福岡高等裁判所 昭和30年(う)327号 判決
判示長崎県庁小講堂出入口よりの判示侵入当時の状況を記録について調査するに、長崎県文書管理課長菊本春夫は、庁舎の維持管理、庁内の秩序保持の責任者として、判示組合員の乱入にそなえ庁員、守衛らに命じて、北側及び南側の門扉を閉鎖し、退庁する職員の大部分をその各横の通用門から退出させたところ、附近に密集する組合員多数が乱入する気配があつたため、午後五時過頃已むなくこれらの通用門をも全部閉鎖させた上、退出しおくれた職員約二〇〇名を判示小講堂に集合整列させ、通常は閉鎖してある判示出入口の扉を開いて退出させる措置を講じた。そして、守衛山田純夫外一名は、職員の退出し終るのを待つて、外側に引いて開いていた同扉を内側にしめようとしたところ、被告人らを含む判示組合員デモ隊の先頭数名は、突如、同扉及び右守衛らの身体に取りすがつてしめさせず、庁員下茂野重光が背部を外側に向け、出入口上部の鉄枠を両手でつかんで出入口に立ちふさがり、身をもつて組合員らの闖入を防ぎ、文書管理課長補佐楠本知加欧は、右下茂野の腹部を押してその身体を内部より支え、口々に「這入るな、這入つてはいかん」と叫び、極力侵入を制止したのにかかわらず、同所に殺到した組合員多数のうち、或る者は、扉をしめようとする守衛らの身体を引張つて払いのけ、或る者は、所携の旗竿をもつて扉がしまらないようにつつぱり、或る者は、出入口に立ちふさがる前記下茂野の左腕につかみかかつて、その身体を押しのけると共に同人を支えている前記楠本をもはねのけ、多数一団となり、掛声をかけながらどつと内部になだれ込み、室内において、8の字デモ様の行進を続け、ほこりがもうもうと上る中をぐるぐると立ち廻わり、或いは、ワツシヨイ、ワツシヨイと掛声をかけながら気勢をあげ、ために、守衛三丸政八はその腕に擦過傷を負い、守衛山田純夫は、その着帽をつき飛ばされ、ワイシヤツの首ボタンをちぎり落され、ランニングシヤツの腋下を破損されるほか、同講堂三個所のガラスが破損され、カーテンがちぎり落される状況であつた事実が明らかである。右のように多衆の威力と有形力の行使によつて、県庁職員の制止を排除し、実力をもつて県庁舎一室の内部に侵入する所為が、労働行為の正当性の限界として是認される平和的でかつ秩序ある行為という限度を逸脱するものであつて、その適法性を欠くことは明白であると解すべきであるから、たとえ、被告人らの所為が所論のように自由労働組合の要望事項の実現を期し、団体交渉を組合の有利に展開させる意図に出たものであるとしても、そのことのために、被告人らの右所為の違法性が阻却せらるべきいわれはないというのほかはない。
原判決が、被告人らの判示所為は刑法第一三〇条所定の建造物侵入の罪にあたるものとし、同法条を適用処断したのは、まことに相当であつて、法令の適用に誤があるものとは認められない。論旨はいずれも右と異る事実もしくは法律見解を前提とするものであつて採用し難い。
(裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)