福岡高等裁判所 昭和29年(う)1318号・昭29年(う)1319号 判決
刑事訴訟規則第四十六条第一項により公判調書に認印しなければならない裁判官は、その公判廷に列席した裁判官でなければならないことは言を俟たないところであるから、公判調書に裁判官として認印したものと、公判廷に裁判官として列席したと記載されている者とが異るときは、果していずれの裁判官が公判廷に列席しその公判調書に認印すべき権限ある者である全く不明であつて、同公判調書の記載の正確性が保障されないため、同公判調書は無効のものというの外なく、これによつてはその公判における裁判所の構成は勿論、その訴訟手続の適法に行われたかどうかもこれを知るに由ないものといわねばならない。
ところで、本件記録によると、原審第四回公判調書には、列席した「裁判官、第一回公判調書記載のとおり」とあり、その引用された同第一回公判調書をみると、列席した「裁判官永松益多」と記載されているので右第四回公判調書には、裁判官永松益多が列席し、同裁判官により判決の宣告のなされた趣旨の記載があるのにかかわらず裁判官認印欄には裁判官三浦の認印の存することが明らかであるから公判廷に列席して本件判決の宣告をした裁判官が誰であるか、従つて右公判調書に認印すべき権限ある裁判官の何人であるかが全く不明となり、前段説明したところにより同公判調書は、無効なものといわねばならない。してみれば原審第四回公判における裁判所の構成、同裁判官による判決の宣告が適法な方式を履践してなされたことの証明なきことに帰し、その訴訟手続における法令の違反が判決に影響を及ぼすことも明らかであるから、原判決は刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百七十九条に則り、破棄を免かれない。
(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 大曲壮次郎)