第一乃至第一〇投票所の告示の起案書であつて、証人前田カズノ、伊藤昇(第二回)の各証言によると、右起案書は市委員会の書記伊藤昇の依頼によつて島原市役所吏員である前田カズノが作成したことが認められるけれども、その作成時期に関する右各証人並に証人伊藤重勝の証言はにわかに信用することができない。この種の起案書に多少の不備は時に免れないことではあるが、乙第一号証の右告示起案書には起案及び決裁の日時や起案書に基き告示文書を浄書した場合の浄書者の認印がないだけでなく、告示責任者である各投票管理者の認印及び浄書した告示文書との契印もないので本件選挙前に作成された起案書とは認め難い。又前記証人伊藤昇の証言中には右起案書を書いた者にそのとおり更に一通浄書させてこれを掲示したかのような供述があるけれども、該起案書を作成した前記証人前田カズノ証言によると同人は右起案書のような告示文書を浄書した事実がないことが認められる。その他に投票所の告示文書が作成されたこと及びその文書が告示されたことを認め得る証拠はない。

それのみならず仮に証人伊藤昇の証言の如く乙第一号証の起案書のような告示文書が作成告示されたとしても、その告示は以下説明の理由によつて適法の告示とはいえない。すなわち証人内藤俊子の証言によると、本件選挙関係の告示は島原市の告示と同様当時の同市役所の掲示台に告示文書を掲示する方式でなされていたのであるが、告示文書が用紙数葉に表裏にわたつて記載されている場合でもその数葉を重ねてその右肩に紙縒を通しこれを掲示台の釘に吊していたこと、しかも掲示台の前面には金網を張り裏面出入口の扉には旋錠をしていたので、たまたま表に向いた告示文書の一用紙の半面しか展示されない状態であつたことが認められる。従つて乙第一号証の起案書のような用紙数葉に表裏にわたつて記載した告示文書を右のような方法で掲示しても、それは単なる形式に止り告示の目的を達することは不可能であるから告示しなかつたと殆んど異るところはない。

次に本件選挙は一選挙区一開票区制であつて開票事務は選挙会の事務に合せて行つたことは、成立に争のない甲第一〇号証の一、二によつて明である。従つてこの場合には選挙長において予め選挙会の場所及び日時を告示すれば足り、開票管理者において開票の場所及び日時を指定し告示する必要はないし、選挙長以外に開票管理者はないのであるから、原告等の主張中開票の場所及び日時の指定告示がなされなかつたという点は理由がない。そこで以下選挙会の場所及び日時の公示がなされたか否かについて検討するに、乙第二号証の二一は本件選挙会の場所及び日時の告示起案書であるが、起案及び決裁の日時の記載、浄書者の認印及び告示文書との契印がなく且つ告示責任者である選挙長の認印欄には選挙長でないものの認印がある等粗漏が多いだけでなく、選挙の日時は「昭和二十六年四月二十三日午後八時」と記載しているけれども、これを表裏両面から仔細に観察すると、「二十三」の三字を記載した部分だけ紙質が薄くなつて「インク」の色も他の部分より濃く、前に記載してあつた文字を字体を止めないように消してその跡に右の三字を記載した形跡が極めて顕著である。しかも証人長岡健次の証言並に原告本人尋問の結果によると、原告が昭和二十八年二月十二日市委員会事務局において当時同委員会に勤務していた右長岡健次の立会のもとに右起案書を見分した際は、「二十三」と記載している部分は「二十四」と記載してあつたことを認めることができる。叙上の事実と証人森雄偉、本多繁行、高木長義(第二回)及び右長岡健次の各証言を綜合すると、本件選挙会の場所及び日時の告示は全然なされなかつたことが認められる。証人伊藤昇(第二、三回)、伊藤重勝の各証言中右認定に反する部分は信用することができないし、その他に該認定を左右するに足る証拠はない。なお仮に選挙会の場所及び日時の告示がなされたとしても、それは選挙会の日時を昭和二十六年四月二十四日午後八時として告示したものと認むる外はなく、同月二十三日午後八時として告示したと認むべき証拠はない。しかるに本件選挙会は同年四月二十三日午後八時より開かれたことは前示甲第一〇号証の一、二によつて明であるから、右公示はもとより不適法といわなければならない。

以上認定のとおりいづれにしても本件選挙について投票所の告示及び選挙会の告示が適法になされたものとは到底認められないのである。ところでこれらの告示が適法になされない場合には、投票を棄権するものを生じ又開票及び選挙会の事務が公正に行われることを監視するため参観の権利を有する一般選挙人に参観の機会を与えず又は少くもその機会を不当に制限する結果となり、これらの事務が公正に行われたことを保証し難いから、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものといわなければならない。もつとも成立に争のない乙第一二号証によると、本件選挙については投票所を表示した投票所入場券が発行された事実を認め得るけれども、投票所入場券は選挙人名簿に登載されていない選挙人には交付されないし、選挙人名簿に登載された選挙人でもその交付を受けないこともあるから、このような入場券を発行したという一事によつて選挙の結果に異動を及ぼす虞がないとはいえない。

叙上説明のとおり本件選挙は数種の違法管理のもとに行われ、それらの違法は仮にその一つだけでは選挙の結果に異動を及ぼす虞がないとしても、これを綜合考察すれば多分にその虞があるものといわなければならない。従つて爾余の争点について判断するまでもなく本件選挙はいづれも全部無効たることを免れない。

そこで原告の本訴請求を正当と認め、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九四条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 森静雄 竹下利之右衛門 高次三吉)

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