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福岡高等裁判所 昭和31年(ネ)204号 判決 1957年11月26日

控訴人 渡瀬辰治

被控訴人 永田長円 外一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

佐賀地方裁判所が同庁昭和二九年(ル)第一四四号債権差押転付命令申請事件について昭和二九年六月一二日なした債権差押並びに転付命令に係る帝国建設株式会社の日田市大字隈一三七番地玉置亀太郎に対する建築工事代金一二万円の債権は、右会社の破産財団に属することを確認する。

控訴人は、前項の転付命令による債権の移転が被控訴人の否認権の行使によつて否認されたため、該債権が帝国建設株式会社の破産財団に復帰したことを、前記玉置亀太郎に通知しなければならない。

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」という判決を求め、被控訴人は請求の趣旨を主文第二、三項のとおり変更し、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、被控訴人において「帝国建設株式会社が支払を停止したのは昭和二八年八月頃であつて、破産の宣告を受けたのは昭和二九年九月三〇日である」と補陳し、控訴人において「帝国建設株式会社が支払を停止したことを控訴人が知つたのは昭和三〇年中頃のことである。被控訴人等が同会社の破産管財人に選任されたことは知らない」と述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

証拠として、被控訴人は甲第一ないし第七号証、第八号証の一、二第九号証の一ないし三、第一〇及び第一一号証の各一、二、第一二ないし第二二号証、第二三号証の一ないし五、第二四号証の一ないし四、第二五号証の一ないし五、第二六号証の一、二、第二七号証第二八及び第二九号証の各一、二を提出し、当審証人吉永広一、伊藤佐田司の各証言を援用し、控訴人は当審証人伊東佐田司の証言を援用し、甲第二六及び第二七号証の各一、二は不知と述べ、その他の甲号各証の成立を認めた。

理由

帝国建設株式会社が昭和二九年九月三〇日佐賀地方裁判所において破産の宣告を受けたことは当事者間に争のないところであつて、被控訴人等が同会社の破産管財人に選任されたことは成立に争のない甲第二〇ないし第二二号証によつて明らかである。そして控訴人が右会社に対する債務名義に基き佐賀地方裁判所に債権差押並びに転付命令を申請し、該申請に基き同裁判所が昭和二九年六月一二日同会社の訴外玉置亀太郎に対する主文第二項掲記の債権に対する差押並びに転付命令を発し、該命令がその頃債務者たる同会社及び第三債務者たる右訴外人にそれぞれ送達されたことは、控訴人の争わないところである。

次に、成立に争のない甲第一、二号証、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇及び第一一号証の各一、二、第一二ないし第二二号証、第二三号証の一ないし五、第二四号証の一ないし四、第二八及び第二十九号証の各一、二、当審証人吉永広一、伊藤佐田司の各証言を綜合すると、帝国建設株式会社は一般庶民住宅の建築、ことに月賦償還の方法による住宅建築を主たる目的とする会社であるが、その事業経営が極めて不堅実であつたため漸次事業不振に陥り、ことに昭和二八年夏の九州地方の大風水害に加えて保全経済会問題及び金融引締等の影響を受け、建築契約者中同会社の経営に不信と危惧をいだき契約を解約し契約手附金の返還を迫るものが激増し、昭和二八年八、九月頃から同会社は運転資金欠乏のため支払を停止し、昭和二九年一月八日佐賀地方裁判所に会社更生法による更生手続開始の申立をしたが、同裁判所は更生の見込がないと認め同年五月六日右申立を棄却する旨の決定をなし、同年一二月二二日最高裁判所の抗告却下決定によつて右決定は確定したこと、その間同年七月二八日訴外吉永広一より佐賀地方裁判所に同会社に対する破産申立がなされ、前示のとおり同年九月三〇日同裁判所において破産宣告がなされたのであるが、同会社の多数債権者は同会社が支払を停止したため、地区毎に債権者集会を開き又は各別に同会社に対し解約による申込金の返還等について交渉を重ね、同会社に対し申込金返還の訴訟を提起し且つ強制執行をなす債権者も続出するにいたつたこと及び控訴人はこれらの事情のもとに、同会社が支払を停止した事実を知りながら前示債権差押並びに転付命令を申請して該命令の発付を受けたものであることを認めることができる。他に叙上の認定をひるがえすべき証拠はない。

そおすると、本件転付命令による債権の移転は破産法第七二条第二号にいわゆる支払停止後になされた債務消滅に関する行為に該当し、受益者たる控訴人はその当時支払停止の事実を知つていたものであるから、被控訴人等の本訴における否認権の行使によつて、該債権は帝国建設株式会社の破産財団に復帰したものといわなければならない。そしてこのような場合にも民法第四六七条の規定を類推し、債権の復帰について対抗要件を必要とするものと解するのが相当であるから、控訴人は右債権が破産財団に復帰したことを債務者玉置亀太郎に通知すべき義務があるものといわなければならない。

そこで被控訴人等の変更後の本訴請求はすべて正当として認容すべきものであつて、本件控訴は理由がないから、請求変更に伴い原判決を変更した上、民事訴訟法第三八四条、第九六条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 竹下利之右衛門 小西信三 岩永金次郎)

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