大判例

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福岡高等裁判所 昭和26年(ネ)640号 判決

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。原判決書添付目録記載の不動産が控訴人の所有であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決並びに「被控訴人の附帯控訴を棄却する。」との判決を求め、被控訴代理人は答弁並びに附帯控訴の各趣旨として主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において、当審証人蒲原トウ、中島くい、当審における控訴本人堤安一郎尋問の結果を援用し、被控訴代理人において、当審証人弟子丸千太郎の証言を援用した外は、原判決書当該摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

三、理  由

被控訴人が控訴人の長男亡堤辰夫の長男であること、被控訴人主張の本件不動産につき昭和二十二年九月四日佐賀地方法務局受附第三八二〇号を以つて、控訴人から被控訴人名義に贈与による所有権移転登記が為されていることは当事者間争のないところである。

控訴人は右登記は虚偽仮装の贈与に基くもので真実控訴人において被控訴人に本件不動産を贈与したものでないと主張し、原審並びに当審における控訴本人堤安一郎は右主張に副う供述をしているけれども、右供述は後記証拠と対照して措信し難く、他に右主張事実を認めるに足る証拠はなく、却つて右登記の存在する事実と、成立に争のない乙第一号証、同第二号証、同第三号証の一、二、同第四号証の一乃至五、同第五号証の一乃至四原審並びに当審証人弟子丸千太郎の各証言、原審における被控訴法定代理人堤アヤ子尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すれば、本件不動産は本件登記の為された日の前日において、真実控訴人から被控訴人に対し贈与された事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。しからば本件不動産は現在既に被控訴人の所有であつて控訴人の所有でないから控訴人の所有であることの確認並びに該所有権を有することを前提として本件所有権移転登記の抹消を求める控訴人の本訴請求は理由がない。といわねばならない。なお控訴人は右所有権移転登記申請が当時満三歳の意思無能力者たる被控訴人本人の名義において為され、法定代理人の代理による申請の形式を取つていないから、該登記は無効であると主張するけれども、登記は不動産に関する権利変動の効力発生要件ではなく、既に効力の発生した権利の変動を第三者に対抗する要件たるに過ぎないのであるから、右のような形式的要件を具備しない登記の申請と雖も、登記官吏によつて受理せられ(もつとも登記官吏はかかる場合にこれが実質的審査権限を有しないので、受理せられるのは常であるが)、一旦登記が完了せられた場合には、かかる登記と雖も、前記の如く実体的権利関係に適合する以上は公示作用を有する登記としての価値に何等欠ぐるところなく、当事者及び第三者はそれが為めに特に不利益を蒙ることはあり得ないのみならず、登記の申請が単に形式的要件を欠ぐの故を以つて直ちにその経由を完了した登記までも無効とするならば、かかる登記を信頼せる第三者の利益を害すること甚しく、却つて不動産取引の安全を著しく阻害するものといわねばならない。

されば本件登記の有効なること勿論である。又、若し本件登記前に本件不動産が贈与されたものではなくして、当審における控訴本人堤安一郎の供述の如く、乙第一号証の贈与証が控訴人から被控訴人の親権者たる母アヤ子に交付された日が登記後の昭和二十二年九月末頃でその際に贈与が為されたもの(右控訴本人の供述中右乙第一号証を右アヤ子に交付したのは、贈与の意思でしたものではないとの部分は措信しない)としても、かくの如く登記当時には実体上の権利関係が欠げていたとて後日になつてその登記内容に適合する実体関係が存在するようになつたときは、その間に当該不動産につき登記上利害を有する第三者の出現することなき限り、第三者の利益を害するおそれもないのであるから、かような登記と雖も亦有効であること勿論である。なお控訴人は被控訴人に対し既に本件不動産を贈与し最早本件不動産について何等の利害関係をも有していないのであり、又若し贈与による所有権移転登記が完了していないとすれば控訴人は被控訴人に対し該登記を為すべき登記義務者の立場にあるものであるから、被控訴人名義の本件贈与登記自体が本来有効たると無効たるとを問わず、控訴人においてこれが抹消を求める権利を有するものではない。しからば控訴人の本件抹消登記を求める請求は失当であつて到底採用の限りでない。

よつて原判決中控訴人の本訴請求中その一部を棄却した部分は正当なるも、認容した部分は失当であるから、控訴人の控訴は理由なく被控訴人の附帯控訴は理由があるので、民事訴訟法第三百八十六条、第三百八十四条、第九十六条、第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原国朝 二階信一 天野清治)

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