福岡高等裁判所 昭和36年(ネ)109号 判決 1962年3月31日
理由
一、本件被控訴人が原告となり、本件控訴人を被告として提起した福岡地方裁判所昭和三二年(ワ)第九一九号約束手形金請求事件の被控訴人勝訴の確定判決並びに同判決による同裁判所昭和三三年(モ)第八三九号訴訟費用確定決定の確定した決定に基づき、控訴人は被控訴人に対し手形金一六五、〇〇〇円、訴訟費用金四、〇三五円計一六九、〇三五円の弁済期到来せる債務を負担していること、訴外株式会社たつま構装社は、控訴人・被控訴人・訴外井上満喜の三名連帯保証のもとに、訴外株式会社熊本相互銀行から金四〇万円を借り受け、控訴人が昭和三二年一二月三〇日その残債務の全額二三〇、四九〇円(この点は原審証人佐伯薫の証言及び同証言により成立を認める甲第二号証によつて認定する。)を弁済したことは、当事者間に争がない。
二、控訴人は、訴外たつま構装社の債務を控訴人が弁済したので、この弁済分と見合わせで、昭和三三年三月頃、本件当事者間に、被控訴人は控訴人に対する前示確定判決による手形債権及び訴訟費用の債権の一切を放棄する旨の和解が成立したと主張するけれども、甲第一、五号証の記載、原審証人須藤晃吉の証言、原審及び当審控訴本人尋問の結果のうち、右主張に副い、あるいは副うかのような部分は、原審及び当審被控訴本人尋問の結果と対照し、容易く信用ができず、その他に認むるに足る証拠がない。したがつて、前示和解の成立を原因として本件債務名義の執行力の排除を求める主張は理由がない。
三、よつて、控訴人の相殺の主張について考察する。
控訴人・被控訴人・訴外井上満喜の三名の連帯保証人間に負担部分の定めがなく、その負担部分が平等であることは、被控訴人のあえて争わないところである。成立に争のない甲第六号証の一から四まで及び原審証人井上満喜の証言並びに当事者弁論の全趣旨によれば、同人は訴外たつま構装社のための連帯保証債務について、熊本相互銀行から計二七点の家財道具、衣服、寝具等の差押を受け、昭和三二年一二月二八日競売代金一六、〇〇〇円が右債務の一部弁済に充当されたこと、同人は無職老令であることが認められるので、この事実から推度すれば、同人は右の差押以来今日にいたるまで控訴人に対し償還をなす資力を回復したとは認められないから、同人は償還をなす資力がないものというべく、これに反する証拠はない。
よつて、控訴人が被控訴人に対し償還を請求し得べき金額について考えるに、分別の利益を有しない連帯保証においても、連帯保証人の内部関係においては分割された一定金額を保証するとの建前から連帯保証人が他の連帯保証人に対し求償権を行使するには、債務全額その他自己の負担部分を越える額を弁済したことを必要とするところ(民法第四六五条第一項)、本件に見るように、三名の連帯保証人が最初金四〇万円の主債務について連帯保証をなした場合でも、その後一部の内入弁済その他の事由によつて主債務の額が減少したときは、連帯保証人の負担する債務の額も、またこれに附従し自然減少する道理であるから、求償の基礎をなす連帯保証人の負担部分の額は、右の減少せる残存債務額によつて算定すべきであり、原判決のように当初の金四〇万円を基礎として算出すべきではない。したがつて、先に認定したとおり控訴人が昭和三二年一二月三〇日残債務全額二三〇、四九〇円を弁済した以上、償還資力のない井上満喜が、前示のように負担部分に満たない金一六、〇〇〇円を、控訴人より先に弁済していると否とを問わず(この点後記参照)控訴人は被控訴人と訴外井上満喜とに対し右弁済額の三分の一に当る金七六、八三〇円をそれぞれ求償し得べきところ、井上満喜は償還をする資力を有しないので、同人の償還すべき金七六、八三〇円は、控訴人と被控訴人との間に平等分割して金三八、四一五円宛を分担することになるので、被控訴人の償還すべき金額は、控訴人主張のとおり金一一五、二四五円となり、この金員は弁済とともに被控訴人に求償しうるものである。
もつとも前認定のとおり、井上満喜は控訴人の弁済に先だつ二日前の昭和三二年一二月二八日金一六、〇〇〇円を出捐弁済しているので、被控訴人の償還すべき額は、別記のとおり計算しても同断であることを附言して置く。
されば、被控訴人の控訴人に対して有する本件債務名義の債権(受働債権)一六九、〇三五円と控訴人の被控訴人に対して有する右求償債権(自働債権)とを対当額につき相殺すれば、債務名義の債権はなお金五三、七九〇円残存する(原審の相殺による充当のとおり先づ訴訟費用債権に充てて全額消滅せしめ、つぎに約束手形金に充当相殺する)ので、訴訟費用確定決定に基づく執行並びに約束手形金の支払を命じた本案の給付判決中五三、七九〇円を超過する部分については、その執行は許さるべきではないが、右金五三、七九〇円については請求異議の原因は存しない。したがつて、右判決に基づく強制執行を全部にわたり許されないものとする控訴人の請求は、前示認容部分以外は失当として棄却すべく、以上と一部趣を異にする原判決は不当であるから一部取り消すべきである。
<以下省略>