大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和35年(ラ)132号 決定 1960年6月24日

抗告人 福岡日野オリエント株式会社

右代表者代表取締役 原田種之

右代理人弁護士 谷本二郎

同 竹中一太郎

主文

原決定を取り消す。

本件を福岡地方裁判所飯塚支部に差し戻す。

理由

一、抗告申立の趣旨及び理由は別記のとおりである。

二、公正証書が一定の金額の支払を目的とする請求につき作成された証書として債務名義たり得るには、公正証書に一定の金額を明記してあるか、あるいは公正証書自体により金額を算出し得ることを要し、公正証書以外の資料によつてはじめて一定の金額を算定し得る場合は、民訴第五五九条第三号の「一定の金額の支払を目的とする請求につき作りたる証書」ということはできないのは当然であるが、公正証書に表示された一定の金銭債権額が証書作成後弁済などにより減少したような場合は、弁済額などを他の資料により算定の上現存債権額を確定して、公正証書を債務名義とし、現存債権について強制執行をなしうることは、むしろ当然自明のことに属する。

これを本件について見るに、抗告人は昭和三四年七月一七日債務者福間猛に対し、公正証書記載の自動車一台を代金七一九、三〇二円で売り渡して引き渡し、内四万円は即時支払い残金は、同年八月、以降昭和三六年七月まで分割して所定の金員を月賦弁済することとし、分割金の支払を怠つたときは日歩七銭の損害金を支払い、また、抗告人は売買契約を即時解除しうべく、自動車の所有権は、代金完済とともに福間猛に移転するが、それまでは売主たる抗告人に所有権を留保し、売買契約が解除されたときは福間猛は直ちに自動車を抗告人に返還すべく、返還を受けた抗告人は自動車を他に処分、またはその選定した鑑定人をしてその価額を評価させ、右の売却価額又は評価額が自動車回収費用、未払代金、損害金の合計額に充たないときは、福間猛は抗告人に対してその不足額を直ちに支払うべく、この場合福間猛は抗告人のなした費用の計算、鑑定人の評価に異議を述べることはできず、福間猛において不足額支払の義務を履行しないときは直ちに強制執行を受けても異議がない旨を認諾する旨の公正証書を作成したこと、しかるに、福間猛は前示分割金の支払を怠つたため、抗告人は売買契約を解除し、約旨により自動車の返還を受け、売買代金額からすでに弁済された金員を差し引いた残額より、さらに返還を受けた自動車の鑑定価額を控除した差額を現存債権額とし、公正証書を債務名義として本件不動産の強制競売を申し立てたことが記録上明らかである。

右に依れば、債務者福間猛の抗告人に支払うべき債務額は、自動車の売買代金額から分割弁済をした金額の合計額を差し引いた残額から更に、自動車の評価額を差し引いた残額となる道理であつて、この最終残額を算定するにつき、公正証書以外の資料を必要とすることは、前説示のとおり論をまたないのであつて、これを不可とする所以を知らないのである。

原決定が論旨摘示のように説示して、本件競売申立を不適法として却下したのは不当であるから、原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すべきものと認め、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 鹿島重夫 判事 秦亘山本茂)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例