福岡高等裁判所 昭和29年(ナ)2号 判決
原告 中山正賢 外四名
被告 熊本県選挙管理委員会
一、主 文
被告が昭和二十九年三月四日執行の熊本県玉名郡長洲町長選挙の効力に関し原告等のなした訴願に対し同年七月二日選第一〇三号をもつてなした棄却の裁決はこれを取消す。右選挙における吉田信夫の当選はこれを無効とする。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、
(一) 原告等は、いずれも昭和二十九年三月四日執行の熊本県玉名郡長洲町長選挙において選挙人であつたが、その候補者は吉田信夫、前田虎之助の二名で即日開票され投票総数三千七百八十票であつて、選挙長松島一松は、その結果につき吉田信夫の得票千八百八十二票、前田虎之助の得票千八百八十一票、無効投票十七票と宣言し、翌五日吉田信夫を当選者と決定し当該選挙管理委員会からその旨告示された。
(二) ところで原告等は、右両候補者の有効得票、無効投票の認定に違法があり、前田虎之助を当選者と決定すべきで吉田信夫を当選者と決定したのは違法であるとして、同年三月十一日長洲町選挙管理委員会に異議の申立をなしたが、同委員会は同月二十六日原告等の異議申立を棄却する旨の決定をなしたので、原告等は更に同年四月一日被告に対し訴願に及んだが、被告は同年七月二日選第一〇三号をもつて訴願棄却の裁決をなし、原告等は翌三日裁決書の交付を受けた。
(三) しかしながら原告等は次の理由により吉田信夫を当選者とするのは違法であり、前田虎之助を当選者とすべきものと信ずる。すなわち、
(イ) 候補者吉田信夫の有効得票と認定された投票千八百八十二票中には次の無効投票と認定すべき十三票が混入している。
(1)「コシダ」と記載した投票一票(検第一号)は、候補者の吉田、前田共にその発音の語尾が「ダ」であつて共通しているので、候補者の何人を記載したかを確認し難いものとして無効とすべきである。
(2)「土田」と記載した投票二票(検第二号、第三号)は、いずれも候補者の氏の下の文字が「田」であつて共通しているので、前同様の理由で無効とすべきである。
(3)「<吉>ヨシダノブヲ」と記載した投票一票(検第四号)「吉田信夫」と記載した投票一票(検第五号)、「よしだ」と記載した投票一票(検第六号)、「吉田ノブヲ」と記載した投票一票(検第七号)計四票は単なる書損とは認められない。若し誤つて投票用紙を汚損した場合にはその引換を請求することができるのであるから、これらは選挙人が共通の意思をもつて、その者の投票であることを識別せしめる手段としてなされたもので、他事を記載したものとして無効とすべきである。殊に検第六号の如く「吉田」と書けるのを、ことさらにこれを消し平仮名で書き改めたのは、その者の投票であることを明にするためであると認めるべきである。
(4)「吉田春夫」と記載した投票一票(検第八号)は、「吉田春男」という長洲町選挙管理委員会の選任した開票立会人が実在し、右は名の下の字たる「夫」と「男」とが相違するだけで発音は全く同じであるから、候補者でない者の氏名を記載したものとして無効とすべきである。
(5)「吉田殿、、」と記載した投票一票(検第九号)は、ことさらに投票の下隅に「ヽヽ」の符号をつけ、而も投票記載場所には鉛筆の備付があるのにインキ書してあるので、他事を記載したものとして無効とすべきである。
(6)「吉田前田バカ」と記載した投票一票(検第十号)は、「前田バカ」と記載した部分を縦線を一本引いて抹消してあるけれども、右は有意の記載と認めるべきであるから、他事を記載したものとして無効とすべきであるのみならず、投票の神聖を害する不真面目なものとして絶対に無効であると信ずる。
(7) 点字投票の裏面に平仮名で「よしだ」と横書した投票一票(検第十一号)、表面の候補者氏名記載欄に平仮名で「よしだ」と横書した投票一票(検第十二号)、表面の候補者氏名記載欄の点字三字をそれぞれ「○」で囲み各その該当個所に平仮名で「よしだ」と横書した投票一票(検第十三号)の計三票は、いずれも他事を記載したものとして無効とすべきである。およそ投票の有効無効は形式の調査によるべきであるから、選挙係員が投票後記載したものであつても、これを読みあげる際すでに記入してあつたものならば該投票は無効とすべきである。若し然らずしてこれを有効とするならば記載の不明確な投票を他人が訂正した場合も有効としなければならない不合理を生ずることとなる。すなわち投票は特別の場合の外すべて選挙人が候補者の氏名を自書するのが原則であるから、点字投票の場合は点字のみが選挙人の投票であつて、これに「よしだ」と記入することは他事記載となるのである。
