福岡高等裁判所 昭和31年(う)2010号・昭31年(う)2009号 判決
農業協同組合法(以下単に法と略称する)第十条第一項は農業協同組合(以下単に協同組合と略称する)の行うことのできる事業の範囲につき規定し、その第一号にはその事業の一部として「組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付」なる条項を掲げている。ところで法第十二条第一項は組合員たる有資格者としてその第一号に農民、第二号に農業協同組合の地区内に住所を有する者で当該組合の施設を利用することを相当とするものと定めているので、法第十条第一項第一号にいわゆる組合員とはこれ等有資格者にして協同組合に加入したものをいうのであるから、かような組合員でない特定の組合はたとえその構成員が一部協同組合員のみを以て組織されている場合でも協同組合員ということはできず、従つてかような組合の事業はたとえ協同組合員全体に関係を有するものであつても、もとより協同組合員の事業ということはできない。すると農業協同組合の役員が同組合の事業としてかような組合に対しその事業資金の貸付をしたときは法第十条所定の事業の範囲外の事業をなしたものに外ならないので法第九十九条にいう組合の事業の範囲外において貸付をした場合に該当し、同条違反の罪を構成するものといわなければならない。
しかして原判決の挙示した曾根農業協同組合の定款を見ると、その第二条には同組合の行う事業として、所論のごとく「組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付」と規定しているのであるが、該規定は正に法第十条第一項第一号と同一の表示したもので両者その意義を同じうすることは敢て贅言を要しないであろう。
ところで被告人柴山悦次郎関係の原判示事実は被告人は判示年月以降判示曾根農業協同組合の組合長として同組合の事務一切を総括主宰していた者であるが、同組合の定款に違反し、同組合の業務の範囲外であるに拘らず、組合外の非法人たる自己が委員長をしていた竹馬川改修準備委員会に対し、判示のごとく同協同組合の保管金中から判示金員を貸付けをしたというのであつて、該事実並びに判示竹馬川準備委員会が被告人等を組合員とする一種の組合であることは原判決の挙示した証拠により優にこれを認めることができる。すると被告人は判示農業協同組合の役員として同組合の定款第二条即ち法第十条第一項第一号所定の組合員でない判示委員会に対し、貸付けをしたのであるから、被告人は協同組合の役員として同組合の事業の範囲外の貸付をしたものに外ならないので被告人の判示所為は法第九十九条に該当するものというべく、従つて原判示事実を同法条に問擬した原判決は正当であるといわなければならない。
論旨は曾根農業協同組合(以下単に曾根組合と略称する)の定款は同組合員の総意により作成されたものであり、同定款第二条所定の「組合員の事業」という意義は組合員全員により組合員以外の者の事業であつても「組合員全体に関係を有する事業」をいうものと解釈されているのであつて、本件竹馬川改修事業は曾根組合の組合員全体に関係を有する事業である。のみならず本件貸付は同組合の総会に代る総代会の決議によるものであるから本件貸付は何等罪を構成するものでなく、又被告人の本件貸付は犯意を欠如するものである旨主張するが、しかし協同組合の事業の範囲外において貸付をすることは法第九十九条の禁止するところであるから、協同組合の総会と雖も法第十条第一項第一号(曾根組合定款第二条)所定の「組合員の事業」の意義につき禁止規定たる法第九十九条に反し、組合員全体に関係を有する事業は組合員以外の者の事業でも組合員の事業にあたるものと解釈し組合員以外の者に対し、貸付をなすことは法上許容されないところである。又本件貸付につき曾根組合の総会に代る総代会の決議があつたとしても該決議は右禁止規定に違反するので無効というべく、更に被告人が所論のごとく総代会の決議により本件貸付をなしたとしてももとより本件組合の事業の範囲外の貸付の所為につき犯意がなかつたものとすることはできない。なお記録を精査しても原判決中被告人関係部分には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認の瑕疵はない。結局所論は法第十条第一項第一号と同一の規定をなす曾根組合の定款第二条につき独自の解釈をなし、これに立脚して原判決の事実認定を非難するもので論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 藤井亮 裁判官 小西信三 裁判官 中村荘十郎)