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福岡高等裁判所 昭和36年(ネ)310号 判決 1963年12月27日

理由

甲第一号証(表面の符箋及び裏書部分は当事者弁論の全趣旨と裏書の連続記載に徹し成立を認め、表面部分は後記のとおり真正に成立したものである)、同号証を被控訴会社が所持する事実、原審証人村山守次、田中英城、原審(第一、二回)及び当審証人角田武雄の各証言、当審控訴会社代表者斉藤満尋問の結果の一部(後記排斥部分を除く)、当事者弁論の全趣旨を総合すれば、控訴会社代表者斉藤満は訴外常盤電業株式会社(以下常盤電業と書く)の代表取締役をも兼ねていたところ、同会社は、田中英城を代表者とする有限会社昭和電興社(以下昭和電興と書く)に対して、自己の請負つた電気工事を下請けさせていたが、昭和電興に対して金八〇万円位の請負代金債務を負担し、これが完済困難な状態におち入つたため、斉藤満は田中英城に対し、右債務を支払う方法として、常盤電業と昭和電興とを合併して新会社を設立し、その資金調達のために控訴会社名義で融通手形を振出すことを承諾し、その結果右両会社を併合して、九州電気通信株式会社(以下九州電通と書く)が新設され、訴外村山守次が代表取締役に、常盤電業の専務取締役角田武雄が専務取締役に、田中英城が常務取締役に、斉藤満が監査役にそれぞれ就任したのであるが、九州電通は、工事代金一七、八万円で「主婦の店」の工事を請負つたものの、事業資金に窮し、工事材料代の支払いにもこと欠く有様であつたので、九州電通新設の前示経緯から、控訴会社代表者斉藤満に対し、融通手形の振出しを求めたところ、同人は田中英城及び角田武雄に対し、「控訴会社に直接関係のない債務について控訴会社名義の手形を直接自分が振出すことは控訴会社会計係りに対する関係上もできないが、控訴会社と控訴会社代表者の印章と同じ印章を作り、これを使用して九州電通が請負つた前示工事代金程度、すなわち金一〇ないし二〇万円程度を手形金額とする控訴会社振出し名義の約束手形を作成し、これが割引きを受けて資金を調達することには異存はない。控訴会社及びその代表者の印章を作る費用は自分が負担する。」といつて、右の各印章を作るため、控訴会社及びその代表者のゴム印、控訴会社の角印、代表者の丸印を押した紙片を田中英城に渡したので、田中英城は右各印鑑と同じ印鑑を作成させ、これを使用して角田武雄らとともに、控訴会社代表者斉藤満が許諾した範囲内の金額金一五万円を手形金額とする被控訴人主張のような甲第一号証の約束手形(ただし受取人白地)を作成し、この手形は、角田武雄から九州電通の代表取締役村山守次を経て、その友人である被控訴会社代表取締役末田俊郎に割引き方を依頼されたので、被控訴会社は、右約束手形振出しの経緯については全く知らず善意で、右手形の交付を受けてこれを割引き、資金を融通し、受取人を被控訴会社と補充した上、訴外福岡信用金庫に形式上裏書譲渡し、同金庫は取立てのため訴外飯塚信用金庫に裏書譲渡し、同金庫において満期に支払場所に呈示したが支払を拒絶されたので、同手形は順次被控訴会社に返還され、被控訴人が現にその手形所持人であることを認めることができる。この認定に反する当審控訴会社代表者斉藤満尋問の結果は信用しない。

右認定によると、控訴会社代表者斉藤満は、被控訴会社に対する関係においては、代表取締役の権限を逸脱して、田中英城に対し同人が控訴会社名義を使用し、約束手形を振出し、これを割引いて資金の融通を受ける権限を与えたことになるけれども、右のような代表取締役の権限逸脱の行為は、善意の第三者に対し、同代表者の代表する控訴会社の行為たるものと解すべきであり、右約束手形の交付を受けて割引きをなした被控訴会社が善意であることは、先に認定したとおりであるから、控訴会社は被控訴会社に対し、金一五万円及びこれに対する満期後(記録上本件訴状は控訴会社に対し昭和三五年六月二五日に送達されていることが明らかである。)の昭和三五年六月二六日以降完済まで年六分の割合による手形利息を支払う義務がある。

右と同旨の原判決は相当で、控訴は理由がない。

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