大判例

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福岡高等裁判所 昭和30年(う)2797号・昭30年(う)2796号 判決

論旨は、原判示第一の(三)の事実に関し、被告人大石哲郎が判示過年度収入簿の領収欄に為した不実の記載は、単に領収の事実の記入の用をなすに過ぎない領収の日附印を押捺したに止まり、右印が公務所又は公務員の印章とはいえないから、刑法第百五十五条第一項の文書の偽造に該当せず、且つその不実の記載はその侭帳簿として収入係の手許にあるのであるから、これを行使したものというを得ないと主張するにある。しかし、原判決が挙示する関係証拠に徴すると同被告人は判示町役場税務課主任として、一般町税の賦課徴収並びに滞納処分事務を担当していたものであるが、本来滞納処分の係員が滞納者より滞納税金を徴集したときは、これを収入役に交付し、収入役又は特に命ぜられた係員において、滞納整理簿に綴込である滞納税金の領取を証明する文書の当該領収欄に所定の消込日附印を押捺し、以て滞納税金納付の証明を為すべきものであるに拘らず、自己が徴収しながら、これを使い込んで、収入役に交付していない税金が既に収入役に領収されているごとく装い、横領の事実を隠蔽するため、判示日時、場所において、無断で同役場収入役角直人保管の役場備付の「昭和二十八年度過年度収入簿」を取り出し、収入役が使用する領収印に模して造られた領収印を所持しているのを奇貨として、判示のごとく右収入簿に登載されている滞納者松崎猛外三十一名に対する該当税金受領印欄合計五十四ケ所に、右領収印(消込日附印)を擅に押捺し、該税金領収の消込を為し、以て公務員たる同町収入役の作成すべき前記三十二名の滞納税金領収を証明する文書五十四通を偽造し、これが綴込まれた過年度収入簿を即時同役場に備付けて、行使した事実が明らかである。右のごとく前記収入簿に消込日附印を押捺して作成すべき滞納税金を受領したことを証明する文書は、収入役(又は特に其の命を受けた係員)において作成権限を有し、被告人にその権限がなかつたのであるから、被告人の本件所為が公文書偽造罪を構成し、該帳簿を町役場に備付けた点で、偽造文書行使罪の成立することは勿論である。ところで、該消込日附印は円形の輪廓内に、縦に領、収の二字と、その中間に、横に年月日を現わす西洋数字があるのみで、公務所又は公務員を表示する文字はないことが明白であつて、公務所又は公務員が自己を表証するためにその名称を印記したものということはできず、単に当該滞納者の税金が領収されたことを証明しようとするものに過ぎないから、これを公務所又は公務員の印章と認めることはできない。それ故被告人の偽造した叙上の文書は、刑法第百五十五条第三項に規定する公文書と認むべきであつて被告人の本件所為は同条の偽造罪並びに該偽造文書の行使罪を構成するものといわざるを得ないから、原判決が同条第一項の文書偽造並びに同行使罪として処断したことは、事実の認定を誤つたか然らざれば法令の解釈適用を誤つたものというのほかなく、右の誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、論旨は結局理由があり、原判決は〓の点において破棄を免れない。

(裁判長裁判官 下川久市 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)

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