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福岡高等裁判所 昭和29年(う)1501号・昭29年(う)1494号 判決

刑法第九十六条の三第二項が、公務の適正な執行を妨害する罪の一類型として、国家又は公共団体の行う競売又は入札において、契約の相手方となる者がなす談合のうち、公正なる価格を害し、又は不正の利益を得る目的を以てする談合を規定していることから考察すると、かかる不正の目的を以てする談合はそれが競売又は入札の公正を害すべき行為であると同時に、契約の当事者として自由な競争又は入札をなす権利の濫用であつて、本来競争契約制度の本旨と相容れないものである点に、その可罰性を認めたものであることが明らかである。それで競争契約において、一般競争入札によると、指名競争入札によるとを問わず、その入札に際し、入札者間に談合が行われ、これが前同条所定の不正の目的を以てなされるときは、自由なる入札を妨害し、その公正を害することにおいて毫も差異はないのであるから、指名競争入札の場合について、同条の適用を除外すべき理由は存しないものと解すべきである。けだし、指名競争契約は会計法第二十九条但書、並びに予算決算及び会計令第九十二条の諸規定に基いて、契約の性質又は目的により一般の競争に付することを不利とし、或いは不適当とするものについて、入札者の資力、信用、工事能力等を勘案して、少数の特定業者を選択指名して入札資格者とし、その資格者をして入札を為さしめるというに止まり、競争入札に付するについて、予定価格並びに落札制限価格が定められ、その範囲内で競争入札により最低価格を入札した者と契約を締結する建前であるが、入札において最低入札価格が落札制限価格以下なればこれを無効とし予定価格を超えれば再入札に付することとされ、なお落札者がないときは随意契約によることとされる等競争の方法に関しては一般競争契約と何等異るところなく、競争入札たる実質は完全にこれを具備するものであつて、所論のように、指名入札においては、入札施行者が最低価格を入札した者と契約を締結するか否かの決定の自由が留保され、実質上競争入札でなく、単に一般普通の契約の申込に過ぎないものということはできないからである。

而して本件において、原判決に挙示の証拠によると、判示県道改修工事について指名競争入札が施行されるに当り、各入札者たる被告人等は互に通謀して判示の談合金を授受することとし判示星野建設株式会社を落札者たらしめるため、第一次入札及び再入札をそれぞれ判示価格で入札せしめ、他の入札者は該価格以上で入札することを協定したものであつて、右がいずれも不正の利益を得る目的を以てなされた場合にあたるものと認められること後段で説示するとおりであるから、現実には右第一次入札及び再入札により落札者が定まらず、結局予定価格の範囲内において判示星野建設株式会社が随意契約により該請負契約を締結することとなつたことも明らかであるが、談合罪は右のごとき協定がなされたことにより成立し、協定の結果による落札の有無とは関係がないこと言を俟たないところであり、且つ前説示のごとく指名競争入札について行われた談合であつても、不正談合罪を構成することは明白であるので、被告人等の本件所為は同罪に該当するものと認めざるを得ない。それ故原判決が被告人等の本件所為に対し刑法第九十六条の三第二項を適用処断したのはまことに正当であり、原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。弁護人Bの控訴趣意第一点(事実誤認)について、

