福岡高等裁判所 昭和26年(ネ)837号 判決
控訴代理人は「原判決を取消す。原判決添付第一乃至第三目録記載の各農地(但し、第三目録中に反別「三畝十七歩」とあるのは「二畝十七歩」の誤記であるから訂正する)につき訴外三重野辰治の訴願に対し、被控訴人が昭和二十四年五月二十四日になした裁決並に同年八月十二日及び同年十月二十八日になした各更正決定はいづれもこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」という判決を求め、被控訴代理人は主文と同趣旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において「(一)被控訴人は原判決添付第一乃至第三目録(以下単に第一乃至第三目録と称する)記載の本件各農地につき訴外三重野辰治の訴願に対し、昭和二十四年五月二十四日先に売渡計画において控訴人を売渡の相手方と定めたのを取消してその相手方を訴願人三重野辰治とする旨の本件裁決(以下原裁決と称する)をなしたことは既に陳述したとおりであるが、被控訴人はその後同年八月十二日原裁決を別紙第一次更正決定のとおり更正する旨の決定をなし、更に同年十月二十八日右更正決定を別紙第二次更正決定のとおり更正する旨の決定をしたので、当審において請求の趣旨を拡張し右各更正決定についてもこれが取消を求める。(二)右各更正決定はそれぞれ原裁決又は第一次更正決定を全部にわたり一応取消した上新な裁決をしたものであるから、その裁決取消の訴の出訴期間は最終の更正決定のなされた日を基準とすべきものである。そうして原裁決に対する本件訴は昭和二十四年十月二十六日に提起されたのであるから適法である。(三)仮に原裁決の日から出訴期間を起算すべきものとし原裁決取消の本件訴は出訴期間経過後の訴であるとしても、それは正当な事由によつて出訴期間を遵守することができなかつたのであつて、自作農創設特別措置法第四十七条の二に定める訴についても行政事件訴訟特例法第五条第三項但書の適用があるものと解すべきであるから、本件訴はなお適法である。」と陳述し、被控訴代理人において、「(一)被控訴人が昭和二十四年八月十二日及び同年十月二十八日の両度にそれぞれ別紙第一次及び第二次更正決定のような決定をしたことは認める。しかしこれらの更正決定は原裁決又は第一次更正決定の一部に事実の誤認があつたのでその部分を更正しただけであつて、原裁決又は第一次更正決定を全面的に取消して新な裁決をしたものではない。(二)第一目録記載の(一)乃至(三)の農地は原裁決並に第一次及び第二次の更正決定の対象となつていない農地である。従つてこれらの農地に関する本件訴は既にこの点で不適法である。(三)又第二目録及び第三目録記載の農地は原裁決の対象にはなつているが、第一次及び第二次の更正決定の対象ではないから、これらの更正決定の取消に干する本件訴とは無関係である。(四)仮にそうでないとしても、これらの更正決定の取消を求めるには第一審裁判所に新訴を提起すべきであつて、第二審に至つて請求の趣旨拡張の方式によつてその取消を求めることは許されない。仮にそれが許されるとしても、控訴人が請求の趣旨を拡張して各更正決定の取消を求めたのは、これらの更正決定書が訴願人に交付された日から起算して自作農創設特別措置法第四十七条の二所定の出訴期間を経過した後であつて同条の出訴期間には行政事件訴訟特例法第五条第三項但書の適用がないから、右各更正決定の取消を求める本件訴は不適法である」と陳述した外、いづれも原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する(立証省略)。
三、理 由
臼杵町農地委員会が昭和二十三年十一月十三日(原判決事実摘示中に「十一月二十六日」とあるのは成立に争のない乙第二十一号証の訴願書の附属書類に照し誤記と認める)先に自作農創設特別措置法第三条第一項第一号の規定に基き政府において買収した第二及び第三目録記載の各農地を控訴人に売渡す旨の売渡計画を定めたところ、これに対し訴外三重野辰治より異議の手続を経て被控訴人に対し訴願の申立をしたので、被控訴人は昭和二十四年五月二十四日右各農地について控訴人を売渡の相手方としたのを取消して右訴願人を売渡の相手方とする旨の原裁決をなし、次で同年八月十二日及び同年十月二十八日の両度にそれぞれ別紙第一次及び第二次の更正決定をしたことは当時者間に争がない。
そこで右原裁決並に右各更正決定の取消を求める本件各訴の適否について検討する。控訴人は第一目録記載の各農地についても原裁決並に各更正決定の取消を求めるのであるが、成立に争のない乙第一号証の一乃至三の裁決書及び各更正決定書によれば、第一目録記載の各農地は右原裁決及び各更正決定の目的物件に属せず他に該農地について適法の訴願裁決を経由した事実を認むべき証拠がないから、これらの農地に関する本件各訴は不適法として却下しなければならない。
