福岡高等裁判所 昭和27年(ネ)425号 判決
訴訟費用中被控訴人国と控訴人との間に生じた控訴費用は、控訴人の負担とし、被控訴人大分県知事と控訴人との間に生じた部分は、第一、二審共控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和二十五年三月一日、臼杵市大字望月字関田四十三番田一反一畝十九歩につきなした買収処分は無効であることを確認する。」訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人大分県知事代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人国代表者は当審に於けるいづれの本件口頭弁論期日にも出頭せず、答弁書其の他の準備書面をも提出しない。よつて出頭した控訴代理人に弁論を命じたところ、同代理人は原判決事実摘示の通り原審口頭弁論の結果を陳述した。当事者双方の事実上並に証拠の提出、援用、認否に関する陳述は、被控訴人大分県知事代理人に於て証拠として、新に甲第五乃至第七号証(但し第五号証は一、二)を提出し、当審証人足立貫一、安部登、久保田信雄、伊藤正の各証言並に当審に於ける控訴本人尋問の結果を各援用し、被控訴人大分県知事代理人に於て、当審証人久保田信雄、伊藤正の各証言の一部を利益に援用した外、原判決事実摘示と同一だから、ここに之を引用する。
三、理 由
先づ大分県知事に対する訴の適否について判断する。
控訴人の本件訴の要旨は「臼杵市大字望月字関田四十三番田一反一畝十九歩は前主桑原新から控訴人に於て贈与を受け所有権を取得したものであるが、被控訴人は、登記簿上の所有名義人が桑原新であつたため同人を農地買収の相手方として本件買収処分に及んだ。しかし真実の所有者は控訴人で右買収処分は無効だから之が無効確認を求める」と謂うのである。農地買収処分の無効確認を求むる訴は、その行政処分の結果である法律関係の存否を争うというよりはむしろ当該行政処分自体の違法を攻撃してその無効宣言を求めようとする点に於て行政処分の取消変更を求める訴とその性格を同じくするものであるから、行政事件訴訟特例法第三条を類推して当該処分庁を被告とすることも妨げないものと謂うことも出来るであろう。しかしながら一の行政処分の無効確認を求むる訴に於て国及び当該行政庁を同時に被告とすることは許されないものと謂わねばならぬ。けだし国又は当該行政庁のいづれか一方に対する関係に於て、その買収処分が無効と確認されるに於ては、その判決は他方関係行政庁又は国をも拘束することは、行政事件訴訟特例法第十二条の明記するところである。そもそも行政処分の取消変更を求めるところの所謂抗告訴訟も、実質的には国(官庁以外の行政庁の為した処分については、その行政庁の属する公共団体)の処分の取消変更を求めるものに外ならないから、理論上は国(又は公共団体)を被告とすべきであるが、行政事件訴訟特例法第三条は、訴訟遂行の便宜上かかる訴については特に行政庁を被告とすべきことを規定したのである。従つて本件のような行政処分無効確認の訴においては、本来確認の対象たる権利又は法律関係の帰属する主体たる国を被告と為すのが本則であり、その本則に従つて国を被告として起す以上は、その外に更に県知事に対し農地買収処分の無効確認を求める法律上の利益は存しないものと謂わねばならない。従つて、控訴人の大分県知事に対する本件買収処分の無効確認を求める訴はその利益なしとして却下すべきものである。
次に本訴請求の当否に付て判断する。
自作農創設特別措置法による政府の農地買収については、単に登記簿上の記載に依拠して登記簿上の所有者を相手方として買収処分を行うべきものではなく、真実の所有者から、これを買収すべきものであることは因よりで、他に真実の所有者があるにも拘らず登記簿上の所有者を相手方としてなされた買収処分は違法で、之が取消を免れないことは勿論であるが、かかる買収処分が当然無効であつて、之が確認を求むる訴の提起を許すべきものであるか否かは、亦別個に之を考察して論定せねばならぬ。当時自作農創設事業につき一時に多数の案件をしかも急速に処理することを強く要請された処分庁としては、当該農地の帰属の認定につき、土地台帳、または登記簿等の公簿を有力な資料となすことはやむを得ない場合があり、若し右の如き違法処分をことごとく当然無効のものとして、真実の所有者よりその出訴期間に何等の制限を認め得ない無効確認の訴を許すとすれば、該処分によつて創設しようとした自作農の権利関係は長く不安定の状態におかれ、従つて急速かつ広範に自作農を創設し、以て我国農地制度の急速な民主化を図り、耕作者の地位の安定、農業生産力の発展を期して制定せられた自作農創設特別措置法の制定の趣旨は之により没却せらるる結果となる恐れがある。されば、何等の権限、根拠もなくして登記名義人(いわば純然たる虚偽の名義人)となつていた者を所有者として為された買収処分の如きは兎も角として、農地の所有者が之を第三者に譲渡したにも拘らずその移転登記を為さずに居る場合に、その登記名義人たる原所有者を所有者として為された該農地の買収処分は、瑕疵あるものとは云え、当然無効ではないと解するのが相当である。かかる場合にも真実の所有者は自作農創設特別措置法所定の不服申立により右違法処分を攻撃してその取消を求め、以て自己の権利を擁護し得るの途が開かれているのであるから、この方法によつて救済を求むべきであつて、之が出訴期間に一定の制限の存することは自創法制定の趣旨に照し止むを得ないところであるとしなければならない。されば、これを本件について見るに、控訴人は買収処分の対象である本件土地を訴外桑原新から譲受けた者であるが、本件買収当時まで移転登記が為されず、桑原新が依然として登記簿上の所有名義人であつたことは控訴人の自認するところであるから、右新を相手方としてなされた本件買収処分は、当然無効といえないことは前示説明する通りである。そうだとすれば本件農地の所有権が控訴人にあることを前提として、被控訴人国に対し之が買収処分の無効確認を求める控訴人の請求は理由がないものというの外はない。
よつて、控訴人の被控訴人大分県知事に対する訴は不適法として却下すべく、同被控訴人に対する請求を棄却した原判決部分は、不当だからこれを取消し、原判決中被控訴人国に対する請求を棄却した部分は、結局正当に帰するから同被控訴人に対する控訴は理由ないものとして棄却し、民事訴訟法第三百八十六条第三百八十四条第八十九条第九十六条第九十五条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 森静雄 竹下利之右衛門 高次三吉)