大判例

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福岡高等裁判所 昭和34年(ネ)730号 1960年9月08日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

控訴代理人は、原判決を取消す、控訴人と被控訴人を離婚する、当事者間の長男和彦の親権者を控訴人とする、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は控訴代理人において

「控訴人は被控訴人と別居以来第三者と全く性交渉がないのに反し被控訴人は数々の不貞行為及び売春をなし、あまつさえ昭和三四年四月一四日佐世保市光月町の産婦人科病院で他の男性との間の子和行を分娩し、一時佐賀県小城郡芦刈村の姉谷本方に預けていた。これは単なる不貞行為の枠を越えたものであり、正常なる夫婦生活の復帰を不可能ならしめる所為である」

と陳述し、証拠として当審における証人緒形芳男の証言及び控訴本人の供述を援用し、被控訴人において

「被控訴人が他の男性と関係したことは認める、これは控訴人が被控訴人の生活を顧みず、被控訴人としては他に収入の道がなかつたので生活上やむなくそうしただけである、その他の控訴人主張事実は否認する」

と陳述し、当裁判所は職権で被控訴本人を尋問した外、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

当裁判所の判断は左のとおり附加する外、ここに引用する原判決の理由記載と同一である。

「被控訴人が控訴人と別居以来他の異性と情交関係をもつたことは当事者間に争がなく、当審における証人緒形芳男の証言及び当事者双方本人尋問の結果を綜合すれば、被控訴人は実家に帰つて以来自分と長男の生活を支えるため附近の飲食店、焼鳥屋、夜店の飲み屋、バー等を転々としたが、収入が少いため時折異性と情交関係をもつたり、街頭に立つたりして生活費を補うことを余儀なくされ、そのうち懐妊したことに気がついたので妊娠中絶手術を受けようと思つたが手術料にも事欠き、ついに昭和三四年四月頃父親不明の男子を分娩し、その養育のために更に意に添わぬ異性と交わらねばならなくなり、例えば右懐妊中分娩の前夜まで不純な稼ぎを続けなければならぬような全くどん底生活にあえいでいる事実が認められる。被控訴人がこのような悲惨な状態に陥つたのは被控訴人にも多少の責任はないとはいえないが、その原因と責任の大部分は控訴人にあることは原判決が説示しているとおりであり、従つて控訴人は被控訴人の不貞行為や分娩等を理由に被控訴人に対し離婚を求めることができないと解するのが相当である。」

よつて本訴請求を認容しなかつた原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用は控訴人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

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