福岡高等裁判所 昭和30年(う)31号 判決
本件抗告理由の要旨は、原裁判所は被告人両名に対し昭和三〇年九月一九日附を以て保釈許可決定をしたのであるが、その際刑事訴訟法第九三条第三項の条件として「三、被告人は保釈期間中謹慎していなければならない。」旨を附したので、これが意味不明であり、且つは被告人等に道徳的拘束を加えようとしていると解される懸念もあつたので、同月二三日附を以て抗告の申立をし、右制限条項の取消方を求めたところ、原裁判所は同月二七日附を以て前記第三項を「被告人は保釈期間中他の犯罪を犯さぬよう謹慎していなければならない」と更正する旨の更正決定をした。
しかし、保釈に附すべき条件は保釈取消事由になるようなことをしないためのものであつて、再犯の行為がないようにするための条件は許さるべきでない。そこで、右保釈決定に附されている条件中第三項の取消を求めるため、本抗告に及んだと謂うのである。そこで審案してみるのに、原裁判所が昭和三〇年九月一九日附を以てした被告人両名に対する保釈許可決定には保証金二万円(一万円は保証書)及び住居制限のほか、一、被告人は毎月三回(十日、二十日、三十日)保釈請求者を通じ身上報告書を裁判所に提出すること。二、保釈請求者は毎月二回(一日、十六日)自ら被告人の身上を調査した上報告書を裁判所に提出しなければならない。三、被告人は保釈期間中謹慎していなければならない(被告人は保釈期間中他の犯罪を犯さぬよう謹慎していなければならないと更正)。四、被告人は二十日以上の旅行又は転居の際予め書面を以て裁判所に届出で許可を得なければならない旨の四項に亘る条件を附すると共に、右条件に違反したときは直ちに保釈を取消すことがあると戒告し、被告両名の逃亡を防ぎその他出頭確保のため必要と思料される条件を附していることが認められるけれども、前掲第三項の条件については、その意味不明確の非難を免れないこと所論のとおりであるばかりでなく、本件保釈許可に際し特に斯様な条件を附さねばならなかつた特段の具体的事由を発見することができない。そもそも、法第九三条第三項に「適当と認める条件」とあるのは、被告人の逃亡罪証隠滅等を防止すると共に、保釈後の被告人の公判出廷又は有罪判決確定後の刑の執行を確保するための条件を指称し、再犯防止のための条件は包含されていないものと解すべきであるところ、被告人等に対する保釈許可決定の条件中前記第三項は前掲更正決定のとおり更正されているので明かに右法の趣旨に反するものといわねばならず、これら違法な条件を附された保釈決定に対しては、被告人は勿論保釈請求人等に於て、右違法条件に違背したことを理由とする保釈取消決定を待つまでもなく、直ちにその違法の是正を求むべき実益を有することは明白であるから、原保釈決定の条件中第三項は取消を免れない。
(裁判長裁判官 高原太郎 裁判官 大曲壮次郎 裁判官 厚地政信)