しかし、原判決が挙示する証拠を綜合して考察すると、被告人等は判示県道改修工事の入札資格者として指名され、その入札施行に先立つて、判示のごとく不正の利益を得る目的を以て談合した事実を認定するに充分である。所論によれば、被告人等の本件入札における各予定価格は、長崎県の該工事に対する予定価格をいずれも上廻つていたし、各自が他の入札者の入札予定価格を事前に了知していたとは認め難いのみか、自由なる競争に委ねるならば、出血を覚悟した最低価格で落札しようとする者の出る惧れがあることを慮り、適正な価格を維持するため自衛上落札人を協定し、非落札者に対し慰藉料の意味で金銭を授受することとしたものであつて、公正なる価格を害するに至るべきことの認識はなく、不正の利益を得る目的に出たものではないというにある。しかし原判決に挙示の証拠、殊に原審公判調書中の証人田代栄二、同中村英雄、同佐久間利勝、同関小二郎、同小橋清次の各供述記載、及び同人等の検察官に対する各供述調書、並びに被告人鈴木栄二外各被告人等の検察官及び司法警察員に対する各供述調書に徴すると、被告人等は判示工事に対する県の予定価格を二百五拾万円乃至二百六拾万円位と予想し、これに近い価格で落札することを予定し、俗に出し競と称する方法により落札者となる者から非落札者に支払うべき所謂談合金の額を競り合つて最高額提供者を落札者と決定することを相謀り、落札者と協定された者は右の協定した価格で入札し、落札者となる利益を獲得する対価として、決定した談合金を提供し、爾余の入札者は右協定した価格以上にそれぞれ入札して、落札者たろうとする意思を放棄する報酬として、右談合金の分配を受けることを協定し、右の如き談合の結果判示星野建設株式会社は最高の金四拾八万参千円の支払を申出てたので落札者となることとなり、予想された県の予定価格を基準として第一次の入札金額を弍百五拾九万五千円、再入札の場合の金額を二百四拾八万五千円として入札し、他の入札者等はいずれも右金額より高い価格で入札したものであるところ、該工事に対する各指名入札者の見積価格、及び入札予定価格、さらに出し競の金額、その他該工事施行についての意欲の状況、殊に星野建設株式会社は該工事の第一期工事を施行した事情に在り、また山口建設工業株式会社及び東組は地元の業者で且つ県の工事について初めて指名された関係にあつて、ともに熱心に該工事の施行を希望していたこと等を参酌すると、右のごとく協定がなされることなく、各指名業者が採算を無視しない限度で、自由且つ公正な競争入札が行われたならば形成されるであろう最低入札価格は、弍百弍拾万円乃至弍百万円位と推定するに難くなく、従つて各入札者はその経験及び本件入札における具体的な諸事情からして、前記協定価格より低い価格で落札されるであろうことを充分認識し、該協定価格で落札するにおいては、入札施行者である長崎県に不利益を来たし、公正なる価格を害することの認識があつたことを認めるに充分であるばかりでなく、叙上のごとき談合金の授受を目的として協定することにより、星野建設株式会社の代表者である被告人鈴木栄二及び同山口朝一においては、前示談合金を提供することにより不当に落札者たる地位を獲得し、その余の各入札者である他の被告人等は各自約五万七千円の談合金の分配を受けようとしたものであり且つその額は右落札価格の約二割に相当し、非落札者の分配を受ける金額は、該工事の見積に要する費用等に比し不当に高額であることが明らかであるから、不正の利益を得る意思があつたこともこれを認定するに足り、所論指摘の各証拠によつては、右認定を左右することはできないので、被告人等は単純に落札者のみを定め、又は営業上適正な請負価格を維持する目的で協定したものと認めるに由ない。

してみると原判決が判示のとおり被告人等の本件所為が不正の利益を得る目的を以てなした談合であると認定したのはまことに相当であり、記録を精査しても、原判決の事実認定に誤りがあることを発見することはできないので、原判決には所論のように審理不尽又は事実誤認の違法があるというを得ない。論旨は理由がない。