(ロ) 無効投票として処理されている投票中「前田虎之助○」と記載した投票一票(検第十四号)は、候補者の氏名を記載した右下隅に「○」を附しただけであるから、有意の記載とは認められないので、これを前田虎之助の有効投票として計上すべきである。若しかかる投票を他事を記載したものとして無効とするならば前記吉田信夫の有効投票として処理された(イ)の(5)の投票も当然無効とすべきであつて、然らざれば偏頗にしてすこぶる公平を欠くものといわなければならない。
(四) 然らば候補者吉田信夫の得票数は千八百六十九票となり、候補者前田虎之助の得票数は千八百八十二票となるので、当然前田虎之助を当選者と決定すべきであるから、選挙会が吉田信夫を当選者と決定したのは違法であり、従つてこれが違法を理由とする原告等の異議申立を棄却した長洲町選挙管理委員会の決定を認容し、原告等の訴願を棄却した被告の裁決も違法というべきであるからここに右裁決の取消を求めると共に吉田信夫の当選を無効とする旨の判決を求めるため本訴請求に及んだと陳述した。(立証省略)
被告代表者は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告主張事実中(一)、(二)の各事実及び(三)の事実のうち原告主張の該当投票(イ)の(1)乃至(7)に対する無効の見解並に(ロ)に対する有効の見解を除くその余の事実すなわち原告主張のような記載の存する投票十四票が存在することは、いずれもこれを認めるが、その他の点はすべて否認する。すなわち原告主張の、
(イ)の(1)の投票一票(検第一号)は、本件選挙における候補者吉田信夫、前田虎之助二名のうち、吉田信夫の「ヨシダ」とは発音からいえば単に「ヨ」と「コ」とが違うだけで「シダ」は共通であつて非常に類似しており、又字劃からいつても「コ」と「ヨ」との違は「コ」の中に「一」を書き加えることによつて「ヨ」となるのである。これに反し前田虎之助の「マエダ」又は「マヘダ」と「コシダ」とは単に最後の「ダ」のみが字劃発音において共通するのみである。右の如き理由から右一票は「ヨシダ」の誤記と認め吉田信夫の有効投票とみるべきであつて、候補者の何人を記載したかを確認し難いものとして無効とすべきであるとの原告の主張は当らない。
(イ)の(2)の投票二票(検第二号、第三号)は、第二字目の「田」は原告主張のように吉田、前田の両候補者に共通するが、第一字目の「土」は吉田の「吉」とは発音においては相違するけれども、字劃運筆の関連性からみれば類似し、且右投票二票は拙劣な文字をもつて記載されているので、筆勢或は字形からいつて選挙人において吉田の上の部分である「土」のみを書き下の部分である「口」を遺脱しながら「吉」と書いたものと錯覚し、吉田信夫に投票する意思をもつて「土田」と記載したものとみるのが相当であつて、吉田候補の有効投票とすべきである。
(イ)の(3)の投票四票(検第四乃至第七号)は、いずれも選挙人において候補者の氏名を投票用紙に記載するに当り、最初の文字を書き損じ新に記載したものであつて、何等有意の記載とは認められず単に誤謬を訂正したに過ぎないとみるのが相当であるから、候補者吉田信夫の有効投票とすべきである。
(イ)の(4)の投票(検第八号)は、本件選挙における候補者は吉田信夫、前田虎之助の二名だけであつて、これに類似する候補者は吉田信夫より外になく、立候補制度を採用している現行選挙においては選挙人は候補者の誰かを投票したものと推定すべきであるから、候補者でない実在の「吉田春男」に投票したものと認めるべきではなく、すなわち「信」を「春」と誤記したものとして、吉田候補の有効投票とするのが相当である。
