福岡高等裁判所 昭和33年(ネ)607号 判決 1959年4月04日
控訴人(被告) 小倉市議会
被控訴人(原告) 春永孚
原審 福岡地方昭和三二年(行)第一〇号(例集九巻九号169参照)
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。(立証省略)
理由
当裁判所は左記理由を附加する外、原判決の説示するところと同一理由により、控訴議会の被控訴人に対する本件除名の懲罰議決は違法としてこれを取消すべきものと判断するので、右原判決理由をここに引用する。当審における新証拠によるも右判断をくつがえすことはできない。
控訴人の主張するように、地方自治法第一三四条による議員懲罰の事由は必ずしも議員の議会内における言動のみに限られるものでなく、議会外であつても議会自体の品位を汚し、その権威を失墜するような言動をなす議員は、当然これに懲罰を科し得ると解すべきものとするも、本件において被控訴人に対する懲罰事由として挙げられた各事実は、未だもつて議会の品位又は権威を著しく損傷し、これに懲罰を科するを相当とする程度にまで至つたものとは認められない。けだし相当の事実上の根拠もなくして徒らに議会の議決その他の行動を誹謗するが如きは、議員として厳に慎しむべきであることは言を待たないところであるが、本件における被控訴人の言動、すなわち陳謝の懲罰議決がなかつたこと、議長不信任決議が法的効果を伴なわないこと、議会の粛正に関すること竝に市政調査特別委員会の調査結果に関し、被控訴人が議会または議会外において自己の見解を主張表明したことをもつて、全く事実上の根拠を欠く議会誹謗であるとは認められず、むしろ被控訴人としては一応の根拠に基くものであり、その主張を一概に排斥し去り得るほど明確な事実関係ではなく(その点の詳細は原判決の示すとおりである)、従つてその言動は未だ言論及び表現の自由の範囲を逸脱するものとは認められないからである。殊に本件において最も重点となつたものとおもわれる市政調査特別委員会の調査なるものは、その対象が議員もしくは議長としての被控訴人の行動ではなく、その私行にわたる事実であつて、かような事実に関する特別委員会の調査結果竝にこれに対する議会の承認決議(被控訴人に対し何らの法的拘束力をも有するものでないことは勿論であり、政治上の問題として窮極において選挙民の判断に委せられることとなるであろう)に対し被控訴人が承服しないからといつて、直ちに議決無視乃至は議会侮辱としてこれに懲罰を科するが如きは全く行過ぎという外はない。
よつて原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 竹下利之右衛門 小西信三 岩永金次郎)