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福岡高等裁判所 昭和36年(ネ)501号 判決 1962年11月13日

理由

一、被控訴人本田千秋及び被承継人西山末彦が訴外田崎栄蔵に対する控訴人主張の債務名義に基いて、原判決末尾物件目録記載の建物に対し強制競売の申立をなし、熊本地方裁判所八代支部が昭和三五年四月一二日強制競売開始決定をなし、競売手続が現在進行中であること、同建物は右訴外人の所有として建物登記簿に登記されていること、及び当審における被控訴人ら主張事実個所記載(3)の事実は当事者間に争いがない。

従つて控訴人主張のように、たとえ、控訴人が同訴外人から現物出資によつて本件建物の所有権を取得したとしても、差押債権者である被控訴人本田千秋、被承継人西山末彦(従つてその承継人である誠一、恵吾、範之、真知子、ツイコの五名、以下本田を含めてたんに被控訴人らと略称する)に対し所有権の取得を対抗できないことは説明するまでもない。差押債権者は登記の欠缺を主張する正当の利益を有する第三者である。控訴人のこれに反する主張は独自の見解で採用のかぎりでない。

二、控訴人は、被控訴人らは本件建物が控訴人の所有であることを知悉しながら建物登記簿に所有権の登記のないことを知つて強制競売の申立をしたのであるから信義則に反し、登記の欠缺を主張する正当の利益を有しないと主張するけれども、被控訴人らが控訴人の所有権を承認して法律行為をなしたなどの事実があればとも角、たんに右の主張事実が存するからといつて、田崎栄蔵の所有として強制競売の申立をなすことが信義則に反するものではなく、また登記の欠缺を主張し得ないことはない。右主張もまた採用に値しない見解である。

三、控訴人は本件強制競売の基本たる債務名義は訴外松本武の偽造にかかる借用証書に基いて裁判所を欺罔して得たものであることを前提し、原判決事実(3)の主張をするが、同主張は第三者異議の事由となり得ないばかりでなく、その前提事実を認むるに足る証拠がないので、右主張は理由がない。

その外、被控訴人らが控訴人の本件建物所有権取得につき、その登記の欠缺を主張することが社会正義に反し、権利の濫用であると認むべきなんらの証拠もない。

四、控訴人は民法第一七七条の登記法とは不動産登記法のみを指すのではなく、非訟事件手続法を含むので、控訴会社の定款に訴外田崎栄蔵が本件建物を控訴会社に現物出資する旨の記載があり、控訴会社の設立登記において、同訴外人の現金出資の事項が商業登記簿に登記されている以上、被控訴人らは控訴人の登記欠缺を主張し得ないと主張し、被控訴人らにおいて、前示事実(2)のとおり主張するので附言すれば、商法第六三条第六四条第一四七条非訟事件手続法第一七九条に依れば、合資会社の社員が建物を出資の目的となしたときは、定款に建物及びその価格を記載し、設立登記において建物及び価格並びに出資義務の履行をなした部分を登記することを要するところ、右は、会社の現存財産状態を公示し、社員が現実に履行をなした財産程度を明らかにしようとするものであつて、かりに合資会社登記簿に出資財産である建物につき出資義務を履行した旨登記されたとしても、これをもつて民法第一七七条の登記をなしたということはできないのは当然であるから、合資会社たる控訴人が田崎栄蔵の出資によつて本件建物の所有権を取得したことを第三者に対抗するには、不動産登記法の定むるところに従い同法の建物登記簿に所有権取得の登記をすることを必要とし、かつこれをもつて足り、合資会社登記簿への登記は建物の所有権取得の対抗力とは直接関連するところはなく、非訟事件手続法にいう登記は、民法第一七七条の登記に当るものではない。これに反する控訴人並びに被控訴人らの見解は採用しがたい。要するに、控訴人が本件建物につきその所有権取得の登記をしていない以上、控訴人はその所有権取得を被控訴人に対抗し得ないものというべきである。

控訴人の請求を棄却した原判決は相当で控訴は理由がない。

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