大判例

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福岡高等裁判所 昭和30年(う)2838号 判決

原判決は、被告人が昭和二十八年三月十四日大阪地方裁判所において、業務上横領罪により懲役十月、三年間執行猶予の判決を受け、右判決は同年同月二十九日確定し、現に刑の執行猶予中のものであるところ、右確定判決の前たる昭和二十六年九月二十三日頃、原判示のごとき詐欺の罪を犯したものとして、これに対し刑法第二百四十六条第一項並びに同法第二十五条第一項を適用し、懲役一年に処し、三年間右刑の執行猶予の言渡をなしたことは判文自体により明らかであり、右は所論のように昭和二十八年六月十日の最高裁判所大法廷判決に示された刑法第二十五条に関する解釈に準拠したものと推測することができる。所論は右大法廷判決は保護観察制度を刑法に導入した昭和二十八年法律第一九五号の刑法改正前のものであつて、改正後の今日もはや維持し難くなつたものであり、改正法を適用すべき本件については、苟も一旦執行猶予の言渡を受けた者に対し、その猶予期間中に更に執行猶予付の刑の言渡をする場合であるから、それが前の確定判決の罪の余罪に対するものであつても、同法第二十五条第一項の適用はなく、同条第二項が適用され、第二十五条の二後段に則り保護観察の言渡がなされねばならないというにある。

しかし、本件事案のように、併合罪の関係に立つ数罪が前後して起訴され、後に犯した罪につき既に執行猶予の判決が確定した場合において、後に起訴された(前に犯した)罪(余罪)が同時に審判されていたならば一括して執行猶予が言渡されたであろうと認められるときには、形式上は第二回目の執行猶予となるが、実質的には最初の執行猶予を言渡すのと異るところはないものということができるので、これを再度の執行猶予と解しないのが相当であり、従つてその余罪について執行猶予を言渡すには、刑法第二十五条第一項に準拠すべきものであるといわざるを得ない。けだし、改正法は、短期自由刑が往々にして適当でないことを一段と痛感し、できる限りこれを避け、被告人の前歴、性格等から考慮して、より多くの場合に執行猶予によつて犯罪の反覆を阻止しようとする見地から、執行猶予制度の拡張を企図し、これと保護観察制を結合し、一層実効を挙げようとする趣旨に出たものであることは疑の存しないところであり、また大法廷判決が刑法第四十五条後段の併合罪の関係にある余罪について、同法第二十五条(改正後の同条第一項に該当)により執行猶予を言渡し得るものと解し、それが確定判決を受けた罪と同時に審判を受ける場合との不均衡を是正しようとしたところは、改正後の第二十五条第二項によつても、余罪が保護観察に附せられる以前の罪(執行猶予を言渡した裁判の確定前に犯した罪)である限り、但書の制限が除外され、再度の執行猶予の言渡を受け得られることにより、多くの場合に解消したものといえるけれども、余罪について執行猶予の言渡を受けた後、その猶予期間中に更に罪を犯し、起訴された場合においては、所論のごとく余罪の執行猶予は同条第二項によるべきものとすれば、必ず保護観察に附せられることになり、その猶予期間中に犯した罪については、重ねて執行猶予の言渡を受け得られないこととなるので、前記不均衡はなお存するものといわねばならないし、しかも改正法は旧第二十五条の従前の規定はそのまゝ残し、新に第二項を附加したに止まり、他面に第一項の執行猶予については裁量的保護観察(昭和二十九年第五七号により)、第二項の執行猶予については必要的保護観察を規定しているのである。これ等の諸点から考察すると、右のごとき余罪の執行猶予については、改正前と同様に、最初の執行猶予と同じ取扱をなすべき実質的理由が存するものと認められ、前記最高裁判所大法廷判決に示された見解はなおその存在意義を有し、改正後においても妥当するものといえるからである。

(裁判所裁判官 下川久市 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)

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