(イ)の(5)の投票一票(検第九号)は、選挙人において投票用紙に候補者の氏名を記載するに当り、運筆の直前万年筆の具合を無意識的に試したものと判断するのが相当であつて、原告の主張するように有意の記載とは認められず、吉田候補の有効投票とすべきである。
(イ)の(6)の投票一票(検第十号)は、「前田バカ」の記載は抹消され明かに「吉田」と記載されているのであるから、選挙人の意思の変更を意味するものであり従つて侮辱の意味は投票面から抹殺されたものと認めるべきである。若しかかる投票を無効とするならば、書損を抹消した投票はすべて無効としなければならない不合理が生ずることとなるので、これをもつて有意の記載乃至投票の神聖を害するとなす原告の主張は当らない。すなわち候補者吉田信夫の有効投票とすべきである。
(イ)の(7)の投票三票(検第十一乃至第十三号)の「よしだ」の記載は開票の際点字投票の特殊性にかんがみ、選挙立会人の投票の点検に便ならしめるため、選挙長において事務従事者に命じてこれを記載せしめたものであるから、他事記載として該投票を無効とすべきではない。原告は該投票を有効とするならば不明確な投票を他人が訂正しても有効となる旨主張するけれども、本件点字投票を有効としたのは、これに「よしだ」と加筆する以前の状態すなわち選挙人みずから記載したのみの状態により該投票の効力を判断したものに外ならないのであるから、この点に関する原告の主張は当らない。従つて該投票は吉田候補の有効投票とすべきである。
(ロ)の投票一票(検第十四号)については、これに附せられた「○」印は直径六耗程度のもので、通常文字を書く場合に附する句読点の類とは到底考えられず、又その位置、形状、筆勢から判断して普通文字に区切をつける習慣等により不用意に記載されたものとも認められないので、意識的に附した有意の記載として無効投票とすべきである。
従つて原告の主張はいずれも理由がなく、本件選挙会が吉田信夫を当選人と決定したのはもとより適法であるから、原告等のこれに対する異議申立を棄却した長洲町選挙管理委員会の決定を正当として本件訴願を棄却した被告の裁決も亦適法であつて、原告の本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)
三、理 由
原告の主張事実中、(一)、(二)の各事実及び(三)の事実のうち、候補者吉田信夫の有効投票として処理された投票中に原告主張の記載がある(イ)の(1)乃至(7)の投票計十三票(検第一乃至第十三号)が混入し、又無効投票として処理された投票中に原告主張の記載がある(ロ)の投票第一票(検第十四号)が存在することは当事者間に争のないところである。
よつてまず原告が無効投票であると主張する右(イ)の(1)乃至(7)の各投票について順次検討を加えることとする。
(一) (イ)の(1)、(2)の投票(検第一、第二、第三号)について、
およそ立候補制度を採用した現行選挙の下においては、選挙人は候補者の何人かに投票したものと推定すべきであるから、投票記載の文字が不明確であり或は字劃に誤りがあつても、それに記載された氏名と類似の候補者が存在し且諸般の事情から該候補者に投票する意思があらわれているものと認められる限り、その意思を尊重し該候補者の有効投票として処理するのを相当とするところ、右(イ)の(1)の投票一票(検第一号)は明かに「コシダ」と読めるので、その発音からすれば本件選挙における両候補者吉田信夫、前田虎之助のうち、むしろ吉田に近く又その字劃運筆を検証の結果に照してみるに文字の記載が拙劣であるところから、右は選挙人において投票の記載をなすに当り「ヨ」の中に入れるべき「一」を遺脱したものと推認されないこともないので、該投票はこれを吉田候補に投票する意思をもつてなされた誤記と認めて同候補者の有効投票とすべきである。
