福岡高等裁判所 昭和29年(ラ)51号 決定 1954年6月28日
抗告人 秋根産業株式会社
訴訟代理人 菅野虎雄
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告理由は、別紙抗告申立書記載のとおりである。
当裁判所の左に附言する外は、原決定書に示された理由と同一の理由を以て、抗告人の本件抗告を失当と認めるので、右摘示理由をここに引用する。
抗告人は、本件強制執行の停止は本件債務名義の被承継人に対してした具体的執行を停止するの効力あるに止まり債務名義そのものの全般的停止の効力はないから、その後承継人に対して為す強制執行迄停止するの効力はないと主張するようであるが、第三者異議の訴に基く停止決定は、当該債務名義による当該執行の目的物に対する全般的執行を停止するのであるから、その債権者のためには、その目的物に対する限り、再度の強制執行は固より、右第三者を債務者の承継人としても、その執行を為すことはできないものである。(もつとも、第三者の異議の訴の第三者とは、執行当事者及びその債務名義の執行力を受ける以外の者をいうのであるから、口頭弁論終結後の承継人の如きは右にいう第三者に該当しないこと勿論ではあるが、右承継人が既に第三者異議の訴を提起して、その執行が停止された以上は、その執行停止に前記のような効力のあること通常の場合と変りがない。)
よつて民事訴訟法第八十九条を適用し主文のように決定する。
(裁判長判事 桑原国朝 判事 二階信一 判事 秦亘)
抗告の理由
(一) 抗告人は福岡地方裁判所昭和二十六年(ワ)第二八二号福岡高等裁判所昭和二十七年(ネ)第一三六号家屋明渡請求事件の執行力ある判決正本に基き債務者(被告)岩瀬浅次郎平山キミヨに対し強制執行を為し居たる処相手方より賃借人の地位を承継したと称し岩瀬、平山対債務名義を以ては相手方に対し強制執行を為すことを得ずとし第三者の異議の訴を提起し強制執行の停止決定を受けたるにより抗告人は民事訴訟法第二百一条に基き相手方に対する執行文を得相手方に対し強制執行を為さんとするものなれば岩瀬、平山に対する強制執行停止決定が何が故に相手方に対する強制執行を停止する力ありや原決定は同一債務名義と言うもそれは判決文が同一に過ぎずして当事者は別であります。斯る強制執行回避の方法を取るものあるを防禦せんがために新設したのが民事訴訟法第二百一条であります。
(二) 岩瀬、平山は同家屋の占有を離脱し相手方に於て同占有を承継せりと言えばこそ相手方に対し執行文が付与せられ居るものにして岩瀬、平山に対する強制執行停止決定は空虚のものであります。其空虚の停止決定を以て事実上防害となれる相手方に対する強制執行を停止する効力ありとは謂われなきことであります。