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福岡高等裁判所 昭和27年(ネ)643号 判決

控訴代理人は「原判決を取消す。佐賀郡高木瀬村大字東高木字七本杉二百七十九番田三反三歩の中その二分の一につき、高木瀬村農業委員会が昭和二十三年十一月八日公告の訴外真崎繁一に売渡す売渡計画に対し、控訴人が同年十二月一日被控訴人に為した訴願に対する被控訴人の昭和二十四年三月三十一日の訴願棄却の裁決はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴代理人は「主文と同旨」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、

被控訴代理人に於て

(一)  本件農地に対する売渡計画(第一次計画)に対する控訴人の訴願につき、訴願棄却裁決のなされた後右裁決取消の本件訴訟の係属中、右計画とは別個に高木瀬村農業委員会(以下村委員会と略称する)に於て、昭和二十四年五月十四日売渡期日を昭和二十四年七月二日と定むる外、右第一次計画と内容同一の売渡計画(第二次計画)を樹立し、之が公告を経、之に対しては何等異議申立訴願提起もなく、昭和二十四年六月三十日佐賀県農業委員会(以下県委員会と略称す)の承認を得、同県知事は同年七月売渡の相手方たる控訴人及び訴外真崎繁一に夫々売渡通知書を交付し、昭和二十六年十月二十三日本件農地の各二分の一宛につき知事の売渡処分に基く所有権保存登記がなされた。よつて右第二次計画に基く売渡処分により右裁決の取消を求むる利益は存せざるに至つたものである。

(二)  原判決摘示の被控訴人の答弁事実中、抗弁として主張したところの趣旨は、控訴人は、本件訴願提起後裁決前現地に臨み本件農地の売渡範囲の確定のための土地分割に立会つた際、本件農地の売渡の相手方と指定された訴外真崎繁一に対し、同人に対する売渡に異議ないことを承諾すると共に村委員会に対しても同委員会の樹立した本件農地の売渡計画に何等の異議ないことを承諾したのであるから、之により村委員会に対しては異議申立権を放棄したものであり、又他面裁決取消の訴訟関係に於ては県委員会に対し権利保護請求権の放棄をなしたものと解すべきであるとの趣旨である。

(三)  訴外真崎繁一を本件農地の売渡の相手方と指定するに当り、同訴外人を本件農地の一時転貸人と認むる限り之が売渡計画樹立に付、県委員会の事前の承認を必要とするところ、本件計画に於ては事前に県委員会の承認は得ていないけれども、県委員会に於て訴願棄却の裁決により右計画を維持された以上、之により事後承認ありたるものとして右手続上の瑕疵は治癒せられたものと解すべきであるから、本件売渡計画には何等の違法もない。

(四)  村委員会が本件農地売渡計画を樹立するに当つては、予め現地に臨み売渡の相手方たる控訴人及び訴外繁一に対する売渡の範囲を確定するため本件農地を折半したのであるが、偶々手続の過誤により計画書にその範囲を明記しなかつたけれども、其の後本件訴願に対する被控訴人の裁決については裁決書の交付前に之が範囲を明確ならしめて図面を作成し、裁決書には右図面を添付し控訴人に送達せられているから、本件売渡計画の右手続上の瑕疵も亦治癒せられたものと解すべきである。

と述べ

控訴代理人に於て被控訴人の右主張事実に対する答弁として、

(一)の事実につき、被控訴人主張の売渡処分の通知が昭和二十四年七月中控訴人及び訴外繁一双方にあつたこと、及び昭和二十六年十月二十三日受附を以て控訴人並びに、右訴外人のため本件農地の各二分の一宛につき県知事の売渡処分に基く所有権保存登記のなされていることは認めるが、本件売渡計画以外に本件農地につき別個に売渡計画の樹立せられたことは否認する。右売渡処分の通知及び登記も控訴人に於ては本件売渡計画に基くものと信じていたため、右新たな売渡計画に対しては何等異議の申立訴願の提起等の不服申立はしなかつたのである。仮に被控訴人主張の如く新たな売渡計画が樹立せられたとしても、本件売渡計画に対する訴願裁決取消の訴訟係属中更に之と内容同一の売渡計画を樹立し、之に基き売渡処分をなすことは違法で許されないものである。

(四)については、控訴人の主張事実を否認する。村委員会は売渡計画公告前現地に臨み控訴人及び訴外繁一に対する売渡農地の範囲を確定したことはなく、単に机上にて双方に折半売渡に決し、控訴人に一反五畝訴外繁一に一反五畝一歩を売渡す旨公告し、被控訴人が訴願裁決書を作成するに及んで現地分割による売渡農地の範囲確定の必要を認め、その旨村委員会に指示したので、村委員会に於て昭和二十四年四月九日控訴人訴外人立会の上現地を分割して各一反五畝一歩五厘宛の図面を作成し、之を被控訴人に送付し、被控訴人は右図面を同年三月三十一日附作成の裁決書に添付して控訴人に之を送付し来つたものである。

