福岡高等裁判所 昭和31年(う)2号 判決
原判決挙示の証拠を綜合すれば、太平殖産無尽株式会社の取締役兼営業部長であつた原審相被告人小野原兼喜が同会社を退社した後、金融業を営まんことを計画し、被告人は右小野原の事業に出資を約し、その資金として右両名共同して原審分離前の相被告人で当時右会社の取締役社長であつた増永敏彦に十万円の貸与方を申込んだところ、増永は小野原が退社の際、退職金も慰労金も出していなかつたことに同情し、無尽加入者以外の者には無担保で貸与できないのに、営業資金中十万円を右会社より中央相互株式会社に融資し同会社より被告人等に貸与するが如き記帳上の操作をなし被告人及び小野原にそれぞれ五万円宛の割合を以て計十万円を無担保で貸与したいきさつを認めることができる。従つて右増永の行為は、自己の任務に背き被告人及び原審相被告人小野原の利益を図る目的を以てなされたものであり、又背任罪における財産上の損害を加えたるときとは財産的実害を生ぜしめたる場合は勿論であるが実害発生の危険を生ぜしめたる場合をも包含するものと解すべきであつて、右増永が無尽業法の規定に反し被告人等の利益を図り無担保貸付けをなしたことはそのことにより太平殖産株式会社に財産上の損害を加えたものと解するのが相当であり、仮りにその後弁済の事実があつたとしてもそれは単に情状の問題であつて背任罪の成立を左右するものではない、従つてこの点の論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 柳田躬則 裁判官 青木亮忠 裁判官 尾崎力男)