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福岡高等裁判所 昭和26年(ネ)517号 判決

控訴人警察長が昭和二十四年六月十二日被控訴人に対しなした停職の懲戒処分は無効であることを確認する。

被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その二を被控訴人の負担とし、その一を控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は、本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする、との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において、控訴人が主張する被控訴人の規律違反というのは、(イ)住居侵入により告訴されたことにかかる住居侵入の事実、(ロ)猟銃の譲渡に関する事実、(ハ)猟銃譲渡の斡旋に関する事実、(ニ)警察長を排斥するような行為に関する事実、(ホ)松田寿太郎等に暴行した事実、(ヘ)無賃乗車をした事実、(ト)駐在所に這入り勝手に帳簿を検閲した事実、(チ)職権を濫用して富永実方を臨検した事実等を指すものであると述べた(証拠省略)、控訴代理人において、被控訴人に控訴人主張の前記規律違反の事実があつたことは否認する。且右事実は山田町警察署懲戒委員会に具申されたことはなく、同委員会も亦被控訴人に対し、それらの事実が同委員会の審理に付された旨の通知をなしたこともないと述べ(証拠省略)た外、原判決当該摘示と同一であるから、これを引用する。(但し原判決書一枚目裏十行に「山田町」とある次に「(現在市制施行され山田市となる。以下山田町とあるはすべて山田市(当時山田町)と読みかえるものとする。)」と挿入する。)

三、理  由

被控訴人が山田町警察の警部補であつたこと及び控訴人警察長が被控訴人に対し昭和二十四年六月十二日停職の懲戒処分をなし、次いで昭和二十五年五月十二日なされた懲戒委員会の懲戒免職の決議にもとずく勧告に従つて同月十六日免職の懲戒処分をなしたことは、いずれも当事者間に争のないところである。

ところで本件における第一の争点である控訴人警察長が被控訴人に対しなした停職の懲戒処分の無効であること及び第二の争点である控訴人警察長が被控訴人に対しなした免職の懲戒処分の効力に関し、後記懲戒委員会の審査手続の適否の点を除くその余の点すなわち懲戒委員会の審査決議と控訴人警察長の懲戒処分との牽連関係、懲戒委員会が審査決議をなすに要する定足数の問題、控訴人警察長の懲戒委員会に対する審査要求が所定の者の懲戒申立にもとずいてなされ手続上のかしの存しなかつたことの諸点については、当裁判所の判断もすべて原判決の説示するところと同一であるから、右理由の記載(原判決書九枚目裏六行から十六枚目裏末行まで。但し十二枚目裏三行から十三枚目裏六行までを除き十三枚目裏末行に「第八十六条」とあるを「第八十八条」と訂正する。)を引用する。

被控訴人は、本件懲戒委員会は、その審理を行うに当り予め被審人たる被控訴人に懲戒申立書の写を送付せず且被控訴人の承諾がないのにかかわらず審査期日の通知と該期日との間に所定の期間を置かずして強引に審理を進め本件懲戒免職の決議をなし、その間被控訴人が弁護人の選任及び証拠提出の機会を与えなかつたのであるから、その審査には重大な手続違背の違法があり従つて本件懲戒免職の決議は違法であると主張するので、この点について判断することとする。

