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福岡高等裁判所 昭和27年(ネ)487号 判決

控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並に証拠の提出援用認否は、被控訴代理人において「本件家督相続人指定の届出の委託確認の審判はその指定届出をなす当時既に確定していたものである」と陳述し、控訴代理人において右事実はこれを争わないと述べ且つ当審証人まさえ事橋瓜マサヱの証言を援用した外、いずれも原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

三、理  由

訴外江崎輝夫は昭和二十年三月十五日比島において戦死したこと及び輝夫の実姉訴外橋瓜マサヱの申立に基き、昭和二十四年八月四日福岡家庭裁判所八女支部において、輝夫の戦死前同人より右マサヱに対し被控訴人を輝夫の家督相続人に指定する旨の戸籍届出の委託があつたことを確認する旨の審判がなされ、その頃該審判が確定したことは当事者間に争がない。そうして成立に争のない乙第一号証の二によると、マサヱは右審判確定後同年八月二十七日福岡県八女郡岡山村役場に右委託による家督相続人指定の届出をしたことが認められる。

控訴人等は、右相続人指定の届出委託は全く虚構の事実であつて、その委託確認の審判は誤判であるから被控訴人は輝夫の家督相続人ではないと主張するのである。そこで先づ戸籍届出の委託確認の審判の効力について考えるに委託又は郵便に依る戸籍届出に関する法律によれば、戸籍届出の委託をした後届出人が死亡しその死亡後その委託に基き届書の提出があつた場合には、同法第一条第一項所定の事実すなわち、届出人が戦時又は事変に際し戦闘その他の公務に従事し自ら戸籍の届出をなすことが困難なため、その委託をなしたことについて、裁判所の確認を経なければ、戸籍吏はその届書を受理することができないのである。しかしこの種非訟事件の裁判は、利害関係人の利益及び公益を保護する見地から国家が私法行為に関し後見的乃至干渉的機能を果すため、一定の要件事実が具備する場合に私法行為の効力完成に必要な一の効力要件を供与すること自体を目的とするものであつて、その私法行為の効力を確定し又は右効力要件の供与に必要な要件事実の存否自体を確定することを目的とするものではなく、このような事項の終局的確定は本来訴訟の判決にまつべきものと解するのを相当とする。従つて前示法律に基く戸籍届出の委託確認の審判は、同法第一条第一項所定の戸籍届出の委託の事実が認められる場合に一応その事実を確認することによつて、身分上の私法行為の効力完成の、一要件としての委託による戸籍届出の届出人死亡後における受理要件を供与するに止り、届出委託の事実を終局的に確定するものではないから、委託確認の審判が確定しても訴訟においてその届出委託の事実を争うことを妨げない。

そこで更に本件家督相続人指定の届出委託があつたか否かについて検討しなければならない。成立に争のない甲第四号証の二(橋瓜マサヱ審問調書)、同号証の三(橋瓜恒夫審問調書)及び当審証人橋瓜マサヱの証言によると、被控訴人主張のような家督相続人指定の届出委託の事実があつたかのようであるが、この点に関する右各証拠はたやすく信用することができない。もつとも右各証拠並に成立に争のない甲第四号証の四、甲第五号証の二、乙第二及び第三号証によると、江崎輝夫は満洲において軍務に従事中休暇を得て昭和十七年末頃帰国した際、訴外原口界及びその妻であつた輝夫の姉亡シツの二女に当る被控訴人を江崎家の養女に貰い受けたことが認められる。ただ叙上の証拠によると被控訴人は輝夫の養女となつたかのようであるが、成立に争のない乙第一号証の二、乙第四号証、甲第四号証の四によると、被控訴人は昭和十八年十月三十日輝夫の養母スエノの養女として届出られているのみならず、輝夫と控訴人フクの婚姻後隣組に婚姻披露をした際被控訴人は輝夫の妹として披露され、且つ輝夫が比島戦線に出動してその後郷里において控訴人フクは一時被控訴人と同居していたが、その際被控訴人は控訴人フクを姉と呼んでいた事実も認められるので、被控訴人が果して輝夫の事実上の養女であつたとは断定し難い。仮に輝夫の事実上の養女であつたとしても、輝夫が被控訴人を自己の家督相続人に指定する意思であつたとはいえない。なぜならば、前示乙第四号証、甲第四号証の二及び三、甲第五号証の二、乙第一号証の二と原審における控訴人フクの本人尋問の結果を総合すると、輝夫は被控訴人を江崎家の養女に貰い受けて後満洲において知合つた控訴人フクと縁談がまとまり、婚姻のため昭和十八年十月帰国し同月二十七日婚姻式を挙げ、満洲に帰任後昭和十九年四月十五日婚姻届をなし、控訴人フクは婚姻後満洲に赴き輝夫の任地附近に居住し、輝夫が昭和十九年八月頃比島戦線に出動して後輝夫の郷里に帰つたことが認められるので、輝夫は戦時中軍務にあつたとはいえ満洲在勤当時は控訴人フクと同棲の機会があつたことが窺われるのである。さすれば婚姻前は兎に角婚姻後において輝夫が新婚の妻及び将来夫婦間に生れるかも知れない実子をおいて被控訴人を家督相続人に指定する意思であつたとは容易に首肯し得ないのである。

又前示証拠によると被控訴人を輝夫の養母スエノの養女として届出た実際の届出人は輝夫であつて、輝夫は控訴人フクと婚姻式を挙げて後三日目にその届出をしたことが認められるのである。もし輝夫が被控訴人を自己の養女として貰い受け被控訴人を家督相続人に指定する意思であつたとすれば、何故自己の養女として届出てなかつたかを疑わざるを得ない。しかも本件における総ての証拠を通観し、且つ本件口頭弁論の全趣旨を斟酌すると、輝夫が被控訴人主張のような家督相続人指定の届出委託をなしたということは、その委託を受けたという輝夫の姉橋瓜マサヱと同人からその事実を聞知したという同人の夫橋瓜恒夫以外にこれを知る者がなく、又原審証人斎藤八郎、同斎藤一二、同大石英三の各証言右斎藤八郎の証言によつて成立を認められる乙第五号証及び原審における控訴人フクの本人尋問の結果を総合すると、控訴人フクは輝夫の遺産に属する本件不動産を控訴人信夫に売渡す際、右斎藤八郎等を介して昭和二十三年盆過頃先ず橋瓜マサヱに該不動産の買受方を交渉したところ、マサヱは一応その買受を内諾しながらその後輝夫の兄嫁に買わせるのが順序だという理由で買受を拒絶しただけで、被控訴人が輝夫の家督相続人であるとか、その相続人指定の届出委託を受けたということは全然申出でなかつたことが認められるのであつて、これらの事実からみても被控訴人主張の家督相続人指定の届出委託の事実は到底これを認めることができない。従つて橋瓜マサヱの届出に係る本件家督相続人指定の届出は無効といわなければならないから、被控訴人は輝夫の家督相続人とは認められない。

さすれば被控訴人が輝夫の家督相続人であることを前提とする被控訴人の本訴請求は、爾余の争点について判断するまでもなく失当であるからこれを認容することができない。そこで右と趣旨を異にする原判決は不相当であつて本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森静雄 竹下利之右衛門 高次三吉)

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