弁護人Bの控訴趣意第二点(法令適用の誤)について、

論旨は、刑法第九十六条の三第二項に規定する「不正の利益を得る目的を以てする談合」とは、公正なる価格を害するに至るべき利益、すなわち、公正なる価格以上に入札価格を協定することにより生ずべき差益を利得しようとする意図に出た談合を指称し、各入札者にその協定により公正なる価格を害するに至るべきことの認識あることを要件とすると主張するにある。しかし、同条は不正談合罪に、公正なる価格を害する目的を以てするものと、不正の利益を得る目的を以てするものとの二態様があり、後者の目的のみを以てする不正談合罪の成立を認めていることは、その明文上はたまた第七十六議会における同改正条文の成立の経過から見て明らかであつて、広い意味において公の入札の公正を害する惧れある行為であることは両者同様であるが、その相違点は、後者においては、それにより入札の公正を害する危険は抽象的に存在すれば足り、必ずしも前者のように公正なる価格を害する具体的危険のあることを要件としないことにある。それで、不正の利益を得る目的を以てする談合は、各入札者が互に通謀し、特定入札者をして一定の入札価格で落札者となる利益を得せしめるために、他の入札者はその協定された価格以上で形式上は入札するが、実質的には落札の意欲を放棄することの協定が、落札者となるものから社会通念上不当と目すべき金銭その他経済上の利益を提供せしめ、他の入札者は提供される利益の分配を受けることを意図してなされること、換言すると、不当な利益を以て落札者の地位を取引しようとする意図に出ることのほかに、当該落札価格が公正なる価格を害するに至るべきことの認識あることを必要とするものでないと解するを相当とする。若し不当の利益を得る目的を以てする談合を所論のごとく解するとすれば、同条が「公正なる価格を害し、又は不正の利益を得る目的を以て」と規定した趣旨を理解し難いこととなる。

なるほど、各入札者が談合により特定の入札者をして予め協定した価格を以て落札せしめようと企て、落札者となる者から社会通念上不相当額の談合金を提供することを協定するときは、この協定に参加した入札者はいずれも不正の利益を得ることの意思があることを認め得られると同時にかかる場合には落札価格も不当な価格が協定されることが多いであろうから、公正なる価格を害することの認識があることが認められ、両目的の競合する不正談合罪が成立するのが通常であろうが、このことからして、所論の如く公正なる価格を害するに至るべきことの認識がなければ、不正の利益を得る意図に出た不正談合罪の成立する場合なしと断ずることを得ない。すなわち各入札者間に協定される落札価格が自由且つ公正な競争入札により形成されるであろうと推定される価格を害することの認識はなくとも、その協定が客観的な適正価格の維持、又は単なる特定業者の営業援護のための譲歩を目的としてなされたものでなく、当初から専ら談合金の授受のみを目的としてなされるとか、落札価格は公正なる価格の範囲内であるとしても、談合金の授受によつて、当該入札において経済上最も有利な条件を備えない者が落札者として協定され、且つ談合金が当該落札価格、各入札者の工事見積に要した費用、その他諸般の事情に照らして不当に高額であると認められるごとき場合には、明らかに不当な利益を得ることを目的として競争入札の実を失わしめる行為がなされたものであつて、たまたま協定者間に公正な価格を害する目的はこれを欠くことがあつても落札価格に談合金が加算されるとか、工事に手加減がなされる惧れなしとしないので(即ち抽象的危険の存在)不正の利益を得る目的を以てする談合として犯罪を構成するものといわなければならない。

而して本件における事実関係は論旨第一点において説示したとおりであるから、その協定された第一次入札及び再入札の価格はいずれも自由なる競争が公正になされた場合に形成されるであろうと推定される価格すなわち公正なる価格より高価であり、被告人等には右の公正なる価格を害することの認識さえあつたものと認められること前述のとおりであるが、なお、落札者となるべく協定された判示星野建設株式会社から提供されるいわゆる談合金額は落札予定価格の二割に近く、他の入札者が分配を受ける金額は各自の工事見積費用等を遥かに超える各約五万七千円であつていずれの見地からしても、不当に高額の談合金であることも明らかであるので、これを目的として落札者たる地位が取引されたと認め得られる以上、優に不正の利益を得る目的を以てなした談合というに何等の支障もない。

されば原審が、被告人等の本件所為を所謂不正の利益を得る目的を以てなした不正談合罪に該当するものとして、刑法第九十六条の三第二項を適用処断したことはまことに正当であつて、原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 柳原幸雄 裁判官 後藤師郎 裁判官 岡林次郎)

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