大判例

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福岡高等裁判所 昭和32年(う)1965号 判決

判決理由〔抄録〕

弁護人の論旨は要するに、本件事故発生に関し被告人には業務上の過失がなかったと言うのである。そこで原審及び当審において取調べた証拠によれば、本件事故発生当時の状況は、被告人は自動車運転者であるが昭和三十年十月十六日午後三時三十分頃普通貨物自動車日野デイゼル五四年型(車輛番号大分一―一四九〇号七屯積)を運転し門司市門司港方面より小倉方面に向い国道三号線を時速三十粁で進行し門司市小森江南本町五丁目西本衣料品店東方約二十米の地点にさしかかった際、同店前に伯川忠信外一名(いずれも当時約五歳)が道路に向ってかがんでいるのを認めたので(公訴事実に被害者伯川正人当八年外一名がかがんでいたとあるのは誤り)警音器を一回吹鳴して同人等の注意を喚起したが、別に道路に出る様子もないと認めその儘進行したところ突然右衣料品店東側道路より伯川正人(前記伯川忠信の兄、当時八歳)が前方約六米の地点に飛出したため、被告人は急遽ハンドルを右に切り急停車の措置を講じたが及ばず遂に該自動車が右伯川正人に接触し、因って同人に脳出血、後頭部打撲傷及びその他に傷害を蒙らしめそのため翌十九日午前三時四十五分頃門司市大黒黒金町三丁目加藤外科医院において死亡するに至らしめたものである。そこで前記事故発生に関し、被告人の過失の有無につき検討するに、本件事故現場は交通が頻繁で、しかも北側は自動車航送船渡場入口道路となり又南側は前記西本衣料品店東側に接して南本町五丁目の道路があり所謂十字路をなしている地点である。従って被告人の如く自動車運転に従事する者は常に前方を注視して事故発生を未然に防止すべき方法を講じなければならないことは勿論のことであるが、およそ被告人に刑法上過失の責任がありとするのは、被告人が相当の注意を用いたならば結果発生の可能を予見し得た場合でなければならない。しかるに原判決が「本件事故現場は十字路であるので、その周辺を警戒し、同所より何時進路前方に飛び出す者があるかも計り難いのでその場合に備えて即時急停車をなし得る程度に徐行すると共に警音器を絶えず吹鳴してその注意を喚起し、また当時同所を進行する車馬は同一方向反対方面共になかったのであるから進路右側道路中央に避譲する等の方法によって事故の発生を未然に防止する万全の方法を講ずべき注意義務があるに拘らず……」とし判示伯川正人が被告人の前方道路に飛出した事実を被告人が不注意により予見しなかった趣旨の事実認定がなされている。しかしながら高速度交通機関の発達せる現在自動車運転者に横道路より飛び出す者に備え横丁ある場合その度毎に即時急停車をなし得る程度に徐行すべき一般的な義務があるとは解せられないし、前記各証拠によれば本件事故現場附近の制限時速は三十二粁(現在は四十五粁)であり、被告人は制限時速範囲内の約三十粁で、左側小倉方面行電車線路上を進行していたこと、伯川正人が突然横道路より飛出したものであり、このことを被告人が前以て知り得る地形ではなかったこと等の事実が認められるし、更に被告人の急停車の措置が適切でなかったこと、その制動機に故障があった等の事実も認められないのであるから、これ等の点を綜合すれば被告人に本件事故発生の予見が可能であったとは認められない。従って本件結果の発生につき、被告人に過失の責があるとは認められないので論旨は結局理由があり原判決は破棄を免れない。

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