福岡高等裁判所 昭和29年(う)2492号 判決
原判決に挙げてある証拠によれば被告人は候補者三池信の選挙運動総括主宰者古賀了から投票取纏の報酬並費用等として選挙運動者等に対し供与さるるものである情を知りながら金五万円の交付を受け内金一万五千円を右趣意の下に判示第二の各運動者に対し金五千円宛供与したものであつて所論のように車馬賃、弁当代として各授受されたものでないこと洵に明白である。尤も右各関係人は原審公判においては副検事に対する先きの供述(原判決はこの供述調書又はその謄本を証拠として採用)を飜し論旨に副うが如き供述をしていること所論の通りではあるが、右供述はその内容自体及記録全般と照合すると極めて不自然であつて到底信用できない。又現刑事訴訟法が公判中心主義を採つて居り公判における供述の尊重さるべきこと論を俟たないところではあるが公判外の供述である検察官面前調書であつても公判における供述よりもより信用すべき特別の情況が存する場合においてに公判の供述を排し右調書を証拠として採用し得べきこと刑事訴訟が実体的真実の発見を生命とすることの当然の要請であり従つてまた法の明らかに許容するところである(刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号参照)。本件において右公判における各供述が検事面前調書の各供述記載に比し著しく不自然であること前述の通りであり、該事実は刑事訴訟法の前顕法条に所謂特別の情況ある場合に該当するものと解すべきであるからして公判の供述を排斥し検事面前の供述調書を採用し前記認定をした原判決には何等所論のような違法はない。
同第二点(法令誤用の主張)に付いて。
論旨は若し古賀了と被告人間の金銭授受の趣旨が投票又は運動買収にありとせば、その金銭授受は同人間の共謀関係に基きなされたものであり、これは直ちに「数人共謀して選挙運動並投票の報酬となるべき資金を受領した」場合に該当するものであつて何等犯罪を構成するものでないと云うのである。
論旨は稍々明確を欠くが本件金銭交付の目的に付受者たる被告人に認識乃至諒解があつたことを以て直ちに古賀了と被告人間に所論の如き共謀ありと主張するものであるとするならばその失当たること論を俟たない。すなわち公職選挙法第二百二十一条第一項第五号の受交付罪は受交付者において金品交付の目的を諒知していることを一構成要件とする。従つて論旨の如しとすればいかなる場合にも受交付罪成立の余地は全くなく論旨の失当であること明である。又記録を精査すると被告人は古賀了から依頼を受け三池候補の為にする買収資金であることを知りながら本件金員の交付を受けた事実を認め得ると共に両名間に下部買収に付何等具体的の協議等の存在した事実はこれを認め得ない。そうだとすれば両者間に所論のような共謀関係の存在を認め得ない。従つて被告人に対し受交付罪の成立を認めた原判決には所論のような違法はない。
(裁判長判事 柳田躬則 判事 青木亮忠 判事 鈴木進)