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福岡高等裁判所 昭和37年(ラ)83号 決定 1962年5月29日

抗告人 松岡繁樹

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨竝びに理由は、別紙書面記載のとおりである。

債権者である抗告人が、熊本地方裁判所昭和三五年(ワ)第六二八号家屋収去等請求事件の仮執行宣言附の執行力ある判決正本に基づいて、熊本市春竹町春竹字寺田一〇〇九番の一、宅地五二坪三合一勺(但し仮換地)上の原決定添附目録記載の家屋収去の強制執行のため、債務者上野春喜竝びに同上野ノブエの両名に対し民事訴訟法第七三三条第一項竝びに第二項による授権決定の申立に及んだところ、債務者上野ノブエが仮執行免脱の保証金二〇万円を供託したことを理由に債務者上野春喜に対する関係においても、該申立はこれを許容すべきでないとして却下されたものであることは原決定によつて明白である。そして当審に係属している昭和三六年(ネ)第六四七号家屋収去等請求控訴事件記録(控訴人債務者両名、被控訴人債権者抗告人)によれば、前示家屋は債務者上野ノブエ名義で所有権保存登記がなされていて、債務者両名は夫婦であり該家屋を所有することによつて前示宅地を占有しているのであつて、本件家屋収去土地明渡債務は債務者夫婦が不可分的に履行すべき関係にあることが窺知される。従つて妻である債務者上野ノブエにおいて仮執行免脱の要件を充足した以上、夫である債務者上野春喜に対する関係においても本件授権決定の申請は許さるべきでないというべきであつて、これと同趣旨の原決定はまことに相当である。

本件抗告は理由がないので、民事訴訟法第四一四条第三八四条第一項第八九条を適用して、主文のように決定する。

(裁判官 中園原一 厚地政信 原田一隆)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

原裁判所は抗告人の関係人に対する代替執行の許容及び執行費用の予め支払をなさしめる決定の宣言申立に関する裁判をなす為め原裁判所に差戻す趣旨の御裁判を求める。

事由

一、抗告人は熊本地方裁判所昭和三五年(ワ)第六二八号家屋収去等請求事件の仮執行宣言付判決の執行力ある正本に基づき関係人両名に対し各十万円宛の担保を供し判決の表示物件につき強制執行の為め民事訴訟法第七百三十三条第一項及第二項の宣言の申立をなしたところ上野ノブエは同仮執行を免れんが為め金二十万円の担保を供したるも上野春喜は未だその執行免脱を得べき保証の提供を為さず従つて右仮執行宣言付判決の執行力は存続している。

従つて仮令単一の家屋である物件と雖も訴外上野ノブエの占有していない部分につきては収去すること不能でないのみならず関係人両名に対し前記申立の決定をなすことは強制執行そのものでなく単に債務名義を得るに過ぎないのであるから原裁判所の如く一人から保証の提供あつたとしても抗告人の右申立を却下すべき筋合のものではない執行免脱の保証提供は代替実施者の強制執行につきその執行停止をなされ得るに過ぎないから原裁判所が抗告人の関係人両名に対し前記のなした申立を全部却下したのは不法であるを以つて抗告の趣旨の通り裁判を求める次第であります。

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