福岡高等裁判所 昭和30年(う)836号 判決
判決理由〔抄録〕
差戻前及び差戻後における原審証人相良一義、同相良スヱの各証言、原裁判所の各検証調書、被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書、差戻後の原審における被告人の供述並びに医師北島敏夫作成の診断書を綜合すれば、被告人は昭和二十八年八月三十日乗用自動車を運転して久留米市から津福今町に赴く途中、午前十一時五十分頃同市西町西鉄花畑駅北方第四号踏切を越えた附近道路(幅員五、八米)に差蒐った頃、乗客平松三郎の合図により道路左端に停車し同人が通行中の相良一義と会話するのを待っていた際、前方より相良俊明(昭和二十四年四月十六日生、身長一米に少し不足)が祖母相良スヱに伴われ近附いて来て自動車右側に来たところ、同女が荷車を避けるため相良一義と道路右端に退避したのを目撃し俊明の姿を見なかったが、右小児も同女等の側に退避せるものと速断し自己の座席から前方を注視したのみで座席から移動して事故発生の虞の有無をたしかめもせず警笛も吹鳴せずして発車したため、折柄荷車を避けて自動車右側前頭部附近(被告人からは死角圏内)に立っていた俊明に気付かず同人を前車輪で転倒せしめて傷害を蒙らしめた事実が認められる。斯の如く被告人は相良スヱ、相良一義の両名が道路右端に退避したのを認めたがスヱが伴っていた小児の姿を見なかった以上、年少且つ矮小な小児が死角内の自動車附近に荷車を避けているやも知れないことは容易に推察し得るところなれば、自動車運転者たる者は発車に際し自己の座席からのみならず、右方に移動して伸び上り場合によっては右窓より首を出して自動車右側前方を注視し右小児が自動車進路附近に立入っていないかどうかを見極めその安全を確認するか、警笛を鳴らして小児を自動車附近から退避せしめた上発車し、以て事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務あるものと謂わねばならない。