次に(2)の投票二票(検第二号、第三号)ついてみるに、なるほど前記候補者両名の氏の第二字目は、いずれも「田」であつて両者に共通するけれども、該投票記載の第一字目の「土」は、その字劃からすれば前田の「前」よりもむしろ吉田の「吉」に近似するのみならず、検証の結果に徴すれば、該投票の記載は、その筆勢字形等からみて文字を書くに習熟しない者が書いたものと認められるので、該投票二票は選挙人において投票記載の際、吉田の「吉」の上部の「土」のみを書き下部の「口」を遺脱し、「吉」と完全に書いたものと錯覚していたものと推認するのもあながち無理とはいえないので、右はいずれも吉田候補に投票する意思をもつてなした誤記と認めて、これを同候補者の有効投票とすべきである。
(二) (イ)の(4)の投票(検第八号)について、
なるほど投票の記載が候補者以外の実在する氏名を完全明確に記載されているような場合には、たとえこれに類似する氏名の候補者があつても、該候補者の氏名の誤記とは認めないで、むしろ該候補者以外の実在の人の氏名を記載したものと認めるのを相当とすることもあろうけれども、本件投票(検第八号)は、検証の結果によれば「吉田春夫」と達筆をもつて明確に記載してあつて、前記実在の人物たる「吉田春男」の氏名とは名の一字「男」と「夫」とが相違するのみならず、その筆勢字形からみて到底これを吉田春男の氏名を誤記したものとは認め難いので、該投票は候補者でない右吉田春男に投票する意思があらわれているものではなく、むしろその記載に類似する氏名の候補者吉田信夫の誤記と認めて同候補者の有効投票とすべきである。
(三) (イ)の(3)の投票四票(検第四乃至第七号)、(イ)の(5)の投票一票(検第九号)、(イ)の(6)の投票一票(検第十号)及び(イ)の(7)の投票三票(検第十一乃至第十三号)について、
思うに公職選挙法がその第六十八条第一項第五号において、公職の候補者の氏名の外他事を記載した投票は無効とする、但し職業身分、住所又は敬称の類を記入したものはこの限りでないとした所以は、投票にいわゆる他事の記載があることによつて、それが何人の投票であるかが推知せられることになつて、公職選挙法の採用する無記名投票の精神を破壊し、ひいてその企図する選挙の自由公正を害するに至るべきことを慮つたのにあるものと解すべきである。従つて法の真のねらいは、選挙人において投票の記載をなすに当り、意識的に何等かの含みをもつて目印をしたものと認められるような投票を無効とすることにあるので、若しかかる意識的な記入と認められるものが存する場合は、これを他事を記載したものとして無効とすべきは勿論であるが、これに反し無意識的になされたものと認めるべき書損、汚染は句読点の如く、該記載が故意の符号その他の記入と認められない限り、みだりにこれを無効とすべきではないといわなければならない。
そこで(イ)の(3)の投票四票について考えてみるに、右各投票は検証の結果によれば、そのうち検第四号は、候補者氏名欄中やや右寄りに片仮名で「ヨシダノブヲ」と記載し、その左側に「ヨ」の文字と同位の高さに「吉」と判読し得る一字を記入した上、その文字を幾重かの「○」で塗抹した跡が窺われ、検第五号は候補者氏名欄中やや右寄りに漢字で「吉田信夫」と記載し、その左側に「吉」の文字と同位の高さに判読し難い文字一字(無理に読めば「吉」と読めないこともない)を記入し、これを「×」で抹消した跡が窺われ、検第六号は候補者氏名欄中やや右寄りに平仮名で「よしだ」と記載し、その左側に「よ」の文字と同位の高さに「土田」と判読し得る二字を記載し、これを幾重にも「○」で塗抹した跡が窺われ、検第七号は候補者氏名欄中やや右寄りに氏は漢字名は片仮名で「吉田ノブヲ」と記載し、その左側に「吉」の文字と同位の高さに「吉」と認められる記入があつて、これを二重位の「○」で抹消した跡が窺われる。而して以上認定に係る投票の記載の形式に検証の結果によつて認められる本件四票の投票の運筆やその記載文字の拙劣であること等を綜合して推考するときは、選挙人において該投票の記載をなすに当り、最初の文字を書き損じ或は候補者吉田信夫の名の文字を忘失したため、これを抹消した上改めてその氏名を書き直したものであつて、何等意識的になされたものとは認め難いので、いわゆる他事を記載したものとしてこれを無効とすべきではなく、吉田候補の有効投票とすべきである。