と陳述した外、原判決事実摘示と同一であるからここに之を引用する(立証省略)。

三、理  由

先づ、被控訴人の当審に於ける(一)の主張について判断する。

公文書であるからその成立を認むる乙第二十三号証の一、二、三によれば、被控訴人主張の如く本件農地売渡計画の外、村委員会に於てその後に別個に本件農地につき右第一次計画と内容同一の売渡計画(但し売渡期日を除く)樹立せられ、之が公告を経て各売渡の相手方に通知し、何等異議申立もなくして同年六月二十日県委員会の承認を得たことが認められ、次で県知事が同年七月売渡の相手方たる控訴人及び訴外真崎繁一に対し、売渡通知書を交付し、昭和二十六年十月二十三日本件農地の各二分の一宛に付右売渡処分に基く所有権保存登記のなされた事実は当事者間に争のないところである。かくの如く第一次売渡計画に対する県委員会の訴願棄却の裁決につき之が取消の訴訟係属中右第一次計画と内容同一(但し売渡期日の点を除く)の第二次の売渡計画が樹立せられ、手続進行の上売渡処分完了した場合、第一次計画に於ける訴願棄却裁決取消の訴の運命はいかになるであろうか。思うに、右の第二次の売渡計画なるものは、特に第一次の計画を取消す旨を表明しないでも、同一農地に対する二重の売渡計画であることの性質上、当然第一次の計画を取消しその効力を滅却せしむる趣旨の下に樹立せられたものと認められる(現にその第二次の計画に基いてその後売渡処分が行われたものであることは、被控訴人の自認するところである)。ところが自作農創設特別措置法第十八条第五項第八条第二十条第一項によれば農地売渡計画につき訴願の提起があつたときは、そのすべてについて裁決があつた後に村委員会は遅滞なく当該農地売渡計画について県委員会の承認を受けねばならないし、売渡は県知事が右承認があつた農地売渡計画により売渡の相手方に対し売渡通知書を交付して、これをしなければならない旨規定せられており、他面訴願法第十六条によれば上級行政庁に於て為した裁決は下級行政庁を覊束する旨を規定していること等より考えると、原処分庁たる村委員会が訴願棄却裁決により維持せられた第一次の農地売渡計画の外に、右の様な別個の売渡計画を樹立することは、たとえその計画内容が売渡期日の点を除きその他は前計画内容と同一であるにもせよ、之を樹立すべき特段の公益上の必要ある場合でなければ許されないものと解するを相当とするところ、右公益上の必要があつたことについては被控訴人に於て何等主張立証しないところであるから、右第二次計画はいづれの点よりするも違法のものと断ずるの外はない。

ところで、右第二次計画が当然無効のものであるか、取消し得べきものに過ぎないかは亦大いに疑義の存するところであるけれども、仮りに無効のものと解するときは、本件裁決取消の訴の運命については何等の消長をも及ぼすものでないことは固よりである。又若し、取消し得べきものに過ぎないものとすれば、第二次計画は当然右第一次計画の効力を滅却する効力を有するものと謂わねばならないから、本訴は目的物を失い、利益なきに至つたかのようにも考えられる。併し乍ら第二次計画につきなお之が取消を求め得る限りは(自創法第四十七条の二行政事件訴訟特例法第五条第三項但書第五項に則り、なお第二次計画の取消訴訟を提起し得る余地あり)将来第二次計画が取消されたならば再び第一次計画の効力が復活することの予想され得る以上、第一次計画の訴願棄却裁決取消の訴も依然その利益を有するものと解するを相当とする。

以上いづれの点よりするも被控訴人の主張は理由なく排斥を免れない。

次に(二)の点について考察するに、原審並びに当審証人多々良伊作原審証人千綿亮次の証言によれば、本件売渡計画に於ける被控訴人の訴願裁決書の交付に先立ち、昭和二十四年四月九日村委員会の委員と控訴人及び訴外繁一が現地に臨んで本件農地を二分しその売渡農地の範囲を確定するに当り、控訴人に於て右農地の一半を訴外繁一に売渡すことにつき何等異議なくしてその範囲は確定せられたけれども、控訴人は一旦帰家して後同日再び村委員会会長を訪れ、右農地を分割して一半を同訴外人に売渡すことに不服の旨申出た事実に徴すると、これにより控訴人が直に以て本件農地計画に対する異議申立の権利を放棄したものとは認め難いばかりでなく、かかる異議申立権の放棄はその意思を明確に書面に表示して之を処分庁たる村委員会又は上級監督庁たる被控訴人に提出するか、又はかかる意思表示が上記各庁の公式の書面に録取せられてはじめてその効力を有するものというべく、単に口頭による意思表示のみによりては未だその効ないものと解せねばならぬ。而して又、行政処分の取消を求むる権利は私人に与えられた公法上の権利であつて、かかる権利は訴の提起前予め放棄するも何等の効力なきものと謂わねばならない。しかも尚、本件農地売渡計画の樹立は村委員会の権限に属し売渡申込者たる控訴人等は右農地の範囲確定につき何等の権限を有するものでなく、唯法により許された不服申立の方法により右処分の取消変更を求め得るに過ぎない。本件農地の売渡範囲の確定について売渡申込者たる控訴人及び訴外繁一の介入を許したのは、村委員会が事を円満に解決せんとする便宜の処置に出でたにすぎないものと解するの外はないから、何等権限なき事項に関してなされた控訴人の右の如き意思表示は村委員会の売渡計画に対し何等の効力を及ぼすものでないと同時に、控訴人も亦右意思表示により何等の拘束を受くるものでないから、本件農地売渡計画に対する不服申立の事件に於て控訴人が右意思表示と異る主張をなすことを妨ぐる何等の理由もないのである。之を要するに被控訴人の此の点に関する主張も理由がないから採用せぬ。

而して当裁判所の被控訴人の本案前の抗弁に対する法律上の判断が右の通りである外は原判決の理由と同一であるからここにこれを引用する。当審証人大岡富士江(第一、二回)同土橋トシ、同富安チエ、同真崎守松の各証言並びに甲第二十二号証の二乃至四の記載中原審認定の事実に副わない部分は、当裁判所の措信しないところで、其の他控訴人が当審に於て提出援用する証拠によるも右認定を左右することは出来ない。。

よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴はその理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条第八十九条第九十五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 森静雄 竹下利之右衛門 高次三吉)

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