大判例

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福岡高等裁判所 昭和30年(う)34号 判決

案ずるに、刑法第九十五条第一項は、公務員によつて執行される公務を保護しその妨害されないことを担保する規定であるから、公務員が現にその職務の執行中である場合は勿論、たとい未だ職務の執行に著手していなくとも、まさにその執行に著手しようとして職務の執行を開始する準備中である場合でも、これを知りながらその公務員に対して、職務の執行を妨害するに足る暴行又は脅迫を加えたときは、ひとしく、公務員が職務を執行するにあたりこれに対して暴行又は脅迫を加えたものとして、前記法条に該当する公務執行妨害罪を構成するものと解するのが相当である。(明治四十二年四月二十六日大審院判決参照)

ところで、原判決の挙示した各証拠を綜合すると、判示福岡県西福岡財務事務所吏員森真三郎は判示三月二十六日午後三時半頃被告人のパチンコ業を経営している店舗の方に、被告人の判示滞納税金徴収のために差押物件の引揚に行つたが、同日午前中来た時と同様再度被告人不在のため、被告人の自宅の方に赴き、ここでも不在のため、被告人の妻に対し「二、三日猶予するから、早く完納するように」と言い残して次の滞納者宅の方に廻り、判示日時判示やな橋附近で差押物件の引揚の仕事に取り掛ろうとして準備しているところに、被告人がやつて来て、右森真三郎に対し「俺の家に差押にきた者は誰か」と叫んだので、同人が「自分だ」と答えるや、被告人は突如附近にあつた長さ約五十糎位の角棒で、同人の顔面や頭部等を撲りつけ、更に難を避けてトラツク後部に乗車した同人の顔面を目がけて右角棒を投げつける等の暴行を加え因つて判示傷害を被らしめた事実を認定することができる。この事実によると、なるほど公務員たる森真三郎は未だ現実に公務たる差押物件の引揚に著手していなかつたので、現に公務の執行中でなかつたことは所論のとおりであるが、同人は将に差押物件の引揚に著手しようとして職務の執行を開始する準備中であつたことが明らかであるから、その場合これを知りながら、公務員たる同人に対し前記認定のとおり公務の執行を妨害するに足る暴行を加えて傷害を与えた被告人の所為は、前段説明したところにより、公務員が職務を執行するにあたりこれに対して、暴行を加えその職務の執行を妨害するとともに、人の身体を傷害したものといわねばならない。してみれば、原判決がこれと同一の見解の下に、証拠により原判示事実を認定して、これを公務執行妨害罪及び傷害罪に問擬し、一所為数法として処断したのはまことに正当であり、所論のように被告人の本件所為を以て公務執行妨害罪を構成するものと認定したことが誤認だとはいえないので、原判決には所論の違法なく論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 高原太郎 裁判官 大曲壮次郎 裁判官 吉田信孝)

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