次に(イ)の(5)の投票一票(検第九号)は、検証の結果によれば候補者氏名欄にペン書きで「吉田殿」と記載し、「田」の文字の右下に「ヽ」が打つてあり、なお候補者氏名欄の欄外右側注意書の空白の部分に「」の記入が存することを認め得るけれども、かかる「ヽ」及び「」の部分はその記載自体からして到底意識的になされた符号とは認め難く、むしろ右投票中に存する「ヽ」は選挙人の筆癖により、運筆の余勢をもつて無意識的になされたいわゆる句読点に類し、「」は運筆の直前万年筆のインキの出具合を試したものであつて、何等故意になされた符号とは認め難いので、これをもつて有意の他事記載ということはできない。
更に(イ)の(6)の投票一票(検第十号)について考えてみるに、検証の結果によれば、該投票は候補者氏名欄中央よりやや左寄りに「前田バカ」と明かに記載し、この部分に縦に一本線を引いてあり、該欄右寄りに「吉田」と記載してあることが認められる。そこで右「前田バカ」と記載した部分は、これを抹消したものとも考えられるのでいわゆる他事記載と認めるべきか否か多少の疑問がないではないが、元来本件選挙における候補者は前記の如く吉田信夫、前田虎之助の二名に過ぎないので、右「前田バカ」が単に「前田」とだけ記載されていたとするならば、或は選挙人の書損又は意思の変更による訂正に過ぎないものとして、吉田候補の有効投票と認めるのを妥当とすべきであろうが、「前田」の次に「バカ」の二字が書き加えられているところからみれば、これを単なる選挙人の無意識的な書損又は意思の変更による訂正とは到底いい難く、むしろ意識的になされた故意の記載と認めるべきであつて、すなわち右「前田バカ」という文字が前認定の如く、たとえ縦の一本線によつて抹消されているとしても、なおその抹消された記載自体これを意識的になされた故意の記載たることに変りがないものというべきであるから、前記説示の理由により公職選挙法第六十八条第一項第五号にいわゆる他事を記載したものとして処理し、これを無効とするのが相当である。
進んで(イ)の(7)の投票三票(検第十一乃至第十三号)についてみるに、いわゆる他事を記載した投票中には当該選挙人以外の者が投票後に記載したものはこれを含まないものと解すべきであるところ、証人真東一字、松島一松の各証言に検証の結果を綜合すれば該投票は開票の際点字投票の特殊性からして、本件選挙を管理する長洲町選挙管理委員会において、事務従事者に命じ、開票管理者、開票立会人の投票点検に便ならしめるため、一般人にも該投票が候補者の何人を記載したかが判るように、これに「よしだ」と記入せしめたものであることが明認せられるので、右は選挙人が投票記載の際みずから他事を記載したものということはできないから、これを無効とすべきでないことが明かである。
次に原告が候補者前田虎之助の有効投票とすべきであると主張する(ロ)の投票一票(検第十四号)について考えてみるに、検証の結果によれば該投票は候補者氏名欄に「前田虎之助」と達筆で明瞭に記載され、而して最後の文字「助」の右側に直径約六耗の「○」を記入されていることが明である。原告はこれを有意の記載と認めるべきではないと主張するけれども、右「○」の記載はその位置、形状、運筆の状態からして不用意の間になされた句読点の類と同視することはできず、むしろ選挙人が故意に一種の符号として記入したものと推断するのが相当である。しからば前記説示の理由により該投票は他事を記載したものとして無効とすべきである。
はたしてしからば、本件選挙における候補者吉田信夫の得票数は、以上説示の理由により前記無効と認定した(イ)の(6)の投票一票を差引くときは千八百八十一票となることが明かであつて、他の候補者前田虎之助の得票数と同数となるので、本件選挙においては選挙長が選挙会でくじで当選者を決定すべきであるから、吉田信夫を当選人と定めた選挙会の決定は違法であつて、従つて、これに対する原告等の異議申立を棄却した長洲町選挙管理委員会の決定を認容し、原告等の訴願を棄却した被告の本件裁決も亦違法としてこれが取消を免れないものといわなければならない。
よつて本件裁決の取消並に吉田信夫の当選の無効宣言を求める原告等の本訴請求を理由があるものとして認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 野田三夫 中村平四郎 天野清治)