福岡高等裁判所 昭和30年(う)2078号・昭30年(う)2079号 判決
次に職権を以て調査するに、原判決は第一として被告人杉野浅雄が被告人稲垣一郎の依頼を受け昭和二九年九月一四日頃長野県東筑摩郡塩尻町大字大門高砂印刷屋に註文して株式会社十合名義の株券八六枚(いずれも一〇〇株券額面五〇〇〇円)を偽造した事実及び第三として被告人杉野浅雄が原審相被告人鷲見京一と共謀し同年一〇月一一日頃福岡県鞍手郡小竹町御徳有馬炭坑事務所において右偽造株券一七枚を真正なるものゝ如く装い有馬直和に石炭買受前渡金代用として交付行使し、同人から石炭四五屯(時価二五万円相当)を売買名下に騙取せんとして遂げなかつた事実を認定した上、右第一、第三の各事実が併合罪の関係に在るものとして法律を適用処断している。ところで原判決挙示の被告人杉野浅雄、同鷲見京一の検察官に対する各供述調書によれば、被告人杉野が右株券を偽造したのは同被告人自らこれを行使するためではなく、依頼者である被告人稲垣に引渡し同被告人において金融、人絹取引に利用行使する予定であつたに拘らず、被告人杉野は偽造完成後原審相被告人鷲見の口添により遽に変心し、被告人稲垣に秘し自らこれを利用して石炭を騙取せんとしたものなる事実が窺われるところ、刑法第五四条第一項後段に所謂犯罪の手段とは犯人の主観如何を問わず客観的、抽象的に観察して或犯罪の性質上その手段として通常用いらるべき行為を指称するものと解すべきであるから、苟も或る犯罪の手段として通常用いらるべき行為であれば犯人が当初よりこれを手段となす意思なくとも該行為は犯罪の手段に該当するものと謂わねばならない。而して株券の偽造はこれが行使の手段として通常用いらるべき行為であるから、前段の如く被告人が自ら利用行使するため本件株券を偽造したものでなくとも苟もこれを偽造し自ら行使した以上、株券の偽造とその行使とは手段結果の関係に在るものと断ぜざるを得ない。
然るにこれを併合罪として処断している原判決は法律の解釈適用を誤つたもので該誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄を免れない。
(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 中村荘十郎)