次に成立に争のない乙第十九号証によると、第二及び第三目録記載の各農地についてなされた原裁決書は昭和二十四年六月八日訴願人の代理人に交付されたことが認められるから、原裁決に対する本件取消の訴は、自作農創設特別措置法第四十七条の二第一項但書の規定によつて、原裁決のなされた日すなわち原裁決書が右訴願人の代理人に交付された日から二箇月以内に提起すべきであつて、原裁決に対しその後更正決定がなされたからといつて、その更正決定のなされた日を基準として出訴期間を定むべきではない。ただ更正決定によつて新な不服事由を生じたため出訴期間を遵守することができなかつた場合には訴の追完を許されるけれども、本件においてはそのような追完の事由は認められない。それは前示乙第一号証の一乃至三を対照することによつて明なように、第一次の更正決定は第二目録記載の(一五)の農地についてその売渡計画を取消し、且つ第三目録記載の農地について訴願を却下した外その他は原裁決と同様の主文を便宜上再録したに過ぎない。そうして右(一五)の農地の売渡計画を取消したのは、控訴人を売渡の相手方としない点において原裁決と異るところがなく、右第三目録の農地につき訴願を却下したのは却つて控訴人に有利であるから、第一次更正決定によつて控訴人のため新な不服事由を生じたものではない。又第二次の更正決定は第一次更正決定によつて変更した部分を更に変更して結局原裁決と全く同一の結果となつたのであるから、第二次更正決定によつて新な不服事由を生じたものともいえないからである。
従つて第二及び第三目録記載の農地に関する原裁決取消の本件訴は原裁決書の交付の日より二箇月目に当る昭和二十四年八月八日までに提起しなければならない。しかるに右訴が提起されたのは記録上明なように同年十月二十六日であつて、出訴期間経過後であるから該訴は不適法である。
控訴人はこの点に関し出訴期間を遵守することができなかつたのは正当の事由によるものであると主張する。そこでその事由の存否について審按するに、臼杵町農地委員会書記の作成文書として成立に争のない乙第二十二号証及び当審証人稲田仲勝の証言の一部を綜合し本件口頭弁論の全趣旨を斟酌すると、控訴人は昭和二十四年六月二十日頃臼杵町農地委員会の当該係員の意見として原裁決に対する出訴期間は六箇月であることを聞知したのであるが、その後同年十月十日該係員が右見解は誤りであつたとしてこれを取消したことを聞知した事実が認められる。(右証人の証言中叙上の認定にそわない部分は信用することができないし、他にその認定を左右すべき証拠もない。)そこで控訴人が出訴期間を遵守することができなかつたのは、農地委員会の当該係員の誤つた見解に基因するものとして一応正当の事由によるものと認められる。しかし既に控訴人が右見解の誤りであることを知つた以上は、本件の事案に鑑み遅くもその後一週間以内には出訴することが可能であつたといわなければならない。しかるに原裁決に対する本件取消の訴が提起されたのは前示のとおり昭和二十四年十月二十六日であつて、控訴人が右見解の誤りであつたことを知つてから二週間以上も経過した後であるから、これをなお正当の事由によるものとはいえない。従つて該訴は不適法として却下する外はない。
更に第一次及び第二次の更正決定に対する本件取消の訴の適否について考えるに、成立に争のない乙第二十号証によると第一次の更正決定書は昭和二十四年十月十一日、第二次の更正決定書は同年十一月五日それぞれ訴願人の代理人に交付されたことが認められる。従つてこれらの更正決定に対する取消の訴は自作農創設特別措置法第四十七条の二第一項の法意に鑑み右更正決定書交付の日よりそれぞれ二箇月以内に提起すべきものと解するのが相当である。しかるに控訴人が当審において請求を拡張しこれらの更正決定に対し取消の訴を提起したのは記録上明なように昭和二十七年三月十日であつて、出訴期間経過後であるから、該訴も不適法として却下する外はない。(仮に自作農創設特別措置法による行政庁の裁決に対する更正決定の取消を求める訴については同法第四十七条の二第一項の適用がなく行政事件訴訟特例法第五条の出訴期間によるべきだとしても、本件更正決定に対する取消の訴はなお出訴期間経過後の訴であり、しかも乙第一号証の二、三は昭和二十四年十二月二日の原審口頭弁論期日に提出されているのであるから、控訴人はつとに右更正決定のあつたことを知つていた筈である。従つてこの訴はいづれにしても不適法である。)
そこで原裁決に対する本件取消の訴を不適法として却下した原判決は相当であつて本件控訴は理由がなく、又本件各更正決定に対する取消の訴も不適法として却下すべきものであるから、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 森静雄 竹下利之右衛門 高次三吉)