なるほど山田町警察基本規程第九十四条第一項には「懲戒委員会の委員長は申立てられた者に対し懲戒委員会に於ける審理の期日及び場所を通知するとともに申立てられた者に対しては申立書の写を送付しなければならない」と規定し、更に同条第二項には「懲戒委員会の審理は本人の承諾がない限り前項の通知を発してから十五日以内又は六十日以後はこれを行うことが出来ない」と規定し又その第九十六条には「申立てられた者……は自己の側の証人の呼出を要求し自己に規律違反がないことを証明する証拠の審理を請求することが出来る、申立てられた者……は委員会の審理期日の三日前までに証人の氏名及び住所を懲戒委員会の委員長に通知するとともに必要と認める証拠を提出するものとする、申立てられた者……は弁護を希望する山田町警察の警察職員の中から自ら選んだ者の弁護を受けることが出来る」と規定してあるところ、成立に争のない甲第一号証に原審証人藤山軍治、松岡繁伴の各証言及び原審並に当審における被控訴本人訊問の結果を綜合すれば、本件懲戒委員会がその審査を行うに当り懲戒申立書の写を被審人たる被控訴人に送付しなかつたことを認め得べく又被控訴人に審査期日の通知がなされたのは該期日の三日前であつたことは当事者間に争のないところである。そこでこれらの点が被控訴人の主張するように、懲戒委員会の審査手続に関する重大なかしに当るか否かを審究するに、前掲基本規程に懲戒委員会の委員長は予め被審人に対し懲戒申立書の写を送付すべき旨定められた所以のものは、被審人をして予め自己が如何なる事由により懲戒を申立てられたかを知らしめ、もつてその防禦方法の準備をなす機会を与えるにあるものと解すべきところ、原審における証人藤山軍治の証言及び控訴人本人訊問の結果により成立を認め得る乙第二号証懲戒申立書の記載と前顕甲第一号証通知書の記載とを対照するに、右懲戒申立書に被控訴人を懲戒に付すべき事由たる規律違反の内容として記載せられた同一の事実が右通知書に申立事由としてそのままの文句で記載せられていることが明であつて、被控訴人の原審における本人訊問の結果によれば右甲第一号証通知書が本件懲戒委員会における審査の期日及び場所の通知として被控訴人に送達せられたものであることが認められる。それで本件の場合仮に懲戒委員会が前掲基本規程に則り右懲戒申立書の写を予め被審人たる被控訴人に送付したとしても被控訴人は該申立書の写によつては、懲戒申立の事由たる規律違反の事実について、前記通知書に申立事由として記載せられた事実以上のことは知り得なかつた筈であるから、被控訴人が予め自己が如何なる事由により懲戒申立を受けたかを知り得るという点においては、前記の如き申立事由の記載ある通知書の送達を受けた以上、懲戒申立書の写の送付を受けたことと結果的にはいささかも差異はなかつたものということができる。かように考えると懲戒委員会が被控訴人に対し予め懲戒申立書の写を送付しなかつたことをもつて実質上被控訴人の利害関係に重大な影響を及ぼすべき手続上のかしであるとはいい難い。もつとも前記懲戒申立書に規律違反の内容として記載せられた事実従つて前記通知書に申立事由として記載せられた事実は、いささか抽象的に過ぎ、審査の対象となるべき規律違反の事実を被審人たる被控訴人に具体的に知らしめるという点において、やや欠くるところがないではないけれども、これは右懲戒申立書に記載せられた懲戒申立の事由たる規律違反事実の記載内容の当否に関することであつて、該規律違反の事実を記載した懲戒申立書の写を送付しなかつたことが手続上重大なかしとなるか否かということとは別個の問題である。而して前記基本規程第九十四条第一項において、被審人に申立書の写を送付しなければならないというのは、申立書の写をそのまま送付すればよいということであつて、該申立書の規律違反事実の記載が抽象的である場合には、これを具体的な事実に書き直した上、送付すべきことを要求した趣旨ではないと解すべきである。叙上の理由により前記通知書の送達があつた以上、懲戒申立書の写を送付しなかつたことをもつて、直ちに懲戒委員会の審査手続に重大なかしが存するものとは断じ難い。

次に前記基本規程に、被審人の承諾がない限り懲戒委員会の審査期日の通知と該期日との間に所定の期間をおくべきことを定めた所以のものは、被審人をして懲戒に付せられた事由に対する弁明と反証の準備をなす機会を与えるにあるものと解すべきところ、本件についてみるに、成立に争のない甲第四号証に原審証人藤山軍治、松岡繁伴の各証言及び原審における被告懲戒委員会代表者並に被控訴人各本人訊問の結果(被控訴本人は一部)を綜合すれば、被控訴人は昭和二十五年五月十二日開かれた本件懲戒委員会に出頭し、開会劈頭該委員会の構成された定足数に異議を留めると共に審査期日とこれが通知との間に所定期間を存しなかつたことについても一応抗議したけれども、この所定期間を存しなかつた点については左程これを固執することなく該委員会における控訴人主張のような規律違反の事実について審査の進行に応じ種々弁明反駁し、反証として証人笹尾正人の取調を求めた上、これが審査を終結したものであることを認め得べく、右認定に反する原審並に当審における被控訴本人の供述は前顕各証拠に照して措信し難く、他にこれを動かすべき証拠は存しない。そうだとすれば被控訴人は本件懲戒委員会が前記所定期間を存しなかつたことにつき一応軽い意味での異議を申出でたけれども後にこれを撤回したもので、該基本規程にいう承諾をなしたものと認めるのを相当とするから、この点に関し審査手続に違法があるとなす被控訴人の主張は採用の限りでない。そして以上認定の審査手続の経過に鑑みるときは、本件懲戒委員会は被審人たる被控訴人に対し前記基本規程第九十六条にいう反証の取調の請求及び弁護人選任の機会を与えなかつたものと認めることはできないので、結局本件懲戒委員会の採つた審査決議には、前記懲戒申立書の写を被控訴人に送付しなかつた点において、実質上影響の少い軽微な手続上のかしはあつたとしても、これを消取すべき重大な違法が存するものということはできない。

しからば右懲戒委員会の審査決議にもとずく勧告により、控訴人警察長が被控訴人に対しなした本件免職の懲戒処分も亦これを取消すべき重大な違法は存しないものというべきであるから、被控訴人の本訴請求は、前記停職の懲戒処分の無効確認を求める部分に限りこれを認容すべく、その余は理由がないことに帰するので、これが棄却を免れない。

よつて右と一部符合しない原判決を変更すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第九十六条、第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野田三夫 川井立夫 天野清治)

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