福岡高等裁判所 昭和29年(う)1868号 判決 1954年12月06日
控訴人 被告人 木本こと李青郎
弁護人 清水正雄
検察官 安田道直
主文
本件控訴を棄却する。
当審の未決勾留日数中五十日を原判決の本刑に算入する。
理由
弁護人清水正雄の控訴趣意は記録に編綴されている同弁護人提出の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。同控訴趣意第二点四について、
しかし、出入国管理令は同令第一条に明定するとおり本邦に入国し又は本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理について規定することをその目的とする法令である。従つて其の取締目的達成の上から見ても不法に本邦に入国した者が更に不法に本邦より出国した場合其の者は同令所定の不法に本邦に入国した罪につき処断の対象となると共に同令所定の不法に本邦より出国した罪についても亦処罰を免かれないものと解すべきである。蓋し不法に本邦に入国した犯罪はその入国した時において既遂に達するものであつて所論の如くその犯罪事実が継続するものではない。もとより不法入国者は適法な在留者と看做されないこと勿論で出入国管理令に所謂本邦外に強制退去の手続を受ける者であるけれども強制退去の該当者だからと謂つてその者が擅に、換言すれば出入国管理令所定の出国の手続を経ずして本邦外に出国することを許容された者であるとは謂われない。されば不法に朝鮮より本邦に入国し更に不法に本邦より朝鮮に出国した被告人は不法入国及び不法出国の両罪の責任を負うべきは当然である。原判決には何等所論の如き違法は存しない。論旨は採用に値しない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 柳田躬則 判事 青木亮忠 判事 鈴木進)
弁護人の控訴趣意
第二、原判決は事実に誤認があるものである。
前記第一の主張が理由ないとしても次の通りの事実誤認を主張するものである。
四、原判決摘示犯罪事実中第二、第七に付て(但し第二に付ては前記の通り犯罪事実を否認するものであるが仮りにその否認が理由なく有罪との御認定あつた場合を予想して)は犯罪を構成しないものと思料するものである。
被告人は朝鮮釜山市に住居を有する外国人であつて日本に正当なる居住権を有するものではない。
従つて被告人が日本に入国したことは密航となり出入国管理令に違反し犯罪となるが被告人が本邦に入国してから原判決認定の如く本邦より出国する迄の間において被告人は本邦に居住することに付て正当なる許可を受けて居らないことは明白である。
然らば被告人が不法に本邦に入国した犯罪事実が継続して居るものであつて原判決が認定するが如く被告人において入国審査官から旅券に出国の証印を受けると言う様なことは絶対不可能なことである。
若し仮りに左様な旅券に出国の証印を受ける様な手続が為されたとしたならばそれは何等かの方法による不正行為が遂行されることとなり別個の犯罪を構成するものである。
以上の通りであるから原判決が原判決摘示犯罪事実第二、第七の事実に付有罪なりと認定し出入国管理令の法令を適用したことは即ち事実誤認か又は法令の適用に誤りがあるものと謂はなければならない。
比の点に於ても原判決は破棄を免れないものと思料するものである。
(その他の控訴趣